第30話
「・・・し、死ぬかと思った」
「・・・大丈夫?」
ぜえぜえと荒い息をするクラウスの背を撫でながら、刺激強かったかーと反省をする。
下層から中腹に上がる最短ルートは、滝を有する崖という名の壁を超える事だ。
ただし、この滝というのが地球で1番と呼ばれる滝並みの規模と迫力を有しているのだが。
轟音に追加して、崖の壁面は水飛沫により濡れているうえ、空中には鳥型の魔獣も多いのだ。通常であればルートとして選択しない。
そこを、スズは強行した。
轟々と音を立てる滝を横目に、スズは魔法で念のための防御魔法を展開しつつ、クラウスの腕を掴み、風と重力操作により崖を垂直に飛んだのだ。文字通り。
防御魔法は張られていても見えるモノではないというのに、なんの支えもなく、なんの遮るモノもなく垂直に飛ぶ事など冒険者であっても経験する事はない、という事をスズに教え込まねばならない、と荒い息を吐き地面とお友達になりながらクラウスは誓った。
そう、ほんのちょっぴり忘れていたが、スズには常識が無いのだ。
心臓の弱い一般人なら天に召されていた可能性だってあるこの所業もまったく自覚がないのだ・・・。
「さて、下層に行った事自体久し振りだったからこのルートも久し振りではあるんですが、間もなく住処ですよ。ちょっとだけ歩きますけど」
「あ、ああ」
「レインボーサーモンの湖の水が、さっきの滝なの。だからこの川を辿ればお家!」
川を指さすスズに、成程な・・・と納得しつつも声に覇気は戻っていない。
首を傾げるスズを見てクラウスは後で絶対教育しようと内心で誓っていた。
川を遡れば、少しぶりの湖が現れた。巨大なワイバーンと共に。
-ぐるるるる?-
「留守にしていてごめんね、ソラ」
-キュル-
「ふふ。お留守番ありがとう!お土産あるよ!といっても、ソラは食べ慣れているだろうけど」
「(甘える声、首を傾げる仕草・・・まるで愛玩動物のような・・・ワイバーンか。Aだよな・・・ランク)」
生態系上位の存在はスズの前では犬猫同然だ。その牙も爪も鋭く殺傷能力の高さは一目瞭然なのに。
遠い目をしてしまうのは仕方ないだろう。
「さ、お昼にしましょ!朝は軽く済ませてしまったし、ソラへのお土産の調理もあるからしっかり作るね。クラウスはどこかで散策してくる?」
「いや、手伝う」
「ありがとう!じゃあ一緒に!」
にこにこと邪気無く笑うスズにクラウスは溜息を吐く。
スズが鞄からブラッディボアの肉を取り出し、下味をつけている間にクラウスは少し大きめに竃を作り乾燥した木、燃えやすい松の葉や枯葉を準備する。
「なんだか不思議な感じだわ」
「ん?」
「この中腹で、私が誰かと料理の準備をすることがとても不思議」
にへ、と緩く笑うスズにクラウスは小さく息を吐く。
「今では、もう不思議でもなんでも無いだろう??」
パーティなんだから、これから先いくらでもあるし、今日まで一緒に飯食ってきただろ?
そう言ってスズの頭をポンポンと撫でる。
「っそ、そうねぇ!」
頭に手を当てたスズは頬を緩め、クラウスにニコニコと笑みかけた。
うまい飯を食って、スズの拠点になっていた洞窟から必要分を鞄に入れる作業をする。
スズの見様見真似で作った手作りだという家具類は処分し、山脈で狩った魔獣の毛皮なんかの売れそうなものをどんどん鞄に放り込む。
「こいつは水晶か?」
「ええ。この中腹にあるほかの洞窟にあったの。綺麗だし」
「ほー、そいつは良いな。水晶は売れる。商業ギルドに持って行くと良いぞ」
「あ、じゃあコレも売れるかしら?」
「そいつは間違いなく売れるな。綺麗だし、随分大きな紅玉だな・・・これも?」
「これは魔獣を捌いたときにお腹から出てきたの」
「そ、そうか・・・」
腹から出てきた宝石・・・とクラウスは苦笑する。
「あとは、お土産にオーロラサーモンを持って帰れば良いかしら?」
「ああ。釣るか?」
「うん。価値が下がってもアレだから、数匹で良い?」
「十分だろ。俺はせっかくだ。湖近くで薬草でも探す」
下層にはない薬草がありそうだ、と笑った。
「あ、そーいや」
「??」
「この辺りで気をつける魔獣は?」
「フォレストモンキーがたまーに来るわ。あとは虫に気をつけた方がイイかも」
「虫?」
「大型の蠍や兵隊蟻が森の中にはいるの」
「あー、ナルホド気をつけよう。フォレストモンキーも群れるしな」
ソラがいると近寄らないんだけど、とスズが続けるのでそりゃワイバーンがいたら大概の魔獣は近寄らんだろうな、と笑った。
有翼の娘は2度めの人生を暢気に過ごしたい 春 @syugermilk
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