The Eleventh act

 「お前達に、魔法を使ってもらう」


 その言葉でみんなが息を飲むのがわかった。

 なるほど、ついに来た、ってことか。

 以前に話は聞いてある。小型、中型の『エネミー』はそのままでも倒せるが、大型ともなると普通では倒せない。そこで、『戦士バトラー』は魔法というものを使って大型の『エネミー』を倒す。

 そして、『戦士バトラー』には5つのクラスがある。武器などを利用して直接攻撃する『攻撃手アタッカー』、魔法弾などを使って遠くから攻撃する『魔撃手キャスター』、障壁などで相手の攻撃を受け止める『守備手ディフェンダー』、回復魔法を使って味方を回復したり、味方を強化したりする『回復手ヒーラー』、最後に相手を弱体化させたり、混乱させたりするのが主な『奇術手トリッカー』がある。今日それを決める日、ということだね。


 「魔法を自在に操れるようになると、こんなこともできる」


 と言うと、エン教官はバッと手を前に出した。すると、教壇の横に置いてあった箱から何かが大量に出てきて、それぞれが僕達の机に一つづつ置かれた。それは手のひらくらいの大きさで、水色に光り輝いている。


 「まだ触るな。これは魔法石と言って、人間に魔力を供給する鉱石なのだ……が」


 が? どういうこと?


 「そのままでは魔力を得ることはできない。魔力を得るには、とある段階を踏む必要がある」


 とある段階……何か特別な事をする必要があるのかな?


 「この石に触れて、こう唱える。『シンクロナイズ』。さあ、やってみろ」


 みんなが石に両手で触れる。そして、


 「「「「『シンクロナイズ』」」」」


 と唱えた。すると、


 「えっ、えっ?」

 「なんだなんだ? 身体中に何かが駆け巡ってくる……」


 本当だ。血液でも空気でもない、『何か』。それが循環し、自身の一部になっていく……


 「……さて、ではもうそろそろだな。今からお前達には順番にこれに触れてもらい、適正をみる。それでクラスを決める」


 と言うと、エン教官は何か水晶のようなものを教卓の上に置いた。

 ふーむ、自分では決められない、ってことか……

 前の席に座っている人たちから順番に水晶に触れていく。それを見ながらエン教官は次々とクラスを決めていった。クレシアは攻撃手アタッカー、レイミアは奇術手トリッカー、ロードはなんと回復手ヒーラーに適性があるみたいだ。

 ついに僕の番が来た。


 「お願いします」


 と言って、水晶に触る……


 「……お前は魔撃手キャスターだ」


 魔撃手キャスター……僕は遠隔攻撃に適性がある、と言うことかな?


 「ありがとうございました」


 と礼をして、自分の席に戻った。


 「どうだった?」


 戻って来て早々ロードが振り返って訊いてきた。


 「僕は魔撃手キャスターだったよ」


 と伝えると、ロードはなるほどね、と頷いて、


 「じゃ、俺と一緒にサポート、というポジションかな」

 「そうみたいだね。僕達でクレシアとレイミアを支えよう」


 僕とロードは拳と拳を合わせた。


 「全員終わったな。だが、このままでは魔法は使えない。魔法行使の為の外部器官が必要なのだが、それはまた訓練の時使用することにする。では、魔法を使う際の注意点、規則を今から話していこうと思う」


 というわけで、エン教官の講義は続いた……





 昼、僕達は食堂に来ていた。


 「魔力、ねえ。あんなに話を聞いていてもあまり実感できないな」


 ロードがラーメンを食べながら僕達に話しかける。


 「確かにそうだね。使っているのを見たことはあるし、講義でもやっていたけど、実際に使ったことはないからね」


 僕は豚骨ラーメンだ。ちなみに豚骨の味はしなかった……


 「でも、今はまだ魔法を使えないからただの人と変わらないでしょ? 魔法を使うためにはなんか外部器官が必要らしいけど」

 「実は、その外部器官は補助という目的でしか使われてない」

 「「「レイミア?」」」


 みんなが声の主の方を見る。レイミアはみんなを一瞥すると頷いて、


 「魔法は本来そういうのがなくても使える。ただ、供給された魔力量が少ないのと、慣れていないということでみんなそれを使ってる」


 え、そうなの? それは知らなかった……教えられてないから仕方ないと言えば仕方ないけど。


 「で、その補助というのは?」

 「放出される魔力の増幅、整理。最近の『戦士バトラー』は補助がないとまともに魔法を使えなくなった」


 レイミアが人差し指を立てながら説明する。

 やっぱりレイミアは物知りだなぁ。それにしても……


 「なんだか、以前の『戦士バトラー』を知ってるみたいな言い方だね」


 と僕がそれとなく言うと、レイミアは少しビクッとしてから、


 「……あなたも見てたでしょ、エン教官とかそのヴァイスとか言う人。私にはあの人達は補助に頼ってないように見えた」


 と捲し立てた。


 「あー、確かにそうだね……」


 そうだったっけ……そこらへんのことを全く見てなかった……!


 「とにかく、ようやく魔力を手に入れた。ここからが本番だぞ!」


 ロードが拳を握って上に突き上げる。


 「そうだね! 今日の訓練も頑張ろう!」


 クレシアとロードのの言葉に僕達は頷き合った。


 訓練場に行くと、いつもと変わらずエン教官がいた。


 「先ほども話した通り、今回は実際に魔法を使ってもらう。今回からはクラスで分かれて特訓を行う」


 というわけで、僕は魔撃手キャスターのところに行くことになった。

 ここからはブロックごとのところを一旦全て一緒にして、クラスごとにブロックを分け直すらしい。僕が知らない人がたくさんいる。


 そこで少し待っていると、なんとエン教官が来た。


 「え、エン教官!?」


 僕が思わず驚いていると、エン教官は僕の方を見て、


 「知らなかったか? 私は魔撃手キャスターだが」


 あ、そうなの……知らなかったのは仕方がない……のか?


 「そうだったんですね。知りませんでした」

 「前話をしなかったか……? まあいいか、そんなことは今問題ではない。では注目!」


 エン教官が手を叩いて大声で言う。すると、みんながエン教官の方を向いて走り寄ってきた。


 「これが外部魔力器官だ」


 教官が木箱のようなものをいくつか床に置く。その中には腕輪状のものがおそらく人数分あった。


 「訓練中はこれをつける。だが先ほども話した通り、これは訓練中、許可を得て管理下でのみ使用し、これを訓練場外に出してはならない」


 それはさっき聞いたな。それ以外のものといえば、魔法を他人に向けて行使しない、とか、その他安全のために注意することくらいだった。


 「では、今からこれを配る。各自装着するように」


 お手伝いさんが一人一つ腕輪を配っていった。僕にも渡って来たので、それを腕につけて腕を上げ下げしてみる。

 ……何も起こらない。そりゃそうか。何も説明を受けていないのにいきなり使えるわけがない。今は教官の話を聞くことにしよう。


 「まず、今日は一番基本の魔法を使う。あそこに的のようなものが見えるだろう。その方向を向いて皆一列に並べ」


 え、的? 周りを見渡してみると……あった。こっちの方向にみんなが一列に並んだ。


 「最初に、手をゆっくり、柔らかいものを掴むように握りしめる」


 ゆっくり……何か柔らかいものを掴むように……

 すると、握りしめた手の中で、何かが光っているのがわかった。さらに握り込むと、それは強く光り輝いた。


 「うわっ!?」


 思わず手を放しそうになる。


 「手を話すな。これを目標に向けて……一直線に飛ばすように投げる」


 とりあえず的の方向にまっすぐそれを投げる。すると、その光は一筋の線を描いてまっすぐ飛んでいった。


 「おお、すごい!」

 「これは光弾と言って、最も基本で威力もないが、さまざまなな魔法の基となっている。では、今日はこれを的に当てる訓練を行う! 的が三つある。3人づつで列を作って一人づつ順番に練習!」

 「「「はい!!!」」」


 というわけで、的当て訓練が始まった。





 ………当たらない。

 本当に全く当たらない。まっすぐ狙っているはずなのに狙いがどこかで逸れてしまう。何がおかしいんだろう……

 他の人を見ていると、もうすでに当たっている人もいる。うーん何が……


 「あの、ちょっといいか?」

 「えっ?」


 声がしたので振り返ってみると、僕と同じくらいの少年が僕の方を見ていた。


 「あれ? 順番を抜かしちゃった? ごめん」


 とその場を退こうとすると、


 「そうじゃなくて、今君が的な当たらない原因のことだけど……」


 と首を振った。あ、抜かしてるわけじゃなかったのか。よかった……


 「手を離す瞬間、バラバラなんじゃない?」

 「手を離す、瞬間……」


 少年は頷いた。


 「見ていると、毎回手を離す場所が違うんだよ。だから狙いがズレて、的とは別の場所に飛んでいく……」


 そうか、そんなところに原因があったのか。気づかなかった。


 「じゃ、じゃあ、どこで手を離せばいい?」

 「ええと……腕を大きく回して、手が真上に来た瞬間、かな」

 「ありがとう! やってみるね!」

 「ああ。やってみな」


 ちょうど順番が来たみたいだ。早速やってみよう。「あ、そういえば、名前……」という声は僕には届かなかった。

 窓の前でしっかり立つ。手をぐっと握って光ったのを確認すると、体を引いて振りかぶり……腕を大きく回して真上に来たところで離す!

 僕の放った光はまっすぐ的に向かったと思うと、見事に命中した!


 「やったあ!!」


 僕は思わず飛び上がった。何人かからも拍手が聞こえてくる。


 「本当にありがとう。君のおかげで助かったよ! これからも練習頑張るから!」

 「お、おう。あの、なま」

 「それじゃあ!」

 「あ、ちょっと……」


 あまりの興奮で話を聞いていなかった。そのことを思い出してその日の夜ベッドの中で悶絶したのは別の話。

 その後も、練習して精度を上げていった……





 「どうだった? クラスごとの訓練」


 腕輪を返却した後、偶然みんなと合流したのでみんなに尋ねてみた。


 「新鮮だったよ。早速剣を持って身体を強化しながら練習、だったから驚いたよ。まあ、まだ木刀だったけどね」

 「ふーん、僕は早速魔法を使ったよ。遠くの的に当てる、っていうね」

 「おお、良いね。俺は精神統一だったよ。回復手には集中力が必要らしいからね。レイミアは?」

 「……私は速く走る練習。一番地味……」


 珍しくレイミアがしょんぼりしていた。


 「そんなこと言わないで。頼りにしてるからね」


 クレシアがレイミアの肩に手を置く。すると、レイミアは少し微笑んだ。


 「……うん」


 おっと、もうすぐ更衣室に着く。


 「じゃあ、僕達はここで。また後でね」

 「はーい、また後で」


 更衣室でテキパキ着替えて外に出る。

 ……まだ誰も来てないのかな、少し待つか。


 ちょっと待っていると、ロードが出てきた。ん? それにしても、少し顔色が悪いような……


 「ロード、どうしたの?」

 「いや、なんだか少し疲れてね。おかしいな、いつもはこんなことないのに……」

 「うーん、後で医務室に行ってみれば?」

 「そうするよ」


 と放しているうちに、レイミアとクレシアも出て来た。


 「お待たせ! さあ、食堂に行こう」

 「うん」


 今日のご飯はなんだろう。やっぱり食堂に向かう時は足が軽くなる。ヴァイスさんの言っていたことは正しいのかもしれない。

 速攻で食堂に着いた。


 「んー、今日も迷うな……」


 天ぷらうどん、カツ丼、ざるそば……どれも美味しそうなものばかりだ。

 今日は……ざるそばだ!

 お盆を持って行って席に着く。


 「あれ? ロード、こんな少しでいいの?」


 ロードの前にはいつもの半分くらいの量しかお盆に乗っていない。


 「今日はあまり食欲がなくてね」

 「………」


 やっぱり心配だ。ロードのことだから後で医務室には行くと思うけど、ロードの体に何が起こっているんだろう……

 空気が少しだけ悪いまま僕達は食事を終えた。

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