第10章43話 溺れ死にそうなくらい胸いっぱいに天の祝福を

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 BP・オルゴールの操る《デウス・エクス・マキナ》を撃破したラビのユニット一行は、リスポーン完了後にすぐにその場から離れていた。

 ヴィヴィアンの《ペガサス》にジュリエッタ・ルナホークが乗り、ガブリエラはウリエラ・サリエラとリュニオンしてその横を飛行しているため速度としては十分なものだ。


「BPたち……大丈夫でしょうかね?」


 一撃でやられてしまい、ほとんど活躍することのできなかったガブリエラだったが心配そうに孤島に残してきたBPたちのことを気にかけている。


《みゅー……あっちは問題ないとは思うんみゃけど……》

《どっちかと言えば、あいつらの使い魔の方が心配にゃー》

「そして、彼女らの使い魔が心配となれば――当然共に行動しているご主人様も気がかりです」


 なぜBPたちの心配をしたかと言えば、である。

 もし即時リスポーン開始されていればラビのユニットがリスポーン完了してそう時間の経たないうちに彼女たちも復帰したはずなのだが、リスポーンマーカーが現れるまでかなりの時間が経過していた。

 もちろん待つ必要などないので、リスポーン待ちの間にサリエラが【贋作者カウンターフェイター】で《グリフォン》を召喚し出口を見つけていたので、ヴィヴィアンたちの復帰と同時に離脱はしていた、

 離脱する直前にようやくリスポーンマーカーが現れたので、使い魔自体はまだ無事なのであろうが……即リスポーンできなかった、ということに皆疑問を抱いている。


「マスターへ連絡いたしますか?」

「……殿様はすぐリスポーンしてくれたから余裕はあるんだろうけど……」


 連絡をするのを誰もが躊躇っている。

 本人の戦闘力が皆無のラビはおそらく余裕があるのだろう――が、だからと言って安全であるかはわからない。

 むしろ、共に行動しているミトラの反応が遅れてたことを考えれば、モンスターと戦闘中――それもかなりの強敵と――である可能性が高い。

 そうなるといつラビがまた単独で行動せざるを得ない状況になるかわかったものではない。

 それが遠隔通話を躊躇う理由だ。

 杞憂に終われば、あるいはミトラたちに余裕がなくともラビに余裕があればそれでいいのだが……。


《…………迷うけど、わたちたちが出口を通る前に一度声をかけるみゃ》

《向こうから声をかけてこない、けどしっかりリスポーンをやってくれてるってことを考えれば、まー大丈夫にゃとは思うんにゃけど……》


 ラビの方から何の音沙汰もないということは、まだ危ない状況ではないことだろうと思うしかない。


「うーん、クロとも会えないままですし……」

《そっちも心配みゃー》

「うん……だけどクロエラならよほどのことがない限り、大丈夫だと思う」

「むしろ、誰も状況を把握できていない姫様が最も心配かと――いえ、姫様の心配をするなどおこがましいですわね」


 ラビ、クロエラ、そしてアリス――この三者がそれぞれ単独で行動している状況だ。

 早く合流したいという思いは変わらないが、いくら願ったところでガイア内部の構造次第なのだからどうしようもない。

 ただクロエラに関しては『赤い廃墟』まで同じルートを辿れた、ということを思えばいずれ追いついてくれるかもしれないとは期待している。


「パートナーズ、出口が見えました!」


 そうこうしているうちに、一行は『灰の孤島』の出口へと辿り着いていた。

 戦いの舞台となった孤島から離れた、海の上に虹色のゲートが輝いている。

 ここに来るためには空を飛ぶか海を泳ぐかするしか手はないだろう――彼女たちの知ることではないが、実は『灰の孤島』からこの出口に至るまでの海面下は、上から見てもわかりづらいがかなりの浅瀬になっており道を踏み外さなければ徒歩で渡ることも可能なのだが。


《おけみゃー。んじゃ、わたちから一言うーみゃんに連絡しておくみゃ》

《あたちたちはいつも通り、ひとかたまりになって出口に入るにゃ。

 ……りえら様ー? 次は迂闊に前に突っ込んじゃダメにゃ?》

「うっ、わ、わかってますよ……」


 一言チクリと言っておくのを忘れない。

 ガブリエラが比較的おとなしかったのも、《デウス・エクス・マキナ》戦で最初にやられてしまったことが原因で苦戦を強いられたというのを本人も理解していたからだ。

 もしもガブリエラが健在な状況だったとしたら、最後サリエラ一人で戦うというギャンブルを避ける手もあっただろうことも。


《ん、うーみゃんに状況は伝え終わったみゃ。向こうからの返事はないけど……ま、通じるってことはうーみゃんは無事ってことみゃ》

《そいじゃ、ヴィヴィにゃん》

「はい。皆様 《ペガサス》に掴まっていらっしゃいますね?

 ――それでは出口へと突入いたします」


 不安は尽きないが、それでも少しずつ先に進んでいるという実感はある。

 もう間もなくこのクエストの終端にたどり着けるはず――そんな望みを持って、ヴィヴィアンたちは『灰の孤島』エリアから次のエリアへと向かっていった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「……認めざるを得ないな」


 ラビのユニットたちが去った後、リスポーンが完了したBPは深々とため息を吐きつつ呟く。


「…………」


 傍らには地面に膝をつくオルゴール。

 その顔は俯いていて表情はわからない――が、その心情はBPにもわかる。

 というよりも、BPも全く同じ気持ちだったからだ。


「…………そう、デスね……」


 認めたくない事実ではあるが、認めざるを得ない。

 不完全な形だったとはいえ、彼女たちの使える最強の魔法である《デウス・エクス・マキナ》が破られたのだ。

 それも、最終的にはサリエラただ一人によって。

 あの戦いの流れはギャンブルであったし、ほんの少し何かが違えば勝利したのが自分たちであったろうという思いはあるものの、いくら思ったところで現実は変わらない。

 ギャンブルに挑まざるを得なかったのも、ガブリエラが最初に倒されたためだということも理解している。

 ……ならば、『次』はもっと注意深く戦ってくることだろう、

 そして、サリエラの使ったフェードイン・フェードアウトに関しては対抗する術を持たない以上、どうやっても防ぐことはできない。




 戦いにおいて精神論に頼るのは論外だ。

 しかし、だからと言って精神の力を甘く見ることも厳に慎むべきでもある。

 《デウス・エクス・マキナ》を破られたことで、今二人は『勝てない』という思いを抱いてしまっている。

 この敗北を払拭するためには勝つしかないのだが、同じように戦っても勝てない以上どうしようもない。

 魔法の改良を行ったり、他の仲間との協力を行ったり、あるいはオルゴールも知らなかったウリエラたちの新たな能力を検証して対策を練ったり……勝つための方法は色々とあるものの、それらをこのクエスト内で実現するのは難しいだろう。ありえるとすれば、ケイオス・ロアとアルストロメリアとの合流による完全体の《デウス・エクス・マキナ》を使うことではあるが――ウリエラたちに一度 《デウス・エクス・マキナ》を見られている以上、向こうも様々な対策を考え出すことは想像に難くない。

 故に、二人は今『完全敗北』を認め項垂れてしまっているのだ。


「――とはいえ、ここで腐っていても仕方がない。

 オルゴール、我らも先へと進もう」


 切り替えの早さはBPの方が上だった。

 『負けて悔しい』という気持ちはあるものの、あくまでも『この場での戦い』での決着がついたに過ぎない。

 本命である『ガイア戦の攻略』については未だ継続中なのだ。

 仮に『勝てない』と思っていたとして、だからと言ってガイア戦の敗北が決定したわけでもない。

 ……やや消極的な考えではあるものの、他のユニットと戦わずしてガイア本体へと先に到着・撃破ができればこのクエストにおける勝利は掴み取れるのだから。


「……ハイ、進みまショウ」


 空元気もあろうが落ち込みを見せないBPの言葉に、オルゴールも顔を上げる。

 ここで足を止めていては、孤軍奮闘しているであろうケイオス・ロアたちに申し訳が立たない。

 何よりも、『勝てない』としか思えない相手にも諦めずに必死に策を練り、勝利を掴み取っていたラビたちの姿をオルゴールは直接目にしている。

 諦めたらそこで終わり――諦めなかったからといって良い結果になるとは限らないが、少なくとも諦めた時点で敗北が確定してしまうのだ。

 だったら、自分たちに今出来ることを諦めずに行い続けるしかない。


「ミトラのリスポーンが遅レタのも気になりマス」

「うむ。おかげで我が妹らに大分後れを取ってしまった――急ごう」


 ミトラの反応が遅かったことには当然気付いている。

 が、すぐに連絡を取ろうとはしない――ウリエラたち同様の理由で、ミトラに迂闊に声をかけない方がいいのではないかと思っているためだ。

 それに本当に危機に陥っていたとしてもすぐに駆け付けられるわけでもない。ミトラから声を掛けるとしたら、何かしらの指示をするかそれとも『もうダメだ』という時に別れの言葉をかけるか……だろうとも思っている。

 いずれにせよ、BPとオルゴールがリスポーンできたのだ、まだミトラは無事であると信じて先に進む以外に方法はない。

 ……ラビのユニットに敗北したという報告は本来ならばすべきなのかもしれないが、互いに口を出さずともそれをミトラに告げることはしなかった。

 ミトラの元にいるラビの身を案じたからというのもあるし、ケイオス・ロアがラビを害するとは思えないものの万が一ということもある。

 この場で負けたことによる『報復』は流石に望んでいないし、意図せずそのような形になってしまうのを可能な限り避けるためであった。


「さて、出口は――海の方か。どちらにしろ《デウス・エクス・マキナ》のままでは移動は無理だったかな、これは」

「ソウかもしれまセンね。あるいは浅瀬であれバ……」


 どちらも探索系の能力を持っていないため、出口の位置を探るのには多少の時間が必要となるだろう。

 少しずるい手かもしれないが、リスポーン待ちの間にラビのユニットたちが向かった方角は見ている。

 フェイクを仕掛けているのでなければ、その方角に移動すれば出口は見つかるはずだ、と二人とも考え、海を渡る手段を考えながら移動を開始する。




「……!? き、貴公は……!?」

「あ、ありえナイ……! なぜガ、ココに……!?」

『…………』


 海辺へと向かってほどなくして、二人の目の前に何の前触れもなしに小さな『影法師』が現れた。

 は二人とも見覚えがあるものの、この場に現れるはずのないものであった。

 先の戦いによる敗北の衝撃がなければ、もう少し結果は変わったのかもしれない。

 しかし、立ち直りかけているだけだった敗北の衝撃に加え、『ありえないもの』を目にした驚きと戸惑いで二人の反応は遅れ――




 ――直後、二人は今までに目にしたことのないモノを見ることとなり……。




「……ぐっ、馬鹿……な……」

「コンナ、こと……が……」

『…………』


 ズタボロになり地面に横たわる二人を、『影法師』はじっと見下ろしている。

 《デウス・エクス・マキナ》を使っていないとは言っても、二人ともこの最終局面にやってこれるだけの地力はある。

 ナイアのようなルール無視の規格外の能力でもない限り、不意打ちを食らったとしてもそう簡単にはやられないという自負もあった。

 だというのに、二人は何の抵抗もできず、一方的に『影法師』に蹂躙され、打ちのめされてしまっていたのだ。


「……ミトラ……! このママ、デハ……!」


 そこでようやくオルゴールが我に返り、状況を顧みずミトラへと連絡をしようとした。

 伝えなければならない――

 このクエストの最大の障害は、ガイア内部の迷宮ラビュリントスでも、他のチームのユニットでもない。

 紛れ込んだこのなのだ、と。


「がぼっ……!?」

「くっ……!? 呑み込まれる……!?」


 だが、オルゴールたちがミトラへと遠隔通話を行おうとしたのを察知したか、それよりも速く『影法師』が動いた。

 ……実際のところ『影法師』の仕業なのかどうかはわからないが、そうとしか現状考えようがない。

 『影法師』の足元から伸びる影が広がり、オルゴールとBPの身体がその中へと沈んでいく。

 そこから逃れようともがくが、ダメージを受けているというのを差し引いても全く抵抗することができない――まるで、『ゲーム』がフリーズしたかのように身体が動かなくなってしまっているのだ。

 身体だけではない、本来ならば念じるだけで出来るはずの遠隔通話ですら反応しなくなっている。


 ――これは、まるで……話に聞いた【支配者ルーラー】……!!


 オルゴールは直接【支配者】の影響を受けたことはないが、実際に受けたヴィヴィアンたちの話を聞いてはいる。

 曰く、自分の意思や思考は正常に働いているのに、『ユニット』として存在しているもの全てが意に反してしまうという――想像でしかないが、正に同じ状態ではないかとオルゴールは感じた。

 ……だからこそ、今の状況がどうすることもできない『詰み』だということも感じてしまっているのであるが……。


「おのれ……! まだ、我らは――」

「……」


 負けはしたが終わってはいない。

 まだ自分たちは戦える――そう叫ぼうとしたBPの声が途切れる……。




 やがて、BPとオルゴールの姿が完全に影の中へと埋もれ消えていった。

 影が生き物のように蠢き『影法師』の元へと戻る。


『…………』


 そして『影法師』は現れた時と反対に、まるで最初からそこに存在していなかったかのように唐突に姿を消すのであった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 一方、オルゴールたちの状況を知ることもなく、ラビのユニットたちは『灰の孤島』から次のエリアへと全員揃って無事に移動できていた。


「また新しい場所……」


 彼女たちがやってきたのは、今まで通ってきたエリアとは全く異なる場所であった。

 ガブリエラもリュニオンを一旦解除し、全員で周囲を警戒。


「うーみゅ……モンスターはいるっぽいみゃー……」

「うーにゃんもあーにゃんも、くろもいないみたいにゃ……」

「他のユニットもいないっぽい」


 やってきたのは、視界を遮るもののない360度果てなく広がる荒野だった。

 空は星の輝きすらない真っ暗闇ではあるが、地平線の方から赤い輝きが照らしているため視界自体は悪くない。

 『黄昏の荒野』――クエストでおなじみの荒野フィールドの日が落ちようとしている姿……と言えるだろう、と全員が思う。

 かなり離れた位置に幾つかの大きな影……ダチョウのようなフォルムの巨鳥がうろうろとしているのが見えるくらいで他に動くものはない。


「ウリエラ様、サリエラ様。わたくしたちで出口を探して移動いたしましょう」

肯定ですアファーマティブ。敵機が追い付いてこないとも限りません」

「……だみゃ。ヴィヴィみゃん、ルナみゃん、お願いみゃ」

「ジュリにぇったはいつも通り音響探査エコーロケーションで周囲の警戒をお願いにゃー」


 仲間との合流は望めなさそうだとすぐに判断、『黄の砂漠』の時と同様のフォーメーションで出口を捜索し先を急ぐことにする。

 通ってきたエリアの数は、ここを含め5つ。直接訪れていないが『黒い工場』の前であろう『白い洞窟』を含めれば6つだ。

 一つ一つの難易度は大したことはない――むしろオルゴールたちとの戦いの方が大きな障害だったくらいだ――が、かなりの距離を移動してきているというのは実感している。

 そろそろ『ゴール』が見えてきてもおかしくない……と希望混じりではあるが誰もが思い始めていた。

 というよりも、いい加減『ゴール』が見えてこないことには焦りを感じている。

 当然焦ってもいいことは何もないのはわかっているため、誰もが粛々とやれることをやるだけなのだが……。




 召喚獣とルナホークの兵装を放ち出口を探しつつ、ジュリエッタが音響探査で他のユニットやモンスターが近づいてこないかを監視を行い始めようとする。

 相変わらずモンスターがいたりいなかったりが不気味ではあるが、いないならいないでさっさと先に進むだけだ。

 そう思っていたが――


「ん……」


 荒野を風が撫でる。

 乾いた砂が巻き上げられ、ほんのわずかジュリエッタが目を瞑って砂を避けた後だった。


「!? 皆、気を付け……て……!?」


 音響探査をしていたジュリエッタが警告の声を上げる。

 が、その言葉が途中で萎んでいった。

 何かしらの攻撃を受けたせいではない。

 純粋に『驚き』や『戸惑い』によって言葉が詰まってしまったのだ。

 ほんの一瞬前まで誰もいなかったはずの場所に、信じがたい人物の姿が現れたのだ。

 音響探査で周囲一帯を監視していたのには間違いはない。たとえ目を瞑ったとしても、範囲内にある『モノ』であれば絶対に見落とすはずはない。

 は何の前触れもなしに、唐突にその場に出現した――瞬間移動してきたとしか思えない現れ方をしていた。

 ジュリエッタたちを囲むように、合計7。少し離れた位置に、しかし互いの表情が見える距離に現れている。




 相手が誰であろうとも、不測の事態に動きを止めてしまうほど彼女たちの経験は浅くはない。

 だが、この時ばかりは誰もが目の前の事態を理解できずに動きを止めてしまっていた。

 無理もない――彼女たちの目の前に、が現れているのだから。




「お前たちは――……!?」

「見た通りのモノだぜ、ジュリエッタ


 ジュリエッタの問いかけに、はそう返す。




「…………ありえませんわ……」

「うふふっ♥」


 呆然とするヴィヴィアンの前で、はいつも通りの微笑みを浮かべる。




「げ、幻覚みゃ……!?」

「幻覚じゃない――けど、ウリエラならそう疑うのも無理はないかな」


 【消去者イレイザー】が幻覚魔法の類を感知していないのは理解しつつもそう疑わざるをえないウリエラに、は否定する。




「あたちがここにいるのに……」

「にゃはは、まーそういうこともあるかにゃー?」


 戸惑いながらも様々な可能性を検討し、結局答えがわからず混乱するサリエラには普段のような能天気な笑顔を返す。




「まぁ、やっぱり可愛らしいですね♪」

「ほんとー? えへへぇ」


 ニコニコと笑みを浮かべつつも、明らかな『異常事態』が起きていることは理解し油断なく視線を向けるガブリエラに、は無邪気な笑みを向ける。




「…………演算不能……」

「私らしくもありませんね。目の前にあることが全てです」


 【演算者カリキュレーター】は未知の事象に対して答えを出すものではない。それはわかっていながらも一縷の望みをかけて使い、想像通り答えが出せないことに混乱するルナホークには現実を突き付ける。




「一人余っちまったが――まぁいい。、お前は俺とだ」

「うん、兄ちゃん」

「…………!! 雪彦まで……」


 千夏の影に隠れていた小柄な少年――が前へと出て千夏と並ぶ。

 6対7――戸惑いと混乱はありつつも、全員がその状況を自然と受け入れていた。

 すなわち、自分たちと同じ姿をしたこの存在たちは『敵』なのだ、と。

 ジュリエッタたちが『本能』で理解していることを千夏たちも理解しているのだろう。

 変身前の普段通りの姿ではあり笑顔を浮かべているものの、全員が敵意を隠すことはない。

 全身に溢れ出るばかりに魔力が満ちているのを感じさせる。


「今までは泳がせていたが、『マム』の命令だ。だ」


 ――『マム』……? 誰だ……?


 千夏の言葉に引っ掛かるものがあったが、その意味を考える時間も問いかける余裕もなかった。


「ふふ、始めましょうか、皆さま」


 桃香が千夏たちに向けてそう言うと共に、7人が奇妙な――しかしジュリエッタたちにとっては

 そして、7人が同時に叫んだ。




「「「「「「「」」」」」」」




「なっ……!?」


 目の前で起きていることへの理解が全員が追い付かないでいた。

 変身前の自分たちの姿をした『何か』が現れただけでなく、それらが目の前で『変身エクストランス』したのだから――


「『マム』の命令があったしな、やっとが出せるぜ」

「そんなことって……!?」


 変身――しかしそれはジュリエッタたちのようにユニットの姿への変身ではなかった。

 眼前に立つ千夏の姿は、ジュリエッタとは全く異なる。

 千夏の姿はそのままに、身に纏う服装が大きく変わっている。

 千夏だけではなく他の6人も同様に、元の姿のまま異なる姿へと変身を遂げていた。

 その変身がこけおどしではないだろうことは予感している。

 そして、本能の警鐘通り彼らと戦わなければならないということも。


「これからおまえらを叩き潰すが――抵抗するな、とは言わねー。無駄な足掻きとも嗤わねー。

 。でなければ……お前らに『この先』はないと思え」


 上半身裸……だが、おそらくはクマ型の魔獣と思しき獣の皮を纏った千夏がそう言う。

 彼の言葉と共に他の6人も各々のを構え戦闘の姿勢を見せる。


「くっ……!? 皆、姿!!」


 混乱しつつも、おそらくはそれが一番『合理的』であろう判断を瞬時に下したジュリエッタが、いち早く千夏へと向けて駆けるのと同時に、


「ライズ《アクセラレーション》!!」

「ふん、》」


 全く同じ魔法を使ったジュリエッタと千夏が激突――それが合図となり、ラビのユニット6人と、元の姿をした7人の戦いは始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る