スケボー

「春のこの時期は仕事がたくさんあって、マヤもとてもいそがしいんだけど、お昼休みはいつもスケボーに乗って遊んでるから、そばで見ていてくれたらマヤもうれしいかもしれない。もし興味きょうみがあったら、何も言わずにただ見ていてくれるだけでいいから」


 そうおじさんに言われて、いぶきは即答そくとうした。

「もちろん見たい。だってマヤくん、すごく上手じょうずでカッコいいんだもん」と。


 🐝


 マヤ、楽しそうだな。私もやってみたいな。でもムリかな。この足じゃムリだよな。またこれ以上ケガでもしたら大変だ。


 いぶきはそんなふうに思いながらも、じっとしていられなくなって、その場に立ち上がり、マヤの動きに合わせてその場でリズムを取り始めた。



 昼休み、マヤの父といぶきの父は少し離れた所でお茶を飲みながら2人の様子を見ていた。


「小さい頃のいぶきによくているな〜。あの子もただただ楽しくて仕方ないように毎日自転車を乗り回していました。去年の夏に大会で大ケガをして、1ヶ月半位入院して、退院してきたら急にいい子になってしまった感じで。それまでわがままで生意気なまいきな子でした。何があったのかは話してくれないんですが、それまでとは別人のようにリハビリも練習も一生懸命にやるようになって。グチもこぼさない。

 親としては子供の成長を喜ぶべきなんでしょうけど。思うようにできなくても健気けなげに頑張っている様子が何か痛々いたいたしくてね。

 生意気でわがままなのも困るけれど、今となってはその方がまだマシのように思ったりもしてしまうんです。

 あ、すみません。こんな話しちゃって」


「いや、ぜんぜん。お気持ち、わかりますよ。

 失礼ながら、夏にお会いした時にはいぶきちゃんの事は知らなかったんです。魅力的みりょくてきな子だなと思って少し調べたら、記事がたくさん出てきました」


 マヤの父はそう言って笑った。そして続けた。


「親の私が言うのも変ですが、マヤは障害を持って生まれてきたけれど、他の人にはない能力を持っているように感じています。こんな事を言ったら失礼かもしれませんが、いぶきちゃんとすごく波長はちょうが合う感じがしませんか?」


 その時、マヤがいぶきの方を向いて何か手まねきをした。

 そして、いぶきの前にスケボーを置き、いぶきとスケボーを交互こうごに指さした。


 そんな事をするのを見たのは初めてで、マヤの父親はおどろいた。

 いぶきの父親も思わずその場に立ち上がった。いぶきの足はまだ悪いのにムチャだ。またケガでもしたら‥‥‥。


 そんな親たちの心配をよそに、いぶきはスケボーに乗り出した。


 バランスをくずしてはボードから飛びおりて、をくりかえしながら、さすが、運動神経うんどうしんけいバツグンのいぶきは、すぐにコツをつかんだようだ。


 マヤがボードをとりあげて、いぶきのマネと、良いお手本を見せている。

 それを見て、いぶきがボードをとりあげ、良いお手本に近づけて乗ってみる。

 そんな事を何回も何回も繰り返す。


 2人の父親の目から涙が流れていた。


 お昼休みの時間はとっくに過ぎていた。


「すみません。私は仕事にもどらなくては。今日はマヤはこのままほうっておきます。どうせ私の言う事など聞きませんから。ミツバチたちも、マヤが来ない事を感じてミツバチの仕事を調整ちょうせいするでしょうから問題ないです。

 たぶん2人は日がれるまでやっていそうだから、お父様も自由にしてて下さい」


 そう言って去っていくマヤの父に、いぶきの父は深く頭を下げた。

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