第5話

レインボーサーモンは小型なものは鯵サイズ、大型は鰤サイズで、大型ほど脂が乗っていて大変美味しい。


鱗を削ぎ、鮎にするように竹を削ってた串に波打ちをして、焚火に掛ける。味付けは塩のみだが十分だろう、とスズはニンマリ笑う。


スズは、この魔獣が溢れ、魔法や剣の世界に生まれる前は日本で社畜に片足を突っ込んだ社会人をしていた。


どうして死んだのかは、思い出す予定はない。

死に方にもよるが、碌なもんじゃないだろうし、前世の記憶はあるが物語を読んでいるような感覚が近い。


何か前世の影響があるとするなら、食への拘りだろう。


山育ちのスズの食事はシンプルといえば聞こえはいいが、味付けもほぼない素材の味であり早々に根を上げた。


1人で暮らすようになってから、同じように山で暮らしているとは思えないほど、食事に拘っている。


「うまっっっ」


「クラウスさんの口に合って良かったよー」


火がほどよく通ったレインボーサーモンはかぶりつけば、皮を破って口の中にコクのある脂が広がる。


「あー、美味しい」


「贅沢な朝飯だよなぁ」


しみじみと呟くクラウスはすっかり体調が戻ったようだ。昨日意識が戻ったとは思えない旺盛な食欲に、冒険者は体の作りが違うのか、それとも世界的に違うのか、人と会話したのは今生ほぼ初めてのスズには分かるはずもなく。


ひとまずは腹が減っては戦はできぬと、サーモンに齧り付いた。






「あ、サンダーバード帰ってきたよー」


「お、おう。無事帰ってきて良かった」


目が泳いでいるクラウスにはて?と首を傾げたスズは、腕を伸ばしてサンダーバードが止まれるようにしてやる。


爪をたたないように気を遣ってくれているサンダーバードの頭を指の背で撫でればクルクルと甘えたように鳴くのが可愛らしい。


「スズにかかれば、ワイバーンもサンダーバードも可愛らしいな」


「可愛いですよねえ。あ、お手紙つけてますよ」


「あー。デスヨネ。


ありがとな、運んでくれて」


外した手紙を受け取ったクラウスは、義理堅くサンダーバードにも軽く頭を下げる。


-クル゛-


「お前のためじゃねえから!って言われた感じがするぜ」


「あはー、それよりお手紙はなんて?」


また手伝ってね、とサンダーバードに大きめのレインボーサーモンを食べさせる。


任せろと高音の鳴き声で返事をするサンダーバードにゆっくり食べてね。と言い残し、手紙を見ながら苦い表情をするクラウスに近付く。


「俺を嵌めやがった明星の奴らは行方が分かってねえらしい。


マリウスは戻ったが、逸れたと報告していて、俺は音信不通、いよいよヤベェってなってたところに、サンダーバードが来てギルドは大騒ぎだったらしいな」


手紙にはくれぐれも、生きて!戻って!特にサンダーバードの説明をしろと3度にわたって書いてある。


「私、イマイチ状況わかってないんですけど」


「あー、そういえば面倒見てもらっといて俺のこと全然言ってなかった」


ガリガリと頭を掻くのはクラウスの癖なのか、目を覚ましてからよく見る。  


「俺が冒険者なのは言ったな?


冒険者の事はどれくらい知ってる?」


「冒険しながら、依頼をこなしてお金を得る人?」


「おお、ざっくりだが合ってるな。


冒険者はギルドを通して依頼を受ける。


その依頼は難易度毎にランク分けされているんだが、誰でもどんなランクの依頼でも受けれるわけではないってのはわかるか?」


「危険度が違い過ぎるとか?」


「そうだ。


例えば、冒険者は1番下がEランクで1番上がSランクで依頼や魔獣のレベルも同じくEからSまである。


Cランクの任務をするなら内容にもよるが、冒険者のランクはC以上である事が必須だ。


Bランク冒険者が極端な話、Eランクの依頼を受けるのは問題ないが、逆は無理だ。


例外として、依頼を複数の冒険者で当たる場合、例えばBランクの魔獣討伐にAやBの冒険者がいるならすぐ下のCランクの冒険者も参加できる。


勿論、命懸けだから自己判断だし自己責任だがな。


上手くやれば、ギルドに実績を認められランク上げの試験への受験が認められるワケだ」


真面目に説明するクラウスだが、そこで頭を掻く。


真面目な空気がイマイチ保たないな、とスズが内心で思っているのは内緒だ。


「今回の依頼は、Cランクのレッドウルフの討伐だ。


内容としてはC+と言って良い。群れで行動する魔獣の討伐は備えるに越したことがねえからな。


受けたのはBランクの俺、テイマーのマリウス


そして5人組Cランクパーティの明けの明星だ」


そこから、死に掛けるまでの状況を愚痴も入りつつ悔しそうに話すクラウス


「なんで明けの明星はクラウスを陥れたの?」


「報酬含めた手柄の独占だろうな。


Bランクがやられて、ギリギリでもCランクだけで討伐依頼を成功させたんなら箔がつく。


冒険者にはたまにある事で、全く警戒してないわけではなかったんだがなあ」


自分より遥かに若いパーティに油断したんだとクラウスは大きく肩を落とした。


良い年のオジサンだが、草臥れて、ちょっとかわいそうになったので励ます代わりにレインボーサーモンの鱗を纏めて渡す。


宝飾品になるって言っていたので、良い土産になるはず、と思いながら。




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