The Seventh act

 昨日はかなり疲れたこともあってよく眠れたな。

 気持ちいい日光を窓越しに浴びながら伸びをする。


 「あ、今日は自分で起きたんだね」


 あくびをしながらクレシアが言う。


 「前はたまたまだよ。ちゃんと自分で起きられるから」


 子供扱いしないでほしい、というところかな。


 「さ、早く食堂に行こう」

 「そうだね」


 身支度を済ませて部屋を出る。エレベーターに向かう途中、角を曲がったところで……


 「うわっ」

 「あっ」


 いきなり誰かが角を曲がってきて、危うくぶつかりかけた。


 「ごめんなさい、よそ見してた」


 その人は水色のショートヘアで深緑の瞳の少女だった。


 「いや、僕こそごめん。左側通行を守らなかった僕にも問題はある」

 「左側通行っていうルールあったっけ……」


 左からクレシアが小声で言ってくる。


 「あ、バレた?」

 「まったくユクスって人は……」

 「………」


 僕らの掛け合いを見ながらその少女は言葉を失っていた。


 「ああ、ごめんね、僕はユクス。で、こっちがクレシア」

 「私はレイミア。よろしく」


 レイミアって言うんだ。あまり聞かない名前だな。


 「そうだ、今から私達は食堂に行く予定なんだけど、レイミアちゃんも行く?」

 「レイミアでいい。でも、行く」


 こうして、僕ら3人は食堂へ向かった。




 「やあ、ユクス、今日もいい日だね」

 「ロード、おはよう」

 「やっほー、ロード君」


 ロードは僕らに向かって手を振ると、見知らぬ人影を見かけたのか不思議そうな顔になった。


 「ん? この子、誰だい?」

 「私はレイミア。呼び捨てでいい」

 「そうか、じゃあレイミア、俺はロードだ。もう知ってると思うけど、よろしく」

 「……いや、知らない。でも、よろしく、ロード」


 ロードとレイミアは握手をした。


 「俺と仲良くしてほしい……と言いたいところだけど、俺のことを知らない、ってことはあの話をしなくちゃいけないみたいだな……」

 「え、いいの?」


 ロードは苦笑いして、


 「もう2人は知ってるだろ? だからもういいかな、って思ってさ」


 と、ロードはレイミアに彼自身のことについて話した……


 「……ってわけで、俺と関わるとロクなことがない。縁を切るなら今だぞ?」

 「……問題ない」


 ロードはまたもや不思議そうな顔をして、


 「……へえ、こんな俺と3人も仲良くなってくれるなんて、俺、運使い果たしたのかな?」

 「私は不運には慣れてる。だから大丈夫。私もずっと1人で退屈だったところ。もうそろそろ友達がいてもいいかな、って思ってた」


 不運に慣れなんてあるのかな……


 「ここに立ち止まっていても時間の無駄でしょ。早く行こう」


 あ、そうだった。今食堂に向かっているところだった。


 「そうだね、早く行こうか」


 そんなこんなで僕らは改めて食堂へと向かった。


 「あ、おはよーっ! 今日も元気? あれ? 新しい友達?」


 食堂の階で降りたところでリオさんと出会った。結構会う確率高いなぁ。

 それにしても、最近ヴァイスさん達と会ってない気がする。


 「はい、この人はレイミアって言います」


 僕が紹介すると、レイミアはお辞儀をした。


 「レイミアちゃんって言うんだ〜! どうやって呼んで欲しい、レイ? ミア? レイミィ? それとも……レミとか!」

 「レイミアでいい」


 なんか一瞬反応していたけど、レイミアはすぐに答えた。


 「そっか。じゃあレイミア、それとみんな、訓練キツイと思うけど、頑張ってね! それじゃ!」


 と言うと、リオさんは食堂へ入って行った。


 「急に現れて急に去るんだね……」


 クレシアが半ば呆れたようにそう言う。


 「さ、さあ、気を取り直して行こうか」


 もうそろそろお腹が空いたところだ。早く朝ごはんを食べたい。


 「うん、そうしよう」

 「朝から疲れた……」

 「あはは、慣れだよ、慣れ」


 そんな話をしながら僕達は食堂に入った。




 「さて、腹ごしらえもしたところで、今日も頑張ろう!」

 「「「おお!!」」」


 朝食の後、僕達はいつもの(?)気合い入れをした。レイミアも乗ってくれたようだ。


 「じゃあ、俺はここで」


 まずロードがエレベーターから1番近い教室に入る。


 「次に僕だね。じゃあ、また後で」


 僕は自分の教室に入った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「私はここなんだけど、レイミアはどこの部屋なの?」


 私は自分の教室に入る直前、少し気になったのでレイミアに訊いてみた。


 「……私は授業はいらないから」

 「えっ?」


 思わず聞き返してしまう。ほとんどの『戦士』訓練生は講義の前にこういった授業があるはず。それなのにレイミアは授業がないって……


 「私は授業が必要ないの。だから私のことは気にしないで勉強に集中して」


 それは私のセリフなのでは……と言う言葉を飲み込んで、


 「うん、わかった、ありがと。また後でね」


 と、レイミアが頷くのを見てから私は教室に入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「では、今日の授業はここまで。お疲れ様でした」


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、先生が講義室を出て行ったところで、僕はぐ〜っと伸びをした。この生活が始まってから数日経って、慣れたとは言えやっぱり疲れるものは疲れる。

 次は『戦士バトラー』の講義だ。ロード達と合流して『戦士バトラー』の講義専用の講義室へ移動する。




 「本日から『エネミー』についての話に移ろうと思う」


 教官が前に立って講義を始める。

 ついに『エネミー』の詳しいことについて知ることができるんだ……無意識に身体に力が入る。


 「『エネミー』にはいくつかの種類がある。まずは中型の『エネミー』からだ。中型には人型、四足歩行型、異形型がある。どれも人間の形とは程遠く、すぐにわかる、が、稀に異形の中には人間に擬態できるものがいるから注意が必要だ」


 教官が白板に情報を書く。僕はそれをしっかり記録した。


 「次は大型。大型には怪獣型、擬態型の二つがある。擬態型とは、私達人間が見慣れたものに見た目を近くした存在のことだが、どれも完璧に擬態できた例はないようだ。見ればすぐにわかる」


 僕はメモを取りながら、(え〜、ダメじゃん、『エネミー』さん達)と頭の中でツッコミを入れた。


 「最後に小型。小型は主に小動物型が確認されている。しかし『エネミー』の中で小型が最も厄介だ。一目では『エネミー』と小動物の見分けがつかず、小さいながらも能力は想像以上だ。さらに、小型のみ中型、さらには大型に返信することができるから注意が必要だ」


 え、小型、結構やばいのでは?

 『小型には注意!』とノートに書き込んだ。


 「次は『エネミー』の習性だが……」


 その後も『エネミー』についての講義は続いた……





 「ふう、今日は特に内容が濃かったな」


 ロードが振り向いて言う。


 「そうだね。タメになったよ」


 今日こそはちゃんと復習するべきだな。いつもやるべきだけど。


 「よし、じゃあ今日も昼飯食べて訓練、頑張ろうぜ!」

 「もちろん!」

 「あ、ロード君、ユクス、頼もしい助っ人を見つけたよ!」


 クレシアがなんだか嬉しそうに僕達のところに来る。


 「「助っ人?」」


 僕とロードが同時にクレシアに訊く。


 「うん! その助っ人というのは〜、ジャジャン!」


 クレシアが誰かの腕を引っ張る。それは……


 「「レイミア?」」

 「そう! レイミアちゃんはね、『戦士バトラー』と『エネミー』についてとっても詳しいんだよ!」


 クレシアがこんなにも興奮しているなんて珍しい。それほど詳しいってことなのかな。


 「いや、図書館でたまたま読んだだけだし……」


 レイミアは右に視線を逸らしながら呟いた。

 そういえば、ヴァイスさんには教えてもらえなかったけど、『戦士バトラー』の講義室がある階の奥に図書館がある。教えてくれなかったと言うことは、存在を知らなかった、という可能性が高い。つまり、ヴァイスさんは図書館に行ったことがないということなのでは……?


 「と、とりあえずご飯、食べよう。お腹空いた」


 と、レイミアはそそくさと講義室から出てしまった。


 「あ、待ってよ!」

 「俺たちも行こう」


 僕達も食堂へと向かった。




 「『エネミー』のことについてもっと教えてくれないかな?」


 うどんを啜りながら僕はレイミアに尋ねた。


 「……いいよ。まず、先に聞くけど『エネミー』はどこから来ると思う?」

 「えーっと……」


 確かどこから来てたっけ……と思い出そうとしたけど、そういえばまだ教えてもらえてないんだった。


 「まだ講義でやってなくないか?」


 ロードもレイミアに聞き返す。


 「うん、やってない。でも、私が先に教えてあげる。『エネミー』は、別の次元からやって来る」

 「「「別の……次元?」」」


 レイミアはこくりと頷いた。


 「別の次元って……そんなのが存在するのか?」


 ロードの疑問ももっともだ。別の次元なんて、それこそスケールが大きすぎる。


 「うん。『戦士バトラー』の図書館の本に載ってた情報だから、かなり信頼できる」


 そうか……確かに『エネミー』がどうやって発生したのか説明するならそれしかな


い。魔法というものがあるとわかってしまった今、それで納得しないとキリがないだろうね。


 「じゃあ、別の次元から来るのは良いとして、どうやって来るの?」


 クレシアも考えるのを諦めたみたいだ。話は次の段階へ進んでいく。


 「ん、良い質問。『エネミー』は、『ネクスト・ディメンションゲート』という門を使って出てくる」

 「「「『ネクスト・ディメンションゲート』……」」」


 なんか……ネーミングセンスが、ちょっと……アレだね。


 「で、そのネクスト・ディメンナントカゲートを使って『エネミー』はどこからともなくやってくる、と……」


 ロードがそれっぽい感じで言うけど……名前を覚えてられてない。


 「『ネクスト・ディメンションゲート』。ちなみにその別の次元のことは『ネクスト・ディメンションゾーン』って言う」


 ほへー。もう何が何だか、ってやつだ。

 いつの間にか僕はうどんを完食してしまっていた。

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