第10章47話 Chaotic Roar 3. 焔帝亀

 またこのパターンかよ!?

 と思いはするけど、このクエストのスケールは今までとは桁違いではある……レーダーさんを責めてもしかたない。

 私が思いついてしまったこと――それは、この『灼熱の大地』……私たちが足場だと思っていたのは、超巨大モンスターの上なんじゃないかということだった。

 そして、それがどうやら正解だったみたいだ……。


「……外で見たガイア本体並ね」


 『黄金竜』の動きに注意しつつ、私たちは仕方なしに上空へと逃れる。

 裂けた地面からあふれ出た溶岩も危ないが、それらが生き物のように蠢き襲い掛かろうとして来ているのだ。流石にこんな不自然な動き、モンスターの攻撃だと思っておいた方がいいだろう。触れたら大ダメージを食らうのは容易に想像がつく。


「やっぱりあいつも襲われてるわね」


 フランシーヌも私たちの傍へと戻ってきているが、視線は『黄金竜』へと向けられたままだ。

 そんな『黄金竜』だが、溶岩の海に叩き落されていたこともあり諸に襲われてしまっている。

 『蛇』とかした溶岩が次々と襲い掛かり、巻き付き、『黄金竜』の動きを封じているようだ。


”……どうしようか……?”


 『黄金竜』を倒さないと後ろから襲われかねないという恐れはある。

 けど、ヤツよりも更に巨大な――ガイア本体に匹敵しそうなモンスターが足元にいて、十中八九そいつが操る溶岩モンスターと戦いながら……というのは考え物だ。

 …………うーん、それはそれとして、『黄金竜』やら超巨大モンスターがいるってことは私の仮説――『異なるチームが揃っていたらモンスターは出てこない』はやはり間違いということなのかな……? どっちにしても、現状を変えるものではないけど。

 ともあれ、超巨大モンスターが『黄金竜』にも襲い掛かっている現状、足止め自体はしてくれている。

 足止めされている間に私たちが脱出する……というのも一つの手かなとも思うんだけど……。


「……いやーな予感がするのよねー……」


 ケイオス・ロアたちはあまり乗り気ではないみたいだ。一体何を考えているのかは想像がつく……私も思いついているし。


”……ケイが探知した『出口』だけど、位置的に足元のモンスターの体内にあるんじゃないかな”

”や、やっぱりそう思う……?”


 そう、ケイオス・ロアが見つけてくれた『出口』は私たちの足元……よりも下だった。

 そして足元の大地はモンスターそのもの……。

 これで『出口』がモンスターのお腹の下にあるとかならいいんだけど、きっとそうではないんじゃないだろうかと皆も思っている。

 まぁ腹下だとして、そこにたどり着くのも一苦労なのには変わりないんだけどね。


「どっちにしても、あいつも溶岩を振り切ってそのうち動き出すでしょ。そうなったら結局戦わなきゃならないのは変わりないし――やっぱりここで決着をつけるべきよ」


 フランシーヌは好戦的な答えを返す。


「同意見ね。ただ、場所が場所だからなー……せめてもうちょっと戦いに集中できる位置がいいわね。

 フラン、移動している間にあいつが来たら頼むわ!」

「オッケー!」


 二人の間で結論は出たみたいだ。

 まー、正直何が正解かわからない状況だし、そもそも意見言える立場じゃないしね、私……。


”君たちの意見を尊重しよう。それで――ケイ、あっち側へととにかく進もう。フランシーヌ君はあの敵が追いついてきてしまった時に頼む”


 ミトラも否はないようだ。

 そして、私たちの背中側の方へと進むように指示する。


「? なんであっち?」

”大地――いや、足場になっていたモンスターが進んでいる方向だからね。

 君たちの予想通り『出口』がモンスターの体内にあるんだとしたら、口から突入する以外に方法はないだろう”


 確かに。

 胴体に穴をあけて入るには流石に厳しいかな。

 ミトラが言うように、モンスターの進行方向に『頭』があるとは思うし、そっちに向かうのは正解だと私も思う。いくらなんでも、後ずさりで移動しているとは思えないし理由も思い当たらない。


”私もミトラの意見に賛成かな”

「わかった、確かにミトラの言う通りね。フラン、行くわよ!」


 とにもかくにも、今は行動あるのみだ。

 『黄金竜』が溶岩蛇に襲われている間に、少しでもこちらに有利な状況にしたい。

 超大型モンスターの進行方向へと私たちは急いで移動する。『黄金竜』もきっとすぐに振り払って追いかけて来るだろう――見失ってくれたらいいんだけど……。


”これは……ガイア本体に匹敵するね……”


 飛び始めて割とすぐに私たちは大地の端っこ――超大型モンスターの頭部の方へとたどり着けた。流石、《ラピッドウィング》の全力は速い。

 ともあれ、私たちが大地だと思っていたモンスターは、外で見たガイア本体に比べれば小さいもののそれでも『生物』というカテゴリには到底当てはまらない巨体であった。

 『蛇』の姿をしていたガイア本体とは異なり、どうやらこれは『亀』型のモンスターであるようだ。

 火山地帯だと思っていた大地が『亀の甲羅』となっている。

 ……甲羅の上に幾つもの火山を背負っている亀――モンスター図鑑には相変わらず載らないので正式な名前は不明だが、仮称『焔帝亀ヴォルガーケロン』とでも呼ぼう。

 正直、まともに戦闘しようと思うのがバカバカしく思えてくるほどのサイズだ……同じ『火山』の化身であるムスペルヘイムですら、こいつからしたら『小物』と言えてしまうくらいだ。

 ガイア本体が『動く大陸』だとしたら、ヴォルガーケロンは『動く島』だ。とてもではないが、真正面から火力をぶつけても倒せる気がしない……たとえアリスであったとしても。

 上空から見下ろして初めて私たちは自分らのいる位置を認識できた。

 ヴォルガーケロンの背中の上にいたということもあり、実は結構な高さだったみたいだ。

 本当の大地は全く見えない――薄暗いからというのもあるが、ヴォルガーケロンの足元から激しく蒸気が噴き出しているせいもある。おそらく、ヤツの放つ熱のせいだろう。まぁ下手に地上に降りたとして、あっさりと踏みつぶされそうだけど……。


「デカいガイアの中に入って、またその中にデカいモンスターがいてその中に入るのかー……」


 それしかないとは言え、ケイオス・ロアは嫌そうにぼやく。気持ちはわかるけどね。

 ……とにかく『デカい』クエストだ。色々と……。


「んー、でも『ゴール』が大分見えてきたって感じじゃない?」

”え、なんで?”


 フランシーヌの言葉の意味がわからず思わず問いかけてしまった。

 ケイオス・ロアもそうね、と小さく頷いて気を取り直したみたいだし……わかってないの私だけ?


「最速で『次』が『ゴール』じゃないかなって気はするわね」

”そうなの?”

「多分だけどね。ここより『前』の時代って思いつかない……っていうかわからないかな」


 …………あ、そういうことか。

 私は彼女たちの言いたいことがようやくわかった。

 おそらく、ガイア内部の世界は、のだ。

 私が最初に来た『氷河の世界』は『氷河期』、フランシーヌのいた『濃緑の密林』は大昔の植物が地上を覆い始めた頃、ケイオス・ロアたちの『青の通路』では古代の海に生息していた怪物がいっぱいだったらしいしこれも古代の海だろう。

 となると、この『灼熱の世界』はおそらくは原始の星――星が誕生したての未だ生命の誕生していない時代なんじゃないだろうか。

 そして、原始の星までたどり着いたということは、これより『前』の時代がゴールなのではないか、そういうことみたいだ。

 ……まー、じゃあここに来る前の『桃源郷』は一体なんだって話ではあるんだけど……時代順に遡っているわけではなさそうだし、考えても無駄かも。

 ともかく、『出口』の位置がモンスターの体内にあることと言い、他のフィールドとはかなり異なるのは事実。

 その辺からしても確かに『ゴール』が近いんじゃないかという予感はする。


”なるほどね。確かに君たちの言う通りかもしれない。

 ……となると、あのモンスターを無視して先に進むというのも選択肢に挙がってくるが――きっと追いかけて来るよね。はぁ……”


 ミトラはまだ『黄金竜』との戦いの回避を考えていたみたいだけど、今度こそ諦めたらしい。

 ヤツも外から中へとやってきたんだし、フィールドを跨って延々追いかけてくる可能性はかなり高いだろう。

 やはりここで決着をつけるべき、という結論には変わりなかった。

 となると問題は『どこ』で迎え撃つかなんだけど……。


「! ヤツが来るわ!」


 考える時間もなく『黄金竜』が私たちを追いかけて来た!

 ……そして、それとほぼ同時に私にとってのアクシデントが起きた。


”くっ、こんな時に……!?”


 悪いことが重なるということだろうか、のだ。

 一体どういう状況なんだ、皆!? 心配でたまらないけど、あのガブリエラが即リスポーン待ちになるくらいだ、きっと激しい戦いになっているのだろう。やはり迂闊にこちらから声を掛けるのは躊躇われる。

 とにかく即ガブリエラのリスポーンを開始。

 ……考えたくないけど、この調子だと他にもリスポーン待ちになる子が出てくるかもしれない。

 自分自身の状況も大変なんだけど、皆に比べれば――それにただ掴まって楽させてもらっている身だ、『大変』なのは私ではないんだから泣き言は吐くまい。


”ケイ、大型モンスターの頭部――いや、首辺りへ移動しよう。そこなら溶岩は少なそうだ”


 突撃してきた『黄金竜』をフランシーヌが迎撃、その場で何とか抑え込んでいる間にミトラが次の指示を出す。

 なるほど、まだ少し距離はあるけどたどり着けないほどではない。

 ヴォルガーケロンの首部分ならば溶岩も少ないようだし、甲羅の上に比べれば戦いやすいだろう。

 この巨体だ、首の上でも十分動き回れるくらいの広さはあるし、ベターな選択肢と言える。

 ケイオス・ロアも素直にミトラの指示に従い、そちらへと進路を向ける。

 フランシーヌが続いて『黄金竜』へと槍を振るって牽制しつつ、多少の距離をおいて追いかける。

 ……やっぱり飛べるとは言っても本領を発揮できるわけではないみたいだ。アリスみたいな遠距離魔法ならともかく、格闘戦をするなら足を地につけてじゃないと全力は出しづらいのだろう。

 辛うじて相手の攻撃を弾いてはいるが、ロケットのように飛んで体当たりしてくる『黄金竜』に押されつつある。


「くぅっ、めんどくさい相手ね……!」


 それでもフランシーヌが堪えられているのは、ひとえに彼女の実力によるものだろう。

 もしも彼女と敵対して戦うことになったとしたら……ガブリエラの高ステータスを常に発揮するジュリエッタと戦うようなものだ、きっと苦戦は免れないだろう。

 ……って、そんなことを考えている場合じゃないか。


「――!? 拙い、ロア!」

「えっ!?」


 その時、『黄金竜』の動きが

 フランシーヌへとがむしゃらに突進し続けその都度弾かれていたのだが、突如『フェイント』をかけて進路を変えたのだ。

 突撃し衝突直前にそのまま真下へとロケット噴射して急速に下降、そのままフランシーヌの足元を潜り抜けるようにして先行するケイオス・ロアの方へと突進してきた。

 ケイオス・ロアも当然『黄金竜』の動きには警戒しながら移動していたので直撃を受けることはなかったが、それでもギリギリで回避することができた。

 もしも《ラピッドウィング》を使っていなかったとしたら……あるいは《嵐装アラマキ》ではなく【装飾者デコレイター】の能力で飛んでいたとしたら、回避しきれなかったかもしれない。

 と、安心している余裕はない。

 『黄金竜』は回避されたことを気にするでもなく空中で旋回、私たちの頭上を取ってしまった。

 しかも位置的には私たちの進行方向に先回りされた形だ。


”……ッ”


 ヤツの視線が私たちの方へと向けられる。

 …………その瞬間、言いようのない怖気に襲われ私は背筋を震わせた。


「こいつ……?」


 ケイオス・ロアも気付いたようだ。

 私の思い違いではない、と思う。

 どういうわけか『黄金竜』は


”まさか、狙いは――……?”


 ガイアの外で戦っていた時も少し不自然だった。

 アリスたちを倒すために戦うというよりも、あの時もとも思える。

 ……それが正しかったとして何も安心はできない。

 ガイア内部のここでも尚ヤツは私を狙っている……その目的がわからないし、仮に私を傷つけずにどうにかするのが目的だとしても一緒にいる皆に被害が及んでしまうのだ。

 そして当然、大人しく私が捕まるわけにもいかない――ケイオス・ロアたちの安全が確保できるかもしれないが、そうなると今度は私のユニットの子たちの『未来』が閉ざされることになってしまうからだ。


”どういうことなんだ……? そもそもあいつは一体……”


 ミトラも状況を察したのだろう、何やらぶつぶつと呟いている。

 色々あったけど忘れてはいない。ミトラは『ゼウス』の容疑者の筆頭格なのだ。あるいは、『ゼウス』に近しい立場の存在か……。

 そんな彼が『黄金竜』については全く知らないようだ。これで実は全然関係ない一般プレイヤーだとしたら当然の反応ではあるんだが……ケイオス・ロアの復帰のことやアストラエアの世界のことを考えたら全くの無関係とは到底思えない。

 ミトラが戸惑うということは、やはり『異常事態』が起こっている……そう考えた方が良さそうだ。

 『黄金竜』が私を狙っているとして――それが一体何なのかもわからない……とどめを刺すだけなら、ガイアの外にいた時にチャンスはあったと思うんだけど……とどめを刺す前に私がガイアに呑み込まれてしまって取り逃したからここで、とかなんだろうか。


「……首まで結構近いし、このまま戦うしかないわね」


 ここまで追いつかれてしまったら下手に振り切ろうとしない方がいいだろう。

 ケイオス・ロアとフランシーヌは、このまま戦いながら移動することにしたようだ。

 隙を見て陸地、というかヴォルガーケロンの首とか胴体にたどり着ければもう少し安心して戦える。

 それに足場次第だけどヤツの翼を破壊してヴォルガーケロンの下へと叩き落す、というのもありかもしれない。ただ、これと似たようなことを最初の戦いでやってダメだったからなぁ……。


「……足元の亀は積極的に襲ってはこないみたいね。溶岩の近くにさえいなければ大丈夫かな?」


 溶岩を操る以外の攻撃手段がないとは限らないが、ヴォルガーケロンについては今はそこまで心配する必要はなさそうだ。

 ヤツは空中から私たちを見下ろしたまま動かない。

 しかし、その視線は変わらず私の方へと向けられ――逸らされることはない。

 どうにも戦いを避けることはできなさそうだ……。

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