第26話 視点:クラウス
ギルドを後にして市に向かう道中、横目でスズの顔を見下ろしてみる。
心なしか足取りが軽い、と思う。
それにしても、俺が誰かとパーティを組む。それも俺から提案して。ってのが我ながら驚きだよなぁ。
別に孤独を愛するとかってワケじゃない。必要であればマリウス達と臨時で組む事もあるんだが、永続的に考えた事はなかった。
昨晩、飯屋から宿に帰ってきた時、俺の部屋で話をしようとスズを誘った。快諾したスズに身支度調えて、訪ねてくるよう調整にしたのは良かった、と思う。
汗やら砂埃に塗れたままは嫌だし。
俺も温泉で汗を流して部屋に戻ってきたとき、ふと、我に返って心配になった。
15歳の若く可愛いというより美人な娘が、俺みたいなむさ苦しいオッサンの寝床に呼ぶって・・・・。
倫理とか冒険者が気にするもんじゃないだろうが・・・なんというか、今まで悩んだ事のない分野に頭を悩ませている。
「クラウス?入ってイイかしら?」
「お、おう、入ってくれ」
ご丁寧にも扉をノックしたスズに慌てて入室を許可すれば、へらぁっと笑いながらスズが入ってくる。
服は少しゆったりしたワンピースで、風呂上がり特有の洗髪剤の良い匂いがして益々悪い事をしてしまった気になる。断じて変態じゃないぞ俺は。女に困った事もない。
さておき、部屋には椅子は一脚しかないから、俺はベッドに座り、スズを椅子に座らせる。
同じ間取りだが、キョロキョロとするスズに何か面白いか?と声をかければ頷きが返ってきた。
「立てかけられている剣とか装備とかが少し珍しいわ。あと、同じ間取りだけどやっぱり荷物の量の関係かしら?なんとなく雰囲気が違って見えると思ったの」
「あーまあ、比較的今は片付いている方だとは思うが、散らかってるときはもっと散らかっているな・・・スズは片付けが得意そうだが、俺はイマイチなんだよなぁ」
ガリガリと頭を掻けば、クスクスとスズが笑う。
山脈育ちとは思えないんだよな・・・町娘感もないが。上品そうな雰囲気だしイイとこの商家の娘のような。
そんな事をつらつら考えていたら、スズが困ったような表情をした。
「ねえクラウス?私と組んで本当に良いの?命の借り?恩?とやらはこの街にきて返して貰ったわけだし・・・」
「俺はスズとだから組みたいと思ったんだが・・・迷惑か?」
「そんなことないわ!でも私、世間知らずだし、ランクも低いし・・・クラウスの足を引っ張ってしまうと思うの」
「ランクはすぐに上がる。間違いなくな・・・で、世間知らずっていうか、この国でのルールなんかは徐々に覚えていけばそれで良いだろう?この国育ちじゃないんだから。外国人も似たようなモンだ」
「上がるかしら・・・クラウスってBランクよ?私はEランクだけど・・・」
「絶対上がる」
あの無茶苦茶な魔法を扱えるうえ、翼のある魔獣限定だとしても、テイマーとしての能力は高く、なんなら絶対数の少ない魔術師の中でも扱えるものが更に少ない回復魔法が扱える。
間違いなく冒険者のランクなんてすぐ追いつくし、なんなら俺の方が修行しなければならない。これは決定事項だ。
「人の常識やルールってのは、国が変われば勿論変わるし、なんなら育ちにも左右される。字が書けない、読めない奴は冒険者だとザラだし、計算も出来ねえ奴は掃いて捨てるほどいる。
スズ、俺はな・・・今までパーティを組もうかと思った事は不思議な事になかったんだ。性差、年齢差、実力差、経験差、身分差なんかは極端なこと言うと関係ない。
パーティを組むのには相性が大事だと、俺は思っている」
「相性?」
「人間としての相性、戦闘での相性だな・・・命を預け合うんだぞ?大事だろう?
これが、合うと思える奴が今まであまりいなかった・・・どっちかは良くてもどっちもは無いんだ」
スズはそういう意味では相棒として、パーティを組む仲間として申し分ない。世間知らず知識不足なら、これから知っていけば良い。
俺が今日、このタイミングまでスズが物を知らず不愉快だと思った事は勿論ないし、なんならスズは俺の動きをよく見ていると思う。その上で聞くべきところは聞き、見て学べる物は学んでくれる。
放っておいて良くて楽チンって話じゃ勿論無いぞ?勘違いしないで頂きたい。
惰性で冒険者をしている奴や、漁夫の利を狙う奴ってのは成長しないだろう?
・・・で、当然だがそういう奴と組んで良い事は全くない。
一応これでも、まだ向上心を持っているわけだしな。正反対の奴と組んでしまえば当然危険度も高くなる。冒険者の世界特有だが、ランクの低い依頼だからって、致死率は0ではないんだよ。
戦闘は言うまでもない。俺は剣に焔を纏わせて焼き切るのを得てとしているんだが、中・近距離の冒険者だ。
同じ中・近距離が駄目ってわけじゃないが、中・遠距離の担当の方が勿論組みやすい。
俺に対して、スズは遠距離での魔法攻撃を得意としているし回復役(ヒーラー)としての後衛、テイマーとしての斥候までこなせる。
間違いなく、どこのパーティからも喉から手が出るほど欲しがられる人材だ。
「そう、なの?」
ここまで説明すれば、目を瞬かせて驚くスズに嗚呼、と強く頷いてみせた。
「だから、むしろ俺の方が窺わないといけない立場だ。
きっと他にもスズにとって良いパーティはあるだろう・・・年が近かったり、ランクが近かったり同性だったり。だが、俺は・・・俺が、スズと組みたい。
スズとなら、色んな依頼をこなせるだろうし、沢山の冒険が出来ると思っている。
スズが嫌でなければ、是非、俺と組んで欲しい」
「うぁ・・・」
奇妙な鳴声を発したと思ったら、見る見るうちにスズの顔が赤くなる。
首や耳まで赤くなるものだから驚いて、そんな赤くなるようなことを言ったかと慌てちまうじゃねえか・・・!
「わたし、わたしも、パーティ組むならクラウスがいいわ」
顔を真っ赤にしながら、はにかみ俺の願いに応えてくれるスズ。なんつー可愛いイキモノだ。信じられん。絶対、ほかの有象無象の冒険者にくれてやらん。
まるで父親のような心境になりながら、手を差し出す。
「・・・・・じゃあ改めてヨロシクな」
「ハイ!」
良い笑顔だな、と俺も勝手に緩んでいる自分の頬に内心苦笑しながら他の決めごとを話す。休養日とか、決まらなかったがパーティ名とか。
昨晩を思い返して、そういえば、と呟く。
横を歩いていたスズが俺の呟きに首を傾げつつ見上げてきた。
「そういえばな、宿だがどうする?明日から山脈に行くし、丁度宿の借りている期間が終わるんだ」
「荷物は鞄に全部入れられるのでいったん引き払いましょうか」
「だよな・・・戻ってきたら宿をまた借りる、でいいか?」
「そうですねぇ」
「それか、どっか拠点になる家借りるか?2部屋以上ある家を借りるか買うかすれば普段使わない物を置いておけるし」
「クラウスは定住しない主義では?」
「1人ならなぁ。身軽だし。だがパーティを組んだし、当分この街を拠点にするんで良いんだろ?だったら、パーティで部屋や家を借りる事はよくあるし拠点がある方が便が良い気がしてな・・・」
ガリガリと頭を掻きながらスズの様子を窺えば、おうち・・・!と前向きな反応だ。
「よし、ものは試しだ。市に行く前に商業ギルドに行こうか。良い空き家があればついでに見よう」
「はい!」
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