第11章2節 恋墨ラヴィニアとの華麗なる日常
第11章11話 姉妹大戦
プロメテウスとの話は置いておいて、それ以外では私は『恋墨ラヴィニア』として日常生活を送っていた。
昼間は学校、夕方は皆の都合次第だけど『ゲーム』、夜にありすを振り切れたらプロメテウスとの会話……となかなかに忙しい毎日だ。
……いや、まぁ前世で働いてた頃に比べたらって感じではあるんだけど。
どうも身体が子供になったせいで体力が落ちているってのもあるけど、微妙に精神年齢も身体に引っ張られているような気がする。記憶自体はそのままだから、気にするほどではないとは思うけど……記憶が残っているからこそ、学校通うのが『面倒くさい』になっちゃうのかなー?
それはともかくとして。
ちょっと心配だった学校生活だけど、問題らしい問題は発生しなかった。
苦手科目とかは、まぁこれから努力していくしかないので問題とは言わないようにしておこう……体育の時間が本当に憂鬱だ……。
それ以外だと本当に問題もなく『順調』としか言いようのない学校生活だ。
これには当然のことながら、ありす、桃香、美々香の顔見知り女子が同じクラスにいるというのが大きな理由となるだろう。
流石にねー……知り合いの誰もいないクラスに放り込まれて、今から10歳の子供と仲良くなれと言われてもって感じだ。私が大人の姿ならまぁ大人なりの対応はできるんだろうけど、同じ歳じゃなぁ……自分の子供の時を思い出しながらってのも無理がある。
『転校生』だし、どこのクラスにもいるであろうグイグイ迫ってくるコミュ強な子をきっかけに、とはなったかもね。ありすたちと同じクラスだからそこはもう関係ない話だけど。
…………んで、まぁ……良いとも悪いとも言い難いんだけど、いわゆる『女子グループ』というのが出来上がってしまっていた。
メンバーはありすたちに加えて、当然私だ。
うぇー……仕方ないこととはいえ、またこういうのに巻き込まれちゃうのかー……だからと言ってぼっちで過ごすっていうのも確かに嫌なんだけどさ……。
ま、仲の良い友達同士で固まるのは自然なこと、と前向きに考えておこう。
……ペットやら抱き枕扱いだった頃に比べれば対等な『友達』関係になれたこと自体は喜ばしいことだと思うしね。交友関係を広げるかどうかは――保留にしておこう。『ゲーム』終了後のことを考えるとどうしてもね……。
それと、ありすたちとくっついたことと関係しているかは何とも言えないけど、『転校生』へと向けられる好奇の視線……どころか質問攻めは終息したみたいだった。
もしかしたらプロメテウスがどうにかしてくれた可能性もあるけど……あんまり質問されてもボロが出るかもしれないし、助かったと思っておこう。
終業式間際の妙なタイミングであることも突っ込まれなかったし、小学校あるあるの『なんとか係』とかも全部免除されている。
ただ、授業やら宿題やらは一切の手加減はないようだった……。
「…………小学生の身になってわかる、宿題の多さよ……」
ある日の放課後、私たちはすっかりとたまり場となってしまった桃香の部屋へと集まっていた。
仲良し四人組が遊ぶため――ではない。
部屋中にはどんよりとした空気が立ち込めている。
「んー、わたしたちのクラスが特別多いだけな気がする……」
「だよねー。まぁ量はあるけど別に難しくないからいいけどさー」
「!? む、難しいですわよ!?」
原因は大量の宿題だ……。
国語、算数、理科、社会の基本四教科については毎回結構な量の宿題が出されるのが、ありすたちのクラスの『名物』だという。ほんと、嫌な名物だ……。
難易度は美々香の言う通りそこまでではない、というよりその日の授業の復習って感じなので適切ではあろう。ちょっとした振り返り要素もあり、割と理想的な宿題になっているんじゃないかなとは思う。
でもなぁ……量だけはなぁ……。
「あの先生、いつもこうなんだ?」
「ん。宿題先生」
身も蓋もないあだ名だ……絶対に本人には言えない系のやつ。
『花沢』という名前の、結構お年を召した女性教師である。
厳しそうな雰囲気を纏った、いかにもな女教師ではあるんだけど私は結構好きになれそうだと思ってる。しっかりした『先生』ってのが第一印象だし、授業とかもわかりやすいと思う。
ま、それはそれとして……子供のことを考えてはいるんだろうが宿題の多さは勘弁してもらいたいかな……『転校生』にも遠慮なしだよ……。
とはいえ、多いとは言っても20~30分もあれば終わるくらいではあるんだけどね。
……小学生の
「ねぇねぇ、恋墨ちゃんとラビちゃんってさ、双子なの?」
宿題RTAの勝者は美々香、次点でありすだった。くそぅ、ちょっと悔しい。
私ももうちょっとで終わりそうってところで、暇を持て余した美々香がふとそんなことを訊ねて来た。
「……どうなんだろうね?」
プロメテウスにそこまで聞きはしなかったけど、『恋墨家の娘』という『事実』は確定しているのだから、まぁ双子というのが妥当なんじゃないかな。同じ学年なわけだし。
……養女という可能性も残されてはいるが、まーそれはなしかな。でないと、私とありすが髪の色が違うだけで他がそっくりということへの言い訳ができないし。
でも『双子』だとしたら、二卵性双生児になるのかな。一卵性なら髪の色も同じになるだろうしね。
まぁ私の身体自体は(おそらく)ガイアが創ったものだから、そもそも双子かどうかなんて論じる意味はないわけだけど。
「ん。双子。ふー姉とはな姉とおんなじ」
と、なぜかありすはんふーと鼻息荒く断言する。
……ま、別にいいけどさ。
「
「…………は?」
おっと、そいつは聞き捨てならないなぁ……。
「ありす……それは違くない? どう考えても私の方がお姉ちゃんでしょ」
肉体年齢はともかく、精神年齢はありすより遥かに――いや、
「姉は足りてる」
……その『姉』たち、一人も血が繋がってないんだけどなぁ。
しかも、純度100%の姉って楓しかいないし。一応、椛は双子の妹だしね。
まぁそんなことはどうでもいい。
問題は、ありすが自分を『姉』、私を『妹』と認識していることだ。
「ラヴィニアは妹。わたしは姉」
「いやいや……私が姉、ありすが妹でしょ」
だって……ありすって全然お姉ちゃんっぽくないし。
半年近く一緒に過ごしてたけど、とにかく何にもできないし――まぁこれは10歳だし、家庭の教育方針とかあるから一概には言えないとは思うけど。
それでも自分の部屋の片づけとか、お風呂出て髪乾かしたりとか、程度にもよるけどお母さんのお手伝いするとか……そういうの全然できないからねぇ……。
双子だから私にお姉ちゃん的に振る舞えとまでは言わないけど、あらゆる面を総合して考えても私の方が姉だと思うんだが。
「わたしの方が人間歴長いもん」
「……前世含めたら圧倒的、いやちょこっとだけ私の方が長いよ」
「前世なんてわたしにはわからないからノーカン」
そこはまぁ受け入れてあげてもいいけど。
むぅ、ムキになって姉妹どっちかを主張する必要はないんだけど……何というか、ここで負けてありすに『妹』とされるのは何か悔しいという気持ちがわいてきてしまった。
……やっぱり身体に精神年齢も引っ張られてるのかなぁ?
「お姉ちゃんならお姉ちゃんらしく振る舞いなよ……」
10歳なのを差し引いても、ありすって見た目の物静かな印象とは違って物凄く子供っぽい性格だしね……。
私の言葉になぜかありすは堂々と胸を張って答える。
「わたしの方が宿題終わるの早かった」
「ぐ……」
確かにそうなんだけど……それは私がまだ学校生き始めたばかりだし……。
「かけっこもわたしの方が速い」
否定できない。
というか、運動能力については今の身体が貧弱すぎるとしか言いようがない。
この一点を以て『双子じゃないよね……』と言えてしまうくらいに差が開いている。それどころか、『本当に姉妹なの?』と言われるくらいかもしれない――実際姉妹かどうかはかなり怪しいんだけどさ。
「えー、ラビちゃん『妹』でいいじゃーん! あたしと一緒に妹同盟組もうよー」
何だよ妹同盟って……ノリで言ってるのはわかってるけど。
姉妹論争の発端は美々香なんだけどなぁ……この子、たまに無自覚に火種ぶっこんでくるよなぁ。
さっさと無意味な論争にケリをつけたいところではあるけど……ありすの『妹』ってのは何かやっぱり悔しいというか納得いかない。
「じゃあ、お姉ちゃんなんだから家のお手伝いとかも率先してやるんだね? お姉ちゃんだもんね、妹にかっこいいとこ見せてくれないとね」
「ん? 何でお姉ちゃんがそんなことするの? 妹はお姉ちゃんを助けるもの」
暴君じゃねぇか。
「…………わたくしはあやめお姉ちゃんのお姉ちゃんだった……?」
「いや、ありすの言うことなんて真に受けなくていいから」
んなこと言ったら、楓と椛もなっちゃんの妹になっちゃうじゃん……。
「それじゃーさ、誕生日で決めれば? 恋墨ちゃんは夏休みだったっけ?」
「ん。8月8日」
「…………」
黙り込んだ私に、ありすと美々香が視線で促してくる。
「いや、この身体の誕生日なんてわからないし……ていうかありすと同じなんじゃないの?」
「てきとーはゆるさない。なら、ラヴィニアの誕生日はこの前の日曜にする……」
……確かにガイア戦の日が誕生日と言えなくもない。そうなると妹確定ではあるけど『姉妹』設定は破綻しちゃうけどね。
「それだと双子じゃなくて――うーん、従姉妹とかになっちゃうんじゃない?
ラビちゃんの前世の誕生日は?」
……これ黙っておきたかったんだけどなぁ……。
「…………
「ほらやっぱりわたしの方がお姉ちゃん!」
そう、ラビでもラヴィニアでもなく、『冠城りょう』としての誕生日は8月9日――ありすの誕生日の翌日なんだよね……。
しかも前世で両親に聞いた話だと、元々の予定日は8日だったらしい。真夜中の出産だったらしくて大変だったみたい。
ぬぅ、嘘つけばよかったと思ったけど後の祭りか……。
「あー、はいはい。わかったよ、私が妹でいいよ……ったく」
これ以上不毛な論争を続けていても仕方ない。根負けだ。
ありすはにんまりと笑みを浮かべる。
「じゃ、これからラヴィニアはわたしのこと『お姉ちゃん』って呼んで」
「呼びません」
「えー」
不満そうではあるものの、姉の時ほど強硬に主張はしてこない。
いや、流石にありすのことを『お姉ちゃん』と呼ぶのは抵抗がある……あやめですら抵抗があるからなぁ。対外的には、私って生意気な子に思われそうだから時と場所は考えないとだけど。
「ラービちゃん!」
「うわっと!?」
美々香が私に抱き着いてくる。
びっくりした。『ラビ』の身体だと潰れちゃうかもしれない。
「じゃあ、これであたしとラビちゃんの妹同盟結成だねー!」
「わ、わたくしもあやめお姉ちゃんの妹だから、同盟に入りますわ!」
「んもー、桃香まで……」
どさくさに紛れて桃香も私に抱き着いてきた。
……手つきがちょっと怪しいけど……。
「ふーんだ、ありすはお姉ちゃんなんだから同盟入れないねー」
……うん、まぁ私の精神もやっぱり退行してる気がしないでもない。
別に本気で怒ってるわけじゃないけど、せめてもの仕返しにそう言ったものの……。
「ん、問題ない。わたしにはすず姉たちがいるもん」
「うわっ」
都合のいい時だけ妹になる特殊能力をお持ちのありすまでもが私に抱き着いてくる。
「あははっ♪ あたしら四人組で妹同盟だね!」
「いぇーい」
「いぇーいですわ♡」
「…………もう好きにしなよ……」
歓迎されていることには違いないか。
ちょっとだけ気恥ずかしさはあるけど、私に対して今までと変わらず――いや今まで以上に仲良くしてくれるというのは正直嬉しい。
この先、私がどうなるのかは全くわからない。
そして私一人だけが『世界の真実』を抱えている状態だ。
……そのことを後ろめたくも思うけど、それ以上にやはり『不安』が大きい。
彼女たちの存在、そして私を受け入れてくれている様子は――『不安』を少し和らげてくれるものであったことは間違いない。そう思うのだ。
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