第7話

「空を自分の羽で飛ぶのは嫌だけど、ソラに乗るのは良いのか?」


一緒に下山する運びになったので、洞窟の住処から街で買い取ってもらえそうなモノをポンポン鞄に仕舞い、ソラに跨がるスズに素朴な疑問なんだが、とクラウスが首を傾げながら疑問を口にした。


「自分の羽は、違和感の塊なのよー。例えば、クラウスさんにある日羽が生えたから飛べ、って言われてもすぐには出来ないでしょう?羽のある自分を受け入れるのも簡単じゃないだろうし」


スズの言葉に、羽の生えた自分を一瞬脳裏に思い浮かべてすぐ霧散させる。


「あ?ああ、まあそうだな(似合わねえことこの上ない)」


「そういうことよ」


「イマイチわからん」


かつての日本人の記憶が邪魔をするのだ。物語を読んでいるかのようだとは思っているが、人間だった記憶は心にも体にも染みついている。


「それより、乗らないの??それとも爪で掴むか、咥えられる方が良い??」


「すぐ乗ります!」


身ひとつで運ばれてきたクラウスには、荷物はほぼなく、身分証代わりのギルドカードと念のためベルトにさしていた刃渡りの短いナイフしかない。


「あー、街に戻ったら、新しい武器も調達しねえとな」


武具の新調をしなければならない事に頭痛を感じる。


「私も連れて行ってくれる?」


「おう、それは勿論」


「ふふ、ありがとう。それじゃあソラ、高めに飛ぼうか。お願い」


-くるるる-


人型を2名分、背に乗せても揺らぐ事のない力強い羽ばたきで、ソラは街へと向かうために森を後にした。


「あー、ひょっとしてスズは今なにかしているか??」


「ん?風避けはしているよ。そのままだと寒いし」


「いつのまに・・・いや、助かるが」


「肉眼で確認できないギリギリで降りたらいいのよね??」


「ああ、悪いな」


B+~Aになる魔物を街に近づけるわけにはいかない。余計な混乱を招かないよう、商人や冒険者がよく使う比較的広い街道沿いは避け、出来るだけ視認されないよう上空を飛ぶ。


降り立ったのは山側の鬱蒼とした木の生い茂る場所で、街からも歩いて一晩は掛かる。


ワイバーンからしたら窮屈な場所だろうに、それを感じさせずソラは2人を下ろし、またすぐ飛び立った。


用事が済むまで時間が掛かるため、待っていなくて良いとスズが言い聞かせたのだ。


「大丈夫よ、普段はよく離れて行動しているの。それに、呼べば来るもの」


「そうなのか・・・ワイバーンって賢いよな」


「ふふ、ソラは特にね!優しいし、とっても強くもあるのよ」


「(でかいもんなぁ・・・・)」


この世界の魔物はレベルが高いほどその肉体は大きく凶悪になりがちだ。


ワイバーンは滅多にお目に掛かる生き物ではないが、少なくとも見た事のある魔物図鑑の記載よりソラは大きかった・・・とクラウスはソラを見送りながら遠い目をする器用な事をしてのけた。


「さ、街まで1日歩かないといけないのよね?」


「ああ。悪いな付き合わせて」


「気にしないで。行くと決めたのは私だもの。それに、ちょっと楽しみなのよ」


「ん?」


「山脈育ちだと、平坦な道って歩かないもの。洞窟以外で寝るのも久し振り!天気も良いし、気分上々よ」


ふふふ、と暢気に笑うスズに、熟々、前向きな嬢ちゃんで良かった、とクラウスは笑った。

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