不思議ミツバチ生命体

 そしてミーヤはこんな事を言った。


 🐝


 僕は高校生の時からずっとボクシングをやってたんだ。

 高校3年生の時に大きな大会で顔面にモロにパンチを受けて、そのまま後ろにひっくり返って頭を思い切り打ちつけた。そこで意識いしきを失ったんだけど、その時、ミツバチが飛んできて僕の顔を刺したんだ。その一瞬いっしゅんだけは、なぜか記憶きおくに残ってる。


 脳が出血して即死そくしするような重症じゅうしょうだった。どうして助かったのか医者も不思議がっていたけど、僕はミツバチが救ってくれたって信じている。

 ミツバチは針を刺すと自らも死んじゃうから、よほどの理由がないと人を刺す事はないんだ。

 どくの中に何か薬の役目をするものが入ってるに違いないって思う。



 僕は100足同じ靴下を買ったって言ったろ? 僕が元気になって気づいた時には靴下のハニーはなぜか98匹になってしまっていた。2匹のハニーはもうもどってこなかった。

 

 きっと1匹のハニーが自らの死をもって僕を救ってくれたんだ。そしてもう1匹のハニーもきっと誰かを救ったんだと思う。誰だかは分からないけど。


 僕の想像そうぞうなんだけど、これが絵であるはずのミツバチが意志いしを持って飛び出した、世界で初めての出来事だったんじゃないかな。

 12の誕生だ!

 誰も信じてくれないけどね。



 僕は顔にミツバチが刺したあとが残っただけで、何の後遺症こういしょうも残らなかった。それはハニーと、入院した病院の先生や看護師さんやリハビリの先生のおかげだった。

 だから高校を卒業してからもボクシングを続ける事ができた。


 あの時から、僕は変わった。生かされた命を大切しなければハチが当たると思った。

 あ、ごめん。ハチじゃなくてバチな。バチが当たると思った。ここ、一応笑ってもらう所ね。

 それまでは自分が強くなる事しか考えてなかったのに、僕もケガをして苦しんでいる人たちの役に立ちたいと思うようになった。

 優しくて強い人になりたいと思った。


 高校を卒業してリハビリの先生になるために専門学校せんもんがっこうに入ったんだ。学校の近くにボクシングジムを見つけて、そこに通うようになった。

 2年前に卒業してここで働くようになった。この病院の近くにもすごくいいジムがあって、そこで練習し始めた。


 しばらくは順調で、とても充実じゅうじつした日々を送っていたんだけどね。

 なぜだかわからないんだけど、ある日、突然とつぜん‥‥‥。



 そうそう、僕と誰かを助けてくれたハニーが2匹いなくなってしまって、ミーヤとハニーがそろっている靴下がその後は98足になっていた。

 古くなってはけなくなった靴下も捨てずにとってあるから。


 それがさ。この前の日曜日にハニーがまた1匹いなくなってもどってこないんだ。

 ミーヤとハニーがそろっている靴下は97足になってしまった。

 たぶんだけど。そのハニーがいぶきを刺したんじゃないかな。

 そいつが、意志を持って飛び出した3だと思うんだ。

 もしかしたら、いぶきもハニーに刺されたから生きているのかもしれない。いや、僕と話ができているのかもしれない。


 そして意志をもって飛び出した4がミーヤだ。

 ミーヤはきっと、強い意志を持ったんだ。

 彼はハニーとは違って人を刺す事はなくて、しょっちゅう遊びに出てしまうんだけど必ずもどってくる。


 🐝


「え? どういう事? それって本当の話なの? ある日突然どうしたの? あの時って?」


 いぶきは色々聞きたかったのに、ミーヤはそこまで言うとカーテンの外に出ていってしまった。

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