第10章40話 デウス・エクス・マキナ -3-
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――あ、ありえないみゃ……!
幾つもの意味を含んで、ウリエラたちは目の前で起きたことを信じられなかった。
《デウス・エクス・マキナ》の鈍重そうな巨体が、《アクセラレーション》を使ったジュリエッタですら捉えられないほどの速さで動いたこと――これ自体は相手の動きに対応して視界外へと素早く動けば不可能ではないだろう。身体の大きさに見合わぬスピードであることに変わりはないが。
たった一撃でガブリエラをリスポーン待ちに追い込んだこと。
特に後者の方は本当に信じられない思いだった。
体力が低めのジュリエッタであれば直撃を受ければ体力が削られ切られるというのはありえる話だ。その『直撃を受ける』ということが滅多にないことではあるが。
問題なのは
ラビのユニットの中で最大の体力を誇るのはヴィヴィアンではあるが、防御力を加味して考えれば一番のタフネスを持つのはガブリエラであることは間違いない。
そのガブリエラですら一撃でやられるということは、ラビのユニットの誰であろうとも『一撃必殺』になりうるということを意味している。
「皆、とにかく動くみゃ!」
「
ガブリエラですら一撃で倒されるという信じがたい出来事を目にし、誰もが動きを一瞬止めてしまった中、すぐさまウリエラとサリエラは我に返り指示を出す。
2人の指示に弾かれたようにヴィヴィアンたちが動くのと、《デウス・エクス・マキナ》が新たな獲物を捕えようと動き出すのはほぼ同時だった。
……『指示』とは言うものの、そこに具体性は全く存在しない。
ただひたすらに『生き残る』――これ以外に為す術がないことを、ウリエラたちはよくわかっていた。
食らえば一撃必殺、ただの一挙手一投足が一撃必殺となりうる《デウス・エクス・マキナ》に対しての勝ち目は今のところ
勝てる可能性は、ガブリエラとという最大の
残る道は、リスポーンを待って6人の力を合わせて《デウス・エクス・マキナ》を倒すか、リスポーン待ちなのを置いて出口を目指すかの二択。
後者の選択は最終手段ではあるが、出口がまだ見つかってない以上採るわけにはいかない――仮に出口が見つかったとして、そこにたどり着くまでに《デウス・エクス・マキナ》にやられないとも限らない。
何よりも、《デウス・エクス・マキナ》を倒せないことが確定した場合、たとえ別のフィールドへ逃げようともいずれ敗北し、ガイア戦を制されることになってしまうからだ。
――逃げて逃げて逃げまくって、ここでこいつらを倒すしかないにゃ……!
状況次第では『逃げる』は有効な選択肢ではあるが、今回に限っては有効とは言えない。
最終的な勝者が1チームになってしまうことを考えれば、ここで逃げたとしても一時しのぎにしかならないし、一時しのぎをしたところで大した意味はない。そうウリエラたちは考える。
だから採るべき選択は前者だ。
とにかくガブリエラたちの復帰まで生き延びて6人で立ち向かう――ここでクロエラが合流してくれれば勝率は少しは上がるかもしれないがそれは期待できない――それ以外に道はない。
――大丈夫、逃げ切れるはずみゃ!
ガブリエラたちがやられたのは想定外ではあるが、あれは互いに不意を突き合った結果に過ぎないとはわかっている。
ならば回避に専念していれば早々やられることはない……特に素早いとは言えあの巨体だ、見失うほどではない。
接近されないように逃げ回っていれば大丈夫――そう思っていた。
『……コンストラクション《46・トライアド・メガキャノン》』
「んみゃっ!?」
しかし、《デウス・エクス・マキナ》はそのような甘い考えが通じる相手ではなかった。
《デウス・エクス・マキナ》内部に潜むBPが新たなコンストラクションを使うと共に、巨竜の背に三連装砲が形作られる。
コンストラクションで造った被造物に、更なる被造物を重ねる――そんな簡単なことができないわけがなかったのだ。
『マーシャルアーツ《46・トライアド・メガキャノン》!』
「うにゃー!?」
地上最大の砲撃が、『灰の孤島』そのものを吹き飛ばす勢いでウリエラたちを襲う……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
全てを薙ぎ払う圧倒的な暴力――それが《デウス・エクス・マキナ》のコンセプトだ。
BPのコンストラクションにより何物にも負けない強靭なボディを作り出し、それをオルゴールのスレッドアーツで補助。テコや滑車の原理を活用して巨体を最小限の力で自在に操作できるようにする。
加えてもう一つ、この魔法の実現のために欠かせない重要な要素がある。
それこそがBPのギフト【
己の魔法で作り出した被造物を直接・遠隔問わず自由自在に操作することができるという、常時発動型のギフトを利用して《デウス・エクス・マキナ》の巨体を操っているのだ。
感覚としては『《デウス・エクス・マキナ》をBPの肉体として扱う』ことにかなり近い。目の届かない隅々までにBPの感覚が拡張され、細かい制御も特に考えずに行うことができる――その細かい制御を実現するためには、オルゴールの糸による補助が必要となってくる。
だから、巨体に見合わず素早い動きが可能なのだ。
『ふん、流石に砲撃だけでは終わらぬか』
《46・トライアド・メガキャノン》の威力は直撃すれば霊装であろうとも一撃で吹き飛ばせるものではあるが、直撃さえ避ければユニットであれば十分生き残ることは可能だ。
『灰の孤島』を穿ち廃墟後を吹き飛ばした跡に、ウリエラたちのリスポーンを示すマーキングがないことを確認。
躊躇うことなくBPはその場で《デウス・エクス・マキナ》を急旋回、長い尻尾と首を振り回して周囲を薙ぎ払う。
『さて、リスポーンまで逃げ切れるかな?』
旋回も直撃こそはしなかったものの、勢いによる暴風が辺りを襲う。
その暴風に巻き込まれ4人が翻弄されているのを見てBPは呟く。
4人の中で最も小柄なウリエラとサリエラが尻尾の方向で大きく吹き飛ばされているのを見て、BPは《デウス・エクス・マキナ》の尻尾で2人を纏めて叩き潰そうとする。
ウリエラの【
しかし、ステッチが封じられたところで特に問題はない。
なぜならば《デウス・エクス・マキナ》で叩き潰せばいいからだ。
ステッチが使えればより早く相手を倒せる……その程度のことでしかない。
とはいえ、ステッチで相手を封じさえすれば一瞬で決着をつけることは可能だ。
先を急ぎたい事情に変わりはない。
即決着をつけるためにも、BPはウリエラたちへの攻撃を優先しようとしていた。
「サモン《ヘカトンケイル》!」
「そいつをブラッシュにゃ!」
振り下ろされる尻尾に向けて、ヴィヴィアンが《ヘカトンケイル》を召喚し受け止め――否、受け流そうとする。
《ヒュドラ》等では真っ向から押し潰されるだけと判断し、危険は承知で《ヘカトンケイル》のパワーで何とか弾こうとしたのだ。
「くっ……!?」
ブラッシュによる強化を受けたこともあり何とか尻尾の一撃を弾き、ウリエラたちを守ることは出来たものの、その一撃で《ヘカトンケイル》は大きく損傷。すぐに乗り捨てざるを得ないことになってしまう。
しかも相手は特別な攻撃をしたわけではなく、ただ尻尾を振り回しただけなのだ。
すぐさま追撃がやってくる。
「サモン《ペガサス》!」
それを理解しているヴィヴィアンも、《ヘカトンケイル》をリコレクトする間も惜しみ《ペガサス》を召喚。
次の攻撃が来るよりも速くウリエラとサリエラを回収してその場から離脱しようとする。
『コンストラクション《ハイドラレイド》、マーシャルアーツ《ハイドラレイド》』
巨体の割に素早いと言えど、《デウス・エクス・マキナ》では流石に《ペガサス》に追いすがることは難しい。
BPは更に兵器を追加――両前足の付け根付近に大きな『箱』が現れ、そこから何本もの小型ミサイルが発射されヴィヴィアンたちを追いかける。
「む、無茶苦茶な魔法だみゃ!?」
小型ミサイル、とは言ってもそれは《デウス・エクス・マキナ》からしての話であり、人間大のユニットにとっては自分よりも大きい弾頭が迫ってくるのだ。
爆発のダメージがどのくらいかによるが……それを試す気には到底なれない。
「コンバート《エイミング・デバイス》!」
と、そこで離れた位置にいたルナホークが
長距離射撃用の武装に加え、【
……もっとも、迎撃だけで済むような事態であればの話ではあるが。
『スレッドアーツ《キャプチャー》』
「! 糸に気を付けるにゃ!」
《デウス・エクス・マキナ》の中にいるのはBP一人ではない。
オルゴールの糸が周囲に張り巡らされ、ルナホークを捕らえようと蠢く。
これに捕まったら為す術もなくやられる、それはわかりきっているためルナホークは更に大きく後方へと飛び距離を取らざるを得ない。
結果、狙撃が中断され小型ミサイルが止むことなく周囲へと降り注ぎ続けてしまう。
ステッチを封じられたところでオルゴールの支援能力には大差はない――相手を確定で封じることができるかどうか程度の差しかないのだ――《デウス・エクス・マキナ》の制御をしつつ糸による妨害は健在のままだ。
近づけば圧倒的パワーで叩き潰され、離れても止むことのない砲撃の雨が襲う。加えて、あらゆる距離で糸による妨害が待ち受け捕まれば即死……。
攻・防・速の一致した手の付けられない『移動要塞』としか言い様がない。
魔力消費も尋常ではないはずだが、回復アイテムを使い切るまで粘るというのも現実的ではない。相手の攻撃の激しさを考えれば、身を守るために魔法を使って先に消費してしまうのが関の山だろう。
……これに加えてもし使い魔と合流できたとしたら――本格的に手が付けられなくなってしまう。
どうしても『ここ』で倒しておかなければならない。一度倒せて置ければ、最悪の場合でも互いに使い魔と合流しさえすればまた勝つことはできるという確信が持てるからだ。
『いかがいたしましょう?』
ミサイルの雨を迎撃し、逃げ回りながらヴィヴィアンが改めて訊ねて来る。
『……
『このままリスポーン完了まで逃げ続けるのに専念にゃ』
二人の答えは変わらなかった。
この返答に、ヴィヴィアンも口を挟まなかったがルナホークも違和感を覚える。
確かに《デウス・エクス・マキナ》は強い。迂闊に攻撃を仕掛けようとすれば、ガブリエラたちのようになりかねないのは間違いないないだろう。
だが、だからと言ってリスポーン待ちの間に何もしないというのは、
戦いを有利に進めるために、少々の危険を冒すこととなっても積極的に動き、弱点をみつけるあるいは少しでもダメージを与えておく……等のことを普段の二人ならするのではないか、そう思えてならない。
『――お言葉に返させていただきますが、そのままで良いのでしょうか?』
『
ヴィヴィアンたちは珍しくウリエラたちの判断に異を唱える。
『先を急ぎたい』という気持ちがあるのも後押ししているだろう。
リスポーンを待つということは、3分間程度は確実に失ってしまうことを意味する。
その上で《デウス・エクス・マキナ》と戦うことを考えれば、かなりの長時間をロスすることになり、それは結果的にラビとの合流が遅れることになる。
もちろん、焦って戦って全滅というのが最悪中の最悪なのはわかっているが、遠距離攻撃を主体にすれば早々やられることはないのではないか――ヴィヴィアンもルナホークもそう思えたのだ。
『うーみゅ……ヴィヴィみゃんとルナみゃんの言うこともわかるけどみゃー』
『心配しないでもいいにゃ。
『!?』
どうしようもないから逃げ回る、という指示を出していたのかと思ったら、二人には既に『勝ち筋が見えている』という予想外の答えが返ってきた。
ヴィヴィアンたちにはガブリエラたちが復帰したところでどうしようもないのではないか、と思えていたのだが……。
『相手にバレると厄介にゃから、敢えてヴィヴィにゃんたちにはまだ黙っておくにゃー』
『ごめんみゃけど、そういうことだから今は生き残ることに専念して欲しいみゃ。
あ、相手にやられない程度に、適度に攻撃を仕掛けるのはおっけーみゃ。でも、接近戦だけは絶対にしないで欲しいみゃ』
『後、二人とも魔力に余力は残しておいて欲しいにゃ。攻めるタイミングはあたち――いや、うりゅが教えるにゃ』
『…………かしこまりました。指示に従います』
『…………
ウリエラたちが何かしらの『策』を練っている。
それさえわかれば十分だ。
ヴィヴィアンたちに細かい内容は伝えられていないが、考えがあるというのであれば従う――どちらにしろ自分たちでは何も思いつかないのだから――のみである。
というよりも、現在の状況を考えれば彼女たちが考えている『策』のうちの
ただし、その一手だけで状況はひっくり返らないのは明らかだし、他の手の検討もつかない。
だからとにかく今はウリエラたちの言うことに従うのが最善である、とヴィヴィアンたちは判断する。
……とはいえ、ヴィヴィアンからどうしても言いたいことはある。
『…………ウリエラ様たちも、ピッピ様のことを言えないですわね』
『『……自覚はあるみゃー/にゃー』』
秘密主義――自分の頭の中だけで考えて他人にそれを伝えないで何かしらの『策』を実行する。
かつてピッピのことをそう非難したウリエラたちであったが、当のウリエラたちも人のことは言えない――そうチクリと物申したくなるのであった。
ともあれ、ラビとミトラのユニット……その主戦力同士の決戦は止まることなく進み続ける。
そしてその決着は――
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