第10話
中心部に到着して歩く事すぐ、石造りの三階建ての建物にクラウスの先導で入る。
「冒険者ギルドへようこそ・・・って!!!クラウスさん!!!!???」
「おう、久し振りだなアリス」
よっと手を挙げて応えるクラウスに受付の看板の下にいた金髪の女の子が目を見開く。
「かるっ!!??軽すぎますよ!!??クラウスさん!!??」
「わりいな。とりあえず、ギルドマスターはいるか??」
へらっと笑うクラウスに、勿論です!!!と女の子はどこかに走って消えた。
クラウスとスズが待っている間も、クラウスの姿を認めた他の冒険者達がざわざわと様子を窺っているのがわかって、スズにとっては非常に居心地がよろしくない。
「クラウスさん、私、終わるまでどこかに行っておきましょうか?」
「いや、一緒にいてくれ。居心地悪いかもしれないが」
「居心地はとっても悪いですね!!クラウスさん、人気者なんですね」
「一応Bランクの冒険者だからな。この街が拠点だし、冒険者ギルドではそこそこ知られている」
「すごいんですねえ」
「(そんな俺をスズが助けたんだがなぁ・・・)」
どことなく困った目で見られている?と内心スズが首を傾げていると、バタバタと大きな足音と共に、スキンヘッドに右目を眼帯で隠した巨躯の男が勢いよく現れた。
「漸くっっ帰ってきたな!!!クラウス!!!!」
「おう、ギルマス・・・元気そうだな」
「おかげさまでな!!!とにかく部屋に来い!!あー、そっちの嬢ちゃんは?」
ギルドマスターの声に、視線がスズに向かう。すすっとクラウスから離れようとしたスズをガシッとクラウスが掴んで留める。
「関係者だ」
「じゃあ2人とも来い!」
ギルドマスターはそのまま先導するように回れ右して元来た奥に進んだ。
案内されたのは3階にあるギルドマスターの執務室らしい。壁際にはスズの身長より大きくて長い剣が立てかけられているし、本棚には沢山の本が詰め込まれている。
部屋の中央の長椅子を指し示されたのでそこにクラウスとスズが座り正面にギルドマスターが座る。
「嬢ちゃんは初めましてだな。俺はこのカールズベールの冒険者ギルドのギルドマスター、カリオンだ」
「ギルマス、こいつはスズって名前だ。
あの山で明星の奴らに嵌められて死にかけてた俺を助けてくれたんだ」
「山でか?おまえさんはなんで山に?」
「まあ、それはとりあえず置いとこう。明星はどうだ?やはり帰ってきていないか?」
クラウスの懸念であり、今回の発端でもある明けの明星は、やはり戻っていないとギルドマスターは首を横に振る。
「戻ったマリウスと臨時パーティを組ませたB・Cソロ合同の調査を派遣したが、山にはお前達が戦ったもの以外、痕跡が特に残っていなかった。隣国に逃れたとみているが、山脈に隠れ潜んでいる可能性も否めない。
彼奴らにとって見れば、マリウスを逃した以上、此処に戻ってくるのはリスキーだしな。このまま戻ってこんだろう。手配は掛けたから冒険者資格は剥奪だ」
「明けの明星は今回が初か?他の奴と組むのは」
「ああ。んでもって、どうも下町の酒場で元冒険者に唆されたらしいな。今回の手を。
馬鹿な事をやったな、とは思う。クラウスが無事だったからこそ言える話だが」
「その元冒険者は?」
「処罰の対象として警邏に連れて行かれた。北の鉱山送りになるようだぞ」
「そうか・・・ちなみにその元冒険者って」
「流れ者だ。余所で同じような事をしてやはり失敗し、この街に来たらしい」
淡々と言うギルドマスターにクラウスはそうか、とだけ頷いた。気分の悪い話だ、とスズは黙って聞きながら視線を下に落とす。
名誉や栄誉と引き換えに、人間の黒い部分を多く見るかもしれない冒険者業というのは非常に大変だろう。
「冒険者、なるの嫌になったか?スズ」
「ううん、元々は身分証のためでもあるし・・・外の世界に興味があるのは変わらないわ」
「なんだスズは冒険者の登録に来たのか」
「スズはあの山脈の中層付近で暮らしていたんだ。1人で。魔法士でもある。治癒魔法で俺を助けてくれたんだよ」
「あの山脈の中層!!??そいつはホントか!?」
驚くギルドマスターにスズは小さく頷く。
「治癒魔法が出来る魔法士は貴重だ。クラウスは随分と幸運だったようだな」
「ああ。間違いなくスズに見つけてもらえたのは幸運だった」
「・・・じゃああのサンダーバードも」
「私が頼みました。クラウスさんは起きたばかりで、街に運べる状態じゃなかったので・・・」
「テイムか?」
サンダーバードのテイマーならとんでもないぞ、と身体を前のめりにするギルドマスターにスズもクラウスも首を横に振る。
「ならどうやって・・・」
「(いっそテイムしている方が説明はしやすいが・・・)」
どう説明したものかと唸るクラウスを横目に、スズはいつか冒険者になるなら報告が必要だろうから、と口を開く。
「私、有翼族という一族の生まれなんです。この種族は、翼を持つものとコミュニケーションを取る事が出来るので、サンダーバードに配達をお願いしたんです」
「ユウヨク族・・・聞いた事があるな・・・そうか、スズはそのユウヨク族なんだな??滅多に山から下りてこない小数の亜人の一族と聞いていたが」
「私は、一族から放逐されましたので、自由に生きているのです」
「・・・そうか。概要は分かった。今日はこの辺にしておく。クラウスには改めて明星の件で呼び出すだろうからそのつもりで。
兎にも角にも、お前が生きていて、且つ、良い縁を結んだ事をギルドマスターとして言祝ごう。
スズ、1階で冒険者の登録をするといい」
「はい!ありがとうございます!」
「あ、ギルドマスターも着いて来た方が良いんじゃないか??」
「「??」」
クラウスの提案にスズもギルドマスターも首を傾げる。
「スズ、山脈の食材とか魔獣の爪とかを売るために持ってきているぞ」
クラウスの言葉に、だからどうしたんだろう???と首を傾げるスズと対照的に、ギルドマスターはスッと立ち上がった。
「一緒に行こう。行かせてくれ。是非」
「え??」
「スズ、ギルマスは無類の素材好きなんだよ。特に山脈の」
スズはクラウスの言葉を理解できないまま、そして2人に促されるまま1階に向かったのだった。
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