The Second act

 モルジベスタさんがやられた!

 なんとか戻ってきた僕が目にした一部始終は僕にそう結論づけさせるのに十分だった。

 モルジベスタさんは僕にとってもいい先輩のような存在だった。

 僕がミスをしてもリカバリーしてくれたし、いろんな状況下での対処法も教えてくれた。

 まだまだ教わることはあるはずなのに……!

 僕は歯をきつく食いしばった。


 「ユクス君も近くにいるはずだ! 『エネミー』を倒すぞ!」


 こいつに対応するには最終奥義を使うしかなさそうだ。


 「みんな! アレを使う! 手伝ってくれ!」


 チームのみんなが顔を見合わせた。


 「「「了解!!」」」


 一瞬の後、みんなは一斉にそう返答した。


 「『とりあえず、黒! ユクス君を安全なところに移動してくれ!』」


 耳についたトランシーバーに向かってありったけの声量で叫ぶ。


 『そんな大声出さなくても聞こえるっての。まあ、了解』


 という言葉が返ってきた。

 よし、とにかくこれでユクス君は助かった。あとはアイツを倒すだけだ!

 『身体強化:加速』を使って屋根を思い切り蹴り、『エネミー』のところまで移動する。

 フルスイングされる腕を空中で避け、手に持った剣を振りかぶる。そのまま『エネミー』の顔まで近づくと、思い切り剣を横薙ぎに振るった。


 「グゴアアアアアアアア!!」


 目を潰された『エネミー』が暴れ狂う。

 『エネミー』から離れてちらと下を見ると、シヴェルツがユクス君を連れて移動させているところだった。


 ビルの屋上に着地する。みんなも集まってきた。少し後に黒も来た。


 「さあ、始めるよ! チャージ開始!」


 僕が剣の先端を『エネミー』に向ける。みんなが僕に魔力を供給すると、剣の先端にエネルギーの塊ができていく。

 フルチャージ! 今だ!


 「『バーニング•ブラスト』!」


 剣先から圧縮されたエネルギーが一気に『エネミー』に向かって放出される。『バーニング•ブラスト』に飲み込まれた『エネミー』は跡形もなく焼失した。


 「ふう、やっと倒せた……」


 僕は額の汗を拭いた。

 とりあえず、ユクス君の様子を見に行こう。


 「黒、ユクス君のところまで連れてってくれ」

 「はいよ。こっちだ」


 黒はビルから飛び降りた。僕もそれに着いて行った。




 しばらく離れたところの廃れた建物に来ると、


 「ここだ」


 と黒が言った。入り口は閉ざされているようだ。仕方がないので割れている窓から建物に入る。

 すぐそこにユクス君はいた。

 微動だにせず、どこか一点をずっと見ている。


 「ユクス君」


 僕が名前を呼ぶと、ユクス君はゆっくりと振り返った。目に光はなく、もう生きる気力を失ってしまったようだ。


 「ヴァイスさん……」


 やっぱり、僕の名前を知っている。どこかに記憶処理魔法が作用しなかった理由があるはずだ。

 と考えていると、ユクス君がまた口を開いた。


 「僕は、今からどうすればいいですか……?」


 そうだ。ユクス君は両親を失ったんだ。守ってもらえる存在もないし、これからどうすればいいのかわからないのも無理はない。

 と、黒が一歩前に出て、


 「じゃあ、オレ達のところに来ればいい」


 と言った。

 僕もそれに同意した。


 「ああ。僕ら『戦士バトラー』は両親を失った子供も保護しているんだ。だから、一応安全は保証できる。でも、嫌ならいい。別に僕達のところじゃないといけないわけじゃないからね。それなら、どうする?」

 「……行きます」


 おや、即答だ。でも長い間迷われても困っちゃうからそれはそれでありがたいけどね。


 「じゃあ、僕が連れて行くから乗って…」


 くれ、と言おうとした時、何か気配を感じ、剣を構えて振り返る。

 そこには、一人の少女がいた。


 「君は……」


 答えは僕の後ろから聞こえてきた。


 「クレシア? 何で君がここに……」


 なるほどをこの子はクレシアというらしい。

 それにしても、どうしてこんな少女がここにいるんだ?入り口は封鎖されているから、入るなら窓から入るしかない。でも、実際にここにいるんだ。この子にも何か秘密があるに違いない。


 「私も行く」

 「えっ……」


 そのクレシアという少女はユクス君に着いていくと言ったと理解するまで数秒かかった。


 「でも君は、家が……」

 「家は瓦礫で潰れたよ、両親と一緒に」


 そんな……僕達がモタモタしていたせいで……


 「……わかった。君も着いてきてくれ」

 「わかった」


 僕はユクス君を、黒はクレシアちゃんを背負って僕達は孤児保護施設へ向かった。




 「僕は……『戦士バトラー』になれますか?」


 施設に向かう途中、ユクス君がそう聴いてきた

 そうか。確か前も『戦士バトラー』になりたい、って言ってたな。でも、その時は両親もいたんだ。おそらく彼はそれも覚えているに違いない。

 だから僕は


 「うん……なれるよ」


 と言った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕達は孤児保護施設に到着した。

 ヴァイスさんから降りると、クレシアが僕の方に来た。


 「ユクス、さっき白い人に『バトラーになれますか』って聞いてたけど、あれ何?」


 と聞いてきた。


 「僕は……『エネミー』と戦う。そのために『戦士バトラー』にならなきゃいけないんだ」


 クレシアはしばらく黙ったあと、


 「……私もなるよ、『戦士バトラー』に」


 と言った。


 「えっ?」

 「実は私も前から知ってたんだ、『戦士バトラー』のこととか、『エネミー』のこととか。ユクスもその『エネミー』と戦うっていうなら、私も手伝うよ」


 僕の頭は疑問でいっぱいになった。

 どうして『エネミー』や『戦士バトラー』のことを知っている? どうして自分も『戦士バトラー』になりたいと思った? もし知っているなら逆になろうとしないはずなのに……

 僕がそれについて聴こうとしたところで、ヴァイスさんが僕達のところに歩いてきた。


 「ごめん、待たせちゃったね。今手続きを済ませてきたよ。今からここを案内するから着いてきて…」

 「私も『戦士バトラー』になる」

 「へっ?」


 ヴァイスさんも僕と同じような反応をした。


 「どうして君が『戦士バトラー』のことを……」


 クレシアは拳を握り込む。


 「ユクスがそう言っていたから、私もなる。冗談も言っていないし、生半な気持ちで言ってるわけじゃない。だから、私もユクスについていく」


 ヴァイスさんは困ったような表情を浮かべると、また真顔に戻って、


 「……わかった。じゃあまた移動しよう。手続きはそのままにしておくか。事情はあとで僕から説明しておくよ」


 と言った。




 ヴァイスさん達に乗って僕達はまた移動した。


 「着いたよ」


 とヴァイスさんが言ったので、背中から降りると、ヴァイスさんの見ている方向を僕も見る。

 そこには、少し他とは違うビルが見えた。


 「ここが、『戦士バトラー』本部だよ」


 ここが、本部……


 「さあ、行こう」


 僕達は『戦士バトラー』本部に入るのだった。





 僕達が本部に入ると、一見何の変哲もない受付のようなものがあり、従業員らしき人が働いていた。


 「ここは実は銀行のようなものなんだ。ちゃんとお金の借り入れや預け入れもできるよ」


 何でもありだなぁ、『戦士バトラー』本部。

 そんなことを考えているうちに、ヴァイスさんがカウンターに歩いていく。僕らもそれに着いていった。


 「こんにちは、何のご用ですか?」


 という受付員の問いに返して、ヴァイスさんは何やらパスポートのようなものを見せた。すると、ん?なんか受付員の目が光ったような……


 「……わかりました。この二人は?」


 受付員が僕達のことを見てヴァイスさんに問う。無理もないか。こんな一般人が今の光景を見ているなんて普通ありえないからね。


 「この二人は僕の付き添いだ。通してやってくれ」

 「はい。では、右へどうぞ」


 ふと右を見てみると、いつのまにかエレベーターが現れていた。

 あれ?こんなところにエレベーター何てあったっけ?

 そんな僕の疑問を読んだかのように、ヴァイスさんが答えてくれた。


 「これは通行許可証を見せた人にだけ現れるものだ。君たちも乗って乗って」


 慣れた様子でエレベーターに乗るのに続いて僕達も慌ててエレベーターに乗った。


 「『戦士バトラー』の司令室は12階だ」


 エレベーターに乗っている途中、ヴァイスさんが教えてくれた。


 「しかし、良いのか?本当に『戦士バトラー』になって」


 一緒にエレベーターに乗っていたシヴェルツさんが腕を組みながらヴァイスさんに聞く。


 「彼らが決めたんだ。僕達が口を出すべきではないよ」

 「でもよ、俺達も大概じゃないが、好き好んでわざわざ自分の命を危険に晒すようなことをするか?」


 白髪の青年は苦笑いして、


 「そうだね。でもやっぱり命の危機に直面することで生きていることの素晴らしさを感じるし、それでみんなを救えるならどうってこともないさ」


 と答えた。シヴェルツさんの方はやれやれと首を振っていた。


 「一つ質問なんだけど、この子達はどうして『戦士バトラー』のことを知っているの?」


 少し緑が混ざった鮮やかな青色の髪をした女性がヴァイスさんに尋ねる。


 「この子、ユクス君は、何故か記憶処理魔法が効かなかったんだ。で、こっち、クレシアさんはユクス君に教えられたみたいだね。そうだろう?ユクス君?」

 「えっ? は、はい。クレシアの家であの巨大『エネミー』を見た時に思い出した感じです」


 いきなり話を振られ、噛みかけながらも何とか答えることに成功した。クレシアも頷く。


 「え、それマズくね?一般人に情報が漏れたら……」


 シヴェルツさんがヴァイスさんに詰め寄る。

 ヴァイスさんは手を振って、


 「大丈夫大丈夫。こんな事例はユクス君以外にないし、この二人以外にもちゃんと記憶処理魔法はかけたよ」


 と言った。


 「ふーん、ま、良いか。今なんて、どうせ実際に見てないやつに何言っても信じられない世の中だからな」


 と、シヴェルツさんはエレベーターの手すりに寄りかかり直した。


 「と、こんな感じでいいかい?」

 「なるほどね、わかったわ。あ、自己紹介を忘れていたね。私はフェリア。よろしくね」

 「「よ、よろしくお願いします……」」


 という会話を繰り広げていた間に、エレベーターが到着したようだ。扉が開き、僕たちはエレベーターから出る。


 「サート隊長、ただいま戻りました」


 ヴァイスさんが背の高い、茶色いウェーブの髪の人に向かって礼をする。サートと呼ばれた人は振り返ると、


 「戻ったか。指令から帰ってきたばかりなのにまた出動させてすまなかったな」


 結構怖そうな人だった。でも、顔は整っている。かなりのベテランみたいだね。


 「して、お前達」

 「「は、はいっ!」」


 またもやいきなり呼ばれて、思わず姿勢を正す。


 「君たちのことはエラから伝えられているよ。ユクス•モルジベスタとクレシア•フルールだな?」

 「「は、はい」」

 「あっ、エラっていうのはさっきの受付の人だよ」


 ヴァイスさんが僕らに小声で囁く。僕はヴァイスさんを横目で見てお礼の念も込めて頷いた。

 ……って、あれ?何でこの人は教えてないのに僕らのフルネームを知ってるんだ?


 「ふむ、では私も自己紹介をしようではないか。私はサート•オーグ。クテレマイス『戦士バトラー』本部長兼クテレマイスの『戦士バトラー』隊長をしている。よろしく」

 「「よ、よろしくお願いします……」」


 僕の疑問を差し置いて話が進んでいく。


 「だが、タイミングがいいな。実際に訓練が始まるまであと一週間くらいある。そのうちにこの施設についての説明や、お前達の同期の紹介もできるだろう。焦る必要はない」

 「「はい」」


 何だろう……この人って、怖いけどなんだか安心する。頼りがいがある、って感じなのかな。


 「じゃあ、僕がこの施設を案内するよ」

 「おけ。じゃあ俺らは先に帰るぜ、じゃあな」


 ヴァイスさん以外のメンバー達はエレベーターに乗って行ってしまった。


 「じゃあ、僕達も行こうか。着いてきて。では、失礼します」


 うむと頷くサート隊長に会釈し返してから、僕達は隣のエレベーターに乗り込んだ。

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