第8話
「ベルリアル王国の東端、俺達が向かっている街の名前は砦の街カールズベールって言ってな、この山脈に隣接するから周囲を砦で囲っている堅牢な街だ」
「かーるず、べーる」
辿々しく街の名を呟くスズに、クラウスは頷いてみせる。今から行く街や国の事を教えてくれと請われてから、歩き始めてすぐ青空教室を始めたのだ。
「カールズベールは山脈を挟んでいるとはいえ隣国に面しているからな、結構栄えているんだぞ」
「そうなんだ。色んな人がいるの?商人だけじゃなくて旅行者とか?」
「旅行者?・・・旅人はいるぞ。貴族が行く避暑とかならカールズベールじゃなく、南とか北にある街に行くなぁ。
商人はよく行き交っているな。国内外問わず」
「(なるほど。目的が観光とかはないのねぇ)じゃあ、今回持ってきたモノも売れるかしら?」
「勿論売れる。レインボーサーモンの鱗なんかは、冒険者ギルドに登録した後買い取りに出しても良いし、商業ギルドでも買い取りがあるだろう。
レインボーサーモンの本体も持ってきたのか?」
「干したモノなら一応?
鮭とばや塩漬けは携帯食にも便利だと思って。あとは山脈で拾った物とか、ソラが狩ってきた魔物の爪とか牙とか肉とか」
「え?そんなにイロイロ持ってきたのか???その鞄に??」
「置いてきて腐らせても困るしねえ。ああ、この鞄いっぱい入るのよー」
「こいつはマジックバックか?」
斜めがけしている鞄をまじまじと見る、クラウスにスズは首を傾げる。
「マジックバック?なのかしら。亜空間魔法?的なのを付与してみた」
「・・・・そいつは多分、マジックバックで間違いないな。付与できる事は、内緒にしていた方が良い。マジックバックは希少だし、それを付与する事が出来る魔法士なんてもっと希少だ」
「そうなの??」
小説とかでよくある話だな、と内心思いながら、じゃあ、と鞄に手を突っ込む。
「ハイ」
「ん?」
ずいっと差し出したのは、いつだかに今使っている鞄と同じく魔物の革を鞣して作ったウエストポーチ擬きである。
「余っているから、クラウスさんにあげる。授業料だと思ってくれたら良いわぁ」
「俺の話聞いてた!!??」
「んえ?」
「希少なんだけど!!??」
ぐあっっと髪をグチャグチャにするクラウスに、うん??とスズは首を傾げてばかりいる。
「いらない??」
「くっっっありがとうございますっっ」
「希少だと教えてくれたし、クラウスさん以外には渡す予定もないよ。勿論売らないし」
にこにこと笑うスズに、その方が良い、とクラウスは頷いた。
そうこう歩いていると、あっという間に太陽は西に傾き、小川の近くで野営の準備を始める。
スズは背負っていた鞄から羊型の魔物から刈り取った羊毛擬きを詰めた布団擬きを敷き、鍋と食材と薪も取り出し、クラウスはその間に水を汲む。
「ごはんはなんでもいい?それとも何か狩ってくる??」
「嫌じゃなければ手持ちの食料で作ろうぜ。っつっても、俺は貰いっぱなしなんだが」
「困ったときはお互い様だからいいのよ。じゃあ薪を組んで火をつけて貰える??
夜は少し冷えるから、ロックバードの串焼きとドライトマトとキノコのスープにするわ」
「ありがたい!
ちなみに、ロックバードはCランクになる。山脈なら中層以下、生息地域はこの国より南なら大体何処の国にもいるな」
「へえ・・・!手軽に手に入る魔物なのね」
「あースズ?Cランクって言ったからな。俺」
「手軽じゃないってこと?」
「よくいるから討伐依頼は確かによく上がるな。農作物を荒らすんで農家の敵だ。
飛ぶうえに脚力が強くて手こずる」
「そうなのねえ・・・ロックバードは脂が濃くて身の弾力も強くてプリプリしているからよく使うの。骨は出汁も出るし」
「そうか・・・ちなみにソラが狩るのか?」
「ソラには食いでが少ないらしく、これは私が狩るのよー」
「そ、そうか」
色白且つ華奢なスズが狩るのか・・・とクラウスは遠い目をした。
取り出した肉の塊に岩塩を振り、火にかける。同時進行で土鍋にロックバードの骨を入れ、大麦とドライトマト、キノコ、味付け用で同じく岩塩とハーブっぽいのを幾つか入れて煮込む。
「うまそ」
「美味しいと思うわよ。クラウスさんが起きたとき食べた味付けと一緒だし、そもそも素材が美味しい!」
うふふ、と笑うスズは心底食べるのが好きなのだろうと、クラウスは愉快そうに笑った。
「飯が旨いのはありがたい。ちなみに、調理した後で言うのはなんなんだが、ロックバードも買い取り金額はまあまあ高い」
「あはは、そんなに申し訳なさそうにしなくても。何が何でもお金が欲しいわけじゃないのよ」
「まあそう言っていたが・・・」
「街で、問題なく過ごせたら、山と街を行ったり来たりするのも良いし、冒険者が面白そうなら旅に出るのも良いなぁと思っているわ。
その選択肢を作るために、街を目指しているし、ついでに金策も兼ねてるのだから。
あとは何より、街を案内して貰う約束を果たして貰うため!」
笑うスズにクラウスは熟々(つくづく)前向きな嬢ちゃんだよな、と笑った。
脂の滴る串焼きに齧り付けば、口にじゅわりと溢れる肉汁と強い弾力に、岩塩がうま味を引き出し、濃厚な素材の味を引き出す。
「うまぁ」
「うまい!!エールが欲しい!!」
すぐに二口目に齧り付いたクラウスは、目を見開き、輝かせる。
「えーる・・・私も飲んでみたいわ」
「街に行ったら奢るぞ!!これに勝る肉はねえかもしれないが、お勧めの店がある」
「楽しみ!!」
「スープもうまいな・・・骨とドライトマトとハーブしか入っていないとは思えないな。もっと複雑な調味料使っている物よりうまい」
「骨から旨味が滲み出てるよねぇ。ロックバードは美味しいわぁ」
まったりと夕飯を堪能しているとあっという間に日が暮れる。
スズにとって今生、生まれた山以外で過ごす夜は初めてだが、木で邪魔されない夜空は少し遠い。
「見張りは俺がしておくから、スズは寝てくれ。夕飯の礼だ」
「徹夜は身体に良くないわ」
「うまい飯食ったから、元気なんだよ。俺は冒険者だし、これくらいさせてくれ」
ニカッと笑うクラウスにではお願いね、とスズは掛布をクラウスに手渡し自分も布団に潜り込む。
「おやすみ」
「おう、おやすみ・・・・・・・・・・・・って、この布軽いのにやべえ」
気軽にとんでもないもの渡すなよ・・・とすでに寝息を立てるスズを横目に小さく溜息を吐いたのだった。
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