第37話 一撃必殺の手刀

さて.....どう攻めたものか......



志麻は構えた状態のまま一歩も動かない。



足、腰、背、肘、手首。


そのすべてを捻ることで、高く上げた指先に力がすべて伝わっている。



このまま俺も動かなければ永遠に戦いは始まらなさそうだ。



どれ、俺の方から向かってやるか。


そうじゃないと、俺も志麻に攻撃を当てることができないからな。



俺は堂々と、散歩でもするかのように志麻に向かって歩き出す。


志麻のところまであと2メートルまで近づいたところで地面を蹴り飛ばし、一気に間合いを詰めた。


隙があれば、みぞおちに拳を押し込んで終わらせようと思ったのだが、そう簡単にはさせてくれない。



空に高く振り上げてあった右手刀が鎖骨めがけて振り下ろされた。



それを素早くかわして距離を取る。


空を切った手刀から放たれた強い風圧がかまいたちの様に胴体に袈裟斬りの形で当たったことを感じた。



「......それは当たらんぞ。ずっと警戒していたからな」



「普通は分かっていても避けられないものなんっすけどね....」



志麻の右腕は肩から手の甲にかけて薄く包帯が巻いてある。


その中身を見たことは無いが、それを使っているところは何度も見てきた。



彼女曰く、『剣術は己を刃にしてこそ真の武術』と言っていた。



志麻は竹刀を振った数と同じかそれ以上に毎日右腕の手刀を振り続けていた。


皮がむけ、内出血を起こし、あざができてもひたすら右腕を振り続けた。


やがてその腕は体と一体化した剣と化し、志麻の頼れる最強の武器に変わったのだ。



その手刀の威力は絶大で、今まで何人もこの手刀で倒されてきたところを見てきた。


俺でもまともに受けたらただでは済まないだろう。



「言っておくがな、志麻。お前がそれしか武器が無いことは知っているんだぞ。その右腕さえ注意していれば、隙を見て攻撃を当てて.....俺の勝ちだ」



「へ~....もう勝利宣言っすか兄貴。一発避けたくらいで気が早すぎるんじゃないっすか?舐めてんっすか??」



「んな分けねえだろ。それよりもどうするんだ?また同じ構えをして待つつもりか?」



すると志麻は笑った。



「いや、今のは試しただけっすよ。でもまあ、そううまくは行かないっすね。もし兄貴が油断していたらあれでいけるかなって思っただけっすよ。ここからは.......


私の方から攻めるっす!!」


縦横無尽に振り回される手刀をかいくぐりながら避ける。


ガードはしない。


下手すればそれごと飛ばされかねない......



そして少し距離が開いたかと思えば、低空にタックルを仕掛けてくる....


........と見せかけて、少女の手刀は俺の左脛へ向かった。



「当たらねえっつったろ!」



両足を高く上げ跳ぶ。



「......と見せかけて....」



小指の位置を上に返す。



しまった!


空中に飛んだところを、このまま下から上に手刀を振り上げるつもりだ。



「させるか!」



俺は膝を折りたたみ体を小さく丸めた。


振り上げられた志麻の右腕に両足を乗せ、その威力を利用しさらに後ろに大きくバク宙をしながら飛び上がり、難を逃れた。



「......やるっすね。兄貴....」



「志麻もな。なかなか知的な戦いをするようになったじゃねえか....」



「褒めるのは、私が勝ってからにしてください!!」



志麻がふたたび右腕を高く上げた。


俺もそれを迎え撃とうと構えた時、声が聞こえる。




『明人君。私が手伝ってあげようか?』

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