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第11章33話 "Thank you for playing !!"
* * * * *
『ゲーム』は終わった。
私たちの勝利で終わったのだ。
……何だかまだ実感がわかないな……。
クリア条件を満たして、同じく条件を満たしたケイオス・ロアたち他のユニットに勝利したことで勝ちは決まったはずだ。
アナウンスもされていたし、無事に私たちも現実世界に戻ることができているので確実なはずなんだけど……。
今までの戦いと違って、私自身は本当に見ているだけの傍観者だったことがその原因なのかもしれない。
最後の戦いを間近で見ていたけれど、私自身は本当に何もしていなかったから『勝った』……というか『戦った』実感がないせいなのかもしれない。
……でもまぁ、実際に決着はついたわけだし……。
気になるのは特に称号とかはもらえなかったことくらいかな? そういうので判断するしかないかなーと事前に思ってはいたんだけど。
…………いや、もう一個気になることがあった。
正確には
何か『違和感』があったような気がするんだけど、何についてなのかがいまいちはっきりとしないのだ。
これが何か致命的なことに繋がってなければいいが……『ゲーム』の勝利も決まったことだし杞憂に終わるかもしれない。
……という、何とも言えない感じではあるのだけど、とにかく終わったのだ。
――今はそう思うしかない。
「んー? ラヴィニア、どうしたの?」
「あ……いや、本当に終わったんだなぁって感傷に浸ってた」
私が何やら考え込んでいるのを察したのだろう、ありすが声をかけてくるが私はとりあえず誤魔化しておく。
この期に及んで『確証がないから』で話せないってのもアレだけど、折角の雰囲気を壊したくないという思いもある。
最後の対戦が終わってから早1時間くらいが経過。
私たちは当初の予定通り、花見兼祝勝会を行っている真っ最中だ。
……とは言っても、まぁ大人のやる花見とは全く違うけどね。
持ち寄って来たお弁当を食べて、後は適当に談笑しているって感じである。
今は皆して桜家の庭に出て、思い思いに過ごしているところだ。
……まぁ、主にテンションが上がりまくったなっちゃんの相手をしている感じになってるけどね。
一つ安心したことがある。
それは最終戦が終わった直後に『ゲーム』も終了して、皆の記憶が消えるんじゃないかという心配が杞憂に終わったことだ。
……これがいいことなのか悪いことなのか、考え方次第ではあるとは思うけどね……。
というのも、『ゲーム』が終わってないということは、まだクエストや対戦が有効だということを意味しているからだ。
その辺りが有効ということは、ゼウスが利用してくるかもしれないという不安はある。
けど、最終戦が終わって皆の記憶がなくなって混乱するって方が嫌だったかなぁ……とも思う。
だから良いのか悪いのかって感じかな。
……後は、終わった瞬間に私が消えてしまうという怖い事態も起きなかったのは良いことか。
何にしても勝者にはなった、けれども『ゲーム』はまだ終わっていない。この事実だけは確定していることを忘れなければいいと思う。
現実世界に戻ってくる前にマイルームで念のため全員のアイテムの補充はしておいた――アリス以外は最終戦に参加していないのでアイテムは減ってなかったけど。
ピッピがかつて語ったことによれば、『ゲーム』の開催期間は今日一杯のはず。
日付が変わるまでは油断せずに、何かが起こっても対処できるようにしておいた方がいいだろう。
……一番怖いのは夜中かなぁ……以前ならともかく、今は夜中は起きてられないしなぁ……今回ばかりは年長者組に備えてもらっても、私自身が起きてなければ意味ないかなって気はするし……一応声をかけておいた方がいいかな? まぁそれは夜になる前にまた相談しておけばいいか……。
具体的に『何をしてくるか』はちょっと読めない。
ありえるとしたら――多分だけど、
ただ、これにしたって現実世界だとすると結構難しいんじゃないだろうかとは思う。
いくらこの世界の管理権限の一部を持っているからと言っても、人一人を『消す』のはリスクが大きいはずだ。特に『ゲーム』関係者のありすと一緒に暮らしているわけだし、ありすたちも巻き添えにしようとしたら改変する範囲が広くなりすぎて手に負えなくなる可能性が高くなるはずなんだし……。
『ゲーム』内での勝者が確定した以上、使い魔である私を狙うというのが一番可能性高そうなんだけど、最もリスクの高い方法でもある――そして、そんなことをするくらいならもっと早くに手を出してきたんじゃないかなって気もする。
……結局、考えてもわからないというのには変わりない。
ゼウスが仮に現実世界で何かしたとしてもプロメテウスが何とかしてくれる……と思いたいけど、彼と連絡が取れなくなって一週間以上だ。
ここがかなり不安なところなんだよなぁ……。
この世界を巡るS世界内での出来事が佳境に入っていて忙しくなっているだけ、とかならいいんだけど……。
纏めると――
『ゲーム』については一段落ついた、というのは間違いない。
けれども、まだ油断することはできない。
そんな状況ということだ。
* * * * *
私の内心の不安をよそに、世界は動き続ける。
時刻は午後2時くらい。
思った以上に時間も余ったことだしこれからどうしようか、となり始めた頃。
――
「!?」
急に雲が出て太陽が隠れたのか、と誰もが思ったことだろう。
私たちだけではない。
きっと、この世界に住む全ての生命が。
けれど、この暗さは尋常ではない。
まるで『夜』だ――しかも、星灯りすらもない暗黒の夜としか思えないくらいの暗さである。
私たちは反射的に空を仰ぎ見――そして、『闇』の正体を知った。
「…………
ありすがそう呟く。
私たちが見たのは、
私の記憶からは消えた最終クエストで出現したガイア本体――惑星サイズの巨大な蛇の頭部だ。
それが
……ありえない!
ガイアは『ゲーム』の中の存在のはずだ。
それが現実世界に現れるなんてこと、ありえるわけがない――
「……まさか……!?」
そこまで考えて、私はある考えに至る。
現実世界にモンスターが見える時が今までにもあったはずだ。
もしかして、それと同じことが今起きているのではないか?
だとしたら何かクエストが発生しているのでは……。
そこまで思ったのだけど、私たちが行動するよりもガイアの動きは早かった。
巨大な蛇が顎を広げる。
――顎の内側には何もない、『虚無』が広がっている。
そして、ヤツの口は――誇張なしに星を丸ごと呑み込めるんじゃないかってくらいに大きく広がっており――
……次の瞬間には、世界は蛇に呑み込まれていた。
* * * * *
「う……一体、なにが……?」
いつの間にか私は倒れていたようだ。
ぼんやりとした頭が次第に覚醒……先程起きたことを思い出す。
「! ここは……!?」
ガイアらしき存在が現実世界に現れ、私たちは飲み込まれた――はずだ。
記憶が途切れた感覚があるし、もしかしたら気を失っていたのかもしれない……。
それはともかく、私が今いる場所が変わっている。
桃香の家の庭にいたはずなのに、全く異なる場所なのは間違いない。
「……
私が目覚めた場所は、見たことがないはずの場所……なんだけど、妙な既視感がある。
ちょうど細い道路くらいの幅の道の上で倒れていて、道の両脇にかなり大きな岩? のようなものが立ち並んでいる。
そして、それら岩も道も全てが赤い結晶のようなもので覆われており、空も不気味な赤黒い色をしている……。
「――くそっ、
周囲の景色に関する既視感はともかくとして、私の視界の隅っこにお馴染みのレーダーさんとかが現れている。
ということは、今いる場所はどこかのクエスト内であることを示している。
あのガイアらしきものに呑み込まれると同時に、クエストに飛ばされたってことだろう――わからないことだらけだし、とにかくそう仮定するしかなさそうだ。
……それにしても……この赤黒い色、どこかで見たような気がする。
既視感はそれだけではない。
上手く言い表せないんだけど、この場所そのものに何かを感じる……。
「ラヴィニア!」
「ありす!?」
と、そこですぐ近くの道にいたのであろうありすと合流することが出来た。
良かった――と言っていいのか微妙なところだけど、私一人だけがどこか遠くに飛ばされたってわけじゃないみたいだ。
ただ、ありす以外の子たちは見当たらないし声も聞こえてこないから、近くにはいないのかもしれない。
とにかく、まずは状況確認だ。
……ありすと話はしたけど、あんまり成果はなかった。
ありすも気が付いたばかりで状況は把握はしていないっぽい。
「…………ここ、ガイアの中のような気がする」
そうありすは語った。
確実かどうかはわからないけど、以前のガイア戦の時と同じ『違和感』を覚えているらしい。
まぁ現実世界だったのにというのを置いておくとして、ガイアらしきものに呑み込まれたっぽいので、『ここはガイアの中である』という前提でもいいとは思う。あまりに現実離れした光景だしね。
話に聞いたガイア内部ではこんな世界はなかったはずだけど、同じようなフィールドだと考えていいだろう。
……十中八九、これが
現実世界で襲撃されることを警戒してはいたけど、やはり人一人をどうにかするにはヤツにとってもリスクが大きいのだろう。
だから無理矢理クエストへと引きずり込んでどうにかする――という手段に出たんじゃないかと私は考える。
ありすたちには説明しづらいところもあるけど……。
「多分だけど、『ゲーム』の運営は私たちに勝って欲しくないんじゃないかな」
「ん。だから追加でクエストを出して、ラヴィニアをゲームオーバーにしようとしている?」
「そういうこと……だと私は思っている」
幸い、あまり深く突っ込まれずに私の考えを共有することは出来た。
ゼウス=運営は確定だし、この期に及んで誤魔化す必要があったかというと微妙なところだけど……。
「他の皆との連絡がつかないね……」
「んー……ガイアの中の時と同じ感じだけど、ちょっと違うかも……?」
最終局面でのゼノケイオス戦で他の皆と遠隔通話ができないことがあったらしい。それと、アリスだけがガイアの外にいた時にも同様だったとの話だ。
今は遠隔通話がありす以外誰にも通じないのだ。
この辺りはちょっと事情が違う――私とアリスだけがクエストに来ていて、皆は外にいるという可能性もあるが……。
ただ、皆のステータスは見えているのでクエストのどこかにはいるとは思うし、最悪の場合でもリスポーンすることは出来るだろう――ガイア戦と同じなら、私の近くではなく倒れた地点でのリスポーンになってしまうが、やらない理由はない。
「なら――エクストランス!」
今のところモンスターの気配はないけど、ここがクエストの中であることがほぼ確定。クリア条件は不明だがどこかへ向かわないとならないだろうということで、ありすは変身して戦闘に備える。
この場にアリスしかいないので、私を抱えての移動となってしまうのがちょっとネックかなー……どこかで皆、特にクロエラと合流できれば大分安心できるんだけど……。
……愚痴ってても仕方ない。
ここからどう動くべきかを考えないと……。
「? アリス、どうしたの?」
「いや……」
変身したアリスだったが、何かに気付いたように周囲を見渡している。
敵――というわけではなさそうだ。レーダーさんは頼りにならないにしても、特に不審な物音とかは聞こえてきていない。
…………そういえば、
野外のフィールドなんかだと、ちょっとした風が吹いたりで木や草が揺れる音がしたりもするんだけど……ここは完全に無音だ。
「……おいおい、まさか
アリスがそう言うと、すぐ隣の結晶の山を見上げ――その横に伸びる細い道を見る。
「嘘だろ……!?」
「アリス……?」
何かに気付いたっぽいけど、私には何がなにやら……。
「使い魔殿、落ち着いて聞いてくれ」
「う、うん……?」
「この道――見覚えがないか?」
「え? 今いる場所のこと……?」
アリスにそう言われ、私は改めて今いる場所を見る。
両脇にそこそこ規則正しく結晶の山が並び、その間に細い道――だいたい車一台ちょいくらいの道が伸びている。
……あれ? 言われてみれば何か見覚えがある……?
それに
道が
交わっている他の道も、幅が違ったりはしているけど概ね綺麗な直線を描いている……これが自然のフィールドならば、もっとこう雑然としていると思う。
偶然綺麗な直線となる場合ももちろんあるだろうが、そんな不自然が連続して――むしろこちらが主流な感じであるというのはちょっと偶然とは考えにくい。
こんなの、まるで人間が作った街のような――
「…………あれ?」
そこまで考えたところで、私も気付いた。
「
「ああ、嘘だと思いたいが――そうとしか言えねぇ」
私とアリスが気付いたことが『真実』だとすれば――先ほどの既視感についても説明ができてしまう。
未だ躊躇い、また信じ切れない私に対して、早く割り切りが済んだのであろうアリスが
「ここは――
そう……私たちが気付いたことは、正しくそれだった。
規則正しく並んだ結晶の山は、ちょうど2階建ての家くらいの大きさだ。
その間を縫うように通っている道は道路――恋墨家はちょっと奥まったところの住宅街なので、信号もないほぼ1車線の道に囲まれている。
……となると、ちょっと離れたところに見える少し大きめの結晶の山は、きっと桃園台南小なのだろう。
私とアリスは、ガイアに呑み込まれた後にこのクエスト内の恋墨家に当たる場所へと飛ばされていたことになる。
偶然……とは思わない。
仮にここが私たちの住む町を模した世界だとして――そんなことをする理由がわからない。
だから――
この場合の『最悪』とは……。
「……くそっ、やりやがったな……!!」
「……使い魔殿?」
危うくゼウスの名を言ってしまうところだったけど、それはギリギリで踏みとどまれた。
『最悪のケース』――状況から考えて
私はアリスへと考えを告げる。
「
かつてピッピと話したけど、『ゲーム』側で自由に操作できる世界の一部分をクエストとして使っているのだ。
だったら、A世界そのものだって本来ならクエストとして使えるはずだ。
今までそれをしなかった理由は簡単――これもピッピが言っていたけど、ある一定以上の知能がある生物は『ゲーム』に巻き込まないようにしているからだ。下手に巻き込むと、S世界の存在に気付かれる可能性が高くなるからというのが理由だった。
だから……これは本当にゼウスの最終手段なのだろう。
『ゲーム』の舞台となるA世界そのものをクエストにして、その中で私をどうにかして『ゲーム』の勝者となる……。
後始末は管理者権限を持つゼウスならどうとでもできるという腹積もりなのだろう。
……最悪中の最悪のケースだと、この世界そのものを跡形もなく消し去って全ての証拠を隠滅というのもありえる。いや、多分そのつもりなのだろう――この世界自体がなくなってしまえばプロメテウスとのいざこざもうやむやにできてしまいそうだし、『ゲーム』の他参加者も誤魔化せるかもしれないと一石二鳥だ。
自分で思いついてなんだけど、最低過ぎるな……でも、この方向でゼウスが考えて動いていると思わないと拙いだろう。
私の考えつく『最悪』を更に上回る『最悪』がまだあるかもしれないのだから。
「…………つまり、このクエストをクリアしなければ『ゲーム』の勝ちも意味がないし、オレたちの世界もどうなるかわからない――ってことだな?」
「うん……多分そうだと思う」
こんな時でもアリスは冷静だ。
――本当にそうなのかはわからないけど、世界そのものがクエストとなったことに対しての驚きとか混乱、家族の心配とか諸々を呑み込んで『やるべきこと』へと意識を切り替えているのだろう。
やるべきことをやる……そうすることが何よりも合理的で、問題を解決する手段だとわかっているからこそ。
……見習わなきゃいけないな、こういうところは。
「想定外の延長戦――上等だ。
力でねじ伏せて、今度こそオレたちが勝つ!」
「――うん。行こう、アリス!」
私たちにできることは元よりたった一つだけだ。
ひたすらに真っすぐ進み続けて、あらゆる困難を真正面から突破していくことだけなのだ――!
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