The Twelfth act

 「じゃあ、俺は医務室に行ってくる」

 「うん……じゃあ、また」


 ロードと別れた後、僕達は部屋に戻った。


 「ロード、どうしたのかな」


 クレシアがベッドに寝ころびながら呟いた。


 「うん、特に変なことがなければいいんだけど」


 早く良くなるといいな、と思いながら僕は眠りに落ちた。





 次の朝、ノックの音で目が覚めた。


 「……はーい」


 寝ぼけ眼で起き上がり、扉を開けると……

 目の前に銃が突きつけられていた。


 「うわあ!?」


 完全に目が覚めた僕は思わず仰け反った。すると、笑い声が向こうから聞こえてくるのだった。


 「ハハハハ!! 引っかかったな」

 「え……?」


 その声の主、おそらく銃を僕に突きつけている人は銃を下ろした。


 「驚かせて悪かったって。これはモデルガン、偽物だよ」

 「に、偽物……」


 まだ心臓はバクバク言ってる。全く朝っぱらから……


 「ユクス? どうしたの?」


 今のことでクレシアも起きたみたいだ。


 「あー、色々あってと言うには少し色々ありすぎててね……」


 実のところ自分でも良くわかっていない。


 「それで? どんな用なの?」

 「………」


 銃の持ち主は何も言わない。


 「もしもし?」


 僕がもう一回聞くと、銃の持ち主は少しビクッとして、


 「あ、ああ! 女がいたのか、あーいや邪魔したなーと思って……あはは、失礼しま……」

 「待った」


 扉を閉めようとしたところの腕を掴む。すると、またビクッとした。


 「僕達は邪魔されてもそういう関係でもないよ。ゆっくり話でもしよう。さあ、入って」

 「……え? じゃ、じゃあ、お邪魔します……」


 その銃の持ち主は会釈をしながら入って来た。


 「とりあえず、自己紹介からしようかな。オレはオストゥル。適当にオズとでも呼んでくれよ」


 その黒髪の少年はそう言った。


 「僕はユクス。で、こっちは従兄妹のクレシア」


 クレシアも礼をした。


 「なーんだ、従兄妹か」

 「なんだってなんだよ……」

 「い、良いじゃないか……コホン、とりあえず、よろしくな。で、オレがここに来た理由なんだけど……ユクス」

 「え? 僕?」


 僕のことをいきなり呼ばれて目をぱちくりさせる。


 「僕がどうしたの?」

 「昨日の訓練のことなんだけど、お前のフォームが綺麗だなーって思って。だから一度話をしようと思ってたんだけど、みんなの前だと恥ずかしくて……」


 オズが頬を掻きながら目を逸らす。

 そういえば、昨日訓練の時いたっけ?


 「ということは、君は……」

 「そう、オレは魔撃手キャスターになった。遠くから狙うよ、バーンってね」


 オズはまたモデルガンを構えて、撃つ素振りを見せた。


 「で、つまり恥ずかしがり屋さん、ってこと?」


 とクレシアが言うと、


 「そ、そんなことは! ……ある。人前で知らない人と話すのはちょっと……」


 オズはそう言いながらしょんぼりと肩を落とした。


 「じゃあ、とりあえず食堂行かない? 多分みんなも来るよね」

 「いいね。オズも来るかい?」


 オズは少し迷った後、


 「……わかったよ。ご一緒させていただきます……」

 「そんなに畏まらなくてもいいのに。さ、ユクス、準備しよ」

 「わかった」


 僕達は手早く準備をして食堂に向かった。





 「お、いたいた……って、あれ?」


 食堂に向かうと、いつものレイミアがいた。でも、ロードの姿がない。どうしたんだろう……


 「ユクス、クレシア、おはよう」

 「おはよう。今日新しく知り合いが増えたんだ。さあ、自己紹介を……って、あれ?」


 いつのまにかオズはいなくなっていた。どこに行ったんだ?


 「……どこにもいないけど」


 みんなが辺りを見回す……

 あ、いた。クレシアの背中に隠れている。


 「ほら出てきて挨拶して」

 「わかった、わかった。自分でやるから……」


 なんとかクレシアの背中から引き剥がす。


 「は、は、初めまして。オストゥルって言います。オズって呼んでください。よろしくお願いします……」


 最後の方は言葉が消えかかっていた。さっきの僕に対する自己紹介の時との差はなんなんだ……


 「ん、オズね。私はレイミア。よろしく」


 レイミアが座ったまま手を差し出す。

 オズはそれをちょんと触るとすぐに手を引っ込めてしまった。

 これ、レイミアが大人っぽすぎるからただ謙遜しちゃってるんじゃないかな……根からの恥ずかしがり屋がさらに拍車をかけている気がする。


 「とりあえず、ご飯取りに行こう。話は後」


 そこで僕は今日ロードがいないことを思い出した。僕達は頷いて今日の朝食を取りに行った。





 「……それで、どうして今日はロード君がいないの?」


 机に戻った後、クレシアがそう切り出した。


 「ロードは今日魔力中毒で休んでる」

 「「「魔力、中毒?」」」


 僕を含めた3人がレイミアに訊き返す。


 「そう。症状から見てそれが一番有力。で、魔力中毒についてなんだけど、魔力を得た直後に訓練生の一部に見られる症状で、熱、食欲不振、吐き気、ひどい時には気を失う病気。でも、命に関わるようなことにはならないから安心して」


 レイミアの話を聞いて僕とクレシアは長いため息をついた。それと一緒にロードへの心配の一部が抜けていった。


 「命に別状がないなら大丈夫だね。あとは回復するのを待とう」

 「うん。僕もほっとしたよ。いつぐらいに復帰できそう?」


 と僕が訊くと、レイミアは首を振って、


 「そこまではわからない。その人による、とまでしか言えない」


 と言った。


 「そ、その、ロードって人だけど、まさかあの……」


 そこでオズがようやく口を開いた。


 「ああ、言ってなかったっけ。そう、ロード・エース。君も知ってる?」


 オズは首を縦に振った。


 「あの、『ロードの近くにいると必ず悪いことが起こる』って言う噂がある人だろ? 許せないよな、そんなことを言うなんて。オレは気にしないぜ」


 オズもロードの扱いには思うところがあるらしい。似たもの同士だから引き合った、ということも言えるのかな。

 みんな完食したようなので、僕達はお盆と皿を返した。




 「……じゃあ、ロードのことはそれくらいにして、オズ、あなたのことをもっと教えてほしい」


 教育所に行く途中、いきなりレイミアに名前を呼ばれたのか、オズはビクッと肩を振るわせた。


 「えっ、えっと……オレは魔撃手で、ユクスと同じブロックで訓練してます」

 「敬語はいい」

 「あっ、ひゃいっ! 銃が好きで、いつか『戦士バトラー』になったら銃を使いたいなーって思ってま……思ってる。れ、レイミア、さん?」

 「『さん』はいらない」

 「え、じゃあレイミア……よろしくな」

 「うん。改めてよろしく、オズ。わからないことがあったらなんでも聞いて。できる範囲でなんでも教えてあげるから」


 レイミアがそう言うと、オズは黙ってしまった。


 「……オズ?」


 レイミアが名前を呼び直すと……


 「……お母さん」

 「「え?」」

 「お母さぁぁぁん!!!」


 とオズは泣きながらレイミアにひしっと抱きついてしまった。


 「え、ちょっと、どうしたの……」

 「お母さん……」


 オズのお母さんコールに僕らはなんだかデジャブを感じた。とりわけオズは反応が大きいらしい。


 「私はあなたのお母さんじゃないから。諦めて」


 と、レイミアはなんとかオズを引き剥がした。


 「うぅ……でも、でも、優しいから……」


 レイミアが優しいのはみんな知ってる。でもそこまで母親に似ていたのかな……?


 「ふう、私、そんなにみんなのお母さんに似てる?」


 僕ら全員が首を縦に振った。レイミアはため息をついて、


 「ハァ……そんなことを言われることになったのはいつからだったのか……」


 と呟いた。


 「でも、これからも頼りにしてるぞ、レイミア」


 目を真っ赤にさせながらも瞳を輝かせてレイミアをまっすぐ見る。


 「……うん。頼ってもらっていいから」


 レイミアも少し微笑んで頷いた。


 「おう! あ、オレはここで。じゃあな!」


 と言うと、ロードと同じ教室に入っていった。つまり、ロードと同年代ってこと? ロードはオズのことを知ってるのかな……




 僕もクレシア、レイミアと別れて教室に入った。






 次は『戦士バトラー』の講義だ。僕はいつも座っているところに座る。でも、隣にはいつも座っている人ではなく、オズが座っていた。

 なんで君が!? という気持ちを込めてオズを見ると、当の本人はえへっと笑って親指を立てた。

 えへってなんだよ……まあいいか。


 今日もいつも通り(?)『戦士バトラー』の講義が始まるのだった。







 「ねえねえどうする? みんなで勉強会でもする?」


 講義が終わった後、クレシアがみんなに尋ねる。


 「普通に一人で復習した方が効率いい気がする」

 「オレもそう思う」


 レイミアの呟きにオズも同意した。


 「でもみんなでやった方が楽しいし?」

 「いや、勉強はみんなで楽しむものじゃないと思うけど……」

 「えー……まあいいや、じゃあ私は部屋に戻るから。ユクスは一人で勉強してて」


 とクレシアは部屋に戻っていってしまった。……って、


 「ちょ、クレシア!? 同じ部屋だよね!?」

 「知らないもーん、私は一人で勉強するもーん」


 全く変なところで意地を張るんだから……

 僕はクレシアを追いかけるのだった。

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