第19話

※書き方変更するので、読み辛かったらすいません!







新しい朝が来た希望の朝だ




いつも通りの夜明け前、日本人なら誰もが耳にした事があるだろうフレーズが頭の中で流れながら、瞼を擦る。


あふっと欠伸をしながら起き上がり、手早く布団を整えた。


目覚まし時計がなくても、太陽が昇らなくても起きれるようになったのは1人で過ごすようになってからだ。柔らかい布団にはまだ今生慣れていないけど。


妙に身体が強張っているのかバキバキと骨が鳴るのに笑いながら昨日買った服を着る。


シンプルな上下の綿で出来た冒険者服は、肌触りが良い。良い服ってわけじゃないのだろうけど、少なくとも15年ぶりの人が作ったものだからなんとも嬉しくて、ふふ、と笑ってしまった。


「スズ、起きてるか?」


コンコンというノック音に我に帰って鞄を引っ掴んで勢いよく扉を開けた。


「お、悪いな、急かしたか」


「ううん、ちょっと服が嬉しくて時間掛けててごめんなさい!」


私のセリフにクラウスが目を丸くしたのがわかる。魔法を目の前で使った時並に驚いたんだろうけど、何にかな?と首を傾げる。


「っいや、服、喜んでくれてなによりだ。


行くか。今日も朝飯は同じところで大丈夫か?」


「うん、サンドイッチ美味しかった!」


久しぶりのパンは、日本で食べたような柔らかいものではないけれど泣きたくなる。


乗り合い馬車に揺られながら、クラウスと今日の行動を確認していれば、どうにも表情が晴れないように思える。


「なにかありました?」


「あー、まあ、大した事でもないような、あるような、なんだが。


今日東の門のとこで1人合流していいか?


嫌なら断る。断りきれなくてもなんとか振り切る」


ガリガリ頭を掻きながら苦さの混じる声であーとかうーとか唸った後、絞り出すように言った内容に目を瞬かせる。


「おともだち?」


「山にいる時に一度話した、あの山脈での依頼を受けた臨時のパーティーメンバーだった、テイマーのマリウスだ」


「騙した人達じゃない人ね!なら大丈夫」


「いいのか?」


「え、ウン」


「そっか、ありがとう」


はあーーっと息を吐いたクラウスが面白くてついケラケラ笑ってしまった。


「笑うけどよ、スズの魔法は特殊なんだぞ」


「うーん、でもいつかは誰かに知られてしまうでしょう?冒険者していくなら。


クラウスが知っている人なら安心だわ」


街に来る前は、いつでも街に出入り出来る身分証があれば良いと思って冒険者登録したけれど。


今は久しぶりのヒトらしい生活が楽しくて仕方ない。あの山脈で日がな1日のんびり過ごすのも別に悪い事ではなかったけれど、文化的な生活に飢えていたのだ。


ある程度常識を身につけたら、ソラと旅に出るのも良い。そんな選択が出来るのが嬉しい。


だからこそ、今は冒険者として経験を積みたいし、クラウスとはまだほんの数日しか一緒にいないけれど、信用している。


「あーー、ウン、信用してくれて嬉しいよ」


ガリガリ頭を掻くクラウスの顔を見上げて、あら?と首を傾げる。


「ひょっとして照れてる?」


「オッサンを揶揄わない!」


なんだこの人、見た目はイケオジなのに耳を赤くして可愛さもあるとか。


「(ギャップって奴ね)」


「どうした?黙り込んで」


「なんでもないわー」


乗り合い馬車は東の門の近くに到着し、降りて昨日と同じ店でサンドイッチを買う。


「昨日もとーってと!美味しかったわ!」


「お、ありがとな!嬢ちゃん!」


本心から言えば、サンドイッチ屋の店の主人は一瞬固まって嬉しそうに破顔してくれた。


「クラウスさんよう、この可愛い嬢ちゃん共々贔屓に頼むぜ」


「ハイハイ」


「オマケ入れとくから一緒に食ってくんな」


「いいの?おじさん!」


「ああ。朝から嬉しい事言ってもらった礼だよ!嬢ちゃん気をつけて行ってこい!で、また依頼こなす時はウチで朝飯買ってくれ」


ニカっと笑う主人にコクコクと頷く。


バイバイと手を振って、外に出るために東の門に歩みを向けながらクラウスを振りあおぐ。


「どうしてあんなに喜んでくれたのかしら?」


「あ?そりゃーあんだけ嬉しそうに感想言われたらナア。


値段相応のモン出すのは当たり前で、腹を満たせれば良いって奴が多いからな。純粋に喜んで感想言う奴なんて余りいないんじゃねえかな」


「そうなんだ」


「まあ、またそのオマケ分の感想も言えば良いさ」


クラウスの言葉に頷く。


「さ、今日も頑張るか」


「はーい」


わしわしと頭を撫でられた後、守衛にギルドカードを見せ門を潜る。


昨日と同じ夜明け少し前の朝露に濡れた草の青々とした香りがする。


「やあ、クラウス」


「マリウス、もう来てたのか」


「置いていかれたらイヤだからね!」


ニコニコ笑うタレ目で細身の柔らかそうな癖のある猫っ毛の男の人を、コイツがマリウスだ、とクラウスが紹介してくれた。


「やあ、はじめまして!ボクはマリウス。Bランクのソロ冒険者でテイマーだよ」


「スズです。まだ冒険者のお仕事は2日目です」


差し出された手を握って握手をする。手はクラウス程ではないがやっぱり大きいし分厚い。


「うんうん、よろしくね!クラウスと同じように、敬称とかつけないで気軽に話して!」


なんとも軽い人だけれど、実力は間違いないんだろう。纏う雰囲気がクラウス同様、強い人のソレだ。


「さて、誰の依頼から先に?」


「とりあえずスズの依頼が早い」


薬草と角兎の肉と角の採取、どちらも街寄りの草むらで手に入る。


サクッとしてしまおうと、ピュイっと指笛でブルーバードを呼ぶ。


時間を置かず、すぐに飛んできたブルーバードは2羽、それぞれの嘴を撫で、角兎を探しに飛んでもらう。


薬草は昨日の位置にあるので足はそちらに向ける。


「ブルーバードをテイムしている?」


観察されているが、クラウスが黙っているので私も敢えて喋らない。


手早く薬草の群生地で採取を必要量だけして鞄にしまった頃、タイミングよくブルーバードが1羽戻ってきた。


「クラウス、昨日と同じでいい?」


「ああ。マリウス、とりあえず黙って見てろよ」


「え?うん、もちろん邪魔しないよ!」


言質は取ったと、ブルーバードの案内で角兎の元に行けば、群れなのか窪地に8羽程が固まっていた。



角兎はその名の通り、額に鋭い角の生えた兎だ。よく知るウサギより体は大きく、発達した後脚で何メートルも跳躍するし素早い。


だからこそ、まずは動きを止める。


「雷撃」


指を向け、少し威力を強めに雷を放つ。次の瞬間にはバチバチと帯電して動けず窪地で倒れ込んだので、そこに追撃する。


「水針」


ブラッディーボアより小さな角兎に水槍を放てば跡形もなくなってしまうから、小さな水の針で串刺にする。


断末魔を上げる事なく血を流して倒れる角兎に、ヨシと、後ろのクラウスを振り仰いだ。


「アイスニードルは見た事あるが、あそこまで細く小さくなかったな・・・スズ、相変わらず凄いな」


「えへ、とりあえず解体ちゃちゃっとするね!」


「ああ。依頼は5体分だが、残りはどうする?」


「2羽分は売るけど、1羽分の肉はブルーバードにあげるわ」


「そうか。手伝うか?」


「私の依頼だから大丈夫!」


「じゃあ俺はマリウスに軽く説明しとく。


スズの解体が終われば朝飯にしよう」


「手早くやるわ!」


サンドイッチが楽しみで俄然やる気が出た。


呆然としているマリウスは、クラウスがなんとかするから大丈夫ね!












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