第20話

魔法はイメージ!イマジネーションを働かせるのだ!と脳内日本の二次元キャラが笑う。


私にとって、まさに魔法の先生は前世日本の二次元のキャラクター達だ。


魔法だけじゃない。


戦い方や、異世界での生き方は全て二次元のキャラクターならこう過ごしただろう、とかこう戦っただろう、という想像で成り立っている。

もちろん、できない時はできないが!

なにせ私は三次元を生きているので。



堂々と漫画やアニメが好きだと言えるようになって久しい。


私自身の死んだ時の様子は思い出せないし思い出す予定もないが、何故か、会社員だったとか、中、高校の制服はブレザーだったとか、アイドルよりアニメや漫画、小説が好きだったとかは思い出せた。


そうやって、かつてを思い出しながら、でもこの世界に順応出来るようにする事を努力してきた。


15年かけて漸くここまで来たな、と考えながらも角兎を捌き終わり、討伐証明兼ねて依頼の角と肉を鞄にしまう。


ブルーバードにありがとうね、と肉を摘みやすいよう刻んであげれば、こちらこそ!と喜んだ雰囲気で肉を啄む。


話せると言うより、漫画で言うところの吹き出しを読んでいる感覚だ。

翼を持つものだけ、その吹き出しが見える。


お喋り出来るわけではないから、会話には随分飢えていたな、とクラウスと出会ってそういった欲求が解消され続けている事をしみじみ有難いと思う。


「クラウス、マリウス、終わったわ」


「おう、ほんじゃ朝飯食べてマリウスの依頼をするか。


糖蜜蜂とイエローダックだったな?」


「う、うん」


マリウスからの戸惑ったような視線には気付きつつ、敢えてスルーして糖蜜蜂とイエローダックを頭に思い浮かべる。


しっかり朝ごはんを広げながら舌鼓を打つ。今日も今日とてサンドイッチがおいしい。



糖蜜蜂は身体に蜜壺を持つ猫サイズの大きな蜂で洞穴なんかに棲み着く習性がある。30から100の集団で生活しており、攻撃は通常の蜂と同じく毒針だ。サイズが大きいうえに毒性が強く掠っても危険だ。しかしその蜜は極上で、王侯貴族が好み、市場価格も高いらしい。



イエローダックはその名の通り黄色いアヒルでだ。その羽毛は最高級品なのだが、水魔法が得意なうえ接近すると硬化させた羽で攻撃してくる厄介さをもつ。


ランクはどちらもDランクらしいが、依頼を受ける事が出来る冒険者は魔法が使えたりある程度の実績のある人のみらしい。


「マリウスさんはどうやるの?」


「先に糖蜜蜂の棲家だと目星をつけている洞窟に行くよ。


僕は基本的にテイマーだからね、ティムしている魔獣に代わりに戦ってもらうんだけど、糖蜜蜂は薬香で眠らせる方が早いからね。


薬香を効かせている間にイエローダックの採取をする予定だよ」


「へーーー」


そんな便利なものがあるんだ、とサンドイッチの最後のひとかけらを口に放り込む。


「じゃあ行くぞ。スズや俺は見てるがいいか?」


「そりゃあモチロン!僕が受けた依頼だしねえ!」


立ち上がってマリウスが先導するように歩き始める。


山脈の裾野には平原だけではなく、湖や小規模な森や林があり、ギルドに依頼される採取や討伐の依頼はそういった場所に対象がいるらしい。


今回は日帰りで行き来できる範囲だが、時には泊まりがけで行かねばならない場所もあるそうだ。


山脈に続く街道から逸れて歩いてそう経たない内に、マリウスは立ち止まる。


その真正面には初めて見る犬のような魔獣が座っていた。


「スズ、初めて見るかな?この子はフォレストドッグ、僕のティムした仲間だよ」


-わふ-


少しばかり気の抜けるような鳴き声というか溜息のような挨拶が可愛らしい。


大型犬サイズで茶色の毛並みの整った子だ。


「この子に探索を頼んでいてね。無事糖蜜蜂の巣は見つかったようだ」


わしわしとフォレストドッグの頭を撫でて褒めるマリウスは良いテイマーなんだろう。


魔獣をティムするというのは危険だろうから、信頼を結んでいる様子にクラウスの友人という贔屓目を除いても知り合えて良かったと思う。



糖蜜蜂の巣は洞窟にあると聞いていたけれど、今回は地蜂のように地面に住んでいたらしい。


「地面というより、地下に洞窟が広がっている感じだな」


「縦に広がってどこかに繋がる洞窟ではないのが良かったよ。


これなら薬香も効くしね」


薬香というが焚くのではなく、ガラス瓶の蓋を取り空気に触れたら散布されるタイプらしい。


入り口の見張り役らしい糖蜜蜂を一瞬でナイフで頭と胴体を切り離したマリウスはそのまま地下に続く穴に懐から出した瓶の口を逆さに向けた。


勿論風上に退避済みだし、なんなら魔法でこちらに回ってこないようにもしている。


「多少漏れもあるかもだけど、これでとりあえず効くのを待つよ。で、イエローダックだね」


丁度現在地ほど近くの池に数羽いたらしく、先行していたフォレストドッグと更に大きな犬型の魔獣がイエローダックを探し出していた。


「こちらはアイアンウルフっていうんだよ。僕の仲間でね、鉄の被毛はイエローダックの羽毛程度は弾くんだ。じゃ、行ってくるね」


魔獣対ティムされた魔獣はどんなもんだろう、と見守ろうとしていれば困った顔をしたクラウスに止められた。



「あー、その大丈夫か?」


「んえ?」


「翼を持つものと相性が良いんだろ?」


言い辛そうにいうクラウスに、なんて優しい人だと思わず笑う。クラウスはイエローダックと意思疎通出来ると辛いんじゃないかと心配してくれているのだ!


武骨というか、なんとなく大雑把そうなイメージの冒険者なのにクラウスに限っては印象がどんどん変えられる。


「大丈夫!イエローダックはあんまり知能が高くないのよ」


「そう、なのか?」


「知能=身体の大きさではないみたい。ブルーバードの方が100倍賢いし意思疎通取れるけれど、イエローダックはなんというか短絡的?で、あまり意思疎通できないの。

意思疎通が出来る=仲間でもないのよ。

でも心配してくれてありがとう!」


なにせそれなら私は一生ニワトリのお肉食べれない!













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