第6話
「さて、どうやって街に戻るかなあ」
ガリガリと頭を掻くクラウスをスズは上から下までジイっと見る。
「あ?どうかしたか?」
「冒険者と出会ったの、よく考えたら初めてだなあと思ったの。
やはり体格が良いのねえ。銀髪はお国では一般的なのかしら?」
腕周りはスズの3倍くらいあり、身長も2メートル近いのではないかと比較対象がないため大凡の見立てをする。
銀髪はサイドが刈り上げられ、瞳は深い青色でまさに銀髪碧眼である。彫りの深い顔立ちで、日に焼けた健康的な肌の色をしている。
冒険者という危険な仕事だからなのか、右頬には3本の爪痕のような傷が鼻付近まで付いている。
一方のスズは金髪をサイドに団子にして纏めており、翠の瞳をしている。肌色は雪のように白く、身長はクラウスの胸少し下までしかなく、全体的に華奢だ。
「銀髪はそれなりにいるな。
故郷では髪が短い奴はそんなにいないが、冒険者をしていると長い髪は邪魔だからな。後方支援型ならともかく、俺は剣士でもあるからな」
「なるほど」
「それより、冒険者と出会ったの初めてなのか?」
「初めて。私、そもそもこの山脈の中腹より下に降りた事ないもの」
「生まれもか?」
「ええ。言ったでしょう?私は人族ではないって」
肩を竦めて見せて、そんなに珍しいかしら?と首を傾げる。
「俺には亜人と話している感覚はないんだがなあ。しっかりした嬢ちゃんだとは思うが」
「そう?」
しっかりはしていると思う。なにせ精神年齢は貴方より上だもの、とスズは内心笑う。
「なあ、話は変わるが、無事山を降りたら、飯か酒でも奢らせてくれ」
命の恩人にそれだけじゃ足らんだろうが、と言うクラウスに、あら、それは楽しみ。と微笑んだ。
「街には身分証的なのがないと入れないのでは?」
「ああ、山暮らしならいらねえのか。
なら俺と山を降りて、冒険者登録したらどうだ?身分証になるし。
街に入るのには俺が保証するからよ」
「そう、ねえ。街の暮らしも気になるし。
案内していただける???」
「まかせとけ」
ニカリと白い歯を見せて笑うクラウスに、楽しみだわ、と微笑んだ。
「それなら、ちゃんと自己紹介しないとねえ。
私、この山脈の峰付近に暮らす有翼族の生まれよ。もう随分前に一族からは抜けているけどねえ。
名前は、一応ルナマリアと付けられたけど、一族から抜ける時、スズって自分で付けたから今となっては、あってないような名前だけど」
「有翼族?あまり聞かないな」
「彼等は大地を生きるものと関わらないもの。
如何に力強く空を駆けるか、速いか、翼の大きさはどちらが大きいか?気流に乗るのは誰が上手いか??ってくらいの事ばかり興味があるんじゃないかしら。
そうねえ。羽が生えている事と、翼のあるモノと意思を交わしやすいわね」
「(まるで他人事のようだな)
ってことは、スズにも羽が生えてるのか??
羽の生えた亜人は天族と鳥人族しか知らねえな。天族は東国にしかいないっていうし、鳥人族は二足歩行の鳥って見た目だし」
「あるよ、でも飛ばないの」
ぱさりと軽い音を立てて何もなかった背から白い羽を出す。
「飛べない、じゃなく飛ばない?」
「そう。飛べるとは思うけど、飛んだことないし飛ぶ予定もないの」
白い羽を一度広げて、再び背中になおす。
「何故?」
「私は、他の有翼族と違って、大地を生きたいのよ。乱気流に如何に上手く乗るか、とか下らないとすら思うわ」
この辺りは前世の感覚のせいだが、その感覚は完全に理解される事はないと知っている。
空を飛ぶことに忌避感を抱くというより、自分の翼で空を飛ぶ事への違和感が強い。
「幼い頃は抱えられて空を飛んだりしたけれど、自分で飛ぶのは違和感が強くって無理なのよ。
おかげで、一族からは異端扱いで、ありがたい事に放逐されたわ」
それが辛いとか悲しいとか思わなかったのは、良くも悪くも結局前世日本人の記憶があるからだった。
「普段は翼は嵩張るからしまっておくのよー」
「嵩張るから、ってのは中々な理由だが
ありがとう、スズ」
頬を掻くクラウスのテレッとした笑みに、礼を言われる理由なんてあったかしら?と首を傾げる。
「不意を突かれてヤられて、寝込んで手間ばかり掛けさせているのに、スズは俺を信用しようとしてくれるのが嬉しいのさ」
クラウスの言葉にスズは目をまん丸に見開く。
信用しようとしている、というのは確かだ。
全面的に信用を置くほど、馬鹿ではない。クラウスもそうだと思っていたのだが、反応を見る限り、彼は既にスズの為人を把握してしまったらしい。
クラウスが目を覚まして約2日・・・、多少の会話と食事をしただけで、そんなに早く信用してしまえるものなのだろうか。
「ん?ああ、スズはしっかり俺を見極めてくれ。俺のコレは冒険者として生きてきた勘だからな!」
マジマジと見つめていた理由に当たりをつけたクラウスに、わははと笑われる。
「クラウスさんって、不思議な人ねえ」
「不思議か?第6感って奴は侮れねえぜ。この勘に従って生き残る時もあるからな!」
冒険者として生きてきた経験に基づいているのなら、やはり馬鹿に出来ない勘なのだろう。
スズにとってはどこか、信用されることに擽ったさがあるが、不愉快ではなかった。
「クラウスさん拾って良かったわー」
「おう、俺も拾ってくれたのがスズで助かった!」
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