第27話

商業ギルドは冒険者ギルドとは領主の館を挟んで反対にあった。


冒険者ギルドも石造りの3階建ての建物だが、商業ギルドも同じく3階建てだ。違うのは冒険者ギルドが石造りというかレンガ造りなのに対して大理石造りなところだろうか。


「(たかそ・・・)」


ちなみに横を通ってきた領主の館も大理石造りだった。鉄で作られた門も堅牢で、見える範囲に広がる庭は整然としていて美しい。

きっとセンスの良い人なんだろうな、と思いながら商業ギルドに入る。


「あれ?クラウス殿じゃないか。どうしたんだい?商業ギルドに来るなんて」


「やあアレックス。賃貸でもかまわないんだが、不動産を見たくてな」


すぐクラウスさんに気付いて近寄ってきたのは30代くらいかな?ひょろっとした眼鏡の男性だった。


「初めまして、ですね?僕はアレックス、商業ギルドの従業員です。よろしくお願いします」


にこっと人好きのする笑顔を浮かべて手を差し出してきたので、その手を軽く握る。


「スズです。冒険者をしています」


「ははー、成程、貴方がオーロラサーモンを冒険者ギルドに卸した方ですね?」


キランとアレックスの眼鏡が光った(気がしただけだが)


「なんで・・・」


「珍しい品物が冒険者ギルドから放出されましたからね。


うちのギルドマスターは大層悔しがっていました。まあ、一部は商業ギルドとしても買い取りましたし、ギルドマスターはポケットマネーで少しばかり手に入れたようなので・・・結果満足しているみたいですケド。


・・・うちのギルドマスター、冒険者のギルドマスターと同じく山脈産に目がないのです。困った事にね?

なので、珍しいお品物は、商業ギルドにも卸してもらえると嬉しいです。物によっては冒険者ギルドより高価に買い取れますので」


「・・・やれやれ、お前も話し出したら止まらねえな・・・。


その件はすでに説明済みだアレックス。で?不動産の紹介はしてもらえるのか?」


「おや、クラウス殿失礼いたしました。勿論ですとも」


どうぞこちらに、とカウンター横のテーブルに案内される。クラウスと2人で椅子に座ればアレックス自ら盆を持ってきた。


「せっかくなので僕が案内しますね。


こちらはタンポポ茶です。少し苦いのでお好みで蜂蜜で甘くして下さい」


そっと置かれたカップに、目が輝いている気がする。だって珈琲じゃない?これ!!!カフェイン中毒かってくらい紅茶も珈琲も愛飲していた私としては今生で出会いたかった物ナンバー2だ。ちなみにナンバー1はすでに出会った米である。


「おいし」


「え?苦くね?」


「この苦さが美味しいです」


信じられない物を見る目で見てくるクラウスは置いておき、今生初めましてのカフェインに頬が緩んでしまう。


「気に入って頂けて何よりです。さて、不動産とおっしゃいましたが、お2人で住まわれるのですか?」


「ああ、変な勘ぐりするなよ?俺とスズはパーティ組む事になってな。せっかくなんで暫く此処の街を拠点にする事にしたんだ。

・・・で、出歩く事も多いし宿を取るのが良いか、拠点を借りるなり買うなりした方が良いのかを考えようと思ってな」


「左様でしたか。でしたら、お勧めの賃貸と中古の物件をお持ちしますね。条件は?」


「2部屋以上ある事が最低ラインだな」


「追加条件として、温泉を引いている、もしくは井戸が敷地内にあるものにしましょう。冒険者の皆さんは装具等の整備がございますしね」


「ソレで頼む」


ではお待ち下さい、とギルドのカウンターに入っていったのを見送って、苦そうにしながらも律儀にタンポポ茶を飲むクラウスを見上げる。


「ん?」


「商業ギルドやアレックスとも仲良しなの?」


「ああ、言ったろ?物によっては商業ギルドの買取りの方が高いときがあるって。


全部じゃないが、動物や魔獣の毛皮や宝石類なんかは商業ギルドの方が高値で売りやすいからな。盗賊の討伐なんかすると、そいつらの貯め込んだ物は明らかな持ち主がいない限り冒険者の収入になるんでね。そういうとき、此処を利用するわけだ」


魔獣の肉なんかは基本冒険者ギルド行きだがな、と続けられ、なんとなく棲み分けが分かった。


「アレックスは腕っ節は弱いが<鑑定>の魔法を持っている。


ああ見えて、この商業ギルドのナンバー2なんだ」


「鑑定・・・(よく生前聞いた気がする!!)」


「おや、僕のいない合間に僕の話ですか?」


「おう、商業ギルドの利用方法と併せてなー」


「なるほど。


さて、物件ですが該当の賃貸が5つ、購入できる物になると3つ御座います。私は席を外しますのでどうぞご一考頂ければ」


机の上に8枚の用紙を置いてにこりと微笑んだアレックスに促され、紙を見る。所在地、規模、築年数、注意事項そして金額の書かれた紙をまずは賃貸から順に見ていく。


「あー・・・スズ、希望はあるか?」


「・・・この2つ、かなぁ」


購入物件でもあらかじめクラウスと考えていた予算の範囲内の金額のため、せっかくなので賃貸ではなく購入物件の2枚を差し出す。


「んーーー、じゃあこっちにしよう。門に近いしな。温泉も井戸もある。言う事ねえだろ」


「おや、現場を見なくて大丈夫なんですか?」


頃合いを見計らっていたんだろう、アレックスがやってきたので決めた紙を渡す。


「まあ、購入だからな。最悪建て直したっていいし」


「相変わらず豪快な方ですねぇ・・・では契約書類をお持ちしますね」


苦笑して踵を返すアレックスに、確かに豪快だよねえ、とクラウスを見上げる。


「ん?」


「いいえ、即断即決だったな、と」


「商業ギルドに来るまでに幾らか悩んだしな」


洞窟暮らしや山暮らしもすごいと思うけど、我ながらこの年でシェアとはいえ家を持つなんて・・・と変なところで感心してしまったわ・・・。


契約書類を書き、支払いをすれば(即金!にこにこ現金払いってイイよね)地図と鍵を渡された。


「では、新生活が良いモノになりますように」


見送ってくれたアレックスさんに手を振り、今度こそ市に足を向けるのだった。


家を買うのが簡単すぎたけれど、これはクラウスの信用のなせるモノだったのは後々気付く事になった。

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