第16話 魔法少女 ベジキャロット①

「ふんふふんふふ〜ん」



調理室から鼻歌が聞こえる。


ピーチの言ったとおりだ。


本当にここにいた。



その魔法少女は冷蔵庫から豚肉の冷凍の詰め合わせを取り出した。


何やってんだ?料理でも始めるつもりなのか....



『どう?ターゲットはいた?』



心臓から共鳴するようにピーチの声が聞こえる。


俺の体に埋め込まれたミラクルストーンを通じて、念じることによりピーチとの通信ができるらしい。


魔法って本当になんでもありなんだな.....



「いたよ....」



調理室の扉の外から様子を見ながらそう伝える。



『どんな見た目の魔法少女か教えて』



「オレンジ色の魔法少女だ」



『他には?』



「えーと....なんか頭に巨大な人参が突き刺さっている....」



冗談ではなく本当にそうなのだ。


ありえないファッションをしているが、遠くから見ればそれほど違和感があるわけではない。


あれは本物か、食品サンプルなのかちょっと気になってくる。



『人参?.....あー分かった。《魔法少女クイーンズベジタブル》のベジキャロットね』



「ベジタブル??なんか、平和そうな名前だな」



『まあ、魔法少女全員が戦闘特化した女の子っていうわけじゃないからね。この子たちは放送期間の1年間ほぼほぼ料理作っていただけだもの』



「(ホッ....)そりゃ朗報だな」



『初戦にしてはラッキーだったわね。それで?その子は何をやっているの?』



「えー....なんか...肉取り出してなんかやってるよ。腹でも減っているんじゃないか?」



『バカ!そんなことのためにわざわざ人払いしてまで変身するわけないでしょ!!』




馬鹿だとっ!!


く〜....てめー、このやろーー



『中に入ってもっと様子を見に行きなさい!』



「何言ってんだよ!バレたらどうするんだ!!」



『別に、どうせ交戦する予定なんだからバレたっていいじゃない』



糞っ!この女、他人事のように言いやがって!!


しかしここは従わなくては.....




俺はゆっくりと調理室の中に入った。


ホラーゲームの主人公になったかのようなつもりで、足音を立てないよう中腰でゆっくりと。



調理室のテーブルは普通の教室の机とは違って大きいし、下が収納になっているから足元の空間もない。


隠れやすくて助かった.....



一つ、また一つとテーブルからテーブルへと移動し、ついにベジキャロットの隣のテーブルまで移動することができた。



そして頭を覗かせて何をしているのか様子を伺う。



「.......っ!!!」



『どう?何しているか見えた?』






「いない.....」






『はぁ??どういうこと???』



なぜか、そこにいた魔法少女の姿はなくなっていた。



この一個前のテーブルにいたときは確かにすぐそこでニコニコしながら料理を作る女の子がいたはずなのに.....




「どうなってんだこれ?」



『いや、私にそれを言われても.....』



「なんだよ、ピーチも分からないのか...

(肝心なときに使えねえな....こいつ.......)」




「ねえ、ここで何をしているの?」




「うるさいな。ちょっと俺は今立て込んで」







_____!!!!?!?!!





耳元で聞き慣れない声がし、急いで振り返る。


視界全体にはオレンジ色の少女がドアップで映し出され........







その左手には鋭利に尖った包丁が振り上げられていた。



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