第10章55話 Chaotic Roar 11. The Black Black Parade
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ラビたちが『死の大地』に到達するより前――『黄昏の荒野』にて。
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ルナホークは、自分こそがこの異様かつ絶望的な状況を覆す『鍵』であると認識していた。
6つの戦闘のうち、どこか1つが崩れればそこから形勢が一気に傾くだろう。
もちろん、自分たちにとって有利に傾かなければ意味がない。
そしてルナホークの分析が正しければ、6つの戦闘で最もこちら側の勝率が高いのが
――焦りは禁物。しかし、急がねば……!
勝率が高い、とは言っても『楽勝』とは到底言えない。
一歩間違えば自分が敗北しうることはわかっている。
だから焦りから隙を作るわけにはいかない。
かといって悠長に戦っていることもできない。
どこかが崩れるまで、そう長い時間はかからないだろうこともわかっているからだ。
「コンバート《スラッシュ・デバイス》!」
「……受けて立ちましょう。コンバート《ノックアウト・デバイス》」
目指すは短期決戦。
射撃ではなく
射撃を嫌ったのは相手を倒すのに時間がかかる――からではない。
流れ弾が仲間に飛ぶのを避けたかったためだ。
ダメージのあるなしは関係ない。
ほんの僅かな、小さな弾丸が当たっただけで一瞬でも注意が逸れれば、それだけでやられる――そんなギリギリの戦いを強いられている。
だからルナホークは敢えて接近戦を挑み、アヤメも理解しながらもそれに応えた。
――
ルナホークが《スラッシュ・デバイス》を選択したのは、『剣』を使うことによって不足分のリーチを補うためだ。
それに対してアヤメが《ノックアウト・デバイス》を選択したのは、『手加減』以外の何物でもないだろう。
格闘戦用の兵装だ、リーチ自体はさほど伸びることはない。
元々の身長差を埋める『剣』のリーチを考慮して、ルナホークの方が少しリーチが長いことにはなったが、そんなことを理解していないわけがない。
『五分の条件に近づけて
『舐めプ』をしてくれるのであれば、屈辱よりもその慢心を突くべき。
「この戦い、当機が勝ちます」
「……」
お互いに手の内はわかっている……はずだ。
思考も、感情も、魔法もギフトも、何もかもが『コピー』されていると思っていいだろう。
それでも尚、ルナホークは自分の勝利を確信し、宣言する。
『策』は決まった。
イチかバチかの賭けではない、ほぼ確実にこの絶望的な状況を覆す一手……否、『王手』となりうる『策』である。
ただ、実際に『王手』となるかどうかについてだけは運が絡んでしまうことはわかっている。
それでも、最低でもアヤメを下し、状況をこちら側へと有利に傾けることのできる『策』であるとも確信している。
問題なのは『手順』、その『策』を実行する前にアヤメに先手を打たれないかどうか――そして実行する『タイミング』が訪れるかどうか、だ。
――
タイミングが訪れるかどうか、など問題ではなかった。
真横に剣を薙ぎ払い両断しようとするが、アヤメは軽くバックステップで剣を回避するとすぐさま地を蹴り間合いを詰めてくる。
剣のリーチは確かに長いが、一度振り回してしまったらすぐに戻すことができないという欠点がある。
当然、そんなことをルナホークが理解していないわけではない。
殴りかかってくるアヤメへと自らも前へ出つつ、左腕の肘をカウンターで叩きつけようとする――斬撃兵装の効果により肘の先から鋭い『刃』が生えている――のを、アヤメが拳で払って回避。
肘を払われたのと同時に右足で回し蹴り……を放ちながらその勢いを利用して無理矢理右腕一本で振り抜いた剣を強引に引き戻しながら再度横薙ぎを放つ。
蹴りで胴体、剣で首を狙う同時攻撃――これをその場で捌くのは難しいと判断したアヤメが再度下がり、二人は結局無傷のまま短い距離で対峙し合う。
――……体格で劣ってはいますが、今のところ不利とは言えませんね。
ジュリエッタのように不利なことにはなっていない、とルナホークは考える。
どちらかというとナデシコのように小柄故に有利に立ち回ることができる程度の『差』でもあるとさえ思えた。
とはいえ、『格闘戦』をするのであればやはり体格差は無視し続けることはできない。
互いの実力が天地程開いていれば話は別だろうが、『コピー』であるアヤメとルナホークの格闘能力は同一、ステータスも同一と思って良いだろう。
『剣』と『拳』という差があるうちは今の状況が続けられるだろうが、もしアヤメも同じ『剣』を使うようになれば一気に不利になるはずだ。
――
目指すは短期決戦。
そして、タイミングは『策』を実行しながら十分作れると判断。
ルナホークは決着をつけるべく動き始める。
「今度はこちらから行きましょうか」
が、それよりも速く今度はアヤメの方から動き始めた。
一瞬だけ深く体勢を沈みこませた後、弾丸のような速度で真っすぐにルナホークへと突進。
「ぐぅっ……!」
突進と同時の突き――を剣で咄嗟に受けるものの、剣に当たった拳が爆発、ルナホークの小柄な身体を吹き飛ばす。
《ノックアウト・デバイス》の性能自体はルナホークもよく理解している。
この兵装の恐ろしいところは、リーチの短さを補うような両拳・両脚に備えられた各種特殊機能だ。
打撃と同時に電撃を放つことで動きを封じる『制圧モード』の他、今使用した打突の瞬間に爆発し威力を倍加させる『爆破モード』――クリアドーラの《
そして当然、格闘戦用ということは打撃だけではない。投げ技・締め技にも対応した特殊機能がある。
「捕まえましたよ、
「……!!」
最初の一撃目でルナホークにダメージを与えられずとも『爆破モード』で吹き飛ばし体勢を崩す。
その直後に今度は足で『爆破モード』を起動し、《キャノンダッシュ》同様に加速。
ルナホークが体勢を立て直す前に今度は両手の指を『吸着モード』へ変えて掴み取る。
掴んだのは両腕――一度掴まれたらアヤメ自身が『離す』としない限り力任せに離すことのできない、正に接近戦から相手を逃さないためのモードである。
……この瞬間をルナホークは待っていた。否、この瞬間を
「コンバート《ゴグマギア》!!」
「! その魔法は……!」
掴まれた両腕を切り離し、新たに装着したのは
――……
アヤメが驚いた理由は2つ考えられる。
ルナホーク単独では耐え切れないであろう重い負荷を与えてくる《ゴグマギア》を使用したことか。
それとも《ゴグマギア》の存在を
もし後者であれば、アヤメたちの『正体』へとつながる手がかりとなりうるが、ルナホークはそれ以上考えることはしない。
『正体』を探ることよりもこの状況を変えることの方が圧倒的に優先だ。
『正体』を掴んで勝てるのであれば話は別だが、そうであるという確証はないのだから。
「トランスフォーメーション《アルトブエル-X》!」
切り離した《スラッシュ・デバイス》のギアを投げ捨てたアヤメが再度攻撃を仕掛けてくる前に、《ゴグマギア》を変形させる。
《ゴグマギア》は単独では、『巨大な腕』を持つ兵装でしかない――負荷が高いだけあって攻撃力も防御力もかなりのものであるが、負荷に見合った性能かと問われれば微妙なところだ。
この兵装の真価は、
トランスフォーメーションによって、ルールームゥの持っていた魔法を《ゴグマギア》へと宿し扱いやすくするという使い方だ――ルールームゥのように全身を変形させることができないルナホークにとって、強大な悪魔を象った魔法を最適化することによって負荷に見合った性能に引き上げているのである。
ルールームゥの魔法 《ブエル-10》――それは全身をバラバラにし、かつ個別に操作するというルールームゥ以外には到底使えないものだ。
それをルナホーク用に作り替えたものが《アルトブエル-X》。その効果は、元の魔法と概ね似ていた。
「
変形させた《ゴグマギア》を
無意味に《ゴグマギア》を捨てたわけでは当然ない。
「!? これは――ぐっ!?」
パージされた両手足が、ルナホーク本体とは全く別の方向からアヤメへと襲い掛かっていく。
これこそが《アルトブエル-X》の能力――『全身をバラバラにして個別操作可能』だった魔法をルナホークに合わせ、『切り離した両手足のみを個別に操作する』魔法なのだ。
自身の肉体から切り離すことによって《ゴグマギア》の負荷も最小限にしつつ、文字通りの
そして、アヤメがルナホークの忠実な『コピー』であるとすれば、
裏を返せば、自分自身であるが自分とは異なる肉体を持つルナホークの能力は把握している
これが、ルナホークの見出した『有利な差』である。
ルナホークとは別に襲い掛かる《アルトブエル-X》の攻撃によって、アヤメの動きが一瞬止まった。
「『爆破モード』起動!!」
その隙を逃さず、ルナホークは反撃を恐れずアヤメの懐へと飛び込み――顔面目掛けて渾身の力を込めた拳を叩きつける。
「――!!」
顔面に叩きつけた拳が爆破……アヤメの顔面の半分を吹き飛ばした。
「……っ!?」
……自分と同じ顔が吹き飛ばされることについて思うところがないわけではなかったが、それ以上に驚くべきことがあった。
――……
ルナホークの拳を受けたアヤメの顔の左半分が無残に吹き飛んでいた。
その吹き飛んだ跡を見ると、当然人間のように骨や肉があるわけでもなく、ユニットのように何もないただの断面があるわけでもなく。
爆発によって焼け焦げた土塊が見えたのだ。
魔法か、あるいはモンスターの特殊能力で作り上げた『
ゴーレムと言えば
……それに、ゴーレムであれば魔法を使ったり、本人同様の知能や感情を持たせることはいくら魔法であっても不可能だと思える。
結局、わかったことと言えば『感情を別にすれば遠慮なく叩き壊してもいい』ということだけだった。
「トランスフォーメーション《アルトバエル-I》!!」
「……!」
ともかく止まる理由は一つとしてない。
すぐさまルナホークは分離した《ゴグマギア》へと向かって更なるトランスフォーメーションを掛ける。
4つのパーツが空中で変形、そして合体し『砲台』の形へと変わる。
ルールームゥ最大の変形である《バエル-1》――『空中要塞』化はどう工夫しても実現不能だ。
そこでルナホークが考え出したのが『空中砲台』とスケールダウンしたものであった。
これ単品では負荷が大きい上に、砲台の規模が小さくなってしまう。
その問題を解決するのが、《アルトブエル-X》による手足のパージだ。
パージした手足を変形合体させることで、負荷を考える必要のないそれなりの大きさの砲台を作り出す。
……一撃放つことで本来ならば肉体が持たないほどの威力を、分離した空中砲台で放つ。
「逃がしません!」
「ぐっ……!?」
魔法の詳細はわからずとも、本来であれば捨て身の攻撃だ。
自分自身の魔法だからこそその脅威は理解できたのだろう、アヤメは逃げようとする。
が、ルナホークは絶対に逃がさない。
事前に《ノックアウト・デバイス》に変更していたことが幸いしていた。
殴りつけた顔面をそのまま『吸着モード』へと変えてぴったりと張りつけ、更にもう片手でコンバートしようのない胸元を掴む。
それでも抵抗し……いや、超至近距離に自ら飛び込みかつ両手を封じたのだ。むしろ好機と見たか、両腕の『爆破モード』を起動しルナホークへと反撃しようとする。
「なっ……!? うぐっ!?」
しかし、アヤメの拳は虚しく宙を切るのみだった。
ルナホークは、迷うことなく
それだけでなく、素早く背後へと回り込み再度両腕を接続。
後ろから抱き着く形でアヤメの動きを完全に封じ込めたのだ。
――……『策』は成った。ですが、ここは
ほんの一瞬、戦場全体を見渡したルナホークは瞬時に決断を下す。
そして――
「《アルトバエル-I:アルスノヴァ》――発射!!」
アヤメを抑えつけるルナホークごと、飛行砲台からあらゆる守護をも撃ち貫く魔力のレーザーが解き放たれた――
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