第11章6話 学校へ行こう!
「こ、
小学校の教室の檀上――先生の机がある黒板の真正面で、沢山の子供たちの視線が私に集中する中、そう名乗った。
……子供たちの中には見知った顔が混じっている。
教室の前方、私から見て右側には雪彦君。左側には桃香――桃香はまた顔を抑えてふるふると震えているけど……まぁもうこの子はこういうもんだと思って放っておこう。
桃香より少し後方に美々香。他の子供たちが好奇の目を向けてきているのと違って、ポカーンと口を開けて私のことを見ている。……色々あって美々香というかトンコツたちに連絡できてなかったしね……。
で、最後に教室中央の一番後ろの席にいるありす。
……流石にありすと雪彦君は私が『ラヴィニア』になったことは知っているからそのこと自体に驚きはないようだったが、まさか
「では、ラヴィニアさんの席は――恋墨さんの席の隣へ。
恋墨さん、家族なのだし色々と助けてあげてください」
「! ん……わかりました」
……くぅ、色々と突っ込みたいところがあるけど、混乱しっぱなしでそんな余裕もない……!
様々な視線を向けられつつ、私は指定された席――ありすの隣の席へと座ることとなったのだった。
『……ラヴィニア?』
『いや、私にもわからないよ……』
何がどうなっているのか――いや、この
とにもかくにも、まずは『学校生活』をどうにかしないと……。
* * * * *
「はぁ……やっと落ち着いた……」
「ん、お疲れ」
転校生のお約束ってやつで、ずっともみくちゃにされてて大変だった……。
ありすとの関係も聞かれたし、やはりというべきか『見た目』についてもかなり突っ込まれた――美鈴もかつてはこんな感じだったのかな……? ありすとの関係については、正直私もどう答えればいいのかわからない……『家族だよ』とだけ答えておいたけどさ。
後は『外国語話せる!?』とキラキラした目で尋ねられるのには参った。ごめんね、私この国の言葉しか話せないんだよ……厳密にはこの国の言葉=日本語ではないんだけどね。
私がようやく解放されたのはお昼休みに入ってからだった。
……まぁ本当の意味で解放されたのではなく、正気に返った
今は人気のない校庭の隅っこに、私、ありす、桃香、美々香の4人で集まっている。確か、以前ドクター・フーの正体を探ろうとして学校に来た時もここに集まったっけ。あの時にはまさか人間の姿になってここに来ることになるなんて思ってもみなかったけど……。
「ぐふふっ♡ お疲れ様ですわ、ラビ様」
「でさー、一体全体何がどうなってるの?」
昨夜の話し合いには桃香は参加してなかったけど、多分隙を見てありすと雪彦君が遠隔通話で伝えておいてくれたのだろう。
本当に正気かはちょっと疑わしいが、私のことを『ラビ』であるという認識にはなっているようだ。
美々香の方は……まぁ説明しなきゃわからないよね。そりゃ……。
「うーん……私たちもわからないことの方が多いんだけど……」
落ち着いて話すなら放課後に集まって、とかの方がいいのだが、いかにも『待ちきれない!』と言った雰囲気の美々香。
まぁ私の学校生活には彼女のフォローも必要だ。話せる時に早めに話しておいた方がいいだろう。
私は昨日からの出来事、そして桃香たちも知らないであろう今朝の出来事について説明する――
ま、説明すると言っても、自分で宣言したように『わからないことの方が多い』わけで……。
大部分は『プロメテウスの仕業』で納得いくんだけど、彼のことは皆には話せないしね。そこは適当に濁しておくしかない。
まずは朝、いきなり私も学校に行くようにと美奈子さんに言われ……で、部屋をよく見ると私用のランドセルが存在していた。
……昨日あったっけ? 『ラヴィニア』になったことで混乱してて見落としてたか? とも思ったけど、私が学校に行かなければならないという事実には変わりはない。
で、ありすと一緒に登校――かと思ったら、ありすとは別に美奈子さん弥雲さんと一緒に行くことになっていた。
なんでだろうと思ったら、どうやら私は『転校生』という扱いらしい。
いやに中途半端な現実改変だなーとは思ったが、このあたりはプロメテウスに確認するしかないと流すこととした。
『恋墨ラヴィニア』というフルネームを知ったのもこの時だ……。
『恋墨家』の一員であり一緒に住んでいるというになぜ『転校生』なのか? という疑問もこの時に美奈子さんたちの会話から察した。
どうやら私は『大病を患いずっと入院していた』ことになっているらしい。
……その割には美奈子さんたちの対応はいつも通りな気がするけど……自宅療養とかの扱いだったのかなぁ? これもまたプロメテウス案件だ。
後はありすたちも知っている通りだ。
普通、同じ家族や親族って同じクラスにはならないとは思うんだけど……まぁこれもプロメテウスの仕業なんだろうけどさ。いや、顔見知りがいるのは安心できるからいいんだけど。
むーん……やっぱりどうしてもプロメテウスと話をしなきゃなぁとは思う。ただなかなか一人になる時間が取れないんだよね……学校で携帯弄ってるの見つかったら、先生に没収されちゃうだろうし。
ともかく、今朝からの話を皆にしてみたが、反応はやはりというべきかはてなマークが浮かんでる感じだった。
そりゃそうだよね。
「んー……でも、ラヴィニアが同じクラスになったのは嬉しい」
「ですわね♡ 以前よりもお話しやすくなりましたわ」
「だね! ねぇラビちゃん、師匠に話しちゃっていい?」
「あ、うん。そうだね、トンコツにも教えておいて。どこかで直接会うつもりではあるけど」
「オッケー!」
考えたって結論が出るわけでもない。
というより、ある程度の解答をしっている人がいるのだからそっちに話を聞くのが一番だろう。
色々と不明なことはありつつも――ありすたちのフォローもあり私はとにかく学校生活一日目を乗り切ろうとするのだった……。
* * * * *
……大人になった自分が、記憶を持ったまま子供の姿に若返ったら?
という妄想をしたことがある人は多いだろう。単純に「あの時ああしていれば……」という後悔から考える人もいるだろう。
ただ――じゃあそれが現実になった時に嬉しいか? って言われると……微妙だっていうのが私の感想だった。
とにかく……
今日だけの話じゃなく、もしもこの先の人生を子供からやり直すんだと考えるとかなり憂鬱になってきてしまう。
近いところだと受験勉強、10数年後には就職が控えている。
……うぇー、またアレやらなきゃいけないのぉ? って感じだ。たとえ大人の記憶を持っているからと言って、前よりも偏差値の高い学校に簡単に入れるってわけでもないしね。
何よりも大人ならわかるだろうけど、子供の頃の勉強の内容なんてサッパリ覚えてないよ……。
「うぐぅ……」
本日の全授業が終わったところで、私は呻いてしまう。
これ、思った以上に大変かもしれない。
全教科受けたわけじゃないけど、感触としてはこんな感じだ。
『国語』『算数』は全然問題ない。
ここは日本じゃないけど、言葉は全く同じだし漢字とかも見たことのないものが混じっていたりはしない。まぁ漢字の書き順とか大分忘れているところはあったけど。
算数も小学生の内容なら流石に解ける。うーん、中学生くらいの数学になったら結構怪しいかもしれない……。
『家庭科』もまぁきっと大丈夫だろう。調理実習にしろお裁縫の実習にしろ、別に苦手じゃないし。
『音楽』は……小学生の必修科目である『リコーダー』の吹き方を完全に忘れているってのを除けば、まぁ多分大丈夫なんじゃないかな……。『図工』も同じくだけど、そもそも大人の記憶を持ってたしてもあんまり関係ない教科だしね……。
意外と問題ありなのが『理科』『社会』だ。
理科はかなり忘れている。教科書を見てれば思い出せるものもあるし、『そんなのあったっけ?』みたいなことが多い。前世と内容は変わりないとは思うんだけど……勉強しないとテストでかなり悪い点を取りそうだ……。
社会が一番大変だろう。特に、小学生ではそこまで踏み込んだことは習わないけど『歴史』関係がかなり厳しい。
前世の世界とよく似た世界ではあるんだけど、全く同じ世界ではないのだ。歴史なんかかなり変わっているようだ。
……んで、一番の問題は『体育』だ。
この『ラヴィニア』の身体……とにかく体力がない。
私の頭が身体についていけてないってのもあるんだろうけど、思うように身体が動かせないしちょっと走っただけで息が上がってしまう。
教室に行くために階段を上り下りするだけでもかなりの疲労感がある……今日は体育の授業がなかったからいいけど、これはかなり大変そうだ……。
うーむ、前世では別に運動好きではなかったけど苦手というほどでもなかったんだけどなぁ……。
「ラヴィニア、疲れた?」
「うん……結構しんどい……」
体格はありすと鏡写しと言ってもいいくらいそっくりなんだけど、運動能力には物凄い差が開いているっぽいなぁ。これから慣れていけば、普通に運動できるようになるのか、それとも意識して鍛えないといけないのか……。
「もうちょっとで帰れる」
「うん……あー、でも宿題あるんだっけ……」
「ん。うちのクラス名物」
嫌な名物だ……。
でも、ありすの言う通りもう少しで学校から帰れる。
……帰った後すぐに寝ちゃうわけにはいかないけど、ちょっとゆっくりしたいかな……まぁ『ゲーム』関連の話も皆としなきゃいけないしあんまり休めないかもなぁ……主に私が原因だから文句言える立場じゃないのはわかっているけどさ。
そんなこんなで私の初登校は終わった。
『転校生』としての洗礼はすぐに収まるだろうけど……毎日学校通うって、大変だったんだなぁ……なんて遠い目をしてしまう私なのであった……。
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