第10章49話 Chaotic Roar 5. 四つ巴

 ……ヤバい!?

 何がかと言うと、このタイミングでヴィヴィアン、ルナホーク、ウリエラ、ジュリエッタがリスポーン待ちになったのだ。しかも、ほぼ同時に。

 自分の戦況に構わず即リスポーン開始するが――本当に皆どんな状況なんだ……!? さっきのガブリエラもまだリスポーン完了していないというのに、これでは……!

 いずれにしてもリスポーン最中では遠隔通話で声を掛けることもできない。

 一人ガブリエラだけが先行して復活する状況も不安だけど……これでまたすぐにリスポーン待ちになるようなヤバい状況なら、こちらから声を掛けた方がいいかもしれない。

 ともあれ、今は皆に声を掛けることは出来ない。

 私は目の前のことに集中しよう。




 戦況はこちら側有利に傾いている。

 とにかくフランシーヌの《狂黒血の徴エボル・スティグマータ》による強化がとてつもない。

 その前に使っていた《ブルー・ブラッド・ブリード》で強化していたのに加え、それを更に底上げしているのだ――ゲーム風に言うのであればバフを乗算しているのだろう、元のステータスが高ければ高いほど後で使うバフの効果が大きくなるというやつだ――身体能力に関しては確実にガブリエラをも上回っていると思う。

 そんな超ステータスで『黄金竜』をほぼ一方的に攻撃しつつも、更にケイオス・ロアの多種多様な属性による遠隔攻撃が要所要所で刺さっている。

 ……想像以上にこの二人、相性がいい。そして『強い』。

 アストラエアの世界で戦った様々な敵と比べると、特に変わった……いわゆる『初見殺し』のような妙な能力は持っていないと思う。

 クリアドーラのような、『シンプル故に強い』と言った感じだろうか。もし敵として戦ったとしたら、『能力の隙を突く』というようなことができずに真正面から打ち破る以外に勝つ方法がない強敵としか言い様がない。

 本当に味方でいるうちは頼もしい。

 ……できればこのままこのクエストの終わりまで協力体制を維持したいところだけど、そうはいかないんだろうな……『ゲーム』の勝者となれるのはただ一組なのだ。

 どこかで必ず彼女たちと戦わなければならない――その時はきっと遠くないんだろう。

 まぁ現状私のチームが一番遅れているような気がしないでもないけど……一番『先』へと進んでいるのが私だけという状況だしね……ヴィヴィアンたちの方が実は『ゴール』に近いという可能性もゼロではないけど……。


「……効いているっぽいけど……」

”ああ、でもなぜだろう……倒せる気がしない……!”


 私がリスポーンに気を取られている間にも戦いは続いている。

 一見こちらが有利になっていると思えたけど、ケイオス・ロアとミトラが揃って不安を口にする。


”……わけわからないね、あいつタフすぎる”


 こちらが負ける、とは今のところ思えなくなったのは確かなんだけど、倒せる気がしないというのも確かにその通りだ。

 攻撃は当たっているし、前に比べて『黄金竜』が怯むことが多くなった。

 実際に身体中に傷を与えていることが出来ているし、フランシーヌの動きが『黄金竜』を圧倒し何もさせずにほぼ一方的に滅多打ちにすることもできている。

 ……だというのに、一向に倒れる気配がない。

 相変わらず与えた傷は片っ端から再生していくし、徐々に防御力が上がっていってるのか心なしか付ける傷も小さくなっているように見える。

 このまま戦い続けていてもいずれまた前と同じ状況に持ち込まれるのではないか……そんな不安がある。


”アレでもモンスターだし、首を落とすとかすれば流石に倒せるんじゃないかな?”

「グロいけど……まぁ確かにそうかもしれないわね」


 さらっと首を落とすとか怖いこと言うミトラだけど、まぁ私も同意見だ。

 というか、そのくらいしないと倒せる気がしない。


「となると……フランの攻撃が効くうちにやるしかないわね。こっちからもバフを掛けるか――いや、アレはまだ使わない方がいいか……?」


 攻略の鍵を握っているのは、矢面に立って戦っているフランシーヌであることは疑いようはない。

 彼女の斬撃が通じているうちでなければ倒せないだろう。

 ……ふむ、口ぶりからしてケイオス・ロアには他者のステータスを強化する魔法があるのかな? でも渋っているということは、これもまた条件付きかあるいは――


「――まだ使わない方が良さそうね。何かこの先にある気がする」


 単に出し惜しみをしているのではなく、『黄金竜』の先を見据えてのことみたいだ。

 ただの『勘』なのかもしれないが、おそらくそれは正しいとは思う。『黄金竜』以上の脅威が全くないとは限らないのだから。

 とにかく、今の状態で『黄金竜』を倒すしかないと結論付けたようだ。そして、おそらくそれは可能だろうとも。


「ミトラ、回復を!」

”ああ”

「ロード《七死星剣:巨門》!」


 ここで一気に決着をつける、あるいはとどめを刺せるくらいにまで削る――そう決めたのだろう、彼女の霊装が今度は『槍』へと変わる。

 確か前は《メラク》……魔法の威力を跳ね上げる代わりに魔力消費が多くなる、短期決戦用の形態だったはず。


「も一つ! ロード《リーオー》、そんでもってオペレーション《エレメント・フォーカス》!」


 加えて今度は鎖へとロードをかけると、掲げた巨門を取り囲むように大型の筒? のような形状となり淡い輝きを放ち始める。

 ……何となくわかった。鎖に掛ける方のロードは、おそらく『星座』をモチーフにしているのだろう。《リーオー》だから獅子座かな、確か。

 星座そのものと発動する効果にそんなに関連があるとは思えないが、見た目から何となく効果は想像がつく。

 槍を取り囲む鎖の形状は、きっと『砲台』だ。

 そして更に使った《エレメント・フォーカス》は――名前からすると属性の力を集束させる、いわゆる『チャージ攻撃』なんじゃないかと思われる。


「フラン、デカいの行くわよ!」

「! オッケー! いつでも来なさい!」


 ケイオス・ロアの能力の全ては理解していないだろうが、それでもこれから放とうとしている攻撃魔法の規模は肌でわかるのだろう。

 フランシーヌを巻き込まないように注意はしてくれると信じつつも、自分でも巻き込まれないように動こうとする。

 ……が、ただ離れるだけでは『黄金竜』に逃げられる恐れがある。


「《スキュア・ブラッドペイル》!!」


 槍を叩きつけ動きを封じたのと同時に、魔法名の発声なしにフランシーヌが新しい魔法を発動させる。

 『黄金竜』の周囲の地面から真っ黒い杭――撒き散らされていたフランシーヌの『血』が鋭い杭と化し身体のあちことへと突き刺さり、その場から動けないように封じ込めたのだ。

 おそらく戦いながら少しずつ『血』を撒いておいたのだろう。そして、今発動させたのは新魔法というよりは《ブルー・ブラッド・ブリード:モデル・ヴラド》使用時に扱える『技』みたいなものなんじゃないかな。血の杭による『串刺し』はそれっぽいし。


「ナイス! オペレーション《サンダーストーム》――」


 『黄金竜』のパワーならば血の杭の拘束も力任せに引きちぎれるかもしれない……その時は身体中がズタボロになるのも避けられないが。

 それでもほんのわずかな時間でもヤツから自由を奪えたのも事実。

 このわずかな時間が勝敗を分ける、とケイオス・ロアが魔法を放つ。

 《ナリガミ》の属性『雷』を《リーオー》の砲台へと集束フォーカス――それを更に《巨門メラク》が増幅させた、雷の砲弾が生成され――


「打ち砕け――《クラック・オブ・ドゥーム》!!」


 今まさに拘束から逃れんとしていた『黄金竜』へと叩きつけられた!




*  *  *  *  *




「……流石にこれは効いたでしょ」


 そう呟くケイオス・ロアだったが、仕留めたという確信よりも『効いてくれ』という願いが含まれていたことには気付いていた。

 集束された雷撃を成す術もなく浴びた『黄金竜』は凄まじい叫び声を上げていたものの、やがてその場に崩れ落ちていった。

 ……全身からプスプスと煙を上げ、地面に倒れたまま動かない様子からして『効いている』のは間違いなさそうだが――


「念のため、しっかりととどめ刺しておきましょうか」

「そうね」


 女子二人は割と冷静だった。

 とにかく『黄金竜』が本当に死んだのかどうかわからないまま放置はできない。

 跡形もなく吹き飛ばす、というのは流石に難しいし心臓を潰したとかもよくわからない。

 ……まー多少残酷ではあるけど、首を斬り落とすとかして『生物としては死んだ』のを確定くらいはしておかないと安心はできないかな。

 それをやらせるのはちょっと大人としてどうかとは思うけど……。

 フランシーヌが槍を振るって首を落とそうとし、更にケイオス・ロアが追い打ちで魔法を打ちこむ――これで倒れないようなら本当に手の打ちようのない相手だ。


「せーのっ!!」


 私の思いとは裏腹に、全く躊躇なくフランシーヌが槍を『黄金竜』の首元目掛けて振り下ろした時だった。


「!?」


 突如地面――いやヴォルガーケロンが大きく身震いした。

 最初の噴火の時と同様、あるいはそれ以上の凄まじい揺れを不意に食らい、フランシーヌがバランスを崩し槍が外れてしまう。

 まるで『この時』が来るのを知っていたかのように、倒れていた『黄金竜』が動いた!


「フラン!!」


 少し離れていた私たちからはよく動きが見えたが――間に合わない!?


「……ッ」


 フランシーヌが気付いた時にはもう手遅れだった。

 倒れていた『黄金竜』がまるで今までのダメージなどなかったかのような俊敏な動きで前足を突き出し――鋭い爪がフランシーヌの胴体を貫いていた……。


”! 拙い、ケイ!”


 『黄金竜』の方ではなく、揺れの原因の方を探っていたのであろうミトラが真っ先に『異変』に気付いた。

 彼の指し示す方向――ヴォルガーケロンの胴体、火山の方向から雪崩のように赤黒いものが流れ出してきている。

 溶岩、ではない。


”あ、あのスライム……!?”


 『黄金竜』の登場やヴォルガーケロンの出現で忘れかけていたけど、そうだ。このフィールドにはもう一つのがいたのだ。

 赤黒い膿のようなスライム――それが一斉に私たちへと向けて溢れ出してきたのだった……。




 そう、今回の戦いは私たちと『黄金竜』、ヴォルガーケロンの三つ巴ではない。

 これらに加えて更に赤黒いスライムも含めた四つ巴戦だったのだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る