第10章5節 "THE HEART OF THE WORLD"

第10章61話 其ノ黒キモノニ触レルナ 1. 最終決戦 ~神々の古戦場

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 混沌の体現者、ゼノケイオスを名乗るありすの姿をした存在――彼女が一体何であるかはラビたちには知りえる術はない。

 ゼノケイオスとその生みの親である『マム』のみが知ることだ。




 神話においてガイアが生み出した12柱の神――それが『ティターン』と呼ばれる巨神だった。

 アリスがガイア外部で戦った12体の巨人たちは、そのティターンを模したものであった。

 そして、ガイア内部での戦いにおいてたびたびユニットたちの前に現れた『謎の存在』たち――

 トウカ、チナツ、ユキヒコ、カエデ、モミジ、ナデシコ、アヤメ、マキナ、マツリ、リンコ……そして偽ケイオス・ロアと偽ありすの計12体こそが、ティターンたちの変じた姿なのであった。

 ――なぜティターンたちがユニットの姿はともかく、能力までコピーできているのかは不明のままだが……。

 ともあれ、ティターン12神が1つに纏まった姿、それがゼノケイオスなのである。

 各ティターンがコピーしていたユニットの能力もそのまま引き継がれているが故に、ゼノケイオスは全ての魔法を一人で扱うことができているのだ。




 そして黄金の髪の少女こそが、ゼノケイオスが『マム』と呼ぶ存在であろうことは推測できる。

 ティターンの結集したゼノケイオスが『マム』と呼ぶということは、彼女の正体は――




《みち・は・ひらけた》

「ん。後は進むだけ」


 ラスボス――『赤い巨人』をゼノケイオスが倒したものの、クエストがクリアになっていないことにラビは気付いていた。

 ということは、『赤い巨人』は正しくはクリア条件の『守護者』なのであろうと推測できていた。

 クエストをクリアするためには、まだ何か条件があるのだ。


”わ、私をどうするつもり!?”


 パタパタと手足耳を動かして儚い抵抗をしているラビ。

 大して力を込めていないはずなのに、『マム』の腕から逃れることができない。

 暴れるラビを意にも介さず、そして答えず『マム』が中空に浮かぶ『地球』へと目を向ける。

 すると、彼女の足元から『地球』へと向けて無数の『板』が階段状に出現する。


《あと・は・まかせる》

「ん、任された。いってらっしゃい、『マム』、ラビさん」

”ちょっと!?”


 『マム』とゼノケイオスの間でだけ話が進んで行く。

 ラビを抱えたまま『マム』は現れた階段を一歩ずつ、ゆっくりと昇ってゆく。

 そしてゼノケイオスは『マム』へと背を向け――階段の前に立ち塞がる。


「――来い、


 ゼノケイオスの呟きに合わせるかのように、『神々の古戦場』の空間の一部が砕け散る。


「使い魔殿!」


 砕け散った空間の裂け目からは、アリスたちがやってきていた。

 ……彼女たちが大人しくしているわけがないことはわかっていた。

 こうなることは予想するまでもない事態である。


「貴様ら……使い魔殿を返せ!」

「返さないし、『マム』の邪魔はさせない」


 アリスたちが戦闘態勢を整えるのと同時に、ゼノケイオスも自らの『杖』を手にする。


「ここから先へは通さない」

「貴様の許可など求めていない!」

「「extイグジスト――《嵐捲く必滅の神槍グングニル》!!」」


 二人の神装がぶつかり合い、


「続け!」


 アリスの合図と共にフランシーヌ、ケイオス・ロア、クロエラが前へと出てラビを奪還しようとゼノケイオスの脇を走り抜けようとする。

 しかし――


「マーシャルアーツ《エンフィールド:クリアディメンジョン》、アブ《拡張エキスパンション》」

「!? 近づけない……!?」


 前へと進もうとしても、なぜか前へと進むことが出来ず三人はゼノケイオスのすぐそばにとどまってしまう。

 『バランの鍵』の封印の部屋であった時のような、目に見えない『無限回廊』がその場に現れたかのようだった。

 それ自体も驚異ではあるが、それ以上に驚くべきことがあることに全員が気付いていた。


 ――BPの魔法にアリスの魔法を組み合わせている。


 本来ならばありえない『ユニット同士の魔法の組み合わせ』を、ゼノケイオスはできてしまうのだ。しかも、同じ使い魔のユニット同士ならまだしも、異なる使い魔のユニットで……。


「チッ! そう簡単にはいかんか。下がれ、貴様ら!」


 《グングニル》同士の激突が止み、互いの霊装が弾き飛ばされる。

 同時に複数の魔法を使えるゼノケイオスならば、アリスの相手をしながら他のユニットへと攻撃を仕掛けることも出来るだろう。

 迂闊にゼノケイオスをスルーして進もうとしても、無限回廊で進むこともできない。

 となれば――


「ふん、どうやら貴様を倒すしか道はないようだな」

「……わたしは負けない」

「……っ」


 成長した姿とはいえ、自分自身の顔と口調、そして自分ならば言うであろう言葉を投げかけられ流石のアリスも一瞬だけ怯む。

 しかし、すぐに振り払い言い返す。


「貴様らが何のために使い魔殿を攫ったのか知らんが、必ず返してもらうぞ。

 そして、この戦い――オレたちが必ず勝つ!」

「……」


 今やクエストのクリアのための最大の障害がゼノケイオスであることは、全員の一致した認識となっている。

 そして、ゼノケイオスは誰か一人で戦って勝てる相手ではないということも。

 アリス、クロエラ、ケイオス・ロア、フランシーヌ――全員の力を結集させても尚勝てるかわからないほどの相手だということも。

 ラビが何の目的で連れ去られたのかはわからない。

 ラビを助けるためにも、まずはゼノケイオスを倒さなければならない。




 ガイアを巡る混沌のクエスト――その最終決戦は『神々の古戦場』にて始まった。




*  *  *  *  *




 くそっ……全然振りほどけない!

 ただ私を抱きかかえているだけ――いつものありすよりも全然力入ってない感じなのに、脱出することができない。

 ……いや、頭は逃げ出そうとして身体を動かしているつもりなのに、身体が言うことを聞いてくれないという感じなのだ。

 このクエストに来てからというもの、訳の分からないこと続きだったけど……彼女とゼノケイオスはその極致だ。

 それに彼女が言う『ラスボス』は既に倒したというのに、クエストはクリアになっていない。

 ……まぁこれについてはちょっと考えていることはあるんだけど――それはもうどうでもいいっちゃどうでもいい。


”君は一体何が目的なの!? 私をどうするつもりなの!?”

《……》

”ああ、もう! アリス! クロエラ!”


 私たちの背後でアリスたちが戦っている音が聞こえてくる。

 が、少女は振り返ることも足を止めることもなく空中階段を一定のペースで進み続けているため、私は振り返って皆の様子を見ることもできない。

 そして、さっきからヴィヴィアンたちに通じなかったのと同様、アリスとクロエラにも遠隔通話が繋がらなくなってしまっている。

 普段なら目の前にいるから不要、と言えるんだけど……それに、まぁ今私と会話できたところで回復もしてあげられないしあんまり意味はないかもしれない。

 でも――それでも、ようやく会えたのだ。直接顔を見て声を聴きたい……。

 うぅ……自覚してなかったけど、本当に心細い思いしてたんだな、私……大人としてちょっと情けなくなってくるけど……。




 泣いてばかりもいられない。

 今やれることは……とにかく考えることだけだ。

 ここまででわかったことを頭の中で整理する。


 まず、『ガイア攻略』についてだけど、このフィールドを攻略することがイコールとなっているとは思う。

 そしてゴールは――今私が連れていかれようとしている、宙に浮かぶ『地球』なのだろう。あの『地球』こそがガイアの『核』に当たるものなんじゃないかと私は推測する。

 『核』へと到達するのか、それとも破壊するのか……そこまではまだわからないけど……。

 私が『核』へと到達した時に一体何が起こるのか、クエストクリアになるなら良いがそれだけで終わってくれるかは不明だ。


 次に何度も私たちの前に立ちはだかって来た『黄金竜』『黒炎竜』……その正体は、ゼノケイオスだった。これは本人も言ってるし確定だ。

 彼女の目的は――『私』だったのも予想していた通りだった。

 多分だけど、私だけを連れ去って少女の元、というか『ここ』に連れてくるのが役目だったのだろう。

 その割には結構長い期間私の前に現れなかったのが気になる。

 もしかしたら、アリスたちの妨害というか足止めを並行してやっていたのかもしれない。

 ……結果として私が連れ去られるのとアリスたちが追いつくのにそこまで時間差が生まれなかったから、あんまり意味なかったんじゃないかなと思うけどね……本当のところはどっちにしてもわからないし聞いても答えてくれないだろう。


 全くわからないのが、ヴィヴィアンたちの消息だ。

 生きている、というかリスポーン待ちになっていないことだけはわかっているのだけど、遠隔通話も通じないし今どこにいるのか状況がさっぱりわからない。

 ただ嫌な予感はしている。

 ゼノケイオスがヴィヴィアンたちの魔法を使っているのと無関係とは思えないのだ――でもこれも今確認する術はない。


 最後に、ゼノケイオスから『マム』と呼ばれていた少女……そして彼女の目的だ。

 私を『核』になぜ連れて行こうとしているのか?

 今までの行動から考えて、なぜを連れて行こうとしているのか? アリスたちが一緒だと拙い理由があるのか?

 姿

 私にまだある記憶の欠落と関係しているのか?

 そもそも彼女は何者なのか?

 ……わからないことだらけだ。

 それを知ったところで、何か状況が変わるのかっていうと――まぁ確かにどうなんだろうってところはあるんだけど……。


《らび》

”うぉっ!?”


 唐突に彼女の方から話しかけてきたのでびっくりしてしまった。

 ……顔を見上げてみると、口は動かしていないのになぜかこちらに言葉が届く……そう、使い魔みたいな頭に直接響く声だ。

 …………この声も、どこかで聞いたことがあるような、ないような――不思議な感覚だ。


《もうすぐ・すべて・が・

”……?”


 全てが……?

 どこか状況にそぐわない彼女の言葉に首を傾げるものの、言っている言葉に深い意味がありそうな気がする。

 ……もちろん、その『深い意味』がわからないから困惑するしかないんだけど。


《あなた・が・・それ・が・あそこにある》

”! それって――”


 今までも実はちらっと頭の片隅にはあったんだけど、全くわからなかった『謎』――

 

 日本で死んだ私が生まれ変わるとか、そんなファンタジー自体はあってもまぁいいかなとは思う。私は信じてなかったけど『輪廻転生』とかそういう概念はあったわけだし。

 けれども、生まれ変わった先が日本によく似た異世界で、しかも『ゲーム』に否応なく巻き込まれるというのは……正直訳が分からないし、とも思えなかった。

 答えはわからずとも何となく意図の有無は問わず『ゲーム』側の仕業かなと思ってたんだけど……。

 もしかして、私がこの世界へとやってきて、しかも『ゲーム』に巻き込まれること自体が彼女の思惑だったのか……?


”君は一体何者なの!?”


 もう何度目になるだろう、その質問をぶつけてみる。

 答えが返ってくることは期待していなかったが――彼女は私の方へと顔を向け、かくんとありすのように首を傾げて言った。


《わたし・は・――あなた・に・やくめ・を・はたしてもらう・とき・が・きた》

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