第10章50話 Chaotic Roar 6. 再び三つ巴……?
四つ巴の戦い――ここを制さなければ私たちは先へと進むことは出来ない。
しかし、『黄金竜』が復活しフランシーヌへと攻撃。
更に赤黒いスライムは増殖を繰り返していたのか、今や津波のような勢いと量で私たちの元へと向かってくる。
……おそらくは赤黒いスライムに襲われていたのであろう、ヴォルガーケロンの身震いと抵抗が激しくなり足場は大きく揺れ、背中に背負った火山から無数の火山弾が無差別に降り注いでいる。
劇的に状況が悪化していく中、私とミトラはほんの一瞬だけ思考がフリーズしてしまっていた。
しかし、ケイオス・ロアはブレなかった。
「【
激変する周囲の状況に惑わされることなく、致命傷を負ったフランシーヌへと《リカバリーライト》を使用する。
……今フランシーヌは胴体を貫かれ、辛うじて両断されてはいないという状態だ。普通の人間なら即死しているだろうし、ユニットであってもほぼ体力を削られた状態であろうことは想像に難くない。しかも、2種類の強化魔法を使っていてこのダメージなのだ――即消滅していなかったのが奇跡とも思えるくらいだ。
『黄金竜』は爪を引き抜き、こちらへと標的を切り替え――倒れたフランシーヌに目もくれていない状況だったが、それはヤツにとっては痛恨のミスとなる。
「ブラッディアーツ《
致命傷を負ったはずのフランシーヌがブラッドアーツを使い、『黄金竜』の全身へと血をぶっかける。
「何勝った気になってんのよ、あんた」
《……》
言いながら復活したフランシーヌの揮う槍が、再び『黄金竜』へと突き刺さる。
今度は自分を貫いた前足を縫い留めるように突き刺しており、『黄金竜』はその場から動くことができなくなってしまっていた。
「ブラッディアーツ《
さっきぶちまけた血液が固まり――『黄金竜』の動きを完全に封じ込めた。
……フランシーヌの魔法は『血』を操るものだ。
血液であるが故にどんな形にでも変えることのできる柔軟性があるが、反面『拘束』にしようするためには一度『固める』というワンアクションが必要となる。
素早く動く『黄金竜』相手にはそのワンアクションの時間が惜しく使いづらかったのだが、致命傷からの復活という本来ならばありえない事象を利用して全身に血を浴びせかけ、即拘束できるようにしたのだった。
「もう逃がさないし、抵抗も反撃もさせないわ」
固まった『血』は一体いかなる硬度なのか、『黄金竜』の全身は固められてびくともしていない。
これをユニット相手に使ったとしたら、必勝の拘束となるだろう――改めてフランシーヌの恐ろしさが実感できる。もちろん、味方の今は頼もしいことこの上ないけど……。
「ロア、まずはこいつを確実に仕留めるわよ!」
「そのつもりよ!」
赤黒いスライムがこちらへと到達するまで数十秒の猶予はある。
二人はとにかく一番厄介な『黄金竜』へのとどめを優先することにしたようだ。
……いや、最初からその考えでいてブレなかっただけだろう。
こうした意思の強さと状況判断の速さは、本当に子どもたちの方が優れているとつくづく思う。
ともあれ――動けなくなった『黄金竜』へと、容赦なく二人の魔法が炸裂する。
「ブラッディアーツ《
「オペレーション《
体内に潜り込ませた『血』が内部からズタズタに引き裂くのと同時に、生物にとって致命的なダメージを与える電撃が同じく内部から衝撃を与える。
どちらも『心臓破り』――エグいけど、心臓そのものを止めるなり破壊するなりで『一撃必殺』を狙った、いわゆる即死魔法と言えるだろう。
もちろん、効果を確実に発揮できるようなヤバい魔法ではないだろうが、度重なるダメージを受けて傷ついた今の『黄金竜』にならば通用する可能性はかなり高い。
《……ッ!!!!》
そして私の期待通り、『黄金竜』が苦しそうに最後の咆哮を上げ――今度こそ地面に倒れ動かなくなった……。
「……念のためっと」
”うへぁ……”
赤黒いスライムが迫る中、冷静にフランシーヌが刃を首へと突き立てながら更に『血』を杭とし身体の内部からズタズタに引き裂いていく。
……スライムみたいな不定形のモンスターならともかく、いかに『ドラゴン』といえども生物であれば確実に死んでいると言えるほど『黄金竜』の死体は引き裂かれていった……。
グロいけど、これくらいしなければ安心できないタフさだからね……文句は言えない。
”……ケイ、スライムが来る!”
「ええ! 掴まって、フラン!」
本音を言えば、完全に灰になるまで焼き尽くすとかまでしないと安心できないという思いはある。
が、もう一つの『敵』――赤黒いスライムに呑み込まれてしまったらどうなるかわかったものではない。
ある意味で『黄金竜』以上に不可解な存在だ。できれば触れずに済ませておきたいところだろう。
ケイオス・ロアがフランシーヌを掴まえ、そのまま上空へと逃れ――『黄金竜』の死体は赤黒いスライムの波に呑み込まれていくのであった……。
* * * * *
「間一髪ってところね。
……あんな気持ち悪いの、触りたくないわー」
結構上空へと私たちは移動、眼下に広がる赤黒い海を見下ろしながら嫌そうにケイオス・ロアが呟く。
どうやら赤黒いスライムは質量はあるが、上に伸びることはできないみたいだ。正確にはある程度は身体を持ち上げることができるんだろうけど、ふにゃふにゃの身体だし支え続けることができないんだろう。
ひとまずは安全な場所……ということになるのかな? ヴォルガーケロンの内部に潜り込む時に障害となりそうではあるが……。
「うーん……ああいう相手はちょっとあたしの魔法じゃ対処しづらいわね……」
「わかってる。突入する時は――仕方ない。あたしが遠距離魔法で吹き飛ばしていくしかないか」
フランシーヌの魔法では確かに相手にしづらいだろうね。
スライムの量が少なくて斬った張ったで何とかできる程度なら良かったんだけど……流石に『海』と表現したくなるくらいの量ともなると、いずれ物量に押されてしまうのは目に見えている。
「それにしても、ロア。助かったわ」
「ふふん、いいってことよ。致命傷を受けても一度ならって約束したしね」
……さっきの『黄金竜』を倒す直前、致命傷を負ったはずのフランシーヌをほんの一瞬で全快させた《リカバリーライト》だけど、深くは突っ込めないけどかなり
アレはもはや治療とかそういう次元を超えた――『復元』したとしか言い様がないレベルだった。
以前の《ヒール》もかなり特殊な魔法ではあったとは思うけど、それでもゲームとかで言う『回復魔法』のイメージ通りの魔法ではあったと思う。
「ただ、【装飾者】で使っちゃったから次は使えないわ。注意してね」
「了解よ。……まぁ頼りたい気持ちはあるけどね」
不可解なところはあるが、頼れる回復魔法であるのは間違いない。
とにかく即死さえしなければ――ユニットの場合であれば体力ゼロにさえならなければ、ほんの一瞬で全快できるのだから破格の魔法だろう。
もっとも、これだけの回復能力だ。きっと消費魔力も膨大なのは想像に難くない。
それに今身に纏っている属性では使えないのだろう。この辺はホーリー・ベルもケイオス・ロアも共通の悩ましいところかな。
”さて、ともかく『次』へ行こう。あのスライムも謎だけど、さっきのモンスターよりは脅威度は低いと思う”
そうミトラが纏める。
うーん、まぁ……赤黒いスライムの脅威度については何とも言えないけど、『黄金竜』よりは確かに与しやすいと言えなくもない。
当初の目的である『出口』へと進むのを考えた方がいいのは確かか。
「油断はできないけど確かにね。
それじゃこのまま下のモンスターの『口』の方へ向かってみましょうか」
「あ、ロア。悪いけどこのままあたしのこと運んでちょうだい。一旦強化解除するから」
これまた予想はしてたけど、フランシーヌも《ブルー・ブラッド・ブリード》を解除するみたいだ。やはり身体強化系――それも大幅なパワーアップをする魔法は肉体にかかる負荷が大きいみたいだ。
移動中に何が起こるかわからないのは怖いけど、だからと言って身体に負荷をかけすぎていざという時に動けないのも困る。
「わかった。
……大丈夫だとは思うけど、念のためアイツが襲って来ないかの警戒だけお願い」
「そうね……大丈夫だとは思うけど」
と、二人してため息。
倒しきれたかいまいち確証が持てないのだろう。見た目には確かに死んでるっぽくはあったんだけど……普通のモンスターと違いすぎるからなぁ……。
ともあれ、私たちは『黄金竜』を下し、赤黒いスライムから逃れ、ヴォルガーケロンの内部を目指すべく行動を開始した。
実はさっきのバタバタしている間にヴィヴィアンたちのリスポーンも完了――その後、特に異変は起きなかったので今は無事なのだろうと思っておく……滅茶苦茶状況は気になるけど……安定したのであればもしかしたらこの後連絡があるかもしれない。
”……危なかった……”
とミトラもため息を吐きつつ呟いていた。
ふむ……? もしかして、この場にいないオルゴールたちのリスポーンがギリギリになっていたのかな? となると、ヴィヴィアンたちはオルゴールたちと戦っていて――っていう状況だったのかもしれない。ミトラに直接聞くのは憚られるが。
一旦私たちの方も落ち着いたとは言えるかな。
ケイオス・ロアに連れられ、私たちはヴォルガーケロンの内部を目指す。
”ケイ、もう一度『出口』の位置を確認しておこう”
「あー、そうね。それで変わってないようなら、『出口』へ行くための道を探る感じかな」
戦闘は一旦落ち着いたし、属性を切り換えても問題ないという判断だろう。
それに『出口』の位置がヴォルガーケロンの内部とは確定していない――十中八九そうだろうとは思ってるけど――し、戦闘中に結構移動したし改めて確認しておくのもいいだろう。
ケイオス・ロアは《オーバーラップ》を使い、《
ふむ、察するに
「……ねぇラビ。ちょっと気になることがあるんだけど」
”? どうしたの、フランシーヌ?”
移動しつつ《ピクシス》の結果が出るのを待っている間、何事か考えていたフランシーヌが私にそう言ってくる。
深刻そう――ってわけではないけど、捨て置けないって感じかな?
「あのモンスターだけど……
”それは――”
彼女のギフト【
戦いながら『血』を吸って補充もできるし、体力魔力も少しずつ回復できるという割ととんでもないギフトだと思う。長期戦になればなるほど、フランシーヌにとって有利になると言えるだろう。
そのギフトが使えなかったということは……。
”……まさかとは思うけど、実は全然ダメージを与えられなかったってこと?”
だとすると最悪だ。
さっき『倒した』と思ったのに、ノーダメージだったとしたら――正直あいつを倒す術は思いつかない。
私の言葉にフランシーヌは首を横に振るが、少し納得いかない、という感じの表情だった。
「いえ、流石にノーダメージってわけはないはず……。
あたしのギフトが効かないもう一つの理由は――
”……!”
それは――確かに捨て置けない事実かもしれない。
可能性としては3パターン。
実はノーダメージだった。
『黄金竜』はモンスター以外である――正しくはモンスターではあるが本来のガイアのクエストで用意していなかった『イレギュラー』である。
…………あるいは、モンスター以外の何か……
自分で考えて何だけど、流石に3つ目のパターンはないかな……今までも人間離れした体格や能力のユニットはいたけど、流石にあんな怪物そのものの姿はありえないと思う。ジュリエッタのメタモルみたいな魔法を使って変身した可能性はゼロではないが、だとすると魔法を使って戦っている様子もなかったから不自然だし……。
「まぁこの後復活さえしなければ気にしなくてもいいとは思うけどね。考えてもわからないし」
その通りではあるけどね……。
本当にこの後また出てこないことを祈るばかりだ。
「良し、『出口』の探索終了――やっぱりこのモンスターの中っぽいわねー……」
”探索時間が短縮されてたし、ケイの言う通りだと思う”
なるほど、一度探索したものは位置が大きくズレなければ二度目以降はそんなに時間がかからないって仕組みなのか。
『出口』はやはりヴォルガーケロンの内部にあることには変わりなさそうだ。こいつも結構移動はしているみたいだけど、『体内』という位置が変わってるわけではないから速いってことなのかな。
……うーん、こいつの中に入るのも一苦労だろうし、近づけば今度は赤黒いスライムに襲われる危険性がある。
やらないわけにはいかないんだけどさ……。
「おっと、ようやくモンスターの頭まで来れたわね!」
そうこうしているうちに、私たちはヴォルガーケロンの頭部付近まで辿り着いていた。
結構上空から見下ろしている形なのでどんな顔をしているかはわからないけど、『亀』の胴体に『ドラゴン』の頭がついているって感じに思えた。
頭部には何本もの角が生えているのだけはわかる。
……真正面から乗り込もうとして、炎を吐いてきたりしそうだな……。
「むー……ブレスとか吐かれたら厄介ね」
「ロアの魔法で防げたりしないの?」
「何吐いてくるか次第かなー……でも、流石にこの大きさだとかなり厳しいかも」
だよねぇ……。
『火山』だから炎のブレスを吐いてくるにしても、規模がとてつもない。防御魔法で防げるものであるかは疑わしい。
”……口から飛び込む以外に方法ないかな? それか、何か吐いてくるとしてその間隔を見極めるとか”
「なるほどね。ラビっちの言う通りまずは内部に入る方法を改めて探ってみるわ。で、ダメだったら……かなり怖いけどブレスの隙間を縫って突入するしかないか」
これでヴォルガーケロンが何も吐いてこないというのなら話は簡単なんだけど、今のところ全くわからないからなぁ……。
いや、心配だけしていても仕方ない。
ケイオス・ロアは再び《ピクシス》で『出口』へと向かうルートを探り、私たちが周囲の警戒をしていた時だった。
『うーみゃん。わたちたちはくろを除いて全員無事みゃー。さっきまでオルゴールたちと戦ってたんみゃけど、何とか勝てたみゃー。
んで、これからまた次のフィールドに向かうみゃ』
! やっぱりオルゴールたちと戦っていたのか。
でも勝てたとのことだし、ちょっと安心した……。相変わらずクロエラとは合流できていないみたいだけど。
今ならお互いに余裕があることだし、私の方からも状況を伝えようと返事をしようとしたが――
「…………なに、
”……嘘だろう……?”
呆然としたフランシーヌとミトラの声に私の意識が現実に引き戻される。
……そして、私も見た。
”ま、マジで……?”
遥か彼方――私たちの眼下にいるヴォルガーケロンの遥か前方に、赤く光る山が見えた。
しかも、その山は同じような火山であり……溶岩と煙を噴き上げている。
それだけなら驚くようなことではないかもしれないが――その火山たちは、動いているのだ。
”ヴォ、ヴォルガーケロンが更に三体……!?”
一体だけでもクエストの大ボスでも尚余りあるくらいのモンスターが、私たちに見えているだけで更に三体……。
それらは明確にこちらがわへと進んできているのだった……。
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