第29話

少しぶりの山脈は変わらずそこにある。下から山頂を見上げるけれど雲に隠れて全体は見えない。ここで生まれて育ったんだよねぇ・・・と思いながら前を向く。


街道沿いに歩いて到着した山、歓迎してくれるのはレッドウルフの群れ。


「早速お出ましとは運が良いのか悪いのか」


「きっと良いのよ」


囲んでくるレッドウルフにやれやれと大剣の柄をグッと力を込めて握るクラウスと背中合わせで私も身構える。


「アイスソード!!!!」


「雷撃」


気持ちの良いくらいの瞬殺!


20匹程度で囲んでいたレッドウルフが軒並み感電して死んでいるか、剣の傷跡から氷漬けになっているか、だ。


「あっという間に依頼達成したねえ」


「群れ1つ分、平地での戦いなら遅れはとらないな」


「そういえば、レッドウルフって山脈の外にいたけど普通なの?」


「いや・・・・おそらくは街道で商人を襲う方が効率が良かったんだろうなぁ・・・だからこそ、優先しての討伐依頼だったんだろう」


「なるほど」


討伐証明の耳をそぎ取って革袋に入れて鞄に入れる。


「ちなみにレッドウルフって素材は?」


「毛皮だな。貴族に人気だぞ」


「じゃあ採取して、お昼食べて登る?」


「そうしよう。毛皮を剥ぐのは俺がするから、スズは飯を準備してくれるか?」


「よろこんでー」


居酒屋の店員みたいな返事をして、街道の少しはずれに移動し、石を置いて竈を準備する。


鍋に生米を入れて半透明になったら、きのことドライトマトをいれて水を投入してぐつぐつ煮込む。味付けには塩を入れるがキノコとドライトマトから良い味が出ているので十分美味しい。更に一口大のブラッディボアを焼鳥のように串に刺して塩を振り、鍋の横で焼き始める。


良い匂いが漂いだした。


「リゾット擬きと串焼き・・・美味しそう・・・幸せだわぁ」


「凝ったモン作ってるな」


「住処に行くまでは、平地はないし、美味しいもの食べて力を蓄えないとねぇ」


「俺としてはありがたい」


レッドウルフから素材を剥ぎ取り終わったクラウスが頬を緩めている。


「しっかり精をつけて登らねえとな」





「そういえば、クラウスは中腹には滅多に登らないの?」


腹ごなしをしてすこしばかり休憩の為に薬草を採取した後、早速街道を外れて登り始める。先導はスズだ。


街道から山脈へと登山道が続くが・・・こちらは隣国に繋がっているらしい。繋がってはいても、その道中は安全なモノじゃないから、基本的には冒険者に護衛を依頼したり、そもそも護衛を連れているらしい。


山脈にはいくつかのルートがあり、こちらは獣道だがそれぞれ山脈のあちこちに通じている。ただし、厄介な魔獣のテリトリーを通過するので、目的に合ったルートのチョイスが必須なのだろう。

ルートの案内は冒険者ギルドで行っているそうだ。


「滅多に登らねえな。ソロだとしっかり装備を調えて、採取なり討伐なりしても旨味がイマイチだ」


魔法が付与された鞄なんてのがあれば話は別だろうが・・・と笑う。


「あー、そっか。倒しても持ち帰れなければ意味ないモノね」


「そういうことだ」


笑いながらも早速向かってくるゴブリンを軽く倒している。


「しかし、ゴブリンだの角狐だのEランクばかりと遭遇するな」


「あれ?高ランクの魔獣が良かった??」


「あ?」


きょとんとした顔のクラウスに、小首を傾げる。


「楽な方が良いのかな、と思ってテイムした子達に低ランク魔獣の多い道を案内させているんだけど」


「・・・・それで頼む・・・どおりで・・・」


本来なら、C~Dランクの魔獣の巣窟なハズの山脈の下層だけれど、勿論穴がないわけじゃない。山脈に入って早々テイムした子に案内をさせたのは間違いではなかったらしい。


すいすいと先を行くスズをクラウスも危なげなくついて行く。


魔獣が前方や上方に現れたら、瞬きをする間もなくスズが蹴散らす。それが売れる素材ならまるっと鞄に入れ、売れない物はさっさと地面に埋めていて手際が良い。


クラウスもまた、氷魔法を付与した大剣で背後から迫っていたDランクの角熊を倒し、これも鞄に入れ(容量がすさまじい)遅れる事無く後を付いて登る。


「さて、今日は日が暮れる前に野営の準備をしましょう。明日には到着できますよ」


小さな小川の近くで立ち止まったスズの提案にクラウスもそうだな、と周囲を見渡す。


「こんなに順調に来たのは初めてだ」


「正規のルートは通っていないから、物足りなければ後日ね」


へらっと笑ったスズに肩を竦めて不要を伝えたクラウスは、鞄からタープと寝袋を取り出して野営の支度を始める。


スズは昼同様、食事の準備だ。


途中で手に入れた兎型の魔獣の処理をして肉の下処理をする。塩・胡椒で下味をつけ、山脈手前で手に入れていたハーブを乗せて包んで焼く。


さらには宿で仕込んできた生地を手でのばして鉄鍋で焼く。トマトソース、ドライトマト、モッツァレラ擬きをちぎって乗せればピザ擬きの完成だ。


「・・・野営の飯とは思えないな」


「へへへ」


私もそう思う。でも、せっかく魔法が使えて、鞄に状態保持まで掛けているんだし、美味しいモノ食べられるにこした事はないじゃない?


「あとスズの住処までどれくらいだ?」


「んー、中腹との境界自体はもうすぐだから、明日昼前には着くよ」


「そんなに早くか?確かに登るペースは早かったし、魔獣が出ない分順調だとは思ったが・・・」


「近道を駆使したのもあるけどねえ。あ、明日のルートは皆が皆は使えないやつなの」


「はあ・・・今更なにが来ても驚かねえきがするぜ」


ガリガリ頭を掻くクラウスに、あはは、と笑って誤魔化す。


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