第11章32話 THE LAST STAND
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
最後の激突――これにおいて最も不利な立場にある、とケイオス・ロアは自覚していた。
近接戦闘は不得意ではないが、先の《アイン・ソフ・オウル》発動により霊装が失われてしまっているため、素手と魔法で戦うしかないからだ。
――ゼラは元々肉弾戦が得意そうだし、アリスも『剣』の魔法か……!
どちらも最後には肉弾戦で決めるつもりであることが見て取れる。もっとも、アリスについては相変わらず遠距離魔法を使うことを警戒しなければならないのだが。
ここで問題となるのが、ケイオス・ロアは肉体に致命的な損傷を受けているということだ。
《
傷を負ったまま、最後の激突を迎えるのは当然不利な立場にある――ましてやケイオス・ロアの本領は様々な属性魔法による遠距離攻撃の方なのだから。
――それでも、やるっきゃないわね!
ケイオス・ロアは退く気はない。
ここで下手に退いて遠距離攻撃に徹しようとしたら、おそらくそこをアリスたちに突かれる。
もちろん接近戦は危険ではあるが……戦い方としても気持ちとしても、ここで退くのは敗北に直結する。
それがケイオス・ロアの考えだ。
そこに美鈴自身の負けん気もあろうが、何よりも長年勝負事に打ち込んで来たことからくる経験則と勘がある。
「オペレーション《ヴァーミリオンサンズ》!!」
最大火力の遠距離魔法を放ちながら、自身も果敢に前へと出て至近距離から魔法をブチ当てる。
そこにしか勝利の道はない。
そうケイオス・ロアは考えるのだった。
最も警戒すべきは、アリスの持つ剣型の魔法――《
――アレは……食らったらきっと拙いわね……!
何もかもを呑み込みそうな漆黒の闇、それにケイオス・ロアは見覚えがあった。
――おそらく、ゼノケイオスを倒したあのヤバい魔法だわ……!!
ガイア内部でのゼノケイオスとの戦いに決着をつけた、名前のない魔法――全てを飲み込むブラックホールの魔法に違いない。そうケイオス・ロアは判断する。
あの時はほぼ自爆技であったが、最後の戦いまでに制御しきるだろう。アリスならばきっとそうする、という確信がある。
ただし無条件に放てるわけではなく、剣型にするなりしなければ制御できないのだと思われる。
回復が封じられている以上、食らえば確実に耐えられない――腕一本くらいならばくれてやっても良いかもしれないが、カウンターでアリスを倒しきることができなければ終わりなのには変わりない。
更には近接特化になったゼラもいる上に、肉体のダメージは一番大きい。
故に自分が一番不利なのだ。
だが逆に一発逆転の火力を秘めているのも自分である、とケイオス・ロアは自覚している。
無制限に大火力魔法を放ち続けることができるのだから、多少相手の火力や防御力があろうとも関係ない。
――……一か八かの賭けね……!
やられる前にやる、それ以外に道はない。
先に述べた通り、ひたすらに前に出て相手に最大火力をぶつけるしかないのだ。
そして長々と戦ってはいられない。
次の激突で決める――そのためには『賭け』に出ざるを得ないことを、ケイオス・ロアは理解していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「オペレーション《ヴァーミリオンサンズ》!!」
ケイオス・ロアの先制攻撃から、最後の激突は始まった。
まだ距離はある、が、《ゾディアック・フォーム》で倍化された火炎魔法が再び戦場を埋め尽くす勢いで放たれる。
その炎の海の中を、ゼラは構わず駆ける。
さしもの古代の金属であっても《ヴァーミリオンサンズ》の炎には耐えきれるものではない。
何も考えずに走っていてはゼラもすぐに燃え尽きてしまうだろう。
だからゼラは自分の身を包む『甲殻』部分とその中身である『本体』を切り分けるように身体を造り変えた。
熱で溶けるのは『甲殻』部分のみ。
その溶けた『甲殻』も取り込みなおして新たな『甲殻』として造り変える――判断が遅れれば即『本体』も焼かれる危険な方法ではあるが、スピードを落とさずに炎の中を前進し続けるにはこの方法しかない。
……それをゼラは『本能』で理解し、躊躇うことなく実行しているのだ。
ある意味で、ゼラにとってのフランシーヌは『枷』でもあった。
フランシーヌがいるからこそゼラは安心して戦えたし、フランシーヌの身を案じて行動していたが故に『本気』を出しきれていなかったと言える。
何者もゼラを遮ることのない今、そして『勝利する』という意思に燃えている今こそが、ゼラにとっての本当の意味での『本気」なのだろう。
理性によるコントロールを一切行わない本能のみの行動――動物めいた思考ではあるものの、結果としてそれがゼラの全力を引き出し、限りなく最強に近いと言えるアリスとケイオス・ロアに肉薄している。
本来のゼラであれば決して到達しえなかった境地。
フランシーヌの遺してくれた『力』と外された『枷』によって辿り着いたこの境地には、おそらく二度と至ることはできまい。
それもまた本能で理解しているゼラは、この最後の激突に全てを出し尽くすつもりだ。
――全ての『力』を、『牙』に――
身を守りながら炎を裂き突進。
その最中に自らの『力』を全て牙へと集中させる。
古代の武器を形作る金属、フランシーヌから受け継いだ
さしずめ名付けるのであれば《
大丈夫、よほどの魔法でなければ今のゼラであれば一撃で完全消滅させられることもない。
むしろ溶かされようが砕かれようが、すぐさま破片を取り込みなおして無限に身体を再生し続けることができるのだ。
ならば、純粋な体力勝負へと持ち込める。
そうなると地の体力の多さと、体力回復アイテムだけを使い続ければ良いゼラにとって有利になる。
――最後に勝つのは、ぼくだ……!!
己の勝利を信じ駆けたゼラが、ついに炎の海を突破しその視界にアリスとケイオス・ロアを捉えた――!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――くっ、やっぱり一筋縄ではいかないわね……!!
ほぼ同時に、《ヴァーミリオンサンズ》をアリスとゼラが突破してきたのを見て、やはりケイオス・ロアは自分が一か八かの賭けをせざるをえない、最も不利な立場であることを再確認した。
そして、アリスの《プルートー》、ゼラの《ブラッドファング》、そのどちらもが一撃で勝負を決めうるものであるとも。
食らったら終わり。
食らわなくても自分の攻撃で相手を倒しきれなければやはり終わり。
――……負けられない……ッ!!
自分の使い魔であるミトラの思惑はともかく、ここまで一緒に戦って来た仲間たちの想いも背負ってこの場に立っているのだ。
負けるわけにはいかない。
何よりも、ようやく待ち望んだアリスとの戦いなのだ。
『戦えて満足』では到底終われない。
『アリスに勝利して』『「ゲーム」の最終勝者となって』終わらなければならない。
……それは美鈴にとって身近な感覚だった。
小学生のころからやってきた剣道の試合――剣心会にしろ中学の部活動にしろ、自分が勝てば先へと進めるという大一番でのプレッシャーによく似ている。
ある意味で、こういうプレッシャーには慣れているのだ。
プレッシャーを感じてはいるが、それによって身体が竦んだりはしない。
むしろ緊張感によって精神が研ぎ澄まされている状態と言えるだろう。
――……!?
そのおかげだろう。
ケイオス・ロアの脳裏に唐突にある考えが浮かんできた。
――……
それは、アリスの使っている《プルートー》に対しての
《プルートー》の効果がケイオス・ロアの想像通りのものであるとすれば、
たとえば、今アリスも《ヴァーミリオンサンズ》を突破してきているが、それは《
先刻も同じ方法を使ってはいたが――もし《プルートー》であれば、突破するだけでなく不意を突いて相手を一撃で倒すことは出来ただろう。
仮に『制限』があり近距離戦でしか使えないというのであれば、同じくゼラとの格闘戦になった際に《
――この土壇場で
根拠は薄い。
しかし、ケイオス・ロアの『勘』がそう告げている。
この《プルートー》はゼノケイオス戦での知識を持つケイオス・ロアに対する
何か別の手を本命として隠すためのものなのだ、と。
「……っ」
一歩間違えば即死するような最後の激突においてフェイクを混ぜてくるとは、普通は思えない。
だが
完全なる未知を生み出す能力と発想力。
いざという時に躊躇わない決断力と胆力。
いずれも実年齢には見合わない、『異常』とも言えるものではあるが……実際に持っているのだから仕方ない。
そんなアリスが、たとえ一撃必殺だとしても《プルートー》一本でこの激突に臨むだろうか?
――…………あたしは――あたしを信じる!!
《プルートー》の他にも『本命』があるだろうことは確実だ。
そして、《プルートー》が『偽物』である保証は結局ない。
……が、ケイオス・ロアは自分の『勘』を信じた。
つまり《プルートー》は『偽物』であると。
「――オペレーション《デュランダル》!!」
仲間の想いも背負った重要な、そして最後の戦いだということはわかっている。
それらのプレッシャーも背負った上で、ケイオス・ロアは自分『勘』を信じ行動する。
自分の右手側からアリスが、左手側からゼラが迫る。
その状況で、ケイオス・ロアは完全にアリスから視線を外しゼラ一人に集中する。
《デュランダル》――《
「……ッ!?」
顎を広げ、血塗られた牙を突き立てようとしたゼラ。
その大きく開かれた口へとケイオス・ロアは自らの手刀を叩き込み――
「チィッ!?」
同時に反対方向から振り下ろされたアリスの《プルートー》を
――ケイオス・ロアの『勘』が当たったのだ。
アリスの《プルートー》は見せかけだけの――とはいえ食らえばそれなりのダメージを受けるだろうが、《デュランダル》で強化した状態ならば十分だ――刃。
おそらく《プルートー》へと対応するように誘導し、その後に必殺の魔法を使うつもりだったのだろう。完全にアリスは『虚』を突かれた形になった。
「オペレーション――」
ともあれ、ケイオス・ロアの意識はゼラへと完全に向けられている。
口の中に突っ込まれた腕にゼラが戸惑いつつも、すぐに噛み千切ろうと顎を閉じようとするのをはっきりと認識していた。
だから、ケイオス・ロアはここで一か八かの賭けに出る。
「――《
――超至近距離から、あらゆるものを消し去る
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――……ここまでやったのに、ダメなのか……。
時間の流れがやけにゆっくりとゼラには感じられた。
突っ込まれた腕からも放たれる《アイン・ソフ・オウル》は、回避のしようもなくゼラを体内から消滅させようとしている。
これに抵抗することは不可能だ。
……仮に外側から食らうのであれば、《ヴァーミリオンサンズ》の時同様に凌ぎきることはできたかもしれない。事実、一度は耐えきったのだから。
しかし内部からの破壊、それに既に消耗している今の状態では無理だ。
よって、ここに
やれることはやりきったはずだ。
だが、フランシーヌの仇をとることもできず、また彼女の願いを叶えることもできなかった。
そのことだけがゼラを衝き動かした。
――せめて、あと一撃だけでも……!!
《アイン・ソフ・オウル》に吹き飛ばされることはもう諦めた。
抵抗しようのないものに抵抗しても、消えるまでの時間が少し伸びるだけで何の意味もない。
ならばぜめて意味のある抵抗をしよう。
『本能』で動くゼラは考えることもなく、最後の力を振り絞って顎を勢いよく閉じる。
……結果、ケイオス・ロアの左腕は半ばから噛み千切られるものの……。
――……
ゼラは光に呑まれ、消滅していったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ケイオス・ロアの一か八かの賭け――それは、もう一度 《アイン・ソフ・オウル》を使うというものだった。
霊装の破壊と引き換えに発動させる、ケイオス・ロアにとっての最大魔法は普通なら一撃しか放てないという認識である。それは、ホーリー・ベルの時もそうであったように。
事実、武器型霊装『七死星剣』は一度目の《アイン・ソフ・オウル》は砕け散ってしまっている。再生は可能だが、目まぐるしく戦況の変わるこの戦いにおいてはとても間に合うものではない。
ホーリー・ベルの時と異なるのは、ケイオス・ロアの服型霊装だ。
両手足の枷と鎖という魔法の効果対象となるものの存在――それを武器型霊装同様に破壊することで、二度目の《アイン・ソフ・オウル》を放つというのが、ケイオス・ロアの奥の手にして一か八かの賭けなのである。
これは当然大きなデメリットがある。
ホーリー・ベルと異なり服型霊装の方がロードで変化し、様々な効果を発揮させることができるようになっているため、『強み』が一つ消えると言えるだろう。
反面、メリットとしては本来解除不可能な《
総合すれば、大幅な攻撃力の減少と魔法の柔軟性を失うという代償を使って、二発の極大魔法を放つというものになる。
《カムライ》は解除され、この戦闘中は二度と使うことはできない。
だから他の属性だけでここからは戦うしかない。
――左腕はもう使えない……けど構わない!
ゼラが完全消滅したのは確認した。
残るはアリス一人のみ。
……『ゲーム』側から勝者決定のアナウンスがされるまでは絶対に止まらない。
《アイン・ソフ・オウル》が至近距離で決まった以上、アリスが生き残れている確率は低い。ましてや肉体強化を極めたゼラですら消滅したのだから、アリスが耐えられるとは思えない。
けれども、
「エクスチェンジ《
すぐさまエクスチェンジをし直し、自分の身を守るための魔法を使う。
攻撃に転じる前にアリスの状態を確認しなければ、その隙を突かれかねないという考えからだ。
……それを『消極的』と考えるか『慎重』と考えるかは人によるだろう。
そして、『妙手』か『悪手』かは結果が決めることだ。
――……
ケイオス・ロアは戸惑う。
自分のすぐ右手側にいて《アイン・ソフ・オウル》を食らったはずのアリスの姿が見えない。
――自分の意識がゼラへと注がれていたのは自覚してはいたし、見失ったとしてもおかしくはないが……。
やはり《アイン・ソフ・オウル》で消し飛んだのだ、とは微塵も思わない。
何かしらの方法で生き残り、今姿を隠して反撃の機を窺っているとしか考えない。
――全方位防御はしている。だからアリスを先に見つけることができれば……!!
《ワームホール:スフィア》で自分の周囲を取り囲む空間の壁は、アリスの魔法で破ることはまず不可能だ。
唯一突破可能だとすれば、《プルートー》がブラックホール同等の効果を持っていた場合だろうが、それがないことは先ほどの攻防でわかっている――あの状況で真の力を隠すのは一撃死の危険があった以上『悪手』でしかないし、それを判断できないアリスではないはずだ。
対戦が終わってないことを考えれば、アリスは《プルートー》以外の何かしらの手段で《アイン・ソフ・オウル》を生き延び、かつ姿を隠している状況だとしか判断できない。
――……
ほとんど反射的にケイオス・ロアはそう判断。
自らの判断を疑うことなく振り返る。
身を隠す場所のないフィールドだ、少なくともケイオス・ロアの視界に入らないということは、『上』か『下』か『背後』のどれかになるはず。
そういう判断であったが――
「ぐっ!?」
振り返ろうとしたケイオス・ロアが吹き飛んだ。
――!? 《ワームホール》で守っているはずなのに……!?
外部からの攻撃は確実に防ぐはず。
なのにケイオス・ロアが背後からの攻撃で吹き飛ばされるという不可解なことが起こった。
――……!! 《ワームホール》の
そうとしか考えられない。
『
《プルートー》を防がれた後、《アイン・ソフ・オウル》を防御――おそらくは《
が、ケイオス・ロアにとっての想定外はそこまで。
アリスにとっての想定外は、《アイン・ソフ・オウル》を完全に相殺しきることができず、大きなダメージを受けていたということだろう。
しかも魔力も限界が近いのか、不意打ちも魔法ではなく肉弾攻撃であった――もしここで巨星魔法でも食らえば、流石にケイオス・ロアも倒れたことであろう。
――次が最後の一撃……!
アリスだけでなく、自分自身も限界だ。
特に霊装を全て失ってしまった以上、一秒でも早く戦いを終わらせなければ負ける確率が跳ね上がる一方なのだ、『次』が互いに最後の攻撃になる――否、最後の攻撃にならなければ負けてしまうのだ。
背後から攻撃を受けたものの、振り返りアリスを視界に捉える。
想像通り、アリスも大きなダメージを受けており、立つのが精一杯といった様子だ――これが演技の可能性は考えない。
何であろうが全力の一撃で決着をつける以外の道はないのだから。
「オペレーション《ラプチャースクリーム》!!」
最後の攻撃に選んだのは、空間の断裂で何もかもを切り裂く《ラプチャースクリーム》だった。
他の属性に切り替える余裕はない。
ならば、今の属性での最大火力をぶつけるのが最善――この期に及んで再びの防御や距離を取っての仕切り直しは『悪手』にしかならない。
不可視の空間の断裂は回避は困難、そしてアリスの魔法では防ぐことが不可能なものである。
これさえ当たれば確実に勝てる――そうケイオス・ロアは確信していた。
《アイン・ソフ・オウル》でステージ全体を薙ぎ払った以上、アリスは外側に星の種を撒いている可能性はない。
つまり、最大最強の《
――いや、アリスなら両断したところで止まらない!
勝ちの見えている状況であってもケイオス・ロアは油断しない。
体力さえ残っていればどれだけ肉体に損傷があっても生き残ることが可能――そして口さえ動けば魔法を発射することができる。
最後の一撃で仕留めることができればいいが、反撃は常に考えなければならない状況に変わりはない。
だからすぐさま意識を『追撃』へと切り替え、アリスの次の動きに対応できるようにする。
――その切り替えの早さ、土壇場であっても状況を見極める力が、アリスとケイオス・ロアとの
「…………は?」
アリスは《ラプチャースクリーム》が放たれたというのに、そのまま真っすぐケイオス・ロアへと向かって来たのだ。
回避行動すらとらない、というのは流石に予想外すぎた。
「mk《
「!? しまっ――」
が、アリスは何もしないまま無防備に空間の裂け目を受けることはしない。
使ったのは《ウォール》――防御魔法ではあるが、到底 《ラプチャースクリーム》を防げるものではない。
しかし、なぜそれを使ったのか、ケイオス・ロアはすぐさま悟る。
ほんの一瞬―― 一秒にも満たない刹那の魔法同士の激突。
当然 《ウォール》は紙のように容易く切り裂かれる……が、
次の瞬間、アリスが上へとすぐさま跳び空間の断裂を回避する。
アリスの狙いはただ一つ。
敢えて《ウォール》を出して切り裂かれることで、不可視の空間の断裂の軌道を読むことである。
回避しきれない『面』攻撃であったならばアリスの『詰み』であったが、『切り裂く』という性質上そうはならないという読みがあった。
だからこそ、《ウォール》で軌道を読んで回避しつつ距離を更に詰めるという『賭け』に出たのだ。
……理屈としてはわかるが、切り裂かれるまでの間は一秒もない。
咄嗟の回避ができるかどうかは正しく『賭け』とならざるをえないタイミングだった。
その『賭け』にアリスは勝った。
「――ッ、オペレーション 《クリアボルト》!!」
「cl 《
……もし、このタイミングで《ラプチャースクリーム》を放てれば、今度こそアリスは回避することができずに真っ二つになったことだろう。
しかし、《ラプチャースクリーム》は放ったばかり――同じ魔法を同時に放つことはできない。
結果、基本となる
「ぐっ……!?」
矢と巨星は比べるべくもない。
完全に押し負け、ケイオス・ロアが再び巨星を食らい吹き飛ばされてしまう。
――やられた……!!
背後に回られた時に巨星魔法を使わなかったのは
あそこで巨星魔法を使えば勝てた可能性は高かった。
だが、もしケイオス・ロアの反応が早ければ、《ラプチャースクリーム》で巨星ごと切り裂かれたかもしれない――アリスがそこまで想定していたかはわからないが、そうならないよう『最善』の手を打ったのだ。
更にその後の《ウォール》で軌道を読むという荒業もケイオス・ロアの想定を上回る『最善』だった。
「こ、のぉぉぉぉぉっ!!」
まだ体力は尽きていない。
己を奮い立たせるように咆哮、アリスへと向けてもう一度魔法を放とうとするが――
「awk 《
それよりも早く、アリスの方が先に魔法を放つ。
その身に宿す《
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
最後の戦いの明暗を分けたのは、奇しくも二人の『判断の速さ』の差となった。
ケイオス・ロアの方が賢い判断を的確に下すことはできていた。それは間違いない。
けれども、アリスは相手の判断を賭けを以て上回った――あるいは狂わせたのだ。
皮肉にも、土壇場においても冷静に相手の動きを読み、自らが打つべき『最善』を素早く判断できていたからこそケイオス・ロアはアリスに敗北した。
――ああ……ほんと、敵わないわね……。
悔しさはある。
もっと『こうすれば』という反省もある。
しかし、ケイオス・ロアは自分の敗北を素直に受け入れていた。
ガムシャラな、ある意味でやけっぱちとも言えるような無謀な行動が出来るか出来ないか。
それこそが
「――おめでとう、アリス」
最後にそう呟き、ケイオス・ロアも消えていった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁっ……はぁっ……」
最後の魔法を放ち、着地することもできずに地面へと墜ちたアリスだったが、最後の力を振り絞り立ち上がろうとする。
既に決着はついた。
フランシーヌ、ゼラ、ケイオス・ロア――対戦相手は全て消えた。
だから倒れたままでも何も問題はないはずだ。
「くっ……」
けれども、アリスは立ち上がった。
そして何かを呟こうとし――言葉を呑み込み、代わりに右腕を天に向けて高く掲げる。
<
Winner:
>
彼女の掲げた腕に応えるように、最終決戦の勝者が告げられる。
長きに渡る『ゲーム』――その最終勝者がこの時に決定したのだった。
-----あとがき-----
小野山です。
第10章から続く長い長いエピローグも、いよいよ終わりが見えてきました。
以降の更新ですが、先行していた別サイトに完全に追いついてしまったのでストックが0の状態です……。
なので、申し訳ありませんがしばらく不定期更新が続くことになる見込みです<m(__)m>
また、更新時間も別サイトと同時更新となるので、16時くらいになる予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます