The Fourth act

 次の日から、早速訓練が始まるようだ。

 僕達はB3の教習所に集められた。


 適当な位置に座って授業の開始を待つ。すると、


 「やあ君、見ない顔だね。名前を教えてくれる?」


 いきなり前に座っている人が振り向き、僕に声をかけた。


 「えっ、あっ、ユ、ユクス•モルジベスタです」


 思わず敬語口調になってしまった……

 すると、


 「エ•ア•ユ•ユクス•モルジベスタ君? 結構長い名前だねぇ」


 と、笑い出してしまった。


 「い、いや、そうじゃなくて……僕はユクス•モルジベスタだ」


 前の子はまだ笑いを抑えきれないようで、


 「ご、ごめんよ、からかっただけさ。俺はロード•エース。よろしくな……クックッ……」

 「わ、笑わないでくれよ! とりあえず、よろしく……」


 ロードはふー、一息ついてからまた目を開いた。


 「……とまあ、冗談はこれくらいにしておいて、ユクス、俺とチームを組まないか?」

 「チーム?」


 僕が怪訝そうに首を傾げたところで、ロードは意外そうに目を丸くした。


 「おや? 『戦士』志望のやつはみんな知っていると思ったんだが……」

 「ごめん、知らない……」


 そんなことを言いながら、そういえば確かヴァイスさんは「こちらチーム『カウンタリー』」って言ってたな……というのを思い出した。


 「まあいいや。また後で説明があるだろ。そーいや、お前『戦士』訓練生待機施設で見なかったんだけど、何者なんだ?」

 「えーっと……」


 僕が返答に困っていると、


 「静粛に! これより、『戦士』となるお前達が何をすべきかの講義を行う!」

 「あー、ははっ、じゃあ、この話はまた後でな」


 と言うと、ロードは前を向き直した。




 90分の講義(ガイダンス?)が終わり、講義室から出ようとしたところで、


 「やあユクス、講義はどうだった?」


 とロードがまた声をかけてきた。


 「いや、『どうだった?』って訊かれてもね……」


 僕は(多分)呆れ顔でロードの人の良さそうな顔を見直した。


 「そうか? まあ、いいや。それはともかく、さっきの話の続きだが……」


 げ、コイツ、憶えてたのか?

 まずいな……と思ったその時、


 「誰? この人」


 と横から声が聞こえてきた。クレシアだ。

 ああ、この人は、と言おうとする前に反応したのは他でもないロードだった。



 「お? もしかして……ユクスの彼女?」

 「そんなんじゃないよ。この子はクレシア。僕の従兄妹さ」


 ロードはつまらなさそうに、


 「はあ、従兄妹か……カップルだったら面白かったんだがなぁ……」


 と肩を落とした。


 「で、誰なの?」


 クレシアがまた訊いてきた。


 「ああ、この人はロード。今日知り合ったんだ」

 「よろしく、クレシア」

 「うん、よろしく」


 クレシアとロードは握手をした。


 「そうだ、君もユクスと俺とチームにならないか?」

 「え? 別にいいけど……」


 クレシアが目をぱちくりさせる。

 チームについてはさっき教官から話があった。話によると、


・『戦士』はチームを組む必要がある

・基本チームは4人

・チームを組んだら、名前を決める


 のだそうだ。


 「チームを組むとは言っても、まだ早すぎない?」


 僕の問いに、ロードはチッチッチ……と指を振った。


 「早すぎるからこそ意味があるんだよ。この段階で決めておけば、後々迷う心配もないでしょ?」

 「それもそうだね……」


 クレシアも納得しているみたいだ。

 でも、ひとつ気になることがある。


 「それにしても、どうして僕達なんだ? 他にも人はいるのに……」

 「それは……色々あるのさ。お前達があの時俺達と同じ所にいなかったのと同じような事情がな」

 「そっか……じゃあ、僕達が答えられないことは答えない。君が答えられないことは答えない。それで良い?」

 「それでトントンってやつか。いいぜ」

 「よし!」


 僕とロードは拳をぶつけた。


 「今日が初対面のはずなのに、もう仲がいいんだね……」


 クレシアがやれやれ、と首を振っていた。




 昼食後、中等教育の講義をして、早速今日は特訓があるようだ。


 「初日から特訓って……」

 「まあ、あれだよ。早いうちから始めておかないと、ってやつ」

 「でもさぁ……」

 「ほらほら、早く行くよ! 遅れないようにね!」


 クレシアは結構楽しみにしているみたいだ。僕もクレシアについて行った。




 『戦士』の訓練ではいくつかのブロックに分かれていて、僕とクレシアはBブロックに振り分けられたようだ。着替えをした後、Bブロックの場所へ向かう。


 「私の名前はエン•フーと言う者だ。これから君達に『戦士』として相応しい身体を作り上げさせてもらう」


 エンと名乗った男性は僕ら生徒に向かって野太い声でそう言った。

 うわー、筋肉すごっ。こんなの、誰も勝てないよ……


 「教官、本日は何をするのですか?」


 生徒のうちの一人が手を挙げて質問する。


 「そうだな、後で説明するつもりだったが、早く始めたいな。ここで説明してしまおう。今日、お前達がどれだけ動けるか、を試す。言うなれば身体測定だ」


 なるほどね。動けるかも分からないのに無理に鍛えても身にはつかない。


 「では、早速始めよう。まずは短期出力のテストだ」


 僕らはエン教官についていき、とある部屋へと入った。


 「ここは100mトラックだ。今からここでダッシュしてもらう」


 実のところ、僕はげんなりしていた。なんと言っても、僕は運動が大の苦手なんだ。いや、あんな身体能力が楽して手に入るとは思ってないけどね……


 「順番は適当でいいから、二人ずつ並べ。……では、用意、スタート!」


 生徒二人が並んで走り出す。


 「次! すぐに準備しろよ!」


 後ろの二人がスタート位置に着く。


 ついに自分の番が来た。


 「用意、スタート!」


 エン教官の声に合わせて走り始める。

 うーん、あまり速さが出ているように思えないな……しかも、100mを走ったことなんてほぼない。後半なんて息も切れ切れだった。


 「21秒86。まあ、最初はそんなもんだ」


 トラックの真横ではあはあ言いながら仰向けに倒れている僕にお手伝いさんらしい人がそう告げる。


 「ユクス、大丈夫?」


 クレシアが僕に手を差し伸べてくる。


 「も……もぢろん……大丈夫……だよ……」


 自分でもびっくりするほど明らかに大丈夫ではない感じで答えてからなんとか起き上がり、クレシアの手を取る。


 「よいしょっ……と! 全く、無理しすぎだよ、いくら初日だから張り切ってるとはいえ」

 「ははは……」


 苦笑いしか出なかった。まさか、クレシアに心配されるとはね……


 「そういえば、クレシアのタイムはどうだった?」

 「え、私? 私は11秒台だったよ」

 「え!?」


 クレシア、そんな速く走れたのか!? 14年生きてきてそれは知らなかった……


 「クレシア、世界大会に出られるんじゃない?」

 「そうかなぁ……でも、私にはやるべきことがあるから」


 そうだ。彼女にも僕と同じ使命がある。それを忘れてはいけない。


 「全員終わったか? では、少しの休憩の後次の種目へと移る!」

 「「はい!!」」


 僕達はエン教官のところへ向かった。





 「次は、身体の柔軟性を測る。ここに握力、長座体前屈、1分タイマーの計測器がある。それぞれ二人一組を作って各自計測に取り掛かってくれ。紙はここにあるから、取りに来るように。では、始め!」


 みんながサッとペアを作り、紙を取りに行く。


 「じゃあクレシア、僕達も取りに行こうか」

 「うん、そうだね……って、あれ?」


 クレシアがとある方向を見ている。どうしたのだろう、と思って僕もその方向を見てみると、金髪の混じった黒髪が一人佇んでいた。


 「あれは……ロード?」


 あんなに明るそうな人なのに、どうして彼が……


 「何か事情がありそう。私が行ってくるよ」

 「うん」


 僕がそう答えると、クレシアは頷いてロードの元へ走って行った。

 えーっと、じゃあ僕は誰と組もう……

 立場が変わり、一人佇むことになった僕が困っていると、


 「じゃあ、オレと組もうじゃん?」

 「えっ?」


 後ろから声がして、僕は振り向いた。そこには体つきの良さそうな男子生徒がいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私はロード君の所に辿り着いた。


 「やっほー、ロード君!」


 ロード君はこちらに顔を向けると、


 「ああ、クレシア。ごめんな、君はユクスと組みたかっただろうに」


 と力なく言った。


 「いいよ。私達はチームだからね!」

 「……そうか。ありがとう」

 「うん、じゃあ紙を取りに行こう」


 私達は用紙と筆記用具を受け取り、1番空いている握力測定所に向かった。


 「これを使えば良いのかな」

 「ああ。電源を入れてから、このグリップを思い切り握り込む」

 「よ〜し」


 私はスイッチをオンにし、数字が表示されてからグリップを握ろうとした、その時、


 「やっぱり、不思議だよな」

 「ふぇあっ!?」


 何、何!?

 変に力が抜け、測定器を取り落としそうになった。


 「あぁ、ごめんよ」

 「う、ううん、いいよ。続けて」

 「いいか? じゃあ、続けるけど……君も、気になるよな。どうしてこの俺がいつも1人なのか」

 「あっ……」


 そうだった。完全に忘れていたけど、ロード君はこんなにも明るいのに、どうして他の人と仲良くなれないんだろう?


 「うん、気に、なる」


 私の答えを聞いて、ロード君はふっ、と顔を綻ばせた。


 「じゃあ、君には教えてあげるよ。実は俺の一族は--」

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