第23話

夕焼け空は綺麗で、好きだ。


この空が段々と群青色に染まると帰りたくなる。もう、2度と帰れないのに。

 


ガールズベールの街に戻ってきてギルドを目指す乗り合い馬車から外を見る。建物の隙間から見上げる空は群青色に染まったところの方が多い。



「スズ?どうした?」


「んー、今夜の晩御飯何かなーって」


心配気なクラウスに、へらりと笑う。


私が見た目相応の精神年齢なら甘えて泣きついて、日本に帰りたいと言えたかな?無理かなあ。


鈴しっかりしているから大丈夫でしょ、と親にも兄弟にも友達にも彼氏にも言われたくらいだもの。


人に甘えるのは、苦手だ。


「・・・この街に来てから毎晩同じ店だしな。変えるか?」


クラウスはきっと色々気づいているのに、誤魔化されてくれる辺りが大人だよね。


「ほかにもお気に入りあるの??」


「勿論だ。1番好んで利用するのはあの店だけどな!」


ニイッと笑うクラウスに、先程までの落ち込んだ気持ちが薄れて目が輝いている気がするわ。


食べ物って大事よね!


現金って言わないで欲しいわ。目先の幸福をとりたい気分なのよ。


「ブラッディーボアはステーキも美味いが、カツレツも美味いんだ」


「カツ!」


「はは、それじゃあギルドの報告が終わったら行こうな」


ぽんぽん、と髪を撫でるクラウスに頬が緩む。


「すっかり2人の世界だけど、僕もいれてくれるかい?」


「なんだ、マリウス。夕飯にもついてくる気か?」


「そんな嫌そうな顔しないでよクラウス」


そう言いつつマリウスの顔は笑っている。


「仕方ねえな。


まあ、とりあえずギルマスへの報告がスムーズに行き次第だがなあ」


それはフラグってヤツよね。







「おかえりなさいませ!依頼達成の報告を承ります!」


元気な笑顔で出迎えてくれたアリスさんに、まずは報告をしようと私からカウンターに向かう。


依頼書とギルドカード、採取した薬草と角兎の肉と角をカウンターに置く。


「お預かりしますね!


採取は5体でしたが、残りの2体分の肉、3体分の角は買取でよろしいでしょうか?」


勢いよく出したから依頼分以外も出してしまったようだけど、そのまま頂きますよ!とアリスさんがニコニコ笑いながら言ってくれるので言葉に甘える。


「こちらのカウンターが忙しい時は買取カウンターに別でお渡し頂く時もあるのですが、今は落ち着いているので!」


サクッと計算してもらい、お金はそのままギルドに預ける。


クラウスとマリウスの達成報告と交代するために、私は掲示板を見に行く。


「おう、スズ」


「あれ?ギルドマスター?」


「おう、昨日はブラッディーボア倒したらしいじゃないか」


流石山脈で暮らしていただけあるな!と面白そうにニヤリと笑うギルドマスターに、頑張りましたとヘラリと笑う。


「街はどうだ?」


「すごーく、楽しいわ」


「過ごし難い事はないか??」


「まだ来たばかりだけど、美味しいご飯を食べれるお店も、宿も素敵だわ!」


「飯に食いついてるな!」


愉快そうに笑うギルドマスターに山脈じゃあ中々味付けされた食事は難しいので、と言えばまあ確かになあ、と頷く。


「オーロラサーモンを食えても味付け一緒だと飽きそうだな」


「あ、オーロラサーモンの塩漬け召し上がりました?」


ギルドで買取したオーロラサーモンをそのまま市場に出すのではなく、一部ギルドマスターが自腹で買い取ったと聞いていたので、感想が気になる。


「食った!最高だな。


焼いたら脂が滴り落ちて香りがまず抜群にいい。んでもって脂がクドくない!」


キラキラした目をするギルドマスターに、スズは思わず笑ってしまう。


気に入ってもらえて良かったし、それだけ喜んでくれたならオーロラサーモンを売った甲斐があるってもの。


「お、ギルマス丁度良かった」


「アン?


なんだクラウスとマリウスか」


「報告があるんだが、今いいか?」


「?聞こうか」


「別室がありがてえな」


「なんだ、重要事項か?じゃあ行くか。スズとマリウスもか?」


首を傾げるギルドマスターに、むしろ当事者だわ、とクラウスが苦く笑った。





連れられてきたのは一昨日も来た3階のギルドマスターの執務室で、通されて早々クラウスはソラの事を報告してくれる。


「は?スズがワイバーンのテイマー?」


「ああ。悪かった、山脈付近に降り立ったんだが、それでも目立っちまった」


「いや、まあそりゃあ仕方ねえが・・・


ワイバーンをティムしたのか。スズが」


「伝説級だよねえ」


「ワイバーンのレベルは?子供ってことは?」


「おそらくAだな。B+じゃない。


身体の大きさといい、知能といい、生まれたばかりや経験の浅い個体じゃない」


「それは・・・ティムされていて良かったというべきか」


苦い声色で呟くギルドマスターに、マリウスは気持ちがとーってもわかるよ、と苦笑する。


「山脈中腹にはワイバーンが生息しているのか?」


解答を聞きたいような、聞きたくないような、とギルドマスターがスズに問い掛けると、クラウスとマリウスも視線を向ける。


「ソラしか見た事ないよ」


「・・・いくらあの山脈でもゴロゴロいなくて良かったわ」


「まじで、それだよねえ」


「とりあえず、調査は終わりだな」


やれやれと息を吐くギルドマスター達に、なんだかごめんなさい、と謝る。


「いや、解決したのは良かった。


じゃ、止めていたレッドウルフの討伐を再開するか。あと、何件か中腹での採取もあるしなー」


あーやれやれ、と息を吐くギルドマスターに対して、クラウスとマリウスはリベンジだな、と拳を握る。


レッドウルフ討伐は何日か掛かるみたいだし、クラウスとはそろそろ一緒に行動出来なくなるなあ、としんみりしてしまう。


僅か数日だけれど、今世でこんなに行動を共にした人はいないから寂しいのよねと自分の感情に理由をつける。


「スズ?」


しょんぼりした私を、他の3人が見ていた事に珍しく私は気付いていなかった。





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