第9話 視点クラウス

開けた土地とはいえ魔獣が襲ってくるかと思いきや、スライム一匹現れる事なく夜が明ける。


明方、まだ太陽が登り始めたばかりの時間にスズは自然と目を覚まして、身支度を手早く済ますと此方が言うまでもなく布団を畳んで出立の準備を行った。


「手慣れてるな」


「旅は初めてだけど狩をする時は何日か洞窟を離れるからね。放逐された5つくらいからしているから慣れたわー」


「5つ?!」


スズはケロっとした顔で言うが、5歳で放り出されたのも大概とんでもないと思うが、あの山脈で狩をその頃からするというのは更にとんでも話だ。


これが、狩猟を生業とする家庭の出ならともかく、そうではないのだ。

そうしていくのが当然のように、独りで生きてきたというのは規格外だ。

勿論、亜人だから一般的という事はないだろう。


「それより、朝ご飯作りましょうか!」


「お願いします!」


ぐーっとなる腹に、相変わらず格好つかねえなぁとガリガリ頭を掻くが、スズは夜通し起きていたらお腹も減りますねえと暢気に笑うだけだった。


朝から豪勢にレインボーサーモンの切り身を岩塩で焼き、レインボーサーモンの頭や骨で取ったスープに大麦を入れて煮たスープを食べる。


バリッと焼けた皮からしみ出るジューシーだがクドくない脂に、塩味で纏められているが優しい味のスープと街にいるより良い物しか食わせて貰ってねえな、と遠い目をしてしまう。


「うまいなぁ」


「美味しいねえ」


しみじみと味わいつつ2人でしっかり間食すると、その鍋や皿はスズの背負っていた鞄から出てきたスライムのウルルが1度飲み込み汚れだけ消化すると綺麗にして取り出す。


1度起きたときにスズが言っていた魔法かウルルにしてもらうかどちらでも良い、というのはこの事だったらしい。


テイムされているスライムにはこんな器用な事が出来るのか、旅のお供に最適ではないか。



「カールズベールまではどれくらい??」


「昼までには到着するぞ」


「あら、そんなものなのねえ!!楽しみだわぁ」


にこにこと邪気なく笑うスズに、俺としても漸く少しでも恩を返せるハズと期待している。街に連れて行って案内、冒険者ギルドに紹介して飯を奢ってって、どの程度恩を返せるかと聞かれると全然なんだが・・・


道中も拍子抜けするほど特段何もなく、カールズベールの門に到着した。


「おお!!!クラウスじゃねえか!!!!生きてて良かった!!」


「ダグラス、俺も生きて戻れて良かったわ」


バッシバシ背を叩いてくる守衛のダグラスの背中をポンポンと叩いて返す。


「あ?そっちの嬢ちゃんは?」


「俺の命の恩人だ。為人は保証する。冒険者ギルドでこれから冒険者の登録をするんだ」


「なるほどなあ。行き倒れていたところでも助けて貰ったって訳か!良かったなクラウス!!可愛い嬢ちゃんに助けて貰えてよお!


お前が保証するんなら入って良いぜ。んでもって、次に通るときは冒険者なりの身分証を提示してくれや」


「わかりました。ありがとうございます」


「丁寧でくすぐってえなあ!!俺には適当に接してくれや!!まあ、さておきだ!ようこそ!!カールズベールに!!!!」


にこにこと笑って礼を言うスズをダグラスも気に入ったようでガハハと豪快に笑って歓迎を示す。


とりあえずは冒険者ギルドだな。ギルドマスターも待っているわけだし・・・


ああ、サンダーバードの件・・・忘れてくれてるといいんだがそうも行かんよなぁ・・・


ガリガリ頭を掻きながら、少しばかり足取りが重くなった事を自覚しつつカールズベールの門を通過した。





「カールズベールの中心には領主の館があって、街はその館を中心に放射状に白い石畳の道がある。つまりはまあ、白い石畳を辿れば領主の館のある中心部に着くわけだ」


「わかりやすくて大丈夫なの?」


「中心部には冒険者ギルドや商業ギルドなんかの各ギルドもあるからな。街の警邏の本部もあってこの街で一番危険は少ない」


「なるほど」


「中心部には俺のお勧めの店もあるし、他にも色んな店があるな。


砦に近い側には屋台なんかもある。中心部に住むのはお偉いさんや裕福なやつで、良い宿もそこらにある。


で、安い宿屋や屋台、貧民街みたいなのは砦側にある。治安も良くはないが、屋台の飯もまあまあ旨い」


「屋台飯・・・とても惹かれます」


「行くときは俺と行こうな」


釘を刺しておかないと1人で行きそうだ。実力はあるが世間知らずのスズを1人で行かせて何が起こるか分からんからな。


「街には乗合馬車もあって、中心部とさっき入ってきた門を含めてこの街と余所の街を繋ぐ四カ所を繋いでいる。ちなみにさっきの東の門が山脈ほか隣国のルーフェリア王国と一番近い門になるな」


「今日は乗合馬車に乗るんですか?」


「そうだな・・・行きは乗合馬車に乗ろう。帰りは歩いても良いが今は先を急ごう」


間違いなくギルドマスターは待ち構えているだろうし、悠長に歩いて向かえば何を言われるか・・・・


「・・・・・・・・・じゃあ行こうか」


心の底から行きたくはないが・・・


「馬車、乗るの初めてです」


「そうか。結構揺れるが、まあ大丈夫だな。ソラに乗れるし」


「牽いているのは普通の馬ですか??」


「そうだな。街中の馬車の馬は魔獣じゃねえな・・・魔獣が牽いている馬車は街の外を走っている事が多いな。まあ割高なのは間違いないが」


「普通の馬・・・(今世では)初めて!意外と大きいですねえ!」


「楽しそうで何よりだ。」


よろしくねえ、と乗合馬車の馬の鼻面を撫でているスズに、ソラやサンダーバードとのやり取りを思い出して思わず苦笑してしまった。

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