The Third act

  「まずは訓練施設から案内しようか。訓練施設は地下にある」


 エレベーターの表示がB1を表し、さらにB2、B3へと続いていく。やがて、B5に着いたところで、 エレベーターの扉が開く。


 「「うわあ……!」」


 僕らはただ感嘆の声を上げるだけだった。

 ただただ広い。天井がとても高く、部屋ごとに分かれているようだ。


 「ここには約50人が利用できるトレーニングルームと、休憩室、アリーナ、バーチャルバトルルーム、低酸素室、訓練室があるんだ」


 ヴァイスさんの声が響きわたる。

 扉の外から見てみると、いろんな人がこの施設を使っているようだ。



 「ここにいる人は全員……」

 「もちろん。みんな『戦士バトラー』のメンバーだよ」


 へえ、たくさんいるんだなぁ。


 「次はこれから君たちがお世話になるであろう、『戦士バトラー』教習所へ行くよ」


 僕達はまたエレベーターに乗った。




 B3に到着すると、扉が開いた。


 「ここが教習所だ」


 ヴァイスさんが両扉を開く。するとそこには、大きなホールがあり、黒板と教壇、それを取り囲むようにたくさんの机と椅子が半円状に並んでいた。


 「『戦士バトラー』訓練生時代はみんなここで『戦士バトラー』や『エネミー』について授業を受ける。あともう一つ、僕達『戦士バトラー』は『自然災害の時の人命救助』の役割もあって、それについてもここで習うんだ」


 『戦士バトラー』の授業……どんな感じなんだろ。


 「さて、1個上の階に行こうか」



 B2に到着し、エレベーターの扉が開く。

 ここも教習所っぽい風景が広がっていた。でも、少し小さく、いくつかの部屋に分かれている。


 「高等教育までを修了していない人たちはここで授業を受ける。君きみたちも、ちゃんと勉強するんだよ?」


 ギクッ


 「はい、ちゃんとやります……」


 実は僕は勉強が苦手なタイプ。まさかヴァイスさんにもそんなことを言われるとは……頑張るしかないか。


 「次は食堂だ」


 


 「じゃあ次は寮を紹介するよ」


 寮なんてあるの!?意外だぁ……

 僕達はヴァイスさんに着いて行った。


 「寮は建物の4〜6階にある。チームごとに部屋が割り当てられてるんだ」


 ヴァイスさんが空いているらしい部屋の扉を開ける。

 結構広い。広めの二段ベッドがあり、そのほかにも洗面台、トイレ、簡単な風呂、テレビもあった。


 「寮とは思えませんね」

 「だろう? ここはホテルと思ってもらっていい。なかなか過ごしやすいところだよ」


 なぜかヴァイスさんが得意げだった。

 と、そこで今まであまり口を開かなかったクレシアがいきなりこんなことを聞いた。


 「風呂って…ありますか?」

 「え? 風呂なら全ての部屋に…」

 「そっちじゃなくて、大浴場の方」

 「えーっと、あるけども……」


 いきなりの質問であたふたしているヴァイスさんの答えで、クレシアは、


 「やった! 一度は入ってみたかったんだよね〜、大浴場。『戦士バトラー』になったらユクスも一緒に入る?」


 なんてことを聞いてきた。


 「え!? 流石に無理でしょ!」

 「あー、ははは、うん、流石に無理だね……」


 するとクレシアはちょっとつまらなさそうに、


 「あ〜あ、ユクスなら頷いてくれると思ったんだけどな〜」


 と首を振っていた。


 「僕をなんだと思っているんだ!?」

 「えへへ、冗談だよ」


 まったく、クレシアのヤツは……


 「えーっと……次行ってもいいかい……?」


 おっと、そうだった。


 「そろそろ行きましょう」

 「う、うん。大浴場は5階にあるよ……。 …コホン、次は食堂。食堂は3階。食堂にはあとで行こう。待機室は7階にあって、担当の時間帯になった時はそこで指令を待つ。8階は『戦士バトラー』のオフィス、9階はオペレータールーム、10階がコンピュータ室、11階が教官休憩室で、12階が指令室だ。7〜12階は今働いてる人もいるから邪魔しないでおこう」


 やっぱり無駄がないなあ、『戦士バトラー』本部。


 「『戦士バトラー』の訓練が始まるまで、僕達はどこにいればいいですか?」

 「それは自由にしてもらって構わない。ここの寮に空いている場所があるからそこを使ってもらってもいいし、さっき行った保護施設でもいい。ただ、外に出たい場合は記憶処理を施させてもらう。……ユクス君に効くかはわからないけどね。でも、訓練が始まったらここの寮固定だ。どうする?」


 僕とクレシアは顔を見合わせた。


 「どうする?」

 「別にここでもいいんじゃない? 特に困ってることもないし、結構居心地良さそう!」


 僕は頷き、ヴァイスさんの方を見直した。


 「じゃあ、ここにします」


 ヴァイスさんは笑顔で頷いて、


 「よし! じゃあ決定だ。ちょっと受付に行ってくるから待ってて……っと、まずは食堂だったな」


 僕らは3階の食堂に向かった。




 「ここが僕達の泊まる部屋か……」


 ヴァイスさんから鍵を受け取り、伝えられた番号の部屋の扉を開ける。

 やっぱり広い。二人が使うには少し大きすぎるんじゃないかな……

 それにしても……


 「お腹すいたなぁ……」

 「食堂、使えるかな?」

 「電話してみよう」


 スマホを取り出し、さっきヴァイスさんに教えてもらった番号を打ち込む。

 ……あれ? 繋がらない?

 もう一回やってみても、だめ。

 って、圏外! 確かここって、街のど真ん中だよね!?

 ……そりゃそうか。こんなところが一般人にバレたらどうなるかわかったものじゃない。

 仕方なくスマホをポケットにしまい、部屋にある受話器を取る。そして、もう一度番号を入力し、電話をかけてみる……


 「ハーイ、どうしたんだい?」

 「え、ヴァイスさん?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


 「ん? 何か問題でも?」

 「いや、なんでもないです……」


 まさかご本人が出てくるとは思わなかった……というかそれよりも!


 「食堂って使えますか?」


 少し時間が空いてから答えが返ってきた。


 「んー、ちょっと待っていてくれ、僕もちょうど行こうとしてたんだ。一緒に行った方が君たちも安心できるだろう」


 そうか。食堂は他の『戦士バトラー』の人たちも使うんだ。ヴァイスさんがいてくれたら安心だな。




 しばらくすると、ヴァイスさんが僕達の部屋にやってきた。


 「お待たせ。じゃあ行こうか」


 エレベーターに乗り、食堂へと向かう。




 エレベーターから降りると、美味しそうな匂いが食堂の方からしてきた。


 「これが僕ら『戦士バトラー』の楽しみの一つだ!」


 ヴァイスさんが歩いていく。僕達もそれについていった。



 食堂にはたくさんの人がいた。


 「ヴァイス〜、席取っといたぜ〜。もちろんその2人の分もな」

 「ありがとう」


 先に来ていたらしいシヴェルツさんが僕達に向かって手を振る。どこか安心感を覚えた僕は全身黒基調の『戦士』のところへ向かっていった。

 それにしても、視線を感じる。まあ、いきなり見ず知らずの人が来たから仕方ないところもあるけどね。


 「君達の分も取ってくるから待っててくれ」

 と、ヴァイスさんは席を立った。


 「そういえば、ユクス君、君のファミリーネームって、『モルジベスタ』だったよね? まさか、君のご両親は……」


 フェリアさんがそう聞いてきたところで、僕は父さんと母さんの最期を思い出してしまい、俯く。


 「ああ、ごめんごめん! 悪気はなかったの……」

 「大丈夫です。父さんと母さんは僕を守ってくれました。だから、僕が役割を継がなければいけないんです」


 顔を上げ、フェリアさんの目をまっすぐ見ながらきっぱりと言う。


 「そっか……モルジベスタ先輩はね、私達にとってかけがえのない人だったの。私達がピンチだった時も、いつも助けてくれた。だから、君もきっといい『戦士バトラー』になれるよ」

 「本当ですか?」


 フェリアさんは笑顔で頷いた。


 「お待たせ」


 ヴァイスさんが食事の乗った盆を3つ持ってきていた。巧みな腕の持ち主はそれらをテーブルの上に並べる。


 「美味しそう……!」


 クレシアが喜びの声を上げる。

 プレートの上に乗っていたのは、大きなハンバーグだった。他に、ライスとドレッシング付きのサラダ、デザートまである。

 これ本当にホテルと言って差し支えないのでは……?

 とりあえず、冷めちゃう前に早く食べよう!


 「じゃあ、いただきます!」

 「「「「「いただきます!」」」」」


 しっかりとデミグラスソースがかけられたハンバーグにナイフを入れる。すると、プツッ、という微かな音と共に肉汁が溢れ出した。

 一口サイズにカットし、頬張る。


 「……!!」


 言葉にならなかった。美味しい。


 「最近の食堂はすげえな。レストランに出しても全く問題ないぞ」


 シヴェルツさんが口をむぐむぐさせながら言う。


 「はは、そうだね。コックさんが頑張ってくれている証拠だよ」


 ヴァイスさんが水を飲みながら首肯する。




 そんなわけで、僕達の皿はあっという間に空っぽになった。


 「はー、美味しかった!」


 クレシアが満足そうに言う。


 「よし、お腹もいっぱいになったことだし、『戦士バトラー』の訓練に向けて準備を…」


 とそこまで言ったところで、


 「おおっ、ヴァイス! 元気してるか? 最近仕事が多いらしいからなぁ」


 と陽気な声が聞こえてきた。


 「君か、モーツェ。ああ、僕はうまくやっているよ」

 「そうかそうか! ……んん? どうやら見慣れない子がいるようだが……」


 モーツェと呼ばれた人が僕達を訝しそうに見る。


 「この子達は次期『戦士バトラー』候補……の候補だ」

 「そうか? となるとここにいるのはちとおかしいんじゃないか?」

 「そうだね……本来はここにいるべきじゃない」


 え? 僕たちはここにいるべきではなかった?


 「どういうことですか?」


 ヴァイスさんを見上げて聞いてみる。


 「俺が答えてやるよ。お前達と同じ『戦士』訓練前の奴らは、本当はとある建物があって、そこで訓練開始を待つ、という手筈になっているんだ。だがな……どういうことか、お前達はここにいる。ヴァイス、何か訳があるんだろ?」


 モーツェさんはヴァイスさんの方に振り向く。


 「そうだ。まあ、隠しても仕方ないな。この子は、ユクス•モルジベスタ。僕らの大先輩、エゼル•モルジベスタとメシカ•モルジベスタの息子だ」


 その言葉を聞いて、モーツェさんの目は見開かれることになった。


 「ま……マジかよ。この子が……なるほど、わかった。これも何かの縁だろう! よろしく、ユクス」

 「よ、よろしくお願いします……」


 モーツェさんと握手を交わす。性格とは裏腹な美顔の持ち主が「うん!」と満足そうに頷くと、僕の隣にいるクレシアに視線を移した。


 「で、この可愛い子は?」

 「彼女はクレシア。ユクスの従兄妹だ」

 「ほお〜、クレシアちゃんか。よろしくな」

 「よろしくお願いします」


 モーツェさんはクレシアとも握手をした。


 「じゃあ、俺も帰るぜ。達者でな〜」


 と、モーツェさんは何処かへ行ってしまった。


 「えーっと、あの人は……」

 「ハハハ……そういうヤツだよ。いい人なんだけど癖が強いんだよね……」


 ふーん、神出鬼没、ってところかな。


 「じゃあ、僕らも帰ろう。『戦士バトラー』本部でまだ説明していないところがあるからね」

 「はい」


 僕達は食堂を出た。




 数週間後、僕達は大教室の隣にある集会室へと向かった。今日、『戦士』訓練生のオープンセレモニーがあるのだ。

 結構、人が多いな……この人達全てが両親のいない『孤児』なんだ……


 決められた席に座る。少し待つと、サート隊長が壇上に登った。


 「私はサート•オーグ。クテレマイスの『戦士バトラー』の隊長だ」


 強そうな割に整った顔の女隊長は思ったより太く、よく通る声で話を始めた。


 「お前達がここに集まった理由は聞くまでもないだろう。市民を脅威から救い出す! それが我々『戦士バトラー』の使命だ! そのために、自らを犠牲にし得る覚悟ができているからこそ! 今日、この場に集まったのだろう! 違うのならば今のうちだ! ここから去るがよい!」


 隊長の気迫に押されたのか、はたまたここにいる人全員が覚悟をできているのか、動こうとする人はいなかった。


 「よろしい! では、これにて入隊式を終了する! これからは各『戦士バトラー』がこの施設を説明するから待機!」


 え!? 終わり!? 早ぁ……

 まあ、長々と話されても困る……っとこれは失礼だったな。

 これから『戦士バトラー』になるための訓練が始まるんだ……

 少し不安だけど、ちょっとだけ楽しみな気持ちと共に、僕は『戦士バトラー』訓練の始まりを待つのだった。

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