第21話
クラウスとのやりとりは終わったが、結局マリウスのテイマーとしての闘う姿は見れずじまいだ。
アイアンウルフとフォレストドッグ、そもそもマリウスの腕も非常に高かったようであっという間に戦闘は終わったからだ。
「さっきの入り口の糖蜜蜂も一瞬だったモンねぇ・・・さすがBランク冒険者!」
「いやあ、正直スズには負けそうなんだけれど・・・」
「え?」
「魔法の精度、使い方のいずれも僕より上だと思うなァ・・・」
遠くを見つめるマリウスに、そんなものなのか・・・ときょとんとしてしまう。
「ま、とりあえずイエローダックは解体終わったか?未だなら後回しが良いかもな。
糖蜜蜂はそろそろ薬が回っている頃だろう」
先にそちらに行こうぜ、とクラウスが言ったのでイエローダックの血抜きが終わったところだったのかマリウスはイエローダックの足を縛って持ち上げる。
「マリウス、そのイエローダック鞄にしまっておこうか?」
「え?あ、ああ。スズの鞄はまだ余裕があるのか?」
「うん、あるよ」
マリウスから受け取ったイエローダックをそのまま鞄にズボッと入れる。
中は空間魔法で拡張されている。感覚としては某猫型の四次元ポケットだ。
入れたモノは自動的にタグ付けされて欲しいものを意識しながら鞄に手を突っ込むと取り出せる。魔法がある程度使えるようになってすぐ作ってみた会心作である。
マリウスは小骨が刺さったような顔をしながらクラウスを見ていた。
「(クラウス・・・)」
「(なにも今は言うな)」
「(あとで聞ける範囲は聞いても良いって事か)」
「(まあ、な。言える範囲ならな)」
2人で見つめ合っているが仲が良いことで大変よろしいね、と笑っていればなぜか溜息を吐かれた。
糖蜜蜂の巣は大人1人分の縦の幅、横の幅があり、全長は1km近くあった。
薬効は良く効いているようで、50匹ほどいたが全て地に落ちて寝ていた。
「睡眠香と痺れ薬が混ざっているから、起きていても効いているハズだからダイジョーブ」
糖蜜蜂の必要分は20だったようで、巣の手前の個体を次々倒す。眠っている個体を殺すのは容易く効率が良い。
「剣を振り回すだけが冒険者じゃないってワケだな。時には罠を張ったり、薬を使ったりする。
討伐依頼ならさておき、採取の依頼の中には傷を出来るだけつけないように、ってのもあるからなぁ」
クラウスの説明になるほどなぁ、と頷く。
必要個体を掴んだら、巣を離れて平野に戻る。
イエローダックの解体と糖蜜蜂の解体をするのに、できるだけ外敵が来てもわかりやすく、魔法が不得手なら川が流れているところが良いと教わる。
血のにおいで魔獣が寄ってくるからだ。
元々生活をしていた山脈だと湖が近くにあったし、なによりワイバーンのソラの気配で中腹に生息する程度の魔獣は近寄ってこなかったから気にしていなかったなあ。
さくさくイエローダックを解体する。羽毛を綺麗に洗浄し、肉は部位毎分ける。糖蜜蜂は毒針は買い取りも行っているらしい。
解体したら、今回の採取依頼蜜壺を取り出す。ウイスキーのような琥珀色のソレは濃厚そうで、トロリとしていて美味しそうだ。
滋養強壮によく、甘いらしい。まさに蜂蜜というわけだ。
残念ながら山脈の中腹に居た頃はお目に掛かったことがない。糖蜜蜂の天敵がいっぱいいるんだよね・・・。
解体を終えたので次はクラウスの依頼だ。
街道からほど近くの所にゴブリンが集落を作っており、その討伐ということだった。
人型の魔獣は私にとって経験があまりない。全くないわけではないのだが、獣型と違って人型は山脈の中腹には滅多に巣を作らないのだ。
何せ急峻な山だ。多少の平地はあってもそれは力の強いモノの縄張りだから、ゴブリンやホブゴブリン、オークのような人型というか2足歩行主体の生き物が生息するには厳しい。
ゴブリンは討伐しても買取箇所がない魔獣というか魔物というか・・・らしい。
なので討伐証明は片耳を削ぐという。実にグロテスクだな、とドン引いた。
イエローダックの肉を手持ちの岩塩を振って木の棒に刺して火に炙ったヤキトリ擬きでサクッと昼ご飯にして、私達はゴブリンの集落を確認する。
集落と言うだけあって、ゴブリン達が簡単な家のようなモノを建てていたそこは、確かに集落だった。
ゴブリンは身長が私程度しかなく、手足や肉体は薄く貧相だ。
しかしオークより手先が器用で、弓なんかを背に背負っている奴もいる。
罠を張って、ウサギなんかの野禽を狩るなら問題ないのだが、知恵の回る奴らは家畜を襲うし街道を進む商人を襲って積み荷を奪うのだ。
下手な盗賊や山賊より頭が回るのではないかと厄介視されている。
「んじゃ、次は俺の番だな。そういえばスズは俺がまともに戦うの見るの初めてだろう??ちょっと本来の戦い方じゃねえが・・・」
よし、と私の頭をガシガシ力強く撫でたクラウスはそう言って私のあげた鞄から身の丈ほどの大剣を取り出す。
「こいつは俺の予備の大剣なんだが、まあ、ゴブリンの討伐程度なら問題ないだろ」
そう言って、クラウスは大剣の刃の部分に何かを呟いてふうっと息を吹きかけた。
「え?こおりが」
「本当は炎が得意なんだが・・・討伐証明ごと燃やしそうだからな」
キラキラして見えるのは冷気による氷の結晶らしい。
クラウスは剣を携え、特段隠れる様子もなくゴブリンの集落に足を進めた。
そこからはまさにクラウスの独壇場だ。
「いやあ、まさに圧巻だよねぇ」
「氷漬け・・・・」
「本当のクラウスの持ち味は一閃すれば広がる炎の海なんだよ。剣に魔法を付与するのがとても上手いんだ。
手加減苦手だから、安っぽい武器だと武器の方が駄目になるのが欠点だけどね!!!」
1閃2閃と剣を振るえば、その太刀筋の先にいたゴブリンは軒並み何も出来ないまま氷漬けになる。
何が起こったかも分からないまま、ゴブリンはその生を閉じていった。
ものの10分程度だろうか、集落で動くのはクラウスだけとなった。
「どうだ??俺も多少は強いだろう??」
珍しくニヒルな表情をするクラウスに、うん、凄かった。と素直に頷けばビックリした表情をされた。
「ますます山脈で不覚をとったのが不思議」
「あーーそーね」
本当に、不思議だわ・・・。文句なしに強いんだもの。
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