第28話

「山脈に行くわけだから、購入は食料品がメインだな。とはいえスズは市は初めてだし時間もあるから端から端まで見ていくか?」


「いいの?」


「ん?もちろんだ」


こういう付き合いの良い所、面倒見の良い所を知る度に、良い人と知り合えた私は最高に運が良いよねぇ、と内心で幸運に拝んでおく。


市は、活気がとてもあって、行き交う人の人数も心なしか普段より多い気がする。


「市ってのは毎日あるわけじゃないからな。この市のために外の国や、ほかの街から行商人がやって来ているんだ」


「ほへーーーー」


「市にしか出さない軽食も売っているから、昼飯を食おうぜ。朝は小せぇパンだけだったし物足りねえわ」


「クラウスよく食べるモンねぇ」


「冒険者なんざ大食いの早食いばかりだ」


ふはっと笑うクラウスに、それでも太らないんだから運動量がすごいんだろうなぁ、と変に感心してしまった。


「とりあえず腹に入れよう」


そう言って市の一番端にあった肉の串焼きをサクッと購入して1本渡してくれた。


見た目牛肉の串焼きだ。ニンニクの香りが鼻を擽る。

早速齧り付けば、じゅんわりと肉汁が溢れる。


「おいし!やわらか!」


「良い肉だ。うめぇな・・・・・・それにしても、マジで旨そうに食うよな」


「おいしいもの」


料理は偉大だ。岩塩だけでも美味しいけれど、にんにくの風味は食欲をそそるし添えられたホースラディッシュで口の中はサッパリもする。最高だ。


「さて、買い物だが・・・山脈でレッドウルフの群れ1つ程度討伐は容易い。だから、必要なのはスズの住処に行くまでの野営、帰り道の野営分の食料ってところかな」


「岩塩しかお家にはないよ」


「だろう?せっかくだ。調味料やら食材も買おうぜ」


なにせどれだけでも入る鞄がある。買いすぎてもまた使えばいい話だ。


「米買うんだろ?」


「ウン。それは絶対」


大きく頷く私にクラウスは笑いながら腕を引く。身体の大きなクラウスに腕とは言え引かれると子供に戻った気分だ。

それは気恥ずかしいんだけれど、擽ったくて、すこ~しばかり幸せな気がした。


「あれぇ?クラウスにスズじゃないか」


「おう、マリウスも来ていたのか」


「マリウスさん」


「市でしか買えないものもあるからね!」


じゃーん、と見せてくれたのはトロリとした蜜のような物だ。


「これは迷宮ハニービーの蜂蜜だ」


「迷宮ハニービー?」


「この国の北にダンジョンがあるんだが、そこの魔獣だ。


僕のテイムしている魔獣が好んでいるんだよ」


「人は?」


「残念だから魔獣向けなんだ」


「クラウス、ソラも食べるかしら?」


首を横に振るマリウスに、クラウスを見上げて首を傾げれば、顎に手を当てながら食うだろうなぁ、と頷く。


「迷宮ハニービーはその名の通り迷宮にしかいない。その蜂蜜は魔獣にとって御馳走だそうだ。ワイバーンのデカさなら迷宮には入れないだろうし」


「迷宮・・・」


「いつか迷宮も行こうな。そこにしかいない魔獣やらがいるのは勿論なんだが、迷宮で何故か手に入る宝箱なんかには希少なモンが入っている。良い稼ぎにもなるし、レベルの高い魔獣もいるんで修行にもなる」


ポンポンと頭を撫でられ、うんそれは楽しみ!と笑う。


「マリウス、迷宮ハニービーの蜂蜜、私も買いたいのでお店を教えて下さい」


「もちろん」


にこっと笑ったマリウスに案内され、迷宮ハニービーの蜂蜜をゲットする。


マリウスもついでだと一緒に買い物を色々しながら、買い食いも楽しみ、その後宿に戻る前にいつもの店で早めの夕食もとった。


「そうか、山脈に・・・2人で群れ1つって大丈夫?って・・・大丈夫だよね・・・」


「おう。問題ないな」


「ワイバーンは呼ばないんだろう?」


「目立つし地道に登るさ」


ブラッディボアのステーキを口いっぱいに頬張り、エールを飲む。幸せすぎる1日の終わりだわ。






「大・量!!!」


宿に戻って、購入した戦利品を並べる。宿は明日の朝で終わりなのでついでに荷物の要・不要も分けようとクラウスの部屋で作業だ。


「いっぱい買ったなぁ」


「うん、美味しいモノは出会ったときに買わないと」


肉や魚は干した物が中心で、キノコ類は干した物とオイルで漬けられた物を。


調味料では、藻塩と油、高いのでほんの少しだけ粒胡椒を。


穀物として米はしっかり確保して、小麦粉と乾燥した大豆も入手だ。


にへぇと頬を緩ませていれば、愉快そうにクラウスが緩んだ頬をつついてきた。


「不要な物はあるか?」


「んー鞄には色々入るから大丈夫~」


「そうだな・・・本当に色々入るよな。改めてだが、こんな便利な鞄だし買い取った方が良いんじゃないか?」


「いらないわよ」


鞄には付与魔法を掛けるだけだし、クラウスからの恩恵の方が大きい。


「俺の方が助けられてばかりな気がするが・・・」


「気のせい」


「だがな・・・」


「クラウスのおかげで、冒険者ギルドで身分証を発行して貰うのも容易かったわ。


美味しいお店も沢山教えて貰っているし、世間知らずだからちょっとしたことでも細かく教えて貰えて助かるの」


あれはなに?これは?と何でも聞いてしまう私に、嫌な顔せず教えてくれるクラウスの存在はありがたい。


なにより、惜しみない言葉で私自身に価値があるのだと認め、肯定感を上げてくれるその一言一言全てに助けられている。


「わたしね、前も言ったと思うのだけれど、一族では役立たずだし蔑まれていたのよ。空を飛ばない、飛べない私に価値はなかった。


勿論、自分で自分を無価値だとは思っていないけれど、私以外の誰も<私>を認めはしなかったわ」


あ、相棒達は別だけど・・・。と、鞄から出て主張してきたウルルを撫でながらクラウスに笑いかける。


「一族は私にとって、別段大きな存在ではなかったけれど、生まれてずっと山脈で生きてきたから・・・外と繋がれるきっかけを作ってくれた、繋いでくれたクラウスに感謝しているわ」


へらりと笑う。正直照れくさいが、本当にクラウスの存在はありがたいのだ。


付与魔法した鞄くらい、幾らでも作れる。


魔法は想像力がモノをいう。創作した世界観を簡単に楽しめた現代日本人の頭の柔軟さ、もとい妄想力は逞しいのだ。


胸を張れば、苦笑したクラウスがわしわしと頭を豪快に撫でる。


「その気持ちも含めて、ありがたく受け取る」


「是非そうしてちょうだい」

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