第10章29話 Heretical Carnival 6. 赤い廃墟の血戦(前編)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ジュリエッタたちが『赤い廃墟』内へと到達、『出口』へと突き進んでいる最中に爆風に吹き飛ばされるよりも少し前――
「よくぞ我が魔力の檻を打ち破ったな、妹よ!」
「ええ。私一人ではどうにもならなかったでしょうが――ふふっ♪ 頼れる仲間がいますので」
ガブリエラたち三人はBPと対峙していた。
無視して『出口』へと向かおうという案も一応はあったが、
『背後から狙われたら、今度こそ逃げられないくらいのダメージを負う可能性があります』
『それに、やられっぱなしでは我が主に申し訳が立ちません』
という意見もあり、『BPを倒す』という結論に至っていた。
ヴィヴィアンとしてはラビの元へ急ぐべき、という思いはあったが二人の言うことにも理はある。
むしろ、ここでBPを下しておかなければラビと合流した際にまとめてやられる……という最悪の事態も考えられた。
それほどまでに、BPは『強敵』であるというのはヴィヴィアンも認識している。
なので、先行していたにも関わらず『出口』へと向かわず堂々と待ち構えていたBPをスルーせずに戦うという選択肢をとったのだ。
「……パートナー・ヴィヴィアン。先ほどから敵機の発言している『妹』とは何ですか?」
「……さ、さぁ……?」
唯一わからないのは、BPが先ほどからガブリエラのことを『我が妹』と呼んでいることだった。
ガブリエラの方も自然とそれを受け入れていることで、より訳が分からなくなっている――BPの正体についてはラビから聞いてはいたが、
とはいえガブリエラが疑問に思っていないのであれば特に気にする必要もないだろうと、二人はスルーすることに決めた。
……そのような些事に気を取られていては、
最初の戦いは、ガブリエラと合流するまでの『間』があったが、それを考慮しても完膚なきまでの敗北を喫してしまった……それが事実だ。
相手の能力がわからなかったから、という言い訳はしない。未知のユニットとの戦いではそれが普通であり、負けたら本来はそれまでなのだから。
――……クエストの特性もあって、救われた形ですわね……。
リスポーンして何度でも対戦できる、という特殊なクエストの仕様に救われた形だろう。
もしこれが普通の乱入対戦の仕様だったら、三人は敗北しBPがラビに攻撃を仕掛けようとしても防ぐことすらできない状態になってしまっていたのだ。
そうならなかったのは幸運以外の何物でもない。
――ご主人様との合流を急ぎたいところですが、この方が大きな障害となっていることも確か。
――であれば、ガブリエラ様たちの仰る通り、『勝利』しておかなければ後々の悪影響にもなりかねませんね……。
倒してもリスポーンされるのだから脅威に変わりはないが、一度『勝利』しておけば以降の戦いにおける心の持ちようも変わる。
特にガブリエラは精神が揺れるとコンディションが激変しかねない。まだピッピのユニットだった頃の、負けて大泣きしていた様子を見ていただけにヴィヴィアンはガブリエラのコンディションには細心の注意を払うべき、と思っている。
BP戦においてガブリエラは絶対にいなければならない『要』となる。
ガブリエラのコンディション次第で勝つも負けるも決まってしまいかねない……そのくらい、彼女こそが重要な役目を負っているのだ。
「さぁ、BP――今度は負けませんよ!」
「よかろう、来るが良い我が妹よ! 全力で受け止めてやるぞ、姉としてな!」
「「……」」
BPの発言にいちいち気を取られていてはならない、と思いつつやはり『何言ってんだ……?』となってしまうのを自制する。
ともあれ、先の敗北をガブリエラは引きずってはいないようだ。これもまた、彼女の『成長』を示しているのだろう。
「パートナー・ガブリエラ……やはりやるのですか?」
「ふふふっ、当然ですよルナホーク!」
不安そうに尋ねるルナホークに、ガブリエラは満面の笑みを浮かべて応えた。
「行きますよ、BP!
リュニオン《ルナホーク》!」
戦闘開始直後、ガブリエラはリュニオンを使いルナホークと融合。
ガブリエラを
「む……その魔法は……」
BPも腕組みを解き、徒手空拳で構える。
彼女は当然オルゴールから、オルゴールの知るラビのユニットたちの魔法については聞いていた。
その中にはリュニオンもあり、ユニット同士が融合することで爆発的な能力の上昇をする、ある意味では『最も警戒すべき』魔法だと伝えられていた。
事実、最悪の敵であるナイアを下したのもリュニオンによるものだった。
先の戦いではリュニオン前に三人を行動不能にしたので実際に見るのは初だったが――
「面白い。我が剣と貴公らの力、どちらが上か勝負と行こう!」
ルナホークとリュニオンしたガブリエラの姿が変化する。
背の翼が機械――翼の変わりに巨大な鋼鉄で造られた『悪魔の腕』へと変わる。ただし、その大きさは尋常ではなく腕一本だけでガブリエラの身長を軽く上回っていた。
そこそこ長身のガブリエラの体格でも尚余るほどの不相応な大きさへと変じた翼を見ても、BPは怯まなかった。
むしろ、それでこそ戦い甲斐があると言わんばかりである。
「BP、
「……何?」
だが、予想外のガブリエラの言葉に、鉄兜に覆われていて見えはしないがBPは怪訝そうに眉を顰める。
一転、静かな表情でガブリエラは告げる。
「貴女の全力で止められなければ――
「! ……ふ、ふはははははっ! 笑止千万!」
脅しではないだろうと理解しつつも、BPはガブリエラの『警告』を笑い飛ばす。
言葉通り、攻撃されてもいないのに降参などするわけがない。
「貴公の本気、打ち破ってみせよう!」
「……そう言うと思ってましたよ。では――」
何よりも『
BPが右拳を深く引き打突の構えを見せると共に、ガブリエラも全力の攻撃を行おうとする。
それこそが対BPにおいて一撃必殺を実現するための、ガブリエラとルナホークの力を合わせた
「コンバート――《ゴグマギア》!!」
BPとの戦闘を行う、と言いつつもガブリエラも優先順位は見誤っていない。
最小の戦闘時間でBPを撃破し、ラビの元へと急ぐ――それこそが現状における最短最速の道である、とガブリエラは本能で理解していたのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
更に時は少し遡り――ジュリエッタたちがオルゴールの拘束を脱出し『出口』へと向かっていた頃。
「ふぅ……ありがとう、ヴィヴィアン、ルナホーク。おかげで助かりました」
「ガブリエラ様、ダメージは……受けておられないようですね。良かった……」
氷に閉じ込められていたガブリエラも無事に復帰することが出来た。
全身氷漬けになっていたにも関わらず、ダメージ自体は受けていないようである。
詳細な効果は不明ではあるが、エキドナの使った
反対に、ヴィヴィアンとルナホークはかなりのダメージを負ってしまっている。
それに気付きガブリエラが泣きそうな顔になるが、
「パートナー・ガブリエラ、申し訳ありませんが敵機の放った監視ドローンの撃墜をお願いいたします」
「! え、えぇ、そうね。わかったわ!」
両手足がなく地面に倒れたままのルナホークがすかさずそう進言する。
ガブリエラも流石に経験を積んで来ている。
まずはヴィヴィアンたちを閉じ込めているBPの放ったドローンの破壊へととりかかる。
BPの行った『足止め』の内容は単純ながらも、ヴィヴィアンとルナホークにとっては突破困難なものであった。
まず自身の戦闘力を揮って三人へと先制打撃を与え、ガブリエラを氷に閉じ込める。
その後、ヴィヴィアンたちがガブリエラを解放するよりも早くに更なる攻撃を加える――ヴィヴィアンは両足を砕かれ、ルナホークも両手足のギアを破壊され身動きが取れない状態に。
そこから更に彼女の魔法を使ってドローンを放って動きを完全に封じたということだ。
このドローンこそがBPの持つ
効果は『自身の想像する物体を造り出す』という、ヴィヴィアンの
更にもう一つ、コンフィグという魔法を使い、造り出したドローンに様々な『設定』を組み込む。
今回組み込んだ内容は、『一定距離を置いて監視』『魔法を使ったら魔法を迎撃』『ユニット本体への攻撃は
戦闘力の高いガブリエラが動けず、魔法を使わなければ何もできないヴィヴィアンと両手足を失ったルナホークにとって、これはほぼ突破不能とも言える『檻』となっていた。
しかもルナホークも意識を失っている状態だった。BPの『足止め』はこれ以上ない程効果的だったと言えよう。
鉄壁の『檻』ではあったが、ルナホークの意識の回復を待つ間に様々な検討をし、ヴィヴィアンは『一人では無理だが二人なら突破できる』と判断をしていた。
最善はガブリエラが氷から脱出することだが、これはかなり望みが薄い。
であれば、ルナホークと二人でどうにかするしかない。
ヴィヴィアンが目覚めたルナホークへと伝えた作戦は、かなり身体を張った『力業』であった。
まず迎撃されるのを承知でルナホークにコンバートを使ってもらう。
もし成功すれば自由に動けるようになるし、
ポイントは、ドローンの攻撃の矛先を向けるためなのだから。
タイミングを合わせ、ルナホークのコンバートと同時にヴィヴィアンも小型召喚獣を呼び出しドローンを消費させる。
そしてその隙に、ヴィヴィアンは《フェニックス》をインストールし、その熱でガブリエラの氷を溶かす――インストール後はヴィヴィアン自身も『魔法』と判断されるのかドローンの攻撃がやってきてしまうが、それをルナホークが可能な限り守る。
ガブリエラを包む氷は、エキドナのフリージングとは異なり一応『本物の氷』ではあるようだった。故に、《フェニックス》の熱で溶かすことが可能だった。
……もしもそれでも氷を溶かすことができなければ、リスポーン覚悟でドローンへと吶喊する以外になかっただろう。
ともあれ、結果としてヴィヴィアンとルナホークの『力業』によって大幅な魔力の消費とある程度のダメージを受けたものの、ガブリエラを無事に解放することができたのだった。
ガブリエラが解放されてしまえば、もうドローンに足止めはすることは叶わない。
魔法を使わずとも自力で飛行することが可能で、かつ桁外れのステータスで殴りかかってくるガブリエラに為す術もなく次々と撃墜され――三人はようやく自由に動けるようになったのだった。
自由に魔法が使えるようになったことで、ヴィヴィアンが《ナイチンゲール》を呼び出し治療を開始。
その間に、ガブリエラ・ルナホークが参加していなかった遠隔通話で得た情報を共有し、今後の行動について相談する。
この時の相談により、『BPを倒す』という結論に至ったのだが、問題は『BPに勝てるか?』ということであった。
何しろ同時ではなかったとは言え、三人が倒されてしまっているのだ。
まともに正面から無策でぶつかれば、また同じ結果になってしまいかねない――というよりもなってしまうだろう。
「むー……まだまだ強い人、いっぱいいるんですねぇ~」
若干ふくれっ面になってはいるが、それでも以前のように癇癪を起こすことなくガブリエラはそう言う。
アストラエアの世界で戦ったアビサル・レギオンの面々は、おそらくは
それらを仲間と協力しながら撃退したことは『自信』に繋がってはいたが、だからと言ってあれらよりも強いユニットがいないとは限らないのだ。
むしろ、『三界の覇王』を征して同じくガイア戦に臨んでいるのだ。自分たちと同等以上の実力を持っていると考えるべきであったと内心で反省する。
「わたくしたちが見た魔法は、コンストラクション、コンフィグの2つ……」
「あ、ヴィヴィアンたちが来る前に『まーしゃるあーつ?』っていう魔法を使ってましたね」
「……それがパートナー・ガブリエラを氷漬けにした魔法……ふむ……軍事魔法、いえ『兵器を造る』または『兵器同等の効果を発揮する』魔法と思った方が良さそうです」
スカウターで見ればはっきりとするだろうが、魔法三種は確定したと見ていいだろう。
不明なままのギフトも気にはなるが、こればかりは初見で対応する以外に他ない。あるいは、【
「――ルナホーク様、先ほど仰られていた方法をガブリエラ様にも共有いただけますか?」
「
「ふんふん」
ガブリエラはルナホークの説明を素直にうなずきながら聞く。
真正面から殴り合っても勝てない、というのを実感しているからだ。
――……私の攻撃でもビクともしませんでしたしねぇ~……。
『全身鎧』の見た目通り、BPの防御力はかなり高いようでガブリエラのフルスイングを受けても全く堪えていないのを目の当たりにしていた。
自分でも初めて気付いたことではあるが、ガブリエラは『パワー』の通じない相手となると途端に脆くなる。
絶対的に優位なはずのステータスが通じないと、彼女の持っている魔法では対抗できなくなってしまうからだ――唯一の手は
だから自分ではどうにもできないと素直に認め、
「当機の編み出した新たなギアの性能であれば、敵機へと有効な攻撃を加えることが可能です」
「! 本当ですか!? ではそれを使えば――」
「ただし――」
普段感情の見えにくいルナホークの表情が、明らかに曇った。
「肉体にかかる負荷が尋常ではありません。【
「!」
この場では時間の都合で詳細を語らなかったが、ルナホークの言っている魔法――新たな『ギア』は、元々は
ルールームゥのメインの魔法・トランスフォーメーション、その中でも『ゴエティアライブラリ』に所属する72個の魔法は強力ではあるがルナホークには使いこなせないものが多い。
その最たるものが《バエル-1》から《ウァルフォレ-6》の『巨大兵器化』、《アモン-7》から《シトリー-12》の『全身変形』だ。
これらは特に強力な魔法であり使いこなせれば大きな戦力となるのは間違いないが、残念ながらルナホークには使いこなせない。
ルナホークの力が足りていないというわけではなく、魔法の性質上ルールームゥのように自在に身体を変形させることができないため使いこなせないというのが理由だ。
――……このままではいけませんね……。
一番足りないのは『戦闘経験』だ。それは理解しているが、こればかりは短時間で埋めようがない。
だからこそ、魔法の力でそれを補おうと考えたのだ。
ちなみに、この件についてはラビ及び楓と椛、そして千夏に相談済みだ。
メギストンとの戦いの時から、時間を見つけて色々と実験し続け――ついに『方法』を見つけ出すことが出来た。
「……色々と
ですので――」
現在の『完成形』を使ったことは一度もない。なぜならば『完成形』まで持ってこれたのがつい先日のことだったからだ。
もっと時間をかければ肉体への負荷を減らすこともできるかもしれないが、当然そんな時間はない。
だから『一撃しか放てない』、このクエスト内ではそれが揺るがない事実だ。
ここでルナホークが語るのは『一撃』を放ったそのあとのことだ。
自分が動けなくなり戦力として期待できなくなる――もし仮にBPにとどめを刺せなかったとしても大ダメージを与えることは可能なはずだから、その後のことを頼もうとしているのだ。
「なるほど!
でも、私ならきっと大丈夫ですね!」
「…………え?」
「ふふっ……」
ルナホークの言葉を遮り、満面の笑みで『わかった』というガブリエラにルナホークは面喰い、ヴィヴィアンは微笑みを浮かべる。
「要は
「……ええ、そうですわね。ルナホーク様は半分機械ですので全快できるかは微妙ですが、ガブリエラ様であれば《ナイチンゲール》で回復可能ですね」
肉体に負荷がかかる――『ゲーム』的な意味での体力は減らないにしても、身体に何かしらのダメージを負ったとしても《ナイチンゲール》ならば治療可能だ。
もっとも、ガブリエラの言う通り『ステータスの高さ』が負荷を上回ればノーダメージで済むかもしれない。
そのことを発言している本人も、長く『ゲーム』で戦っているヴィヴィアンも経験と感覚から理解しているのだ。
「……いえ、ですが、しかし……」
こういう時、まだ
どうにか言い包めようとするするものの、ガブリエラの言葉を否定する理屈が思いつかない。
確かに彼女のステータスならば『新ギア』の負荷にも耐えきれる可能性はかなり高い、とルナホーク自身も納得してしまったからだ。
であれば、リュニオンするにしてもルナホークをベースにして負荷全てを請け負うというやり方も考えられるのだが、そうしない方が良い事情もある。
それは、リュニオン後のステータスの上昇幅は、リュニオンの対象も当然のことながら『ベースとなったユニット』の比重がかなり大きいからというものだ。
ナイアとの戦いで【
ガブリエラをベースとすれば、誰とリュニオンしても最大限にステータスを高めることが可能となるだろう。それこそ『新ギア』の負荷を力でねじ伏せることも可能かもしれない。
また、ベースとなったユニットが基本の姿になる――ということは、ガブリエラをベースにすれば『コンバート可能な部位』が限られることになるため、それだけ負荷も減らせる可能性が高い。
ルナホークをベースにしてしまうと、両手足のコンバートも可能にはなるが『負荷』という一点ではかなり致命的なダメージを負うことになってしまうだろう。その意味でも、ガブリエラをベースにしたリュニオンがベストということはルナホークにもわかっている。
……最悪のケースを想定し、自分が負荷を背負うことは考えているが、それでもリュニオン中に感じる『苦痛』はやはりベースとなったユニットが受けることになってしまうのだ。どうしても躊躇わざるを得ない。
「! お、お姉さまたちに申し訳が立ちませんので! 当機のダメージも時間をかければ修理可能かと――」
「うっ!?」
必死に考えて出した言葉が、
あの二人なら
姉を引き合いに出され思わず呻くガブリエラ。
確かにルナホークの言う通りだろう。あの姉二人がやや過保護気味なのは、被保護者である
しかし、怯んでる場合ではない、とガブリエラは気を取り直す。
――妹故に、『姉』に対する
わざとらしく腕組みをし、いかにも『つーん』という感じでガブリエラはそっぽを向く。
「……ふーんだ、だったらいいですよー。私はリュニオンを使いませんし、ルナホークのフォローなんてしませんからねー。
あーあ、BPはきっとダメージは食らっても平気で動くんでしょうねー。私もヴィヴィアンもやられちゃうかもしれませんねー」
「…………パートナー・ガブリエラ、その手は当機には通じ――」
「アーちゃんやジュリエッタはどう思うでしょうねー?
「うぐっ……」
姉の強権に対抗しうるのは、妹の可愛らしい反抗のみだということを誰よりも理解しているのがガブリエラだ。
とはいえ、全く理屈が通っていないわけではない。
特に後半の『ルナホークの
確かに自分でも自覚はしているのだ、ガブリエラに負荷を負わせたくないというのは姉たちへの配慮も込みで
当の本人が覚悟済み。であれば、言葉は悪いが後々姉たち向けの『口裏合わせ』も出来るということを意味している――その点だけ見ても、ルナホークがガブリエラの提案を拒否する理由は消え去っている。
後は当人の意識の問題に過ぎない。
「……うふふっ、ガブリエラ様。あまりルナホーク様をイジメないで上げてくださいまし」
「あら、そんなことないですよ、ヴィヴィアン」
「それでもルナホーク様が困っておいでですので。
――ルナホーク様、お気持ちはお察しいたしますが、諦めてくださいまし」
このまま押し問答を繰り広げる時間が惜しいこともあってヴィヴィアンが助け舟を出す。
「誇らしき我らがご主人様のチームは、意外と年少者の方が肝が据わっているんですのよ?」
「? よくわかりませんが、そうですね。年長者は慎重すぎますね!」
これは間違いではないだろう。
ありすを筆頭に、桃香も撫子も、いざという時の胆力は年長者を遥かに上回っていると言える――特にありすと桃香に関しては、かつて状況を覆すために自死を選んだほどだ。
当然『ゲーム』だからという制約はあるだろうが、撫子も含め胆力に関しては嘘はないだろう。
「………………うぅ……ら、
パートナー・ガブリエラ、貴機に委ねます。ただし、本当に危険と判断した場合、当機の方で解除いたしますのでそのつもりで」
「それで結構ですよ、ルナホーク。
……まぁ、私なら大丈夫ですけどね!」
「ええ、ガブリエラ様なら問題ないでしょう。後詰としてわたくしも控えておりますので」
――いや、BPを倒しきれるかどうかという心配ではないのですが……。
思わず内心で突っ込みを入れるルナホークであったが、二人の言葉を否定はしない。
本心では彼女もわかっているのだ。
自身の痛みを躊躇わず、チームのための『最善』を選ぶことの出来る二人の方が正しいということは――
やや強引に押し切られた感はあるが、『BPを倒し』て最速でラビの元へと向かうにはこれしかない、というのは納得した。
その後、ヴィヴィアンとルナホークの魔法によって周囲を偵察し、なぜかどっしりと構えているBPを発見。
三人は決着をつけるべく向かったのであった……。
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