第18話 視点:クラウス

「あらーん、クラウス!久しぶりねえ」


「生きていたって聞いてたけれど、無事で何よりだわ」


馴染みの店に顔を出したのは、スズと飯を食べて1度宿に帰った後だ。


女達と酒を飲む店にスズを連れていくのはアウトだろうと、宿に帰ったのもスズを送るためだ。ちゃんと明日の行動も共にすることを約束するのを忘れない。


艶やかな女達に案内されて店の奥まで進めば、先に過ごしていた馴染みの男が片手を挙げた。


「やあ、無事で本当に良かった」


「手間をかけさせてわりいな、マリウス」


「ボクの手間なんて精々捜索隊に加わったくらいだ。


それはギルドから依頼があったしね」



ソロ同士、同じ依頼をこなす事が度々あったマリウスとは、山脈で逸れてからぶりの再会になる。


「まあ先ずは再会を祝そう。お互い無事でなによりだ」


「ああ、その通りだね」


女の持ってきたグラスを受け取り、マリウスと杯を合わせた。


口に含んだ酒は、スズと飲んだエールに比べれば遙かに重く、芳醇だ。


抜群に良い酒だ、と味わいながら、気付いたら深い息を吐いていた。


「色々あったんだって?」


女を離席させ、少しばかりの人払いを頼む。


「色々あった。それこそかなり凝縮された数日だよ」


「それは金髪の女の子がメインの話かな?」


「そうだな。ここ最近で1番びびったさ」


垂れ目のマリウスは酒のせいかいっそう眠たそうにしながらも、興味津々とばかりに先を促してくる。


「名前はスズ、15歳で冒険者ギルドに登録したばかりだ。

俺の事を山脈で拾って中腹の住処で介抱し、こうして下山までして付き合ってくれた良い奴さ」


俺の言葉にマリウスは眠た気な目をかっぴらく。


「それはまた!ただものじゃないね!」


山脈は山道が険しく、魔獣が闊歩している。


下層ならさておき、中腹は並の装備では踏破は難しい。


その山脈に15の女が住んでいるというのだから、マリウスが言うように只者じゃない。


「5歳から1人で一族から放逐されて1人で暮らしていたんだそうだ。


で、当然あの山脈で暮らすだけのその実力もある」


態々、ワイバーンのことは言わないさ。言わなくてもあの魔法はすぐ知れ渡る。魔法だけで頭幾つ分も人より飛び抜けているのだから。


「それはそれは!!!


鬼畜な所業だねえ!その一族とやらも!」


「その辺は大いに同意する」


「で?その彼女を街に連れてきた目的はなんだい???Bランク上位の大剣のクラウスともあろう御仁が、彼女に付き添って街歩きだ。


興味が惹かれない方がおかしいよねえ」


「大した事じゃねえさ。


・・・それこそ、命を救って貰った恩もある。


山脈育ちで街を知らないっていうから街を案内し、身分証明の保証人になっただけだ。


いや、あいつ自身が暢気すぎて見てられないのもあるがなあ」


ガリガリと頭を掻きながら、俺の脳裏には市場に目を輝かせる昼間のスズが浮かぶ。


正直強力な魔法を扱う奴には見えないし、街の奴らも微笑ましそうだった。


本当はとんでもないヤツなのに、だ。


側から見れば本当にただの世間知らずな娘でしかないのだ。

出会ったのが山脈でなく、その辺の村だった方が納得できるくらいには極々普通に見えるお嬢さんだ。


「そう、それだ!クラウス、あの山脈で明けの明星になにされたんだ?


アイツら、Bランクの不意打ちが出来るレベルか?」


「あー、前方をレッドウルフに囲まれてな。明けの明星の前衛と対処してたら後ろから不意打ちで魔法食らった上にザックリ刺されて勢いよくレッドウルフに向けてぶん投げられた。


ら、たまたま崖で何匹かレッドウルフ巻き込んで落ちて、スズに拾われた」


「・・・それはまた


・・・命があったのはそれこそクラウスだからこそだろうなあ」


しみじみ言うマリウスに苦く笑うしかない。


「そういやレッドウルフ討伐は未達成か?それともマリウス達が?」


「依頼してきた相手の商人に交渉して調査中にしてある。


未達成でペナルティかと思いきや、とんでもねえ姿を山脈で見たって話が浮上したんだよ」


「とんでもねえ姿?」


「クラウスが見つかる前、山脈にワイバーンの姿を見た奴が商人と冒険者とそれぞれいた。


調査依頼は冒険者ギルドから出ているが、まだ内々だ」


マリウスのセリフに思い当たる節があり過ぎて遠くを見てしまう。


とりあえず明日ギルマスのところにスズと行こうと決める。


「とりあえず、ペナルティ無くて良かった。


そろそろ、呼ぶか」


「そうだね。せっかくクラウスとの再会だし」


女を呼び寄せ、いつの間にか手が止まっていた酒を飲むのを再開する。


普段ならしなだれかかる女の腰を抱きながら酒を呷るのだが、なんとなく躊躇してしまい、とりあえず横に座る女に酌を頼んでいればマリウスが面白いものを見たと言わんばかりの表情で俺を見てくる。


「あの女泣かせのクラウスがねえ」


「るせえ」


「ふーん、なんか俺もスズだっけ?会いたくなったよ!」


「気にするな」


にんまり笑うマリウスに、嫌なところ見られたなと溜め息を吐く。


「ちなみに明日の予定はなんだい???」


「言わなくても宿前とかで待ち伏せてそうだよな、お前は」


「わかっているじゃないか」


「・・・夜明け前に東門から出る。


俺はゴブリンの討伐、スズは採取だ」


「ふーん、じゃあボクも糖蜜蜂の採取とイエローダックの羽毛と肉の採取をしようかな!」


「・・・とりあえず、スズはまだ冒険者登録したばかりだ。邪魔しないでくれよ」


「新人育成にも精が出てる様で何よりだよ」


「うるせ」


無事と依頼のその後の話が聞けたのは良かったが何だかなーとガリガリと頭を掻いた。


スズにソラの話をしないといけない上に、マリウスの事も言わないとな、と頭に入れてのんびり宿に向かった。









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