第11章10話 プロメテウスはかく語りき -4-
今までずっと私は誤解していた。
『前世の世界』と、『ありすたちの世界』を始めとした数々の異世界――それらが並列であるとばかり思い込んでいた。
けど
『前世の世界』と『プロメテウスたちの世界』があり、『プロメテウスの世界』から派生して無数の異世界がある。こういう構造だったのだ。
《其方の妄想でなければ、
プロメテウスも肯定した。
彼が観測した『突然現れた世界』――『幻の世界』と呼ばれる場所こそが私のいた前世……現代日本のある『地球』の世界なのではないか。
私たちは同じことを推測していた。
もしそうだとしたら――これもまたピッピが前に言っていた『異世界転生』の可能性を満たすことができる。
曰く、
――「『C.C.』の世界同士での『魂』の移動をするんじゃなくて、一度S世界を経由して……ならいけるかもしれないわ」
とのことだった。
『C.C.』下の世界からS世界は本来認識することができないため、やはりこれも難しい――結局『管理者』権限が及ぶ範囲内でしかできないとピッピは言っていた。
けれども、前世の世界が『C.C.』下ではなく、S世界と並列する世界であれば……このS世界を経由しての転生が可能になるかもしれない。それか、S世界と同じレイヤーにあるため一気に『C.C.』世界へと降りることもできるかもしれない。
《『幻の世界』の観測はもはや出来ぬ。検証は不可能だ》
「……だよねぇ……そこはもう仕方ないけど、今までで一番有力な仮説だと思う」
もしかしたら、私以外にも転生してきている人がいるかもしれない。このA世界じゃなくて別の異世界にだって同じ理由でいけるだろう。
……ただ、それでも解決できないことがある。
「でも――
《うむ……》
何の意味も理由もなく、偶然私が転生してきた――は
本来ならばありえない転生をしただけでなく、それが元の世界によく似た世界であり、しかも『ゲーム』に巻き込まれる……なんて偶然ではないとしか思えないのだ。
『ラヴィニア』になったことも考えると……やはり何らかの狙いがあったと考えるのが妥当だろう。
「私を『ラヴィニア』の姿にしたのは、おそらくガイアだと思う」
簡単に『ガイア』についてプロメテウスに説明する。
このあたりの事情はきっと彼は知らないだろうしね。
「でも、ガイアは『ゲーム』の造ったモンスター……『ゲーム』側、もっと言えばゼウス側の存在だし……私の存在がゼウスの計画の内かって言われると――それも違うと思う」
《同意する》
何度も言うけど可能性はゼロじゃないだろうが、そうする『意味』『理由』が全く見えない。
『ゲームの勝利』に一番近い私を排除する目的だったら、もっと直接的な方法を選びそうな気がするし『ラヴィニア』になったところで何? って感じだ。まぁ排除されたくはないんだけど……。
「……ガイアはゼウスの思惑を外れた、独自の意思を持っている……?」
《ありえぬ話ではないな》
「ガイアそのものが私に何かをやらせるために、ラヴィニアの姿にした……」
《可能性としてはありえる》
決定的な証拠があるわけではないけど、これが一番可能性の高い仮説なんじゃないだろうかと思う。
「…………まぁ、だからといって、今度はガイアの目的がわからないってなるんだけどね……」
結局、そこに行きついてしまう。
《其方が転生してきただけならば、偶然の出来事で解決してもよいのだが――》
「明らかに意図を以て私を『ラヴィニア』にしたわけだからねぇ……」
《うむ。そこに何かしらの意味を見出さないわけにはいかぬな》
『ラヴィニア』になったのすら偶然……というのはありえないだろう。
ありすの話を聞いた限りでも、明らかに狙っていたとしか思えないし……。
……結局、私の元いた世界については仮説はたったものの、だからといって私に纏わる問題は解決しないままなのであった。
うーん、少しはすっきりはしたけど、やっぱり何も解決していないんだよなぁ……。
これが致命的な問題につながるのかどうかすらわからない、気持ち悪さと不安が尽きない……。
* * * * *
「弥雲さんの話に繋がるかもしれないんだけどさ、ありすは――その……なんというか『特別』な子なの?」
もう一つ気になることがある。
ありすのことだ。
弥雲さんが普通の人間ではあるもののプロメテウスと『相性』の良い人間だという話だし、もしかしたらありすも……と思ったのだ。
その辺りが影響して、ありすだけが現実世界のモンスターが見えたりなどの特殊なことが起きているのかな、と。
《いや、
其方の知るところであれば――桜桃香や
……あっさりと否定されてしまった……。
まぁ特に変なところがないのであれば、それはそれで安心とは言えるんだけど……。
プロメテウスが名を挙げた3人については私にも思い当たる節はある。
この3人の共通項と言えば――やはり『七耀族』か。
「本題からは逸れちゃうかもしれないけど、プロメテウスは『七耀族』については何か関与してたりするの?」
今までは『そういうものだ』で流してきたけど、この世界の『管理者』が答えてくれる機会なのだ。聞ける時に聞いておきたい。
七耀族に関しては『ゲーム』とは無関係の、この世界固有のものだろうしプロメテウスなら把握しているのではないかと思う。
《関与していると言えばしているが、意図したものではない》
む、何か引っかかる言い方だな……?
《……私がこの世界に
しかし、完全に不干渉というわけでもない》
「……ふむ?」
《アバターには、『専用型』『憑依型』の他に
ほう?
《『融合型』――とでも言うべきアバターが存在する。
これは『憑依型』と似てはいる……が、大きく違う点もある。『憑依型』同様にその世界の生物の身体へと乗り移るのには違いはない、が、『融合型』の場合には私の意識は一切なくなる》
……憑依の場合は、言葉を選ばなければ『相手の身体を乗っ取る』タイプのアバターだ。
でも融合の場合はそうではなく、『相手の身体に入るけど何もできなくなる』ということらしい。
……それに一体何の意味があるのか、私にはわからないが……。
《融合した生物に影響を与えることなく、『生と死』を追体験する――それが『融合型』アバターの目的だ》
……なるほど? 要するに……。
「……覗き見みたいだね……」
ぶっちゃけるとそういうことになっちゃうんだよね。
覗かれている本人は気付くことはないんだろうけど、いい気分はしないだろう――特に女性だったらなおさらだ。
まぁS世界の住人には『性別』自体が存在してないっぽいけど……。
……いや、そもそも融合しようがしていまいが『管理者』には全部筒抜けなんだろうし言っても仕方ないのか……?
《かつてこの世界が誕生した後、私が幾つかの生物に融合したことがあった。
その時、おそらくは憑依型としての適性が高い個体に融合したのだろう、融合した私の影響を知らずに受けてしまったようだ》
「……その時の子孫が『七耀族』ってことか……」
《おそらくそうだろう。時折不可思議な力を持つ個体が生まれることは確認済みだ》
プロメテウスもプロメテウスで、ちょっとポカしてるんだよなぁ……。
明確に血を受け継いでいるわけではないけど、これもまた『神の血を受け継いだ』と言えるだろう。
神話によくある半神半人というほどではない。ちょっと特殊な能力を持った――いわゆる『超能力者』とかの源流は、かつてプロメテウスが融合した生物というわけだ。
で、まぁ生き物だし遺伝が濃かったりすると、時々桃香やなっちゃんみたいに明らかに『超能力』を持ってるって感じの子が生まれるって感じなのかな。
その例で言うと、ありすはどうやら違うらしいけど……。
「ありすも七耀族ではあるけど、特に変わったところはない普通の人間ってことか……」
《そうだ。其方の影響で何かしら『M.M.』側と干渉した結果かと推測するが……私にも確かなことはわからぬ》
「むぅ……?」
ありえるとしたら、まぁ確かに私絡みかなとは思うが……。
そうだとすると、再び『私』の問題に戻ってきてしまう……うーん、プロメテウスにもありすのことがわからないとなると、もうお手上げかな……。
* * * * *
プロメテウスとの対話はこんな感じだった。
色々な点についての疑問が解けた……というよりは確認が取れたって感じだけど、それ自体は良かったと思う。
ただ、根本的なところでわからない疑問はまだ残っている。
それにプロメテウスがゼウスのやろうとしていることを未然に防ぐということもできないみたいだ。
……おそらくは、そこまではゼウスの計画通りなのだろうとは思う。
いくらプロメテウスが放浪癖があって所在不明だとは言っても、自らの所有物 (って言いたくないんだけど)であるA世界を好き勝手されたまま気付かないとまでは思っていなかったろう。
途中で気付かれても『ゲーム』の終了まで、A世界の管理権を維持できればいい……そんな風に考え、裏で立ち回っていたのは想像に難くない。
そうまでしてゼウスがA世界に固執する理由がわからない。
『嫌がらせ』なのは確かなんだろうけど、ぶっちゃけこのままだったら大した『嫌がらせ』にはならないとは思う。
そりゃ、A世界に住む人々にとってはいい迷惑なんだけど、プロメテウスに管理権が戻った時点で『なかったこと』にできてしまうのだ。その手間と労力を掛けさせるだけの『嫌がらせ』に意味なんてほとんどないだろう。
『ゲームの勝者』に与えられる副賞――A世界の管理権について揉めさせるとしても同様だ。
……
それがどの程度の『脅威』となるかもわからない……後手に回るしかない私たちは、起きたことに対処する以外に方法はないのだ。
未然に防げればそれが一番なんだけど……。
ともあれ、プロメテウスとの話は――実りがあるとも言い難いけど、かといって全くの無意味というわけではなかったと思う。
彼のことを信用するかどうかはちょっと悩ましいところではあるんだけど……少なくともゼウスの仲間というわけではないだろう。『対ゼウス』という一点に関しては信用してもいいだろう。
……まぁ、向こうからしてみれば出自不明の訳の分からない存在である私の方こそ、信用できないだろうけどね。お互い様か。
何にしてもゼウスのやろうとしていることについては、お互いに警戒をしていることには変わりない。
どうにか先手を取れればいいんだけど……プロメテウスの方でもA世界の管理権を取り戻すために頑張っているみたいだけど期待は薄そうだし、私の方もラスボスのクエストをクリアした以上次のアクションをどうするべきかは悩ましいところだ。
あんまり目立った行動をしたらゼウスに目を付けられるかも、という思いはあるが、これについてはもう手遅れな気がしないわけでもない。
なんせ謎小動物のいかにも使い魔の姿から、人間に変化してしまったわけだしね。ゼウスも気付いていると思っておいた方がいいだろう。
『ゲームの勝利』には着実に近づいている。それは間違いない。
けれども、問題は何一つとして解決しない上に新たな問題が逆に積み上がってきているくらいだ。
どうしたもんかなぁ……プロメテウスと表面上だけでも協力体制を取れているってことについてだけは進歩したとは言えるんだけどねぇ……。
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