第11章16話 当然、すず姉といっしょ!

「すず姉♪」

「ありす♪」

「すず姉♡」

「ありす♡」

「…………」


 …………私は一体何を見せられているんだ……?

 イチャイチャしている二人を果たして私はどんな顔をして見てればいいのか、わからないよ……。


「……っと、ラビっちがチベットスナギツネみたいな顔してるし、そろそろ……」

「んー……もうちょっとー」


 前にもあったなぁ、こんなこと。


「いや、いいよ。私はもうあきらめたよ……」


 諦めちゃいけないことだろうとは思うけど、私の力でありすを美鈴の前でちゃんとさせるのは不可能だと言わざるを得ない。

 ま、他の場面では割とちゃんとできる子だし……美鈴も嫌がっていないのであればもう放置でいいだろう、と思ってる。




 さて、今日は私とありすで美鈴の家へとお邪魔している。

 美鈴にも予定があるだろうし、私たちだって『ゲーム』の勝利を目指してクエストクリアに邁進したいところではあるんだけど――

 彼女との対話はすべきである、そう私たちは判断した。

 理由はまぁ色々とあるんだけどね。その点で言えば、『美鈴との対話』よりも『ミトラとの対話』を行いたいのが本音ではある。

 けど、それはちょっと難しいし、皆には話せないけど危険も大きい――私の中では、ミトラは『ゼウス』の最有力候補者なのだから迂闊に近づきたくない――こともあって、連絡の取りやすい美鈴の出番というわけだ。

 後は……ごくごく個人的な事情も含まれている。とりわけありすについては。


「それにしても、事前にフー子たちから聞いてはいたけど……ほんと、妙なことになるわよね、ラビっちって」

「今回は流石に極めつけって感じだけどね……」


 もちろん、私が『ラヴィニア』となったことについての話だろう。

 楓たちから伝えていいか、と聞かれていたのでオーケーは出しておいたし心の準備はできていただろうけど……実際に目の当たりにするとそりゃ驚くよね。

 初顔合わせっていうならともかくとして、前からの知り合いなわけだしなおさらだろう。

 ……親戚の子がいつの間にか大きくなってた、というよりも更に衝撃を受ける感じか? いや、適切ではないかも。


「ありすと双子って設定なんだっけ?」


 設定て。いや、その通りなんだけど。


「ん、ラヴィニアは妹」

「お、そっかー。ありすもお姉ちゃんかー」


 ……全然お姉ちゃんっぽくないけどね、ありすは……。

 まぁそれはともかく、私とありすはこの世界では『双子』ということで確定しているみたいだ。

 ご丁寧にも、誕生日も8月8日と9日――深夜に日付を跨いで出産したということになっている。実際、ありすが生まれたのは深夜だったらしいから大幅な改変はしていないらしい。

 ラヴィニアという存在自体が超大幅な改変っちゃそうなんだけどね……。


「顔立ちもよく似てるわねー。

 ラビっちの顔を見るに、ありすも成長したら変身後のアリスっぽい感じになりそうだねー」

「そうかな……?」

「……私が仮に成長したとしたら、アリスみたいになるのかねー」


 面影はあるってくらいで本当にその通りに成長するかはわからないからね。

 ……私に至っては、将来があるかどうかすらわからないわけだし。

 それはともかく、アリスとラヴィニアの共通点と言えば髪と瞳の色だ。そのせいで、知ってる人間からすると『アリスに似ている』と思えてしまうんじゃないかなと思う。

 で、私とありすは『双子』設定が通ってしまう程度には顔立ちは似ている。こっちは逆に髪と瞳の色が違う以外はほぼ同じとも言えるくらいだ。

 三段論法でありすが成長したらアリスっぽくなる、となっている気はしないでもない。

 ま、その辺は数年したら明らかになることだろう。


「ね、ね。あたしとラビっちも似てると思わない?」

「えー? そうかなー? まぁ髪の色は同じだけどさ」

「ん、並んでみる」


 ありすにも促され、私と美鈴が並んでみる。


「……似てるっぽい」


 ちょっと悔しそうにありすがそういう。なぜに。


「だよねー。ふふふっ、ラビっちと並んで歩いてたら姉妹に間違われちゃうかな?」

「あー……まぁ確かにそうなりそうだねー」


 少し年の離れた姉妹で通じてしまいそうだ。髪の色が一緒だし猶更かもね。

 ……ぶっちゃけ、ありすとより美鈴との方が姉妹っぽいと私も思うんだよね。顔立ち自体はありすの方に近いんだけど。


「ほらほら、ラビっち。お姉ちゃんって言ってみ?」

「言わないよ」

「そんなこと言わずに~うりうり~」

「んもう、やめてよー」


 ぷにぷにとほっぺた突くのやめい。

 とまぁそんな感じで珍しく美鈴と私がイチャイチャしているのを、ありすが不満そうにほっぺを膨らませて見ていた。


「んー! ラヴィニアは私の妹だもん!」


 そう言うと美鈴から私を奪い返してぎゅっと抱きしめてくる。

 あらあら、やきもち妬いちゃって……可愛らしい。

 ……そのやきもちの向き先が何だかややこしいことになっているんだけど……まぁいいか。

 美鈴の方もありすのやきもちを感じ取り微笑ましく思っているのだろう、ニコニコの笑顔を浮かべている。


「……まぁ私は本当は妹じゃないんだけど……」


 私の呟きは二人にスルーされてしまった……いやわかってたけどさ。


「ふふふ、よーし! じゃあ二人纏めてあたしの妹だー!」

「ん、やった!」


 それでいいのか……ありすは納得してるみたいだし、まぁいいけどさ。


「ラヴィニア、やったね」

「えー……? もう好きにしなよ……」


 どうしよう、姉を名乗る不審者二名に絡まれてしまった……。

 そんな私の様子に構うことなく、姉を名乗る不審者たちはきゃっきゃとしているのであった……。




*  *  *  *  *




「それで、美鈴たちもガイア戦はクリアしたことになってる、で合ってるんだよね?」


 イチャイチャはそこそこに、今日の本題へと入る。


「うん。フー子たちに伝えた通りだよ。

 クエストはクリアできている、称号もあたしにだけ付いているって感じ。

 そういえばさ、フランシーヌたちの方はどうなの? 知ってる?」

「ああ、うん。直接は会話してないけど聞いているよ」


 フランシーヌ凛子については言葉通り直接会って話したわけではない。

 桃香・あやめ経由で聞いただけである。


「フランシーヌたちもクリアしたことになってるって。でも、称号がついてたのはフランシーヌじゃなくてゼラっていうもう一人の方だったみたい」

「ゼラ……あのドロドロのやつ」

「うーん、そっか……」


 クエストの記憶がないから『ゼラ』っていうのもありすたちから話を聞いただけでしか知らないんだよね。

 全身が黒い泥で出来た、今までのユニットの中では群を抜いて奇妙な姿をしているらしい。ちなみに次点はベララベラムゾンビかな? そっちと比べてもかなり異様な姿と言えるだろう。

 美鈴が少し考え込んでいるようだが、その理由もわかる。


「多分だけど、クエスト終了時点まで残ってた――ゼノケイオスとやらに戦闘不能に追い込まれていないユニットに対して称号が与えられたんだろうね」

「まぁ、そうだとは思うんだけど……だとしたら、アルに付いてないってのはちょっとわからないわね……」


 うん。そこが奇妙なところではある。

 与えたダメージ量、あるいはゼノケイオス撃破にどの程度寄与したか、が条件の可能性はある。

 ただそうだとすると、ゼラとアルストロメリアにはそこまで差はないような気はするんだよね……。私がそう思っているだけで、クエストの判定としては『差がある』としているだけかもしれないが。


「――とにかく、ガイア戦をクリアしたのはあたしたち、ラビっちたち、フランシーヌたちの三組ってことか」

「ん。結局、参加したチーム全部がクリアしたことになってる」

「そうなると、どのチームが勝利できるのか……やっぱりわからなくなってきちゃうね……」


 そう、問題はそれだ。

 事前にわかってはいたけど、美鈴たちも同じ考えらしい。


「どうする? 決着……つける?」


 にやっと挑戦的な笑みを浮かべつつ訊ねて来る美鈴。


「ん、つけたい」


 同じくほんのわずか口元を挑戦的に歪めありすが応える。


「うーん……」


 が、私としてはちょっと悩ましいところであり即答できない。

 ……ありすと美鈴の『どっちが強いか?』の決着をつけたい気持ちは理解できてるつもりではあるが……状況的に悩ましい。

 最終手段――『相手使い魔を倒す』という選択を取れば、『ゲームの勝利』に近づくことはできるだろうが、それをあまりやりたくないことは以前に語った通りだ。

 じゃあただの対戦だけやるか? となると……。


「私のことって、ミトラに話したりした?」

「ううん。流石に勝手には話せないわよ、こんな重大なこと」


 常識的で助かる。

 対戦を渋っている理由は、これだ。

 ミトラに出来る限り私の異変を伝えたくない、と私は思っている。

 いずれ知られることは避けようがないだろうけど……適切なタイミングを計りたいかなとも思っている。まぁ『適切なタイミング』っていつだよ、って話ではあるんだけど……。

 対戦をするとなると、形式はどうあれ私の姿をミトラに見られることになってしまう。

 『ゼウス』の最有力候補であるミトラ――彼との接触は可能な限り避けたいというのが本音だ。


「……ミトラにはギリギリまで私の現状は隠しておきたいかな」

「うん、わかった。あたしもそれでいいと思う。

 ……となると、ありすとの決着はおあずけかしらねー」

「むー……ざんねん」


 二人とも残念そうだけど、それ以上ごねることはなかった。


「ごめんね。ちょっと状況が不透明過ぎるから……。

 あ、でも『ゲーム』が終わった後、しばらくの間はテストプレイが続くみたいだからそこで対戦の機会が作れるかもしれない」


 ――そうは言ったが、実際に対戦できるかどうかはわからない。

 なぜならば、『ゲーム』の期間が終わった後に私が残っているかわからないからだ……。


「それに、このまま『ゲーム』が終わるかもわからない。

 もしかしたらだけど、もある――」


 この可能性はかなり高めなんじゃないかなと、特に根拠はないけど思っている。

 ……ゼウスが『ゲーム』の内容を無視して強制的に私を敗北させる可能性もゼロではないけど、『他人の目』があることを考えれば『勝者を決めるためのイベント』のようなものを開催するかも? という考えはそう筋の悪い考えではないと思う。

 もちろん、私たちからはわからないけど運営側から見れば明らかに勝者が決まっているような場合もありえる。単独一位が決まっているのであれば、そうしたイベントは起こりえないだろう。

 口にはしたものの、可能性としては五分五分かなと個人的に思っている。

 ミトラ=ゼウスが正しかったとした場合、『ゲームクリア』に王手をかけている複数チームがいたとして強引に自分を勝者にする――とはちょっと思いにくい。後腐れなく、『他人の目』を気にしないでも済むようにするとは思う……。

 不安なのは、ゼウスの『真の目的』次第ではどう転ぶかわからないというところか……。

 ヘパイストスのような、こっち側からしたら『不合理』としか思えない目的だったとしたら……私にはゼウスの考えが読めなくなってしまう。まぁ今も読めているわけではないんだけど……。


「決勝戦がありえるってわけね。確かに、他の条件が横並びならそうする以外に決着方法はないかもね」

「ん。わたしとすず姉と……あのゼラ? ってドロドロとで決着?」

「ありえるとしたら、だけどね。なんだかんだであのゼラって子、よくわからなかったわね……」


 決着がつけられればすっきりと終わらせられるけど、どうなるかは本当に未知数だ。

 ……誰もが納得いく『終わり』が迎えられた上で、この世界の未来を守ることができればいいんだけど……。

 そう私は願うばかりだった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ――……ラビっちにも相談すべきだったかな……いや、でも……。


 ありすとラヴィニアが帰った後、美鈴は自分の身に起きている『ある問題』について相談すべきだったかを思い悩む。

 手を翳してみるが、特に異常は見当たらない――剣道をずっと続けている割には、すらりとした細い自分の腕があるだけだ。

 しかし、『ゲーム』へと入りケイオス・ロアへと変身した途端に、奇妙な『痣』が腕に現れてしまう……。

 包帯に隠れているためぱっと見ただけでは他人は気付かないであろうため、『見た目』自体は気にするものではないのだが。


 ――ミトラも『特に問題はないと思う』とは言ってたけど……。


 ステータスに異常が現れているわけでもないし、ケイオス・ロアとして活動する際に影響も起きていないことは確認している。

 ただ『痣』がある、それだけのことなのではあるが……。


 ――……クエストを跨がって『痣』が残るってのも変な話だと思うしなぁ……うーん……。


 ラヴィニアに相談をしようかと考えて結局止めた理由は、『影響がない』というのが最も大きなものではあったが、それ以上にラヴィニアに起きていることの方が大問題だと思ったからだ。


 ――あたしの話で悩ませたくないからねー……ま、変な影響がないならいっか。


 気にはなるが、気にしすぎても仕方のないことだ、と美鈴は割り切る。

 ただ、もしもこの『痣』が予想外のタイミングで何か悪影響を与えることがわかったのであれば――その時は、潔く『ゲーム』から撤退しよう。どうせ一度は『死』んだ身なのだ、他のユニットの邪魔だけはしたくない。

 美鈴はそう密かに決意するのであった。

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