第11章36話 赫く凍った世界の冒険(後編)
立ち塞がる
「ふん、相手にもならんな」
「この程度で我らを止められるとでも思ったか」
アリスとBPの前ではただの『デカい的』と言った感じだった。
モンスター図鑑によれば、ギガースのレベルは6なのでそれなりの敵のはずなんだけどなぁ……。
「……流石というか何というか……」
最終盤まで勝ち残り、もっととんでもないモンスターを仲間と一緒とはいえ倒してきた彼女たちにとってみれば、もうレベル6なんてメガリス的な相手なのかもしれない。油断はしてないようだからお小言は不要だろうけど。
狭い場所ということで巨星魔法が使えないアリスだが、逆に矮星魔法を使ってピンポイントでギガースたちの急所を潰して的確に倒していた。
BPの方は……もう策も何もない、真っ向からの打撃――しかも
攻撃力という一点では、BPはおそらく最終盤に残ったユニットの中では『最強』と言ってもいいかもしれない。下手するとガブリエラ以上の攻撃力だろう。
素のユニットとしての力が非常に高く、それを魔法で更に補強していく……という感じだろうか。
今まで見た中では――そうだな、多分クリアドーラとかエクレールに近いパワータイプでありつつ、アリスのような大火力の遠距離攻撃もできるといった『万能の攻撃タイプ』と言える。
……この場で戦わずに済んだことは幸運と思っておこう。
もしも最終戦にケイオス・ロアではなくBPが出て来てたとしたら、ゴリ押しでやられてしまっていたかもしれない。そんな風にすら思える。
「この後もまだまだ出てくるかもしれない。
魔力の残量には気を付けていこう」
私が言うまでもないとは思うけど。
BPはいいけど、アリスの方は矮星でもそこそこ魔力を消費してしまう。
どれだけ長丁場のクエストになるかわからないし、アイテムは温存しておきたいという気持ちもある。もちろん、アイテムをケチってやられてしまったら何の意味もないからタイミングの見極めは必要になるだろう。
安全な場所とかがあれば、アリスとBPで交互に変身を解いて回復に専念するという手もあるが、まぁこれは出来たら嬉しいなくらいかな。
で、私たちは当初の予定通り学校へと辿り着くことができた。
最初に現れたギガース3体の後にも散発的に襲い掛かってきはしたけど、はっきり言って大群で襲われてもどうにでもできる程度の相手がバラバラにきたとて何の脅威にもならない。
恐れていた不意打ちも受けることなく、私たちは無事に学校の正門を潜ることができた。
校庭からどこまで上へあがれるか、小さな魔法を放って確認してみたところ……やはり校舎と同じくらいの高さまでだということがわかった。
むーん……予想はしていたけど、やっぱりそんなもんかぁ……。
校舎が5階建てなので、だいたい20メートルくらい? 期待したほど遠くまでは見渡せないかもなぁ。
「アリス、私も抱えて飛んでくれる?
BPは……自力で飛べないなら、悪いけどちょっと待ってて」
彼女は見た目からして飛べなさそうだし、わざわざ飛行用の魔法を使って魔力を消費してもらうってもアレなので、地上で待っててもらった方がいいかもしれない。
そう思って声をかけたんだけど、なぜかBPはその場で変身を解いてしまう。
「茉莉も行くのです!」
「構わないぞ。使い魔殿と貴様くらいならオレ一人で充分運べるしな」
「……わかった。落っこちたら危ないから、暴れないようにね」
『ゲーム』内なら見た目がどうであれ体力とかは変身後と共通だから、多分5階くらいから落っこちたとしても大したことはないだろうけどね……。
結局、私がアリスにお姫様だっこされる形で、茉莉ちゃんが肩車してアリスの頭にしがみついていくことになった。
「……おー……感動なのです……!」
ま、茉莉ちゃんがめっちゃ感動してる……。
『ゲーム』内で空を飛ぶ機会はあったかもしれないけど、変わり果ててしまっているとは言え自分の知ってる町を空から見渡すなんて初めてだろうしね。そこはアリスも私も同じだけど。
「こら、目的を忘れるな」
「わかってるのです!」
きゃっきゃとはしゃぐ茉莉ちゃんにアリスも珍しくお姉さんモードだ。
……これが変わり果てた現実世界でなければ微笑ましい光景なんだろうけど……。
と、気を取り直して私も見える範囲で周囲を見渡してみる。
……んだけど……。
「…………何にもないね……」
「……だなぁ……」
これといって特に変わったものは見つけられなかった――この世界そのものが変わったものなのは置いておいて。
高さがちょっと足りないのであまり遠くまでは見えない、というのもある。
わかりやすいランドマークが目的地ではなく、人間サイズくらいの小さなものという可能性もあるし……。
「ちょっと気になるのは、さっきも見た『裂け目』があちこちにありそうだってことかな?」
「ああ。空が飛べない以上、『裂け目』で進めないということもありそうだな……面倒くせぇ」
現実世界と大きく異なる地形は、やはり地上の『裂け目』だろう。
BPと出会う直前、千夏君の家に向かう途中にあった『裂け目』だけでなく遠目からでもわかるくらいあちこちに巨大な『裂け目』があるのがわかる。
幅はそうでもないんだけど、長さはかなりあるっぽい。
だから地上を進むしかない今、『裂け目』がかなり邪魔になって真っすぐに目指す場所へと到達できないことが増えそうだ――仮に目的地がわかったとしても、かなりの回り道を強いられる可能性が出てきてしまった。
「んー……? あっちの方、なにかありそうな感じです?」
「どれどれ……?」
茉莉ちゃんがある方向を指さしてくる。
方向的には学校から北――桃園台記念公園とかの方かな? そちら側に学校よりも背の高い建物がないので視界は遮られてはいない。
「――亀裂が集中しているように見えるな……?」
「あ、そういうことか。なるほど、確かにそう見えるかも」
最初は何があるのかなってわからなかったけど、アリスの言う通りだ。
地上を走るいくつもの『裂け目』は一見無秩序にあるように見える。
けど、そのうちの幾つかが桃園台記念公園の方へと向けて集まっているように見えるのだ。
こちら側からだと反対方向の『裂け目』はよく見えないからただの偶然の可能性はあるけど……。
「次に行く場所は決まったな」
「うん、そうだね。あの『裂け目』の集まる場所を目指してみよう」
当てのない現状、一番有力な可能性としては妥当なところだと思う。
仮に何もなかったとしても、桃園台記念公園の方にちょっと背の高いマンションがあったりするので、そこから同じように周囲を見渡すこともできるだろうし。
ただ、さっき確認した通り『裂け目』の上を越せないので場合によってはかなりの回り道を強いられるかもしれないのは不安っちゃ不安だ。
……まぁ逆に考えれば、『裂け目』に落下する危険がないってところは安心材料ではあるか。と油断させておいて実は落っこちる場所がある、とかいう罠もありえなくもないけど。
「結構さっきのモンスターがうろついているみたいなのです」
茉莉ちゃんは更にギガースたちの様子も探っていたみたいだ。
ヤツらも巨体とはいえ人間よりちょっと大きい程度――距離が離れれば当然見づらくもなってくる。特に今回は住宅街が舞台だから陰に隠れたら全くわからなくなっちゃう。
とりあえず見える範囲では、やはり散発的にうろついているみたいだ。
脅威というほどではないけど……。
「避けながら進むのは――ちょっと難しいかもねぇ……」
「ああ。下手に避けて進むより、遭遇したやつを薙ぎ払ないながら進むでいいだろう」
そうするしかないかぁ。
アクションゲームの敵キャラみたいに、一定距離を引き離せば追いかけてこないというのであれば無視して逃げるが正解なケースもあるんだろうけど、この『ゲーム』だと延々追いかけ続けてくるモンスターとか普通にいるしなぁ……。
下手に逃げて後で挟み撃ちを食らったりするくらいなら、ちょっとくらいの魔力消費には目をつぶって倒しながら進む方が結果的に安全かつ低燃費で済むのは経験でわかっている。
「よし、敵を捌きつつ桃園台記念公園の方へと向かおう。
茉莉ちゃんも降りてからまた変身してお願いね」
「了解なのです!!」
茉莉ちゃんもこのまま変わらず協力してくれるみたいで助かる――まぁ現時点で協力しない理由はお互いないしね。
アリスが地上へと降り、茉莉ちゃんも再びBPへと変身。
私たちは桃園台記念公園の方――『裂け目』の集まっていると思しき場所へと向かうこととなった。
……口には出さなかったけど、ちょっと期待外れだったことがある。
上から見下ろしてみれば、他のメンバー――近所にいる千夏君とか、すぐに高台に昇ろうと気付いたであろう楓たちが見つかるかなって思ってたんだけど……。
残念ながら私が見た限りでは見つけることはできなかった。
私たちが千夏君の家に向かう途中でぶつかった『裂け目』が、学校の西側……楓たちのいるであろう
あるいは、もしかしたら飛んで『裂け目』を越えることができないわけだし、見た目と違って空間的に切り離されてしまっているのかもしれない。検証のしようもないし、そうだったからといって私たちがどうにかできる問題でもなさそうなので諦めるしかないか。
本当に謎だらけな上にどうすればいいのかもわからないクエストだけど、一筋の光のようなものは見えた。
桃園台記念公園に着けば何かしらの進展はある。
……そう信じて今は前に進むしかない。
* * * * *
道のりはそこまで大変ではなかった。
敵の数は上から見た時より多い感じはしたけど大したことはなかったのでいい。
むしろ空を飛べないので道に沿って進まなければならないというのが面倒だったくらいだ。
学校から公園までの間に『裂け目』はなかったので、幸い道通りに進むことはできたけど……住宅街なこともあって、細い道が多くて敵との戦闘を避けようにも難しい感じだった。
なので、とにかく遭遇したやつを片っ端から倒しながら突き進んでいく感じになった。
魔力については変身を解く暇がなかったので回復はできなかったけど、ギガース相手には大魔法も不要だ。節約しながらでも十分切り抜けることができた。
「……これは……」
そして私たちは桃園台記念公園に当たる場所――『裂け目』の集まっている個所へと辿り着いた。
そこで目にしたものは、ちょっと予想していなかったものであった。
「なるほど、上ではなく
『裂け目』の集合地点――もはや『穴』だ――の下に、空間が広がっていた。
まるで夜空のような……地下に広がる星空が私たちの目に映っている。
他の『裂け目』とは異なり、見えない壁があるわけではなく地下から降りていくことができるようだ――ご丁寧にも、『穴』の中心に向けてガラスのようなものでできた半透明の『橋』がある。
「うむ。『敵』も誘っているようだな」
……『敵』か。
BPの真意はわからないけど……多分彼女も『ゲーム』そのものが『敵』なのだということに薄々気付いているのかもしれない。
少なくとも私とアリスの認識はそうなっている。
それはともかく、彼女の言う通り『地下に降りてこい』と誘っている――そうとしか思えないかな、これは。
流石に私たちがここにたどり着くまでが早すぎる、ということもないだろう。
地下に降りてくるのも、暫定ゼウスの想定内……だと思う。
――
私を排除するのであれば、もっとやりやすい方法があったはずだ――たとえば私とアリスを合流させないとか、ギガースを大量に配置するとかもっと強いモンスターを出してくるとか……。
うーん……進んで行くほどに狙いがわからなくなってきちゃったなぁ……先に進む以外の選択肢は結局ないんだけど……。
「他のやつらとは――合流はできなさそうだが、どうする?」
アリスの問いかけに私は改めて少し考え込む。
……けど、やっぱり結論は変わらないか。
「このまま待っていても合流できるかわからないし、やっぱり私たちだけで先に進もう。
BPも一緒でいい?」
「勿論だ」
「ああ、構わんぞ。お互い仲間もいないことだしな」
正直助かる……敵がギガースしかいないにしても、一気に大量に襲い掛かられたらアリス一人だと危ういしね。主に私のせいだけど……。
「よし。それじゃあ地下に降りよう。
何があるかわからないから、BPも変身したままでお願い。アリス、悪いけど二人分運べるかな?」
「いや、少し魔力を使うが我も自力で飛ぼう。貴公は己の使い魔に専念するが良い」
これまた助かる。
……うーん、普段の暮らしとか考えるとラヴィニアの身体の方がもちろんいいんだけど、『ゲーム』内においては前の身体の方が色々と融通が利いたよなぁ……。
さて、改めて『穴』を覗いてみる。
真っ暗闇がどこまでも――底なんてないんじゃないかと思えるくらいに続いていて、そこかしこに星のような小さな光が瞬いている。
この世界を形作る赤黒い結晶は今のところ見えていない……この結晶も何か意味があるのだろうか?
後、『穴』の形状、というか壁に当たる部分は多分平坦じゃないかな。
真っ暗だから何とも言えないけど、『星』の配置からするとどうやら
降りていくだけではなく、どこかで足を着いて探索することになるかもしれないなぁ、これは……。
……いや、考えようによっちゃ『探索』する余地がある方がマシっちゃマシかも? 何事もなく終わればそれが一番なのは言うまでもないけど……。
「敵の気配はしねぇな。てっきりこの『穴』から這い上がってきてるのかと思ったが」
「確かにそうだね……でもこの後に出てこないとも限らないし、変わらず警戒はしていこう」
私があえて言う必要もないレベルだろうけどね。もうこれは癖みたいなもんだ。
「先行して我がドローンを飛ばそう。念のため後方の確認もしておいた方が良いか?」
「助かる! お願いするよ」
BPの偵察ドローンを複数出して前後の確認をしてもらうこととする。
後方からは……まぁ相手も落っこちてくる感じになるだろうし、アリスが迎撃することも不可能ではないだろうけど、警戒はしておくべきだろう。
BPのドローンに続き、私とアリス、その後ろからBP本体と後方監視用のドローンの順番で、桃園台記念公園に開いた大穴から地下へと降りてゆく――
果たしてこの先に待つのは一体何なのか……。
願わくば全ての『黒幕』と出会い、手早く決着をつけたいところだけど――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ラヴィニアとありすが恋墨家前で目覚めたのとほぼ同じ頃――
「うっ……ここは……
目覚めた少女――凛子は自分の状況がわからず混乱していた。
アリス、ケイオス・ロアとの最後の戦いが終わり、『ゲーム』の決着がついた後……彼女は自室にいたはずだった。
自らの使い魔リュウセイとも連絡がつかないまま――けれども結果はきっとわかっていたはずだ――これで本当に終わったのか、安心していいのかわからず少々不安に苛まれる時間であったが……。
そんな時、急に視界が真っ暗になり停電かと思う暇さえなく、気が付けば夜空のような場所に放り出されていたのだ。
「……現実、じゃないわよね……かといって夢でもない――」
ベタに自分の頬をつねってみるが、そんなことをするまでもなく
「……クエスト、よね……? でも、一体なぜ……?」
『変身できる』という不思議な確信がある。
ならば今いる場所がクエストなのだろう――と論理的なようなそうでないような思考でスムーズに結論へと至る。
クエストに急に放り込まれた経緯はわからずとも、そこがクエストであるならば凛子は迷わない。
改めて周囲の様子を注意深く観察する。
後にラヴィニアたちも訪れることになる地の底への穴――今自分のいる足場がどうやら真っ黒の床になっているようだ、ということを凛子は理解する。
何も見えないも同然なので足を踏み出すには勇気はいるが、とりあえず変身しておけばどのような高さであろうとも何とかなるという自信はあった。
空を見上げると星が瞬いているようには見える。
……彼女は自分が穴の中にいる、というう自覚がないため『少し不自然な夜空』にしか見えていないが……。
「うーん……? わけがわからないけど……ここに突っ立ってても仕方ないか。
リュウセイとは――くそっ、やっぱり連絡がつかない……!」
ラヴィニアたち同様、凛子も遠隔通話が使えないようになってしまっている。
頼りになる……かどうかはともかく、リュウセイと話すことができないという状況は不安を煽るものではあった。普段からあまり会話できていないのは置いておくとして。
「! ゼラ!?」
とにかく何が起きても対応できるように、とフランシーヌへと変身しどこへ向かうかを思案していた時だった。
床を這うようにして迫るものにフランシーヌは気付き――それがゼラであることを知った。
「良かった。あんたもこっちに来てたのね。
状況は――流石にわからないか」
「……」
元より会話ができないためあまり細かい状況の説明は期待してはいなかったが、ゼラの
自分たちが『ゲーム』の中になぜかいること――それしかわかっていない状況である。
「ま、しょうがないわ。
――これが延長戦だっていうなら望むところだし、もしリュウセイがこの状況に関わっているっていうなら……」
「……」
――……そうでないことを願いたいものだけどね……。
――もしあんたがやらかしたことだっていうなら、あたしが止める……!!
リュウセイに、
いざと言う時は自分の使い魔との戦いも辞さない。
そうでないことを祈りつつ……。
「いくわよ、ゼラ。このクエストを攻略するわ!」
「……!」
是を返すゼラと共に、フランシーヌは地の底を進み始める――
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