第25話

「えぇ!!!??クラウスさんとスズさんがパーティを組むんですか!?」


「アリス、声がでけぇ」


「ハッ!!??」


冒険者ギルドのカウンターでパーティの新規申請をすればものすごく驚いたんだろう。飛び出そうなくらい目を見開いて思わずといったように大きな声で叫ばれてしまった。


時刻は昼前で、簡単な採取を終わらせた仕事終わりの冒険者や、掲示板を眺めていた冒険者の視線が集まる。


「そんなに意外か?」


片眉を器用に上げてザリッとした顎を触るクラウスに、みたいですねぇと笑った。


「こんな小娘と組むなんて・・・って驚きの視線がグッサグサ背中に刺さってます」


「・・・まあ、ランク差もあるわな」


スッとさりげなくクラウスが真横から少し後ろに移動しながら腕を組んでくれるので、なるほどこういうところが街でウワサのモテっぷりに繋がるわけだ、と内心感心してしまう。


「たいっへん失礼いたしました。


お2人のパーティ名は決まっていますか??」


「いや、それは未だ。パーティのランクは何になる?Dくらいか?」


「そう、ですね・・・いえ、Cです。ギルドマスターからスズさんのランクの変更連絡が来ておりました。


スズさんの個人ランクはEからDに変更です。ブラッディボアの討伐等が考慮されています。クラウスさん、マリウスさんからのテイマーと魔術師としてのスズさんの能力を推薦する声も加味されています。


まずはスズさんの個人ランクの変更を先に行います。ギルドカードの提出をお願いします」


まだ1週間も経たない中でのランクの変更に戸惑いながらクラウスを見上げればニヤリとした表情で見下ろされた。


「妥当だ。というか、またすぐ上がるぞ心配しなくても。


ちなみに、パーティを組んでいても個人で依頼は受けられるからな」


「へーーーー」


「さて、明日はパーティで依頼を受けるか?それとも個人で?」


「山脈の住処に少し戻りたいのもあるの。イイかしら?」


「おう、じゃあ山脈の討伐依頼を受けて、今日はそれに向けて買い物でも行くか」


「ありがとう」


同行を軽く頷いて了承してくれたのが嬉しくて頬が緩む。


「スズさん、お待たせしました!続いて、パーティの登録をいたしますのでクラウスさんもギルドカードをお願いします」


「おう」


背中を向けて作業しているアリスさんを見守る。


「なんだ?クラウスとスズはパーティ組んだのか」


「ギルマス、多忙なのにチョイチョイ見かけるな」


「アリスのでけぇ声が聞こえたからな。


クラウスが組むのか・・・・まあスズならまず問題ないだろう。


・・・パーティ最初の依頼は目星つけているのか?」


ふむ、と私達を交互に見ながら頷くギルドマスターの問いかけにクラウスは首を振る。


「いや?Dランクパーティってことだから登録終わったら掲示板見る予定だ」


「採取か?討伐か?」


「山脈の依頼を適当に」


「山脈・・・?・・・ってことはスズの里帰りが目的か??」


「察しが良いな」


「・・・・・スズ、個人的になんだが余裕があったらオーロラサーモンを頼めるか?」


「ええ、住処に1度戻るのでその際に。生がイイかしら?岩塩で漬ける?」


「生・・・ナマ!?手に入るのか!」


首を傾げて問いかければ、ぐわしっっと勢いよく両肩を捕まれて揺さぶられる。酔う・・・!


「ギルマス、スズが目を回しちまうからヤメロ」


「おっとスマン!!」


「アンタはほんと山脈産の物への熱意をもう少し冷ましてくれ・・・」


呆れたようなクラウスの声に、ギルドマスターは頭に手を当てて申し訳なさそうな表情をして謝罪してくる。


「だいじょうぶです」


「・・・で、スズは鮮度を保った状態でオーロラサーモンを運べるのか?」


「沢山は無理ですけど」


「是非!頼む」


食い気味のギルドマスターにわかりましたと頷けば輝かんばかりの笑顔になるのでなんだか面白くなってきた。


ふふふ、と笑えばギルドマスターは少し照れくさそうに、クラウスは呆れたように笑った。


「よし、じゃあクラウスレッドウルフを狩ってくるか?」


懐から依頼書を取り出して差し出してきたギルドマスターにクラウスがまたしても器用に片眉を上げてみせる。


「オイそれDランクじゃねえだろ」


「指名依頼ってことで。全部討伐してこいってわけじゃない。山脈の商人が使うルートに特に良く出現する奴らが群れ1つ分、大体20頭ほどいるらしい。ボスは右耳が欠けているって情報だ」


「あー・・・まあイイか?スズ」


「OKです」


「じゃ、依頼を受けるわ。アリス、依頼の受理もしてくれ」


「は、はい!依頼期間は14日以内です。気をつけてくださいね」


手続きの終わった依頼書を渡されたクラウスが二つ折りにして鞄になおす。


「じゃ、買い物するぞスズ」


「はいっでは失礼します~」


「お気をつけて!スズさん!」


アリスさんの心配げな声を背中に受けながら冒険者ギルドをあとにした。




ちなみに、今日依頼を受けていなかったのは今日を休息日と決めたからだ。


宿り木亭での食事後、マリウスと別れた私とクラウスは宿に戻り、クラウスの部屋で色々な事を話した。そのひとつが、冒険者の仕事のお休みについて。


「冒険者は身体が資本だ。壊さないために休息日を設けよう。


パーティを組む以上、不調があれば互いに影響が出るんでな」


この世界、というかこの国にも不思議な事に1年があり、1年は12ヶ月で構成され、1月は5週間で30日らしい。1週は6日間で、曜日はそれぞれ日月火水木金=光闇火水風土と呼ばれている。閏年とかないのでシンプルだ。


話した結果、長期依頼を受ける時を除き、基本的には光の日を休息日にした。この光の日を休息日に設定するのは割と冒険者に多いらしい。


「名前の由来になっている光属性の魔法は回復だからな。冒険者もその時くらいは身体を休ませろ、って事らしい。長期の依頼を受けているときは依頼達成後に休もう」


休みがあって(自主的にだけど)、収入もあって地位もある。冒険者ってすごいよね。


「スズ?」


「ううん、じゃあ次の光の日はいつなの?」


「明日だな」


早速の休息日に目を丸くする。


「だが、明日はとりあえずギルドに新規パーティの申し込みをしに行こうと思う。いいか?」


「それくらいなら勿論!」


「ソレが終わったら、市場が出ているから見に行こう。市場でしか買えない食料もあるからスズも楽しめるんじゃないか?」


「それはとっても楽しみだわ!」


返事をした私にクラウスは思わずと言った様子で吹き出した。そんなに笑うほど、私の目は輝いていたのかしら。





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