第11章5話 使い魔ラヴィニア

「……やっぱり『ラヴィニア』の姿のまんまかー……」


 お馴染みの荒野フィールドへと降り立った私たち。

 真っ先に自分の姿を確認したものの、予想はしていたけど『ラヴィニア』の姿のままだった。

 ……ほんのちょっとだけ、いざクエストにやってきたら『ラビ』の姿に戻るんじゃないかなという期待はあったんだけど……まぁ仕方ない。


「クエストには来れたな。

 使い魔殿、レーダーとかはどうだ?」

「うん。前と身体が違うからまだ違和感はあるけど、いつも通りみたいだね」


 クエスト内に来た途端、私の視界にいつも通りのコンソールが色々と現れてくる。

 レーダーさんにアイテム選択もちゃんとある。

 前みたいに『耳』じゃなくて自分の手でボタンを押したりしなければならないので、その動作にちょっと慣れが必要かな。


「むー……殿様をどうしよう……?」


 ジュリエッタが私を見上げて悩んでいる。

 ……ああ、そうか。


「身体がこれじゃねぇ……おんぶしてもらうってのはもう無理かな」

「ああ。いや、背負うこと自体はできるが、危なっかしいな」


 アリスやガブリエラなら体格的に私より大きいのでおんぶも無理じゃないけど、そうすると動きを大きく妨げることになってしまう。

 となると――


「ボスはサイドカーに乗ってもらうのがいいかな?」

「だみゃー。念のため、わたちも一緒にくろに乗せてもらうみゃ。炎とかなら、わたちが防げるからみゃ」

「……そうだね。そうするしかないかな」


 都合のいいことにクロエラの霊装にはサイドカーがある。

 私とウリエラがそれに乗って移動する……しかないかな、やっぱり。

 そうなるとクロエラが前線に出るわけにはいかなくなるので、ちょっと戦闘力的にはマイナスではあるんだけど――


「我が主よ、ご安心ください。御身には怪物を一匹たりとも近づかせません!」

「にゃはは! まー、ガイアとか『三界の覇王』みたいな相手でもなければなんとでもなるにゃー」


 油断大敵とは言うものの、流石に火龍レベルでは心配しすぎではあるか。


「わかった。皆、よろしくね!」


 ……何か前以上に皆の足を引っ張ってしまいそうなのが心苦しいな……。


「……これからはヴィヴィアンではなくクロエラが使い魔殿を運んだ方が良さそうだな」

「ボクは構わないよ。ヴィヴィアンでも《ペガサス》を使えば――あ、いや。ボクが運ぼう、うん。そうしよう!」


 …………うん、その方が私にとってもありがたい。

 だって、ヴィヴィアン桃香怖いんだもん。さっきはちょっとだけ正気に戻ったみたいだけど……。ぶっちゃけ、ヴィヴィアンに身体を預けるって貞操の危機を感じてしまうわ……女同士なのにね……。

 それはともかく。


「じゃあ、火龍を倒す前に色々と検証しようか。

 大丈夫だとは思うけど、不意打ちには気を付けて!」


 気を取り直して、いつも通り色々と実験と検証をやってしまおう!




*  *  *  *  *




 ――で、特に危なげもなく私たちはクエスト内で色々と試してみた。

 結果、私の姿が変わった以外に特に影響はないことはわかった。

 レーダーは機能しているし、遠隔通話とかもいつも通り使える。

 アイテムも今まで通りだった――ただ近づかないとキャンディとかは使えないので、そこが結構厳しいかもなーとは思う。まぁこれについては『ラビ』だった頃もそうだったけど。

 『ポータブルゲート』も使えたし、おそらくは『離脱リーブ』も大丈夫なはずだ。


「あと試してないのは――」

「リスポーンくらいかみゃ? みゅー、でも……」

「ちょっと難しいよねぇ」


 わざと敵の攻撃を食らうってのも怖いし、今の皆の強さだと火龍相手じゃかなりの長時間攻撃を食らわない限りリスポーンに追い込まれることはないだろう。

 まぁ他の機能が使えているんだし、リスポーンも問題なく使えるだろうと判断することにした。

 ……リスポーンだけできない、なんて罠のようなことはないだろう、流石に。


「あとは、私の体力がどの程度あるかだけど――」

「それは絶対ダメみゃ」

「ですよねー」


 使い魔の超体力が引き継がれているかどうかも気になるけど、これは皆に止められた。まぁ私だってかなり怖いので確認はできればしたくないけど……。

 それに、現実世界での話だけどお風呂に入った後はちゃんと自分で乾かさないと駄目だったし、痛覚とかも普通の人間っぽい感じはしたからね。とてもではないけどモンスターに小突かれたくない。


「使い魔殿に直接攻撃されるような状況、もうどうにもならんってことだろう」

「同意だにゃー。ナイア戦でもうーにゃんへの攻撃はされなかったんにゃし」


 ふむ、確かに……。

 私自身が危機に陥ったのって、ジュウベェ戦の時くらいかな? そういやあの時も記憶がはっきりしてないんだよね……。

 他は……確かに危ない目には何度も遭ってたけど、体力が大幅に削られるような場面はなかったかな。

 それにアリスの言う通り、私自身が襲われて体力を削られるような場面って、皆がリスポーン待ちになってて誰も助けに来られない……みたいなことでもない限り起きないっちゃ起きないかなぁ……。

 まぁガイアのクエストでは分断させられちゃったみたいだけど、あれはまぁ例外な気はする。


「とりあえず、今日はこんなところかな?」

「そうだな。使い魔殿の能力自体には変更なしってのがわかっただけで十分だ」


 うん、ひとまずクエストに挑戦する分には影響はない……かな? 『ラヴィニア』になったことで機能的には変更はないけど、配置とかには気を遣う必要があるってことがわかっただけで十分か。

 ……『ゲームの勝者』になるためにはまだクエストに挑戦する必要があるかもしれない。

 その辺りの方針については、日を改めて落ち着いて話をするって感じかな。

 相談して結論が出るとは思えないけど――都合さえ合えば、ピッピに相談してみるってのもありかもしれないね。

 他には……うーん、トンコツにもどこかで相談してみるか……? あ、一応ガイアのクエスト結果についてもあいつには話しておいた方がいいだろうな、フレンドだしね。




 火龍のクエストをあっさりとクリア。

 いつも通りゲートを潜ってマイルームへと帰還。これもちゃんと出来たし、本当に見た目以外の変化はないと思っていいだろう。


「じゃあ皆、昼間はガイアのクエストに挑んでいたし夜も遅くなっちゃうとアレだから、今日は解散しよう。

 明日以降、また都合をつけてマイルームに集合かな?」

「ん、わたしとスバル、あとトーカは学校で話せる」

「あたしたちもだにゃー♪」


 ほんと、近い位置にユニットが固まっているとこういう時に便利だね。

 一つ頷き、


「うん。もし気付いたこととかあったらバンバン相談しよう。

 この謎過ぎる状況がどれだけ続くのかわからないけど――『ゲーム』の終了までもうそれほど時間もない。やれることはこれからもやっていこう」


 ――そう私はしめくくり、この場は解散することとなったのだった。




*  *  *  *  *




「…………なんでありすがここにいるのさ……?」


 マイルームから帰ってきて目を開けたら、目の前にありすがいた。

 いや、びっくりした。ちょっと叫びそうだったよ……。


「んー……一緒に寝て

「えぇ……?」


 どうやら私の身体が現実世界に残るかどうかの確認をした後、そのままベッドに潜り込んで来たようだ。

 しかも一緒に寝ると宣っておられる……。


「……んもー、狭いじゃん。自分の部屋で寝なよー」

「ん、きゃっか」


 私の至極真っ当な意見を却下しつつ、ありすが私に抱き着いてくる。

 ……『ラビ』の姿の時とは違った感触だなー、とか変なことを考えてしまう。


「…………しょうがないなぁ。今日だけだよ?」

「んー、別にわたしは毎日でもいい」


 毎日は流石になー。

 ベッドも一人用だし……まぁ私もありすもまだまだ身体が小さいから、二人でも寝れるっちゃ寝れるけどさ。

 むぅ、こっそりとプロメテウスに連絡してみようと思ったけど、流石にありすが一緒じゃなぁ……。

 仕方ない。プロメテウスもホットライン用意してくれたくらいなんだから、私の都合がつく時でいいだろう。


「じゃあ、寝ようか」

「ん。わたし、ちょっと眠くなってきた」

「私もだよ……生身だからかな……」


 プロメテウスは後回し、と決めたら猛烈に眠くなってきた。

 使い魔の身体じゃなくて、本当の人間の身体だからなのかな、やっぱり。

 まだいつもの寝る時間よりかなり早いけど……ダメだ、寝よう!


「おやすみ、ありす」

「ん。おやすみ、ラヴィニア」


 軽くありすは微笑み言った。

 …………もしかしたら、ありすは私の心の内を読んでいたのかもしれない。

 この世界に来てからずっと『ラビ』の姿をしていたわけだけど、今は『ラヴィニア』になっている。

 私が意図したことでもなく、かといって差し向けた張本人の意図もわからないままだ。

 ……そこに『不安』を感じていたのは確かだ。

 何もわからないまま一人で夜を過ごすのは、ちょっと怖かった。素直に私は認めよう。

 だから――まぁ、どこまでわかってたのかは知らないけど、ありすが一緒に寝てくれるっていうのはちょっとだけ嬉しかったのだ。




 …………滅茶苦茶眠くて頭がもう回らないけど……。

 なーんかを見落としているような気がするんだよね……。

 出かけた後に『家の鍵閉めたっけ?』っていう感じに似てるような……。

 本当に忘れてたら致命的なんだけど、杞憂に終わる心配のような……何とも言えない座り心地の悪くなる忘れ物というか……。




 ――でも、その正体に思い至る間もなく、私もありすも眠りに落ちていくのであった……。




*  *  *  *  *




 翌朝。


「……何でありすがラビちゃんの部屋にいるのよ……? まぁ仲が良いのはいいけど」


 私たちは自覚の有無はともかくとして、やはり相当体力を消耗していたようだ。

 結構早めに寝たにも関わらず、朝に美奈子さんが起こしに来るまでぐっすりだった。


「ありす、部屋の目覚まし鳴りっぱなしだったわよ。

 で、ラビちゃんは目覚ましかけ忘れ、と……」

「ん、忘れてた」


 無人の部屋で延々鳴り続ける目覚ましを不審に思ったんだろうね。

 で、部屋を開けたらありすの姿がないって……そりゃ焦るわ。

 ラヴィニアが存在してなかったとしたら、家の中で神隠しにあったと大騒ぎになってしまっていたかもしれない。


「ふわぁ……おはようございます……」


 まだちょっと頭がぼんやりするなぁ……。

 『ラビ』だった時はスリープ状態の解除、なのですっきりと起きられたんだけどね。

 前世では――うん、まぁ基本的に夜遅くまで起きてること多かったから、朝は弱い方だったかな……?


「ありす、遅刻しないようにねー……」


 むにゃむにゃと呑気にありすのことを言う私に、呆れたような表情を向ける美奈子さん。

 …………ん?


「何言ってるのよ、ラビちゃん。

 ? 二人とも、早く準備しなさい!」

「はーい……ん?」

「え……!?」


 学校……って、私も通うの!?

 そこで私は昨夜寝落ちする前に感じていた『見落とし』が何かを悟った。

 そうだ、理由は不明だけど私は今『ラヴィニア』として恋墨家に住んでいたことになっているのだ――で、見た目からしてありすと同年代なわけだし……そして小学校は前世の日本と同じく義務教育だ。

 ……え、マジで? 私、小学校に通うの!?

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