第11章31話 異なる世界で出逢えた私の大切な人、あなたの勝利をただ願って

*  *  *  *  *




 私は幸せだったのだろうか。




 何もいいことのない不幸な人生だった、と嘆くつもりはないけれど……。

 振り返ってみれば辛いことが多かったなとは思う。

 子供のころから病気やケガ、事故が多かった。

 私が覚えている最初の生死の境を彷徨ったのは――幼稚園の時だったかな。遊んでいた遊具がいきなり壊れて落っこちて、頭を強く打つ大怪我をした時だ。

 新しく出来たばかりの遊具で、どこもおかしなところはなかったはずなのに、急に私の掴んでいた部分だけが壊れたという不思議な事故だった……らしい。後になって親から聞いた話だけど。

 ……当然覚えてはいないんだけど、それよりも前の赤ちゃんだった頃から色々とあったみたいだ。




 学校に通っている時も色々とあった。

 特に覚えているのが、校庭で遊んでいる時に転んだやつだ。

 転んだだけならまだともかく、地面に尖った石が埋まっていてそれがお腹に突き刺さったんだよね……今の身体ラヴィニアにはもちろんないんだけど、綺麗に消すのも難しいらしくって前世の身体冠城りょうにはその時の傷跡がずっと残っていた。

 まぁ歳をとるごとに薄く目立たなくなっていったし、服を着てれば見えないものだったけどね。顔じゃなかっただけマシだった、と当時は思っていた。




 他にも色々とある。

 たとえば、電車に乗ろうとしてホームで待っていたら、急に背中を誰かに押されて危うく……ということもあった。

 のに、だ。

 以来、怖くて私は電車を待つ時は必ずホームの中央にいるようにしている――おかげで混んでる電車とかは乗れずに見送るなんてこともあったけど……。




 子供のころからずっとそんな感じだった。

 だから私は

 きっと私は普通に生きることができないんだろうな、と。

 命に関わる難病とかではないけれども、じわじわと……真綿で首を絞めるように、見えない『何か』が私を死へと追いやろうとしている……。

 その『何か』は、私なんかが抵抗することもできない――そう『神様』みたいな存在なんじゃないかって。

 ……そんなものに抗うことなんてできっこない。

 人智を超えた『理不尽』と戦うことなんて無駄でしかない。

 そう、私は諦めたのだった。




 ――諦めが良すぎるんだ、君は。




 何度か言われた言葉だけど、自分でもそう思う。

 なにせ見えない『何か』に命を狙われ続けていたんだから、私は諦めることについて慣れきっていた。

 自分の力でどうしようもないことについていつまでもジタバタしてたって意味がない。疲れるだけだって。

 ……幸いと言えるのかどうかは何ともわからないけど、なんだかんだでそれなりに長い時間生きることはできたけど、結局最期はあっさりと訪れた。

 私を轢いた人――その人が、見えない『何か』に操られてやってしまったのではないことを望む。だって、それじゃ私のせいで轢いた人が犯罪者になっちゃうしね……。




*  *  *  *  *




 私が『ラビ』としてこの世界にやってきて、ありすと出会ってすぐのころだったと思う。

 ありすに対してこんな感情を抱いたことがあったはずだ。


 ――彼女はどこか


 それが一体何なのか、色々とその後も私は理屈をつけて自分を納得させたりしていたし、長くありすと共に過ごしてきたことで考えないようになっていたんだけど……。

 今にして思う。

 私がありすに対して感じていた『おかしさ』は、であると。




 確かにありすは年齢の割には理性的な判断力が強い方だと思うし、割り切りもいいと思う。

 けど、それは私とは全く異なる方向での割り切りの良さなのだろう。

 私は『諦める』ことで割り切る。

 ありすは『別の方法を模索するため』に割り切る。

 その違いだ。

 つまり――

 どうしようもない、抵抗することすら考えられない強大な『何か』に対して、今のままなら勝てないならすぐに別の方法へと切り替える――そのための割り切りだ。


 諦める私と諦めないありす――決定的な差が、きっと私の感じる『おかしさ』なのだと思う。




 ……そして、彼女はとうとうまでやってきたのだ。




 ここにたどり着くまでに私が彼女にしてあげられたことは、そんなに多くはない――『ゲーム』のシステムに則り、回復とかのちょっとしたサポートくらいしかできていない。

 私がいなくても代わりになるものがあれば、きっとありすはたどり着けただろう……そんな思いもある。




 けれども、ありすは最後に私を選んでくれた。

 ……まぁもちろん対戦フィールドに来れるのが私だけだから、というのもあるんだけど。

 それでも一番近くで見て欲しい、と願ってくれたのだ。




 だから私は、自分を卑下しない。

 今までのように諦めたりはしない。

 諦めてはならない理由があるから。

 彼女たちの世界を守るためには勝つしかない。

 ……その最後の戦いに私は手を出すことはできない。

 ただ見守ることしかできないのだ。







 ――アリスありす……!!







 声には出さない。

 とんでもない爆風やら爆音やら……思わず身を竦ませそうになる余波が私にも襲ってくるけど、私は決して目を逸らさない。

 身じろぎもせず、ただその場に立ち――アリスありすの戦いを見守る。

 どんな困難にも、理不尽な暴力相手にも屈せず立ち向かう、私にとって最高の魔法少女ヒーローの姿を。


 そして私はアリスありすの勝利を願う。

 ……祈ることはしない。だって、この戦いの勝敗は神様プロメテウスにだって操ることはできないんだから。




*  *  *  *  *




 アリスと、ケイオス・ロアと、ゼラがそれぞれ最後の勝負に出ようとしている――私にもそれがわかる。

 僅かな時間の戦いだったけど、全員が全力を既に出し尽くしてしまっている。

 もう間もなく、誰かの魔力が尽きるだろう。

 だからそうなる前に最後の勝負を仕掛けて決める……その展開は容易に想像できる。


 ここから先は、今までよりも遥かに短い時間の勝負となるだろう。

 瞬きすら許されない一瞬の戦い――







 ――アリスありす……がんばれ!







 声も出さず、身動き一つせず、私は彼女の勝利をただ願うのみだった……。

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