第24話

「ここがお勧めその2」


「冒険者御用達のお店だねぇ」


「いらっしゃいませ!!」


クラウス達とギルドを出て案内されるがまま、ほんのすこし外壁側に歩いたところにあった店に入る。名前は宿り木亭というらしい。


こういうお店の名前は、らしくて、ファンタジー感が増すよね。


元気よく出迎えてくれた愛嬌のある可愛い赤毛の女の子が看板娘らしい。


「やあミカちゃん、3人いけるかい??」


「マリウスさん、クラウスさんいらっしゃい!ええ、奥のテーブルへどうぞ!お姉さん初めまして!ようこそ宿り木亭へ!」


「とりあえずエールを3つお願いね」


「はーい!今日は新鮮なチーズ入ってますよ!」


「じゃあソレとりあえずよろしくね」


「ありがとうございます~!」


マリウスと看板娘の掛け合いがなんともテンポが良く、楽しい。


「お、ようやく緊張解けたか?」


席についてすぐ、クラウスに言われてビックリした。目が丸くなっている気がするわ。 


「緊張?」


「緊張じゃなかったら、なんか悩みか??ソラの話の後ぐらいから心此処に在らずって感じだったからな」


「そうそう。ちょっと表情が曇って見えたよ」


クラウスもだが、今日会ったばかりのマリウスにも指摘されて思わず両手を頬に当ててしまう。そんなに分かりやすいのかしら・・・


「クラウスも僕も、一応これでもBランクだからさ。魔獣だけじゃなく要人警護とかに駆り出される事もあるし」


へらりと笑うマリウスに、そっか、と呟いた。


「エール3つお待たせしましたっ」


「お、ミカエラありがとな。


まあとりあえず、話は聞くぞ。乾杯の後にな!」


仕切り直すように、ニカッと笑ったクラウスがジョッキを上げたのに慌てて合わせる。乾杯!と3人分席に響く。


「はあっーうまい」


「イロイロあった労働後の酒は美味しいねえ」


「美味しいですねえ」


仕事終わりの酒がより沁みるのは前世現代社会だろうとファンタジックな今世だろうと変わらないなぁ、と熟々おもう。


「で?スズはどうしたんだ?今日の仕事で悩み事か??それともギルマスにソラの存在がバレた事か??」


チーズにオリーブオイルと岩塩が少し掛かったお勧めを摘まみつつ、カツレツを待っている間、話題は私の表情の件になる。


首を傾げる2人にスズは大したことじゃないんですけどねぇと前置きをしてみた。


「なんでもいいさ、話すのが嫌なら無理にとは言わんがな」


「そうそう。誰かに話す事で整理できる事もあるよ」


あくまで親切心で聞く姿勢の2人に、本当に大層な事じゃないからな、と照れつつ口を開く。


「さっき、山脈の依頼が再開されるって話だったでしょう?だから、クラウスと行動をするのもあとちょっとかな、と思って。


山脈を降りてからはずっと一緒に行動していたからなんとなく寂しいなぁ、って。それだけ!」


へらぁっと誤魔化すように笑えば、マリウスは目を丸くし、クラウスは目を丸くした後真顔になって私を見てきた。


真顔だと、顔の整っているのが本当によくわかるよね。普段は親しみやすい気持ちと頼りになる気持ちが先に来ていて意識していないんだけど。


「スズ、俺は大事な事言うのを忘れていた」


「え?」


「俺としては、スズが嫌じゃなかったら組みたいと思っている」


「え」


真剣な眼差しをしながらのその言葉に驚いて聞き返してしまった。


「ずっとソロでやってきたけど、別にソロ至上主義ってわけじゃない。話が合う奴がいなかったり、組んで動きにくかったりするのが嫌だったワケ。


で、スズはイイ。実力はあるし話も合う、と思っている。そもそも空気が穏やかだ。俺、ずっと張り詰めた奴とか無理だし」


肩をすくめるクラウスは、無理をしているようには見えない。


・・・・・・・・・この世界で、初めて求められているのか、私は。


「だから、スズが嫌じゃなかったら俺と組んで、でもって一緒に山脈の依頼も受けて欲しい」


そもそも、山脈育ちのスズなら、レッドウルフなんかの討伐は実力を加味しても全く問題ないしな、とニカッと笑うクラウスに、肩の力が抜けた。


「冒険者ランク差ありすぎませんか?」


「実力差はないから大丈夫・・・いや、俺にとってはまずいんだけど、まあ得意分野の違いでなんとか・・・・。俺は前衛で剣士、スズは後衛で魔術師ってことで釣り合うだろ・・・いやでも修行しねえとな・・・」


ぶつぶつと言うクラウスに思わず笑ってしまう。


「では、よろしくお願いします。私も、クラウスと組めたらきっと楽しい」


「おう!」


クラウスが、優しさや恩だけで言ってきているのではない事はすぐ理解できた。冒険者はそんな生温い世界じゃないことも、ここ数日見聞きしてなんとなしに理解しているつもりだし。


「いやぁ、大団円みたいな?僕を置いて2人で盛り上がるんだもん」


やれやれ仕方ないなぁ、とマリウスが苦笑する。


「ま、とりあえずスズの表情が明るくなって僕としても嬉しいよ」


「マリウスも心配してくれてありがとう」


「いやいや。今後とも、組む事あるだろうしよろしくね?」


「もちろん」


「ふふ、じゃあ、改めて乾杯しよう。丁度、グラスは空に近いし、じきにお待ちかねのカツレツも来るしねぇ。


ってことで、ミカちゃーん!エール3つ!」


マリウスの注文にはぁーい!と元気な声が店の中に響く。


悩みが薄れた今は、気持ちが完全に食欲に傾いているのはご愛敬ってやつで。


エールはほどなくジュワジュワと湯気と音を立てたカツレツと一緒にやってきて、マリウスの音頭で2回目の乾杯をする。


カツレツはナイフでカットすればジュワッと脂が染み出してきて、香ばしい匂いとサクサクの音に食欲が最高潮だ。


勿論チーズも美味しかった。モッツァレラのようなミルク感強めのチーズは今生初めましてなのも相まって。


「ほんと、スズは美味しそうに食べるねぇ」


「っおいしいですもの!」


「はは、にっこにこだね。ここはオムレツも旨いからそれと、揚げた芋も注文しよう」


「スズ、うまいもん食わしてくれるからって、見知らぬ奴について行くなよ?」


「いや、いきませんよ!?私いったい何歳だとおもっているんです!」


もうお酒も嗜む年齢なんですけど!と頬を膨らませれば、そういえば何歳なの?とマリウスが首を傾げる。


「15になりました!!」


この世界では元旦にみんな一斉に年を取る。昔の日本のように誕生日の文化はないらしい。元旦と言ってはみたけれど、特段行事があるわけじゃないんだって言うのも、確認済みだ。


「いや、この間まで子供じゃないか」


「そんなに言うマリウスさんは何歳なんです?」


「僕は26だよ」


「ちなみに俺は35な」


「おお、結構年上なんですねえ・・・」


「「ぐっ」」


そりゃあスズに比べたらなぁ・・・と遠い目をする2人に笑ってしまったのは仕方のない事でしょう!






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