The 13th act

 そして、『戦士バトラー』の訓練。


 「今日は魔法のバリエーションを増やしていこうと思う」


 エン教官がみんなの前に立ち、そう宣言する。


 「例えば私は炎系の魔法が得意なわけだが……こうすることで」


 衝撃波の後、エン教官の周りには焔が渦を巻いていた。


 「「おおっ!?」」


 僕は一番前に座っていたんだけど、本当に熱い。それは魔力が燃えているのか、それとも空気そのものが燃えているのかはわからないけど、明らかな熱が僕達に向かって放出されていた。


 「……とまあ、こんなことができるわけだ」


 エン教官の周りの炎が消える。


 「魔撃手において魔法は必要不可欠なものだ。だが、その魔法を使うにあたってのコツは講義では教えてくれない。なので今回はいくつかの基本的な魔法とそれを使うためのコツを教える!」


 一部の訓練生がおお! と声を上げた。


 「まず、あらゆる魔法を使うために共通なのが、イメージだ」


 イメージ……一体どういうことなんだろう。


 「イメージと言われると難しいものがあるかもしれないが、もう既にお前達はそれを体験している。先日の的を狙う訓練の時に『柔らかいものを握るように』で握っただろう。そのイメージによって魔力が圧縮されて光弾が出来上がった」


 考えてみればそうだ。気づかなかったけど、自分達はもうすでにイメージを扱えているんだ。


 「だから、それと似たような要領でやればいい。すぐ慣れるから安心しろ」


 というわけで、補助器官をつけて魔法のトレーニングを始めるのだった。


 「ユクスー、どうだい? できそうか?」


 オズが僕の所へやってきた。


 「どうだろうね……やってみるまでわからないよ。あ、そういえばこれ貰った?」


 僕は何枚かの紙を持ち上げた。さっき話が終わった後、お手伝いさんから魔法一覧を貰ったのだ。この中には、身体を強化する魔法をはじめ、様々な基本的な魔法の発動方法とイメージする際のポイントが載っている。


 「ああ、オレも持ってる。これがあればいけるのか?」

 「そうだね。結構詳しく書いてあるし、これに従えばかなりうまくいくと思うよ」


 ホッチキスで綴じられたページを何枚かめくりながら答える。


 「よっし! じゃあ早速やろうぜ! えーと、どれが良いかな……」


 オズも一覧を見ていく。


 「最初の方からやったほうがいいと思うけど……」

 「よし、これだ!」


 あー、これ聞いてないな……

 そんなことを考えながらも、オズは選んだ魔法のところを見ていた。


 「えーと、手で銃の形を作って……指先の空気を丸めるイメージ……こうか?」


 手を銃の形にして的の方に構える。しばらくすると、何か指先でエネルギーが収束していくのがわかった。

 おお、意外とうまくいってる。ん? ちょっと待てよ……

 自分もそこの欄を見直してみる。すると、そこには魔法を使う前に強化魔法をかけないといけないことが書いてあった。


 「よし、いいぞ、で……それを自分の狙う方向に解放するイメージ!」

 「あ、ちょっと待って、それは自分に強化魔法をかけないと……」


 と言い終わる前に、轟音がしてエネルギーの塊は的から少しそれたところに飛んでいった。同時にオズも吹っ飛んでいった。


 「オズ!」


 駆け寄って見てみると、オズは肩を抑えて苦しんでいた。おそらく肩の関節が外れたか筋に損傷ができたかのどちらかだ。

 ……といっても自分には何もできないのでお手伝いさんを呼んで医務室へと運んでもらった。後でお見舞いに行こう。

 ……さてと、オズのことも心配だけど、僕も練習しないと。


 「とりあえず僕は最初からやっていこうかな……」


 えーっと、最初は……


 「『基本魔法:炎』……空気の中に可燃性のものがあり、それが燃えるイメージをする。イメージが掴みにくかったら手を使うと良い……なるほどね」


 まずは手を使ってみるか。

 両手で器を作るようにして、その中で可燃性のもの、簡単に言えば魔力を充満させる。

 それが燃えるようなイメージ……

 すると、ボッという音と共に空気中に火がついた。それはしばらく消えずに残っている。


 「やった、成功だ! じゃあ、これを応用して……」


 器の形も崩して一旦火を消した後、手を広げた状態で舞う炎をイメージしながら真横に振り切ってみる。すると……


 「よし、完璧!」


 手から炎が吹き出し、僕の手の軌道をなぞった。よーし、うまくいってるぞ〜。


 「どんどんいってみようか。次は水だな」


 水には流動性があるから少し難易度が高いらしい。一歩ずつ着実に練習しよう。

 手のひらを上に向けてそこから水が……


 「おわっと」


 手のひらから水は出た。だけどちょっとした水がチョロっと出ただけだった。


 「やっぱり難しいなあ。でも、大体どう言うものか見当はついたぞ」


 今度は手を下に向けてシャワーのようなイメージをすると……


 「おおっ、うまくいってる!」


 手のひらから水が継続的に飛び出てきている。これは成功と言えるだろう。


 「次は……そうだね、氷か。じゃあちょうどこの水があるからそれを凍らせよう。よっと」


 念を送って地面に広がった水を持ち上げる。それを……


 「凍れ」


 宙に浮いた水に向かって手を振る。すると、目には見えない冷気が水を包み、一瞬で凍らせた。


 「よし、氷はオッケーだ……ね」


 指をパチンと鳴らすと、氷は砕け散って霧散した。

 ん? でもちょっと待てよ? 僕はどうやって水を凍らせた? 「念を送って水を持ち上げ」た? え? 無意識のうちにそんなことやってたの!?


 「やっぱり慣れって大事だなぁ」


 色々と良くわからないことが起こっていてとりあえずそう呟くのだった。




 『戦士バトラー』訓練後、僕達は医務室に来ていた。オズの容態を確認しに行くためだ。

 実際に見てみると、オズの右腕は包帯に巻かれているんだとでも思ったんだけど、当の本人は全くその様子はなく、逆に元気そうだ。

 本人曰く、


 「医務室の人、すげーぞ! オレに何か魔法をかけたと思いきや肩の痛みがすぐ無くなったんだよ! まあ、『今日は絶対安静』って言われたけどな……」


 との事だそうだ。

 とりあえず、オズに何もなくてよかった……と安堵する僕達であった。





 「全くもう、マニュアルがあるならちゃんと読んでよね」


 クレシアがオズの左肩に手を置きながら説教していた。


 「ああ……反省してる。心配かけてすまなかったな」


 オズはしょんぼりしていた。この光景を見るのは何回目だろう。ほんとに今日初めて知り合ったんだよね……?


 「はは、とりあえず無事だったんだからいいじゃない」

 「とは言ってもねユクス……」


 クレシアが僕の方をジト目で見てくる。


 「いくら回復してくれるとはいえ、それに頼り切りじゃダメ。誰も痛い思いをしたくないんだから、気をつけられるところは気をつけないと」

 「「「お母さん……」」」

 「そろそろ叩くよ」

 「「「すいませんでした」」」


 やばい、レイミア怒ってる。それ込みでもやっぱりお母さんみたいだ。


 「ハァ……早く食堂に行こう。疲れた……」


 こめかみを抑えてため息をつきながら食堂へと向かっていくレイミアを僕ら3人は追いかけていくのだった。




 次の日の朝、食堂に向かうと……


 「あ、ロード、元気になったんだね?」


 ロードが先に来て手を振っていたのでその席のところに向かった。


 「ああ。昨日は大変だったよ。辛いしだるいしでね……」


 ハハハ、とロードは困ったように笑った。


 「いやー良かったよ、ロードが良くなって。あ、そういえばロードはオズって知ってる?」


 他のところから拝借してきた椅子に座ったオズはいきなり名指しされたのかドギマギしている。

 それはそうとして、ロードはと言うと、


 「いや、知らないな」


 と首を横に振った。

 あれ、同じ教室じゃないの? と思ったけど、そういえばオズって人前で知らない人と話すの無理なんだった……ということを思い出した。


 「じゃあ紹介するよ。こちらはオストゥル。オズって呼んであげて」

 「よ……よろしく、ロード」

 「ああ。よろしくね、オズ」


 オズとロードは握手をした。


 「早くご飯を取ってこようよ」

 「あ、そうだった」


 クレシアが言ってくれなきゃ完全に忘れてたところだったよ……

 僕らの朝食の時間はあっという間に終わったのだった。





 いつもの授業が終わり、次はいつも通りの『戦士バトラー』の講義。


 「昨日のノートを取らせてくれよ」

 「オッケー」


 ロードにノートを渡して、お礼の言葉と共に返ってきたところで部屋の扉が開いた。入ってきたのはなんとまたエン教官だった。


 「今日はお前達の先輩が来た。本日は特別講習とする」


 いつも思うんだけど、こんなに広い講義室全体にマイク無しで声が届くなんてどういうことだろう。他の講師とかはマイクを使っているのに。


 「今からバーチャルバトルルームへ移動する。着いてこい」


 というわけで、僕達は部屋を移動することになった。





 「先輩方って、ヴァイスさんのことかな?」


 移動する途中、クレシアが僕達に尋ねてきた。


 「いや……わざわざ『来た』って言うんだし、違うんじゃない?」

 「そうねぇ……すごい人かな?」

 「それは見てみるまでわからないよ」


 実のところ僕も気になる。どんな人達が待っているのだろう……

 そんなことを考えながら僕は人でぎゅうぎゅうのエレベーターに詰め込まれるのだった。

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