第11章4話 ガイア戦、その復習
マイルームへは普通にやってくることが出来た。
「ん、ラヴィニア」
「ごめんね、皆。お待たせ」
いつもの癖でそのまま来るのではなく、ちゃんとベッドに横たわって安全を確保してから来たけど……もしかして身体ごと来ちゃってたりするのかな?
マイルーム内には、桃香とあやめ以外が既に揃っていた。
「あーちゃん」
「ん、まずはラヴィニアの確認からしてくる」
「あ……そういうことか。お願い、ありす」
ありすが一旦マイルームから抜けてゆく。
私の身体がどうなっているかの確認をするためだ。
事前にある程度話をしていたのだろう。
『ラヴィニア』という人間になってしまった私が、『ラビ』の時と同じようになるかは誰にもわからないのだ。
……その意味では、マイルームに来れるかどうかも実は結構怪しかったんだけどね。
「ただいま。ラヴィニアの身体は部屋にあった」
「そっか……」
ふむ……どうやら『ラビ』の時とは違って、ユニットの皆と同じ形式に変わってしまっているみたいだ。
これでジュウベェの時とも少し違うことが確定した。
ヤツの場合、『人型の使い魔』という扱いになっていたのか、身体ごとマイルームに入っていたみたいだけど私はそうではないらしい。
……この違いの原因まではさっぱりわからないけど、まぁ現状把握は重要だ。
私は今まで通りマイルームに来ることができる、そして身体は現実世界に残る――これだけでもはっきりしてくれたのは半歩前進と言えるだろう。
「えっと……改めて、なんだけど」
ありすが動いてくれたことでうやむやになりそうだったけど、けじめは必要だろう。
どう言うべきか少し悩んだけど、私は思ったことを素直に語ることにした。
「私――今まで『ラビ』だったけど、今はどうやら『ラヴィニア』という名前の
本当に人間かはちょっと疑わしいところはあるんだけど……」
自分じゃ確信もてないしね。
「……あれ、そういえば桃香とあやめは? あやめにちょっとお願いしたかったんだけど……」
ジュウベェの子の時同様、高雄先生に渡りをつけてもらって身体を調べてもらおうと思っていたのだが、二人の姿がない。
私の疑問に楓が答えてくれた。
「お姫ちゃんは――その、ちょっとアレだったから……」
「…………な、なるほど?」
その一言で納得しちゃうのもどうなんだって思うけど、まぁ事情は大体わかった。
……桃香もブレないなー……この異様な状況においても。
で、暴走しかけた桃香を抑えるため、あやめも現実に残ったってことだろう。うぅ、なんか桃香に会うの怖くなってきたな……。
「だいじょーぶ。すぐ慣れる」
ありすはもう慣れっこみたいだ。いや、こんなの慣れて欲しくはないんだけど。
まぁ仕方ない。あやめには後日改めて連絡してお願いしよう。
「えっと……その、アニキ? なんすよね?」
「うん。見た目が全然変わっちゃったけどね」
「はぁ……」
事前にありすがちょこちょこと連絡していた、とは言ってたから聞いてはいるだろうし私が『ラビ』だというのもわかっているだろう。
けど、まぁ気持ちはわかる。
見た目が全然違うからね……。
「うーたん、だっこ!」
「うんうん、おいでーなっちゃん」
なっちゃんもまたブレない。
この子には私が『
「おっと、なっちゃん結構大きいんだね……」
せがまれるまま抱っこしてみたけど、思ったより重い。
……いや、私が非力だからか? ちょっと長時間抱っこするのは厳しいかも……。
「にゃはは、うーちゃん、重かったら代わるにゃー」
「あ、大丈夫。でもごめんだけどちょっと座らせてもらうね」
ソファに座ってれば、抱っこしててもしばらくは大丈夫だろう。
「さて――それじゃ、色々と不明なことも多いし、今日中に話せることは話しちゃおう」
ガイアのクエストから端を発した諸々の混沌……。
各自が持っている情報とかも総合して、わかる範囲はわかっておきたい。
私の一声に皆の表情も引き締まる。
「えっと、私のことを話す前に……まずはクエストのことを教えて欲しい。
私、クエストの記憶が全然残ってないんだよね……」
挑戦はしたはずなんだけど、内容を全く覚えていない。
微かな記憶すらなく、気が付いたら『ラヴィニア』になっていたという感じで本当に混乱している。
「……うーちゃんが『ラヴィニア』になったことと関係しているのかもしれない」
「その線が濃厚だにゃー」
私もそんな気はしている。
「アニキが来る前にざっくりと話してはいたんすけど……俺らも途中から記憶がないんすよね……」
「最後の方まで覚えてるのが、恋墨さんだけみたい。僕も途中までは覚えてるんだけど……」
記憶の欠落が大なり小なり皆あるってことか?
……それも今までのクエストにはない、異様な特徴だな……。流石に私みたいに全部記憶がないって子は他にいないみたいだが。
「……とりあえず、ありすだけが覚えている範囲で教えてもらえる?」
「ん、わかった」
全員の話をもう一度聞くのは時間が足りないし、多分今の異様な状況に関わってくるのはクエスト終了間際の出来事だと思う。
もちろん見落としとか他に気付いたこととかあるかもしれないが、時間がない今は最後まで残っていたありすの話を聞くのを優先した方がいいだろう。
私に促され、とりあえずは『ありすのみが知る』範囲の話をしてもらうこととする。
ある程度は前提条件が必要となるものについては都度突っ込みを入れて聞いてたけど――
「…………うーーーん……」
一通りありすの話を聞いたけど、唸らざるをえない……。
何だよ、ユニット全員の魔法とギフトを同時に扱える上に、なぜかありすと同じ姿をした『ゼノケイオス』って……ケイオス・ロアたちが一緒にいたって言ってるけど、よくそんな相手に勝てたな……。
……ガイアのクエスト、詳細は全然聞けてないけどマジでクリア不能な難易度だったんじゃないか……?
まぁそこは言っても仕方ない。
「それで、うーちゃ――『ラビ』を連れて行った女の子そっくりなのが……」
「ん、それがラヴィニア」
「むぅ……」
一番気になるのは、
……ここに関連性を見出さないってのはありえないよね。明らかに関連しているとしか思えない。
相手側が詳しく話してくれたわけじゃないから推測も混じるけど……。
「あーちゃんの話、そして行動を見る限り――相手の目的はうーちゃんを『ラヴィニア』の姿にすることだった、としか思えないけど……」
「それに何の意味があるってんだ? って話だよな……」
「だよねぇ……」
『ラヴィニア』の姿になることにどんな意味があるのかがさっぱりわからない。
「うーん、ただ気になることはあるんだよね。
現実世界にいた時、今まで自然に使えていた『使い魔としての機能』が使えなくなってたんだ」
色々と状況が混乱していて確認を怠っていたってのもあるんだけど、どうやら『使い魔の機能』が現実世界で使えなくなっているようなのだ。
今までだと色々と視界の片隅にコンソールが見えてたりしてたが、それが全く見えなくなっていた。
遠隔通話は使えた。だが、視界共有とか他使い魔への連絡とかが全くできなくなっていたのだ。
後は、現在発生しているクエスト一覧の確認もかな。
「ただマイルームに来たらいつも通りって感じかな……まぁここじゃ視界共有とか意味ないけど。
『ラヴィニア』にすることで私の使い魔としての機能を封じることが目的――とも言いにくいかなぁ……」
「……一度クエストに行ってみるにゃ?」
むーん……ちょっと悩ましいけど、その確認はしておくべきかなとは今は思っている。
ここに来れたってこと、それに皆がまだユニットであることを考えれば『使い魔ラビ』自体はまだ有効なはずなんだけど……。
「ね、ねぇラビさん――じゃなくてラヴィニアさん?」
「あー、呼び方は……まぁ今まで通りでいいんじゃないかな。ラヴィニアの愛称で『ラビ』は不自然じゃないと思うし」
「わ、わかった。えっとラビさん、恋墨さんもよくわかってないみたいだけど、僕たちってクエストクリアしたことになってるのかな……?」
「! 確かにそうだった!」
言われて気付いたけど、確かに気になる。
確認方法は――ああ、ジェムの数見ればいいか。
見てみると……。
「おや、クリア自体はできてるっぽい?」
確かガイアのクエストの報酬は500万ジェムだった。
端数とかはちょっと自信がないけど、500万ふえているのは確認できた。
「あとは称号かにゃ?」
「それも――ありすにだけ付いてるね……」
『全てを超えし者』――そんな称号がありすに付与されている。
ゼノケイオスを倒したからか、それとも最後まで残っていたからなのか……そもそもクエストのラスボスがゼノケイオスっていうのもちょっと違和感があるんだよね。まぁいつも通り考えてもわかるところじゃないけど。
「ん……じゃあ、『ゲームクリア』?」
「なの、かなぁ……?」
…………それ自体は喜ばしいことなんだけど、記憶がないということもあるしありすにしたってよくわからないまま終わってしまったので、実感が全く湧かない。
消化不良、とも言えるかもしれない。
すっきりしないのだ。
「あ、そういえば美鈴ちゃんから連絡来てたんだけど――うーちゃんの状況とか伝えていいかな?」
「美鈴から? ……そうだね、詳しくはどこかで直接会って話すつもりだとは伝えておいて」
「りょ。あと、美鈴ちゃんたちもクエストはクリアできてたって」
「……そっかー……わかった。ありがとう」
美鈴たちも参加していたのはありすから聞いてしってはいた。
んー……そっか。美鈴たちもクリアできちゃってたかー……。
悔しがるとかそういう問題ではない。
私の最大の目的は『ゲームの勝者』となり副賞である『A世界の管理権』を誰にも渡さないことにある。
でも美鈴たちもガイアのクエストをクリアできているってことは、私たちの勝利が確定したとは言えない状況だと思うのだ。
ともかく、『ゲーム』の残り期間……後2~3週間ってところだけど、まだまだ油断するわけにはいかないってことか。
「まとめると、私たちは最終クエストのクリア自体はできている。
ただ終わり方はちょっと不自然なところもあり――なぜか私が『ラヴィニア』になっている……」
本当に『ラヴィニア』という存在自体が謎の塊なんだよね……。
これ、プロメテウスと話しても解決しないんじゃないかなって予感はしている。
なぜならば、ありすの言葉をそのまま解釈するならば『ラヴィニア』はガイアに関連している存在だ。ひょっとしたら、『ゲーム』側の仕組んだ何かなのかもしれない――この可能性はちょっと低いかもしれないとは思ってるんだけど……そうなるとますます訳が分からなくなる。
「……ゼノケイオスが言っていた、『ラビさんは消える』って――こういうことだったのかな……?」
ポツリとありすがそう呟く。
これまた言葉をそのまま解釈すれば、確かに『ラビ』は消えた……替わりに『ラヴィニア』が現れたわけだし間違いではないだろう。
……ますますわからない。
ゼノケイオスは明確に『ラビ』『ラヴィニア』の存在を意識していたことになる。『ゲーム』が仕組んだものだとすると、ちょっと説明がつかない気がする。まぁ私をどうにかするために仕組んだ壮大な罠という可能性はゼロではないけど……。
「なんかもう、私についてはそれこそゼノケイオスとかに話聞かないとわからないって感じだね……」
それが不可能なのはわかっているけど。
もう一度ガイアのクエストに行けば……会えるのかな? いや、でも話を聞く限りもう一度挑んだとしても全滅する可能性も高そうなのでできれば避けたいところだが……。
むぅ……美鈴たちもクリアできちゃってることを考えると、『ゲーム』の勝者となる手っ取り早い方法は『ガイアを内部に侵入せずに倒す』なんだろうけど――これもどう考えても不可能っぽいんだよなぁ。
……ともあれ、ガイアにもう一度挑むかどうかは保留だ。今のところ危険の方が大きいので避ける方向に傾いているけど。
「ま、何にしても
「うん、少なくとも私自身は『ラビ』としての記憶はしっかり持ってるし、自分が『ラビ』だと思ってるよ」
「うーたんはうーたんだもん!」
抱きかかえたなっちゃんがぐりぐりと私のお腹に頭をこすりつけてくる。かわゆい。
「んじゃあ、俺としては特に気にすることはねーっす」
「ぼ、僕も! 見た目が変わっただけ……だもんね」
男子組の受け入れが早い。助かるけど。
「うん。私もモーマンタイ」
「だにゃー。なっちゃんが受け入れてるなら、間違いないにゃー」
なっちゃん関連はオカルトだけど、楓と椛も問題ないようだ。
ありすについては――
「ん。じゃあこれからはラヴィニアと一緒にがんばる」
言うまでもなかった。まぁありすについては結構長い時間一緒に過ごしてたからね……。
この場にいない桃香とあやめについては、また改めて話すしかないかな。事前にありすたちの方でも話しておいてくれるみたいだけど。
「それじゃあ、遅くなってごめんだけど、一個だけクエストに行って確認しよう」
私=ラヴィニアということはもう動かしようがない。
皆も一旦は受け入れてくれたことだし、考えてもわかることではないのでこれについては保留だ――皆には話せないけど、プロメテウスと会話することでもしかしたら進展があるかもしれないし、そっちに期待するしかない。
で、さっきもちらっと話をしたけど、ラヴィニアの姿でクエストに行けるのか……もっと言えば『使い魔としての機能』がどこまで生きているのか、を今日のうちに確認しておきたい。
私の提案に皆も頷く。
……これでクエストに行けませんでした、とか使い魔からの回復ができなくなりました、とかなったら大変だしね……いや、仮にそうなったとして解決の見込みは全く立たないんだけどさ。
「軽めのクエストがあるし、それで確認しようか」
いつものメガリスのクエストはないが、火龍が出てくるクエストがあった。
仮に回復とかができないにしても、今のメンバーなら火龍の群れであろうとも敵ではないだろうし実験にはお手頃なクエストだろう。
……ほんと、半年前にはドラゴン相手にこんな軽い気持ちにはなれなかったんだけどな。思えば随分と遠くまできたもんだ……。
ともかく、記憶にはないけどガイア戦で使い果たしたアイテムを補充して、皆の準備も整ったのを確認してから私たちはクエストへと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます