The Sixth act
「じゃあ、俺はこっちだから、また後でな」
「うん」
僕達とロードは教習室のある階の角で別れた。
「さて、今日も頑張るか……」
「ねえ、ユクス」
すぐ隣で僕の名前を呼ぶ声がした。見ると、クレシアが僕の服の裾を摘んでいた。
「なんだいクレシア?」
「一つ……話があるの」
話って、なんだろう。僕はクレシアの話に耳を傾けることにした。
「ロードの事なんだけど」
「うん」
「彼は……特殊な不運体質を持っているそうなの」
ああ、その話か。クレシアも彼から聞いたんだな。
「ああ。それは僕も知ってる。彼の近くにいた者には不運が降りかかる」
クレシアの目が見開かれるのがわかった。
「え、どうして、誰から……」
「ロードをよく知っている人から聞いたんだ。それで、僕に聞いてきたよ、『アイツとチームを組むのはやめろ』ってね。でも、僕は彼と組むと決めた。どんな不運が来ても、乗り越えてみせる」
すると、クレシアは黙り込んでしまった。
「ど、どうしたの……?」
「……なんだ、そういう事だったんだ」
「え?」
「ううん、いいの。ありがとう。おかげで気が楽になった。私も、ロードとユクスと一緒にいることを選ぶよ」
「う、うん、それは良かった」
クレシアは一つ微笑むと、
「ふふっ、じゃあ、私はここで。また後でね」
と部屋の中へ入っていった。
「じゃあ、僕の部屋は……」
すでに通り過ぎてしまっていたことに気づくまでにそれほど時間は掛からなかった。
中等教育の授業は1日分が短い代わりにとても早い。気を抜くとすぐにわからなくなってしまう。
それはともかくとして、次は『
「ふぁ〜、疲れた。あ、ユクス」
「やあ、ユクス」
「あ、ロード」
クレシアとロードと合流し、一階移動する。
「今日はどんな講義があるんだろうな? 楽しみだ」
「そうだね」
「あ、ロード、後で話があるんだけど……」
すると、ロードは一瞬固まった後、
「ああ、わかった。じゃあこの講義の後で」
と了承した。
一体、何があるんだろう。気になるけど、2人の話らしいからそっとしておこう。
「みんな揃ったか? では、只今より講義を行う」
僕らはスイッチを切り替えるのだった。
「はー、終わった終わった」
「じゃあ、僕は先に食堂に行ってるから」
「はーい、また後でね」
さっきの話を思い出し、自ら去ることにした。流石は気配りができる僕! ……というのは良しとして、今日の献立は何だろう、それも楽しみだ。
僕はエレベーターに乗った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はロードと向き合った。
「あの、チームの、話なんだけど」
するとロードは少しだけ微笑んで、
「何だ、まさか告白でもされるんじゃないかと思ったよ」
なんて言ってきた。
「そ、そんなわけないでしょ!? 全く、ロードって人は……!」
思わず早口になっちゃった……顔も赤くなってないかな……?
「ははは、ごめんごめん。で、決意は固まったのかい?」
私は頷いて、私の答えを告げる。
「私は、ロード達と組む」
ロードは一瞬驚いたような顔をして、すぐに余裕そうな顔に戻った。
「へぇ、あんな話を聞いておいて、やめると言い出すと思っていたのに。理由を聞けるかい?」
「うん。ロードと関わると不運が降りかかる、って言う話だったよね。でも、だから何? って思えるようになったんだ。どんな不運に見舞われようと、私はロード達と一緒にいたい。一緒に戦いたい、と思う。だから」
私はそこで言葉を切って呼吸を整える。
「だから、これからもよろしくね、ロード」
私はロードに手を差し出した。ロードは困ったような笑顔を浮かべて、
「じゃあ、これから迷惑をかけちゃうかもしれないけど、よろしく、クレシア」
と私の手を握った。
「そういえば、ユクスにはこのことを伝えるつもりなの?」
彼は少し考えてから、
「いや、言う必要はないよ。どうせ彼ももう知っているだろうしね」
私はビクッとしかけた。まさか私が言ったこと、バレた!?
と思った時、何か気配がして、後ろを振り返ってみたけど、誰もいなかった。
「ふふっ、良いんだ。彼もおそらく俺らと組むつもりだろう。心配は要らないよ。さて、俺達も行こう、お腹空いたよ」
「そうだね」
私達はエレベーターの前に立ち、ボタンを押した……けど、
「あれ? 階数の表示がないよ?」
「確かに」
その後しばらく待っても、エレベーターは到着しなかった。
これはまさか……
私達は顔を見合わせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は只今絶賛エレベーターに閉じ込められている。
エレベーターに乗っていると、いきなりガクン、という揺れがきて、電気が消えたんだ。
初めはパニックになりかけたけど、何とか落ち着いて、今は救助を待っている。
「誰かいますか〜!?」
と呼びかけてみる。すると、
「はいはーい、いるよ〜。今から助けるから待っててね〜」
と斜め上から聞こえてきた。これを見るに、上の階に入る直前で止まったらしい。表示からしておそらく2階。
「おっと」
また例の揺れが来たと思うと、少しずつエレベーターが上昇し始めたのがわかった。復旧したのかな、と思ったけど、電気は消えたまま。誰かが魔法で動かしているんだろう。
ついに扉が開いた。そこには、会ったことのない『
「大丈夫、怪我はない? ってあれ、訓練生君じゃん! ホントに大丈夫だった!?」
「は、はい、大丈夫です……」
訓練生、という理由かどうかはわからないけど、過剰に心配されているみたい。とりあえず大丈夫なのでそう答えた。
「よかったぁ……今までこんなことなかったから、何が起こるのかと思ったよ〜。あ、キミ、私のこと知らなかったね。私はリオ•ウィレン。キミは?」
「ユクス•モルジベスタです」
「ユクス君かぁ! よろしくねぇ!」
「は、はい……」
元気な人だなぁ。
とかそんなことを考えていると、リオさんは僕のことを興味深げに見ていた。
「な、何ですか……?」
「ん〜、ん、んんん〜? あ、ごめんごめん。魔力の通りが良さそうだな〜、と思って、思わず見ちゃってた。ゴメンね」
「あ、いや、良いですけど」
魔力の通りが良さそう? 一体どういうことなんだろう。
「私はちょっと特殊な体質でね、他の人の魔力の回路、すなわち『魔道』を見ることができるんだ〜。で、まだ訓練生になったばかりだから魔力は受け取ってないはずなのにすでに魔道ができてるなんてやっぱりモルジベスタ家の息子であることに関係があるのかも……」
途中から独り言になっていた。やっぱりこの人、クセ強めなのかも……!
「あ、あの……」
「ん? あ! ごめんごめん! 私つい人と話してる途中に独り言になっちゃう癖があるの……そ、そうだ! キミ、今から食堂に行くんでしょ? 一緒に行こうよ!」
「あ、はい……」
良い人なんだろうけど……疲れる! 今日はよく眠れそうだ。まだ昼だけど。
「あ、エレベーター動くようになったみたい」
というと、リオさんは上のボタンを押した。いつのまに下に行っていたエレベーターが上がってきて、僕らのいる階で止まると、扉が開いた。そこには……
「あ、ユクス。あとその人誰?」
ロードとクレシアが乗っていた。
何とかリオさんの紹介をし、エレベーターに乗り、食堂の階に着いて「じゃあね〜!」とリオさんと別れた時、僕達は疲労困憊だった。
「何なのあの人……なんか、めちゃくちゃ疲れた……」
クレシアもげんなりしている。
「うん……個性が強い、ってことだね」
「俺の不運体質も塗り替えされそうな感じだったな」
僕らは顔を見合わせて苦笑いしながら食堂に入った。
「さあ、お腹もいっぱいになったし、午後の訓練も頑張ろう!」
「どうしたのユクス、そんなに張り切って」
午後の準備をするために部屋に戻る途中、意気込む僕の顔を覗き込んでクレシアが訊いてきた。
「今日から本格的な訓練だ。ちょっと油断すればすぐに置いていかれてしまう。だから気を引き締めていかないとね」
「……そうだね。私も負けてられないよ」
クレシアは運動神経いいから大丈夫だとは思うけどね。負けてられないのは僕の方だ。
僕達は地下の訓練所へ向かった。
「今日から体力の訓練を行う!」
エン教官が声高らかにそう告げる。
「いくら強靭な肉体を手に入れようと、いくら破壊的な筋力を獲得しようと、すぐに疲れて使い物になっては意味がない! どんな長期の戦いにおいても常に全力を出せるように特訓する!」
「「「「はい!!!」」」」
体力か……僕の1番苦手と言っても過言ではない分野だ。だけど、ここで辞めたらここにきた今がない。死に物狂いでついていってやる!
「特訓の内容はこうだ! とにかく身体に負荷をかけ続ける! そしてその負荷に長い間耐えられるようになることを目標とする!」
なんかそう言った機会とか魔法とかがあるのかな。なんて期待していたけど……
「そのためにはとにかく運動しろ! 走り込み、筋肉トレーニング、その他運動! それぞれコースがあるから別れて行くといい」
あ、やっぱりね……期待した僕が馬鹿だったか。
「ユクス、どうする?」
ロードが僕に尋ねてくる。
「うーん、僕には筋肉の自信がないから筋トレしようか」
「ああ、俺も同感だ」
僕達3人は筋トレコースに向かった。
「これがコース表だ」
お手伝いさんが僕達にプリントを手渡した。
えーっと、どれどれ……
「ええっ!?」
プリントには、驚かずにはいられないほどの内容が書かれていた。
これは、キツすぎる……僕達にできるかな……
「ははは、俺達も最初はそうなったさ。最初はキツくても、無理でもいい。だが、いつかできるようになる。だから常に自分の限界を超えろ。俺達がいるから何かがあっても大丈夫だ」
お手伝いさんが僕らにそう言った。
ってことはつまり何かがあるまでやれ、ってことね……
「よし、やろう!」
「……そうだね、頑張ろう!」
僕達はコース表に沿って筋トレを開始した……
「あ、ああ……」
僕は言葉も発せない状況になっていた。
筋肉が千切れそうだ。焼けそうなほど熱い。乳酸が溜まって重くなる筋肉に逆らって運動をした結果がこれだ。
「今日は……限界、超えられたかな……」
やばい。言ってることが死にかけの人だ。いや、一回死にかけてるからいいのかな?
「腕があがんないや……俺、今よく生きてるな……」
ロードも床に倒れていた。
「明日……筋肉痛確定だね……」
クレシアも辛そうだけど、嬉しそうでもあった。
「90分お疲れ様、はい、スポーツドリンクだ」
「「「ありがとうございます……」」」
お手伝いさんから飲み物を受け取る。
「いやー、お前達には素質があるな。初日でこんなに動けるなんて」
「そうですか?」
お手伝いさんは「うむ!」と頷いて、
「これは成長が見込めるぞ〜、楽しみだなぁ」
「ありがとうございます」
「ははは、今日はしっかり休めよ、じゃあな」
と言うと、お手伝いさんはどこかへ去ってしまった。
「集合!!」
エン教官の声が聞こえてくる。
「「「は〜い」」」
気の抜けた返事と共に僕達は最初の場所に集まった。
「今月末、体力の特別訓練を行う。それまでに最低限の体力をつけておくように」
「「「「はい!!!」」」」
これにて、今日の訓練は終了となった。
訓練が終わった後、夕食までしばらく自由時間がある。そこで中庭に出ることはできるけど、今日は行く気になれなかった。
「僕らは部屋でゆっくりしようか……」
「そうだね」
僕らは部屋に戻るのだった。
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