第14話 視点:クラウス

街道に戻ってすぐ、相変わらず鳴る俺の腹の虫を合図に朝メシを食う事になった。

自分の半分ほどの子供の前で俺の腹は何度も何度も鳴きやがる・・・。


地面が乾いているのを確認して、道のすぐ脇に腰を下ろした。買った飯はマジックバックの鞄の中だ。

マジックバックは本当に便利だ。どれだけ入れても鞄の重さしか感じない。


身軽さが生死を分けることもある冒険者や商人にとって幾らでも金を積めるハズだ。とはいえ、スズは金を受け取らないので、金以外でマジックバック相応の働きをさせてもらうしかない。



「サンドイッチ、美味しいわ」


スズが美味そうにサンドイッチを食べるのを見て、そういえばパンを食べるのが初めてなんだよな、と今更気付いた。


山脈育ちでは当たり前の話なのに、風呂に抵抗無く入ったり、部屋を普通に使っていたから段々何が当たり前なのか分からなくなっていたな。


もっと色んな具材のサンドイッチにすれば良かった・・・目を輝かせて鶏の肉とトマトが挟んであるサンドイッチを小さな口で食べるスズを見て後悔だ。


「こっちは海老とアボカドだが食べるか?」


「食べる!」


目をキラキラさせるから、本当に食うのが好きなのが分かるよな。昨日の夜の酒場でも割と注目されていたぞ。気付いていないのか気にしていないのか分からねえが。


「海老は南の方にある街に海があってな。そこからテイムした魔獣が運んでるんだ」


普通の馬なら3日掛かるが、魔獣なら半日で駆ける。つくづくすげえ話だよ。


「うみ」


「海は塩味のでけえ湖みたいなもんだ。端は外国に通じている。


南の街には魚や貝が名物でうまい」


「それは、行ってみたいな」


行動の理由は基本的に食いもんなんだろう。美味いもんに目がねえようで、そんな顔を見ていたら色々食わしてやりたくなる。



「今度俺と行くか?連れて行ってやる」


気付いたら、スルッと誘い文句が口から飛び出ていた。



「いいの???」


「ちいっとばかり、山脈に帰らなくても大丈夫だろう???スズといるのは飽きねえし、冒険者業は自由だ。


俺も美味い飯が食いたいしな」


誤魔化す様に最後付け足したが、美味い食いもんに目がないスズは納得してしまったらしい。


俺は食いしん坊キャラではなかったハズなんだがなあ・・・。なんならBランク冒険者のクラウスって言ったら中々有名人だし、女にも不自由しない、ソコソコなハズなのに。


「山脈は故郷だけど、のんびり過ごすなら平野でも海でも街でも良いわー。


冒険者のお仕事に慣れたら海の街に是非連れて行って」


サンドイッチの最後のひとかけらを口に放り込んだスズはその最後の最後まで美味そうにしながら微笑んだ。


「まずは昨日のステーキを討伐しないと!」



「・・・ブラッディーボアな」


ステーキって・・・魔獣は危険なハズなんだがなあ。スズに言わせると全部食い物になってしまいそうだ。






「クラウスはどうやって戦うの?」


街道を進みながら山脈を目指して雑談話をしていれば、ブラッディーボアの狩り方についての話に移る。


小首を傾げるスズに、腰の剣を指し示す。


「基本は剣だな。補助的に攻撃魔法も多少使う。


スズは?」


「魔法かしら。ヒトとの違いは分からないけど」


「他の冒険者と絡む事もあるだろうし、せっかくだ。スズの狩り方を見せてもらえるか?」


「ええ勿論」


素直に頷くスズを横目に、さてどんな狩り方だろうかと顎に手をやる。


ついつい考える時このクセが出るんだよな。


顎に手を当ててもアイデアなんて捻り出ねえんだが、考えているポーズってのは対外的に大事だ。油断も誘えるしな。


残念ながら、無意識下でもやってるんでカッコつかないが。




そうこうしていれば、軽い羽音と共にブルーバードが飛んできて、ごく自然な動作でスズの肩に止まる。


俺には鳥の鳴き声の差は分からないが、スズは軽く頷くと嘴を撫でて礼を伝えていた。


「ステ・・ブラッディーボアは5頭、この先にいるんですって。」


「5頭もか。かなり逃げてるじゃねえか」


「いや、多分家畜と山脈近くに住んでた子が一緒にいるんだと思う。脂っこそうなのとそうじゃないのが混ざっているらしいから」


魔獣を食べる目線で伝えたのか?ブルーバードが?

スズと意思疎通するイキモノはぜんぶそんな感じなのか?


疑問は尽きないが、とりあえずスルーだ。


「よし、じゃあスズ、魔獣について冒険者ならちと頭に入れとく必要がある事がある。


今回はおそらくまだだが、繁殖すると魔獣ってのは更に気性が荒くなるもんだ。手がつけられなくなる。


特に子供のいる群れに遭遇したらそれが倒せるかそうでないかを瞬時に見極めろよ」


「ハイ」


「よし、じゃあ気配を消したまま進むぞ。



そら、みえたな。あれがブラッディーボアだ」


指し示す方向には身長が俺の倍くらいのブラッディーボアを中心に5頭が街道沿いの草を食んでいる。


ブラッディーボアと名は付くが基本は草食だ。


その鼻の両横にある鋭い牙で血に塗れても戦い続ける様子から名前がついたと聞く。




「ブラッディーボアの急所は鼻だ。眉間もイイが狭いから狙いにくい。


背中なんかは毛皮が分厚くてちょっとやそっとじゃ物理攻撃も魔法攻撃も弾く。


牙も気を付けろ。


ちなみに肉は昨日食った通りだが、牙は武器や装飾に、毛皮は防具なんかに加工出来る」


ふんふんと頷くスズに、5頭をそれぞれ引き離すか?と聞いてみる。


纏めてヤる方が楽だが、ブラッディーボアは巨体な為スズの能力が未知数な以上無理はさせられない。


だが、多少の心配を他所に、スズは首を横に振り、掌をブラッディーボアに向ける。


「雷撃」


スズの魔法の威力に対して、ソレは、息を吐く様な静かな声だった。


次の瞬間、バチバチと物凄い轟音が辺りに響き渡ったのだ。それこそ、雷が落ちてきたかの様に。




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