第10章17話 ラストダンジョン:ガイアの世界
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ここは……一体……?」
ヴィヴィアンが気が付いた時、自分が先ほどまでいた場所と全く違う場所にいることに戸惑った。
気絶していた、というわけでもない。気が付いた時には普通に立っていたし、呼び出していた召喚獣も消えたりしていたわけでもない。
時間が飛んだかのような――不可解な『空白』があることは何となく理解できるのだが……。
「…………ご主人様と姫様に連絡がつかない……それに、この景色――」
流石に場慣れしているヴィヴィアンは、すぐさま状況を確認しようとする。
共に地面の裂け目を乗り越えようとしていたメンバーとは遠隔通話が通じるが、ラビとアリスにだけは通じない――こういう状況は不本意ながらよくあるため、ラビ同様『別マップに移動した』ということはすぐに理解した。
それよりも、ヴィヴィアンは目の前に広がる景色に既視感を覚えた。
夕焼けのような赤い空。
荒れ果てた大地の上には、きっと『町』があったのだろう瓦礫の山が積み上げられている。
そして、不思議なことに空中にも地面ごと瓦礫が巻き上げられ……まるで雲のように浮かび上がっている。
――雰囲気は異なりますが、まるで『嵐の支配者』の内部に入った時のような感覚ですわね……。
既視感の正体はすぐにわかった。
かつて『嵐の支配者』に飲み込まれて目にした光景と、受ける印象はとてもよく似ているのだ。
景色の内容は全く一致していないので、なぜそう感じるのかは本人にも理解はできないのだが……。
――……とにかく今は、合流できる方と合流するのが最優先ですね。
自分の現在地が全くわからないし感じる雰囲気にも妙な感覚はあるが、ヴィヴィアンはそれらを切り捨て仲間との合流を最優先事項だと定めた。
もちろんラビたちのことは心配だが、遠隔通話が通じない以上今のところどうすることもできない――少なくともヴィヴィアンにはいいアイデアは思いつかないので、ウリエラたちの意見を聞きたいところだ――ため、まずは遠隔通話が通じるもの同士での合流を優先すべき、という考えだ。
他のメンバーも同意見らしく、再度合流に向けて各自が動き始める。
「……ジュリエッタとウリエラ様、サリエラ様、そしてクロエラ様が別の場所……のようですわね」
互いの目に映る光景を色々と話し合いした結果、現状三組に分かれている……ということになった。
『赤い廃墟』――ここにいるのがヴィヴィアン、ルナホーク、ガブリエラの三名。
『黒い工場』――崩れ去った鉄の構造物に埋もれた世界にジュリエッタ、ウリエラ、サリエラの三名。
そして『白い洞窟』――話を聞いただけではどんなものかヴィヴィアンには想像もできなかったが、ともあれそこにクロエラが一人でいる。
ラビたちと違って景色が違うだけで同じマップ内にはいるようだが、果たして『赤』『黒』『白』の3マップ間での移動が出来るのかどうかは不明だ。
なので、クロエラを除いたメンバーがまずは合流。
その後にマップ間での移動および合流を検討する――それと並行してラビとアリスへの合流手段も探る、ということになった。
――わたくしの感覚を信じるならば、
以前の『嵐の支配者』の時の経験があったためか、すんなりとヴィヴィアンはラビたちと同じ結論に至れていた。
飲み込まれる瞬間のことは全く覚えていないが、直前に起こったことを考えればそう的外れでもない、と思っている。
問題は、ヴィヴィアンたちは一か所に纏まっていたはずなのにバラバラの位置に飛ばされているということだが――そこについては『ゲーム』だから、で軽く流すことにした。きっと考えても仕方のないことだろうと。
「ともあれ、わたくしも動きますか」
自身は《ペガサス》に乗り、偵察用の《グリフォン》を放ちつつヴィヴィアンも自ら動いて仲間との合流を果たそうとする。
その後、割とすぐにルナホークとの合流は出来た。
ルナホークの方も偵察用のドローンをすぐに放っており、お互いにすぐに居場所がわかったためだ。
「あとはガブリエラ様ですが……」
「パートナー・ガブリエラの所在は不明です」
同じ『赤い廃墟』にいるはずのガブリエラが未だに見つかっていない。
少し離れた位置にいるのだろうとは見当がついているが、ヴィヴィアン・ルナホークと違ってガブリエラは探索用の魔法等は一切持っていない。
ヴィヴィアンたちの方から見つけださなければならないのである。
……もっとも、ガブリエラの『中身』の心配はあるものの、事単体での戦闘力では他の追随を許さないのだ。『敵』に関しては特に心配はしていない。
「当機が『目印』となるものを撃ちましょう」
「……そうですわね。ガブリエラ様が『目印』を見つけられれば、それを頼りに探すのが良いですわね」
ルナホークの魔法で長時間広範囲を照らし出す『光』を作り出し、それを『目印』としてガブリエラの現在位置を探ろうとしているのだ。
ここがガイア内部だとして、目立つ『目印』を作ってしまったら襲われるかもしれない、という危険性はあったが……このまま合流できずに互いにうろうろと彷徨う方が危険だとヴィヴィアンたちは判断した。
『ガブリエラ様、今ルナホーク様が光源を放ちました。そちらから見えますでしょうか?』
『……』
『……ガブリエラ様?』
ガブリエラからの応答がない。
つい先ほどまでは通じていた、いやすぐに返事を返してくれていたはずなのに――と二人の間に緊張が走る。
『……私から見て正面方向、かなり離れた位置に見えています。
けど――ごめんなさい。私はここから動けそうにないです』
『! 何が……!?』
『
そう言うとガブリエラは一方的に遠隔通話を打ち切ってしまう。
「ルナホーク様」
「ええ、行きましょう」
迷うことなく二人は全速力でガブリエラのいると思しき方向へと飛んで行く。
『敵』――それが何なのかまでは言って来なかったが、ガブリエラがそう断言するということは間違いなく『敵』なのだ。
他の場所にいるメンバーに向けても『敵が現れた』ことを手短に告げて警告すると、二人はガブリエラの元へと急ぐ――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『黒い工場』――ヴィヴィアンたちのいた古い町の廃墟とは異なり、現代的な建物が崩れ去ったかのような夜闇に閉ざされた廃墟にジュリエッタたちはいた。
「どうする?」
ジュリエッタはウリエラとサリエラにそう問いかける。
こちらのチームは割とあっさりと合流できていたのだ。
特にジュリエッタの
「みゅー……心配は心配みゃけど……」
ジュリエッタの問いかけは、もちろんヴィヴィアンからの『敵が現れた』というものに対してのものだ。
「すぐにりえら様のところにはいけないにゃー……。
まずは、あたちたちがここから出る方法を探さにゃいとダメっぽいにゃー」
「……だよね」
ガブリエラが接敵した、と聞いてもウリエラたちは流石に取り乱すことはなかった。もちろん内心では心配と不安でいっぱいだろうが……。
中身は三歳児とは言っても、ガブリエラももう姉に頼らなければ何もできないわけではない。
アストラエアの世界での経験は彼女を大きく成長させた、と思っている。
ヴィヴィアンたちもすぐに駆け付けるだろうし、まずは自分たちの方の問題を解決させなければどうにもならない、と理性で感情を押し込めて判断する。
「でも……どうすればいいんだろう……?」
やるべきことは変わっていないが、問題の解決の糸口が全く見えない。
これにはジュリエッタも途方に暮れている様子だ。
何しろ『黒い工場』――鉄骨があちこちに見えるためそう彼女たちは表現していたのだ――はどこまでも広がっているようで、『出口』のようなものが全く見えない。
空を見上げても夜空が広がっているばかりで、天井のようなものも見えない。
ジュリエッタたちもここがガイアの内部だろうというのは見当がついてはいたが、まるで『別世界』が広がっていることには戸惑いを隠せない。
――……巨大モンスターの中はゲームとかでもおなじみだけど……。
RPG等の普通のゲームでも巨大モンスター内部に侵入して、という展開はある。
しかし、そういう場合はもっと『いかにも内臓っぽい』構造になっているのがほとんどだ。
こんな『別世界』のようなモンスター内部は記憶にない。
だから、ここはガイアの内部ではない? という疑いも少しは持っているのだが……内部であろうとなかろうと、結局自分たちのやるべきことに変わりはないと判断しあまり考えないようにしている。
「入ってきたんみゃから、どこかから出ることもできるはずみゃ」
「にゃはは、その通りにゃー」
「……うん、まぁそうなんだけど……」
理屈としては確かにそうなのだが、その『出口』を探すのが困難な状況と言わざるを得ない。
が、ジュリエッタは反論する意味もない、と言葉を呑み込む。
「うーみゅ、ヴィヴィみゃんかルナみゃんのどっちかがいてくれたら楽だったんみゃけど……」
確かにあの二人のうちどちらか片方がいれば、『出口』を探すのは楽になっただろう――召喚獣とドローン、どちらも広範囲を探るのにはとても役に立つ能力だ。
「にゃふふ、そこでこのあたちの出番にゃー」
「……あ、そうか」
「そういやそうだったみゃー」
自信満々のサリエラの言葉に、ウリエラたちも思い出す。
半月近く前の『最後のレベルアップ』時に、サリエラの能力が進化していたことを。
「【
知っている魔法であれば未発動であろうとも真似することができる――それが進化した【贋作者】の能力だ。
元の魔法の7割の性能というのには違いはないが、直接戦闘をするのではなく探索系の能力を使うのであればそれでも十分である。
元々小さな召喚獣だった《グリフォン》が更に小さくなってはいるが、飛行能力等には問題ない。
尚、『同一召喚獣は呼び出せない』という制約がサモンにはあるものの、ヴィヴィアンとサリエラでは別判定のため問題なく呼び出せるようになっているようだ。
「そいじゃ、頼むにゃ《グリフォン》」
サリエラの指示に従い、三匹のプチグリフォンたちが『黒い工場』の三方へと飛んで行く。
「ほいじゃ、わたちたちも動くみゃー」
「うん。
……ジュリエッタたちのサイズなら、プチペガサスでも十分かも?」
「そうだにゃー……んじゃ、【贋作者】サモン《ペガサス》にゃー」
ヴィヴィアンが呼ぶよりも一回り以上小さなサイズの《ペガサス》を呼び出す。
他よりも小柄なジュリエッタたちであれば、十分な大きさであろう。
《グリフォン》たちが散っていった三方向に加え、《ペガサス》に乗ってもう一方向。
正しい方角は不明だが、とりあえず東西南北の四方向に広がって『出口』を探そうとする。
しかし――
「むぐっ!?」
「ジュリみぇった!?」
《ペガサス》に乗ろうとした瞬間、ジュリエッタが『何か』に掴まれ……いや全身を拘束され、物凄い勢いで引っ張られてゆく。
「今のは――
連れ去られる一瞬しか見えなかったが、ジュリエッタの全身を拘束するように『糸』が見えていた。
……そしてその『糸』には、二人には心当たりがあった。
「……あ、あの女狐にゃー!」
糸使い――アストラエアの世界で共に戦ったユニット・オルゴール……彼女がこの場にいる、二人はそう判断したのだった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うぅ……ボク一人になっちゃった……」
仲間と状況を確認した結果、自分だけが孤立した場所へと飛ばされていることを知りクロエラは不安そうにそう呟いた。
彼女がいるのは『白い洞窟』――動くのに不自由はない程度に広いが、壁も天井もある通路のような場所だった。
ただし、綺麗に整備された人工の通路というわけではなく、ごつごつとした洞窟……オオカミの時の洞窟を広くしたような感じではある。
不思議なのはどこにも明かりはないというのに、妙に通路全体が明るくなっているというところだ。
視界に不自由がないのは結構ではあるが、全てが真っ白になった洞窟は微妙に眼に悪そうだし凹凸が見づらく足元に気を付けなければ転んでしまいそうだった。
「……い、いや、不安になるな、ボク……!」
思わず漏れ出た不安を自分自身で必死に否定する。
ここで大人しく待っていたら仲間が助けに来てくれる――なんて期待はしない。
自力でどうにかして、むしろ自分の方から仲間を助けに向かう……くらいの気持ちでいなければならない、と己を鼓舞する。
元々の性格自体に変わりはないにしろ、アストラエアの世界での戦いの経験は確実にクロエラに変化を齎していた。もちろん、良い方向にだ。
「考えようによっては、ボクのいる場所の方が他の場所に行きやすいかもしれないし……うん。よし、がんばるぞ!」
一人きりは不安ではあるものの、彼女が自分で言った通り『通路』となっているのは都合が良いかもしれない。
『赤い廃墟』『黒い工場』は共に果てのない『外』の世界のように見える、と仲間たちは言っていた。
しかし『白い洞窟』は広いとは言っても『通路』の形をしている。
ならばこの通路を辿って行けばいずれ『出口』にたどり着けるのではないか……とクロエラは考えたのだ。
……出口がどこにもない無限ループの通路かもしれない、などの暗いことは考えるのはやめた。
前向きに進んで行けば、いつか未来への道は開けるはず――いや、前に進まなければいつまで経っても変わることはない、と学んだからだ。
「……バイクはちょっと使いづらいかな……? 少し歩いてみてから考えよう」
広さは十分だが、バイクで走るには若干地面の状態は良くなさそうだ。
もちろん魔法を使って走る分には問題はないが、それでも状況がさっぱりわからない以上は安全策を取る――その辺りの性格にはやはり変化はないようだ。
クロエラはバイクを一旦消し、油断なく周囲を警戒しながら『白い洞窟」の通路を進み始める。
……そして、しばらく進んで行ったところでクロエラの鋭敏な感覚が『何か』がいるのを捉えた。
――……通路の曲がった先……身を潜めてる。
ほんのわずかな物音を捉えたのだ。
ジュリエッタの音響探査ほどではないにしろ、クロエラの五感の鋭さは今までの戦いによって更に研ぎ澄まされたと言える。
そしてクロエラは自分の感覚をもう疑うことはしない。
「……誰だ!?」
少し悩んだ末に、クロエラは結局自分から声を掛けることにした。
仲間の誰でもないのは確実。
であれば、ほぼ間違いなく『敵』に類するものであろう。
自分から積極的に討って出る、という選択は流石にまだクロエラには取れなかった。
だから『気付いてるぞ』と声を掛けて様子を見る――いざとなれば自分の速さで逃げることもできるだろうという計算もあった。
「うぅ……」
「!? 君は……」
相手もクロエラに気付かれ、自分が逃げることもできないと悟ったのか通路の角からこっそりと顔を出してくる。
耳のある場所からまるで魚のヒレのようなものが生え、深い青色の髪をした少女の姿だ。
……が、諦めたように全身を顕したのを見て――予想外の姿にクロエラも面喰う。
「に、
上半身は胸を貝殻でできたビキニで覆い、下半身は魚そのままの――『人魚』としかいいようのない姿をしていた。
しかもその人魚は、水中でもないのにまるで空中を泳いでいるかのように浮いて移動しているのだ。
様々な姿のユニットを見てきたとは言え、この『人魚』には流石のクロエラも驚きを隠せない――もっとも、身内の
――ユニット、だよね……!? ボスと視界共有できたら……!
ラビの目で見ればスカウターで相手の名前や能力がわかるのだが、残念ながら視界共有どころか遠隔通話すら通じない状況だ。
しかし相手が『モンスター』ではないことだけははっきりとわかる。人間っぽい姿に化けるモンスターがいればお手上げだが……。
「ディスマントル《ブレード》!」
どちらにしろ、
相手はそれを見て涙目で怯えるが、逃げる様子は見えない。
「ま、ま、待って……! あた、あたしは、戦う気はないから……!」
「……」
両手を挙げて降参のポーズを取る人魚姫であったが、その言葉を鵜吞みにするほどクロエラもお人よしではない。
……ないのだが、
――……ちょ、ちょっとかわいそうかも……。
怯えている様が演技だとはクロエラからは思えないし、何よりも『あまり強そうに見えない』という理由が大きい。
もちろんクロエラには相手の強さを見ただけで判断するという能力がないことは自覚しているため油断はしないが……。
襲ってくる気ならもっとうまく隠れて不意打ちしただろうし、戦うつもりがなければ最初から逃げていただろう。
だから、この遭遇は相手にとっても不本意であり、かつ予想外のタイミングで逃げることすら出来なかった――そういうことなのだろう。
「君は……何者?」
クロエラの方から斬りかかることもなく、かといって見なかったことにするわけにもいかずとりあえず問いかけてみる。
「あ、あたし……アルストロメリア……」
「――! その名前……!」
事前にラビから聞かされていた、オルゴールたちの仲間の名前であることをすぐに思い出した。
そして、エキドナを撃破し『ピース製造装置』を破壊した張本人でありながら能力の一切が不明の、ある意味で一番注意すべきユニットであることも。
ますます警戒の度合いを深めるクロエラだが、逆に『何をしてくるかわからない』ということもあってより慎重になってしまい距離を縮めることもない。
……むしろ、
――……ここは迂闊に戦わないで、こっちから離れていった方がいいかもしれない……。
警戒するが故にそう思ってしまう。
相手の能力を暴けるだけ暴いて仲間に伝えるというのも一つの手ではあるが、分断されている今はリスポーン待ちになってしまうことのデメリットは大きい。
もちろん、逆に倒せるのであればそれに越したことはないのもわかっているが……慎重派のクロエラは、やはり当初の予定通り仲間との合流を優先すべきと判断した。
「あ、あ……あの……」
「君が戦わないっていうのであれば、ボクからは手出しはしないよ。
だから――」
互いに逆の方向に進むなりして、アルストロメリアと離れようと提案するクロエラであったが……。
「う、うし……後ろ……!」
「……?」
怯えるアルストロメリアが、クロエラ――の背後へと指をさす。
ベタな手だ、とは思わない。
なぜならばクロエラ自身もまた、背後から『嫌な気配』を感じ取ったからだ。
「……っ!?」
振り返りながら大きく跳んで距離を取る。
……それは正解だった。
「な、なにこれ!?」
『白い洞窟』の壁からにじみ出るように、黒い『何か』が溢れ出してきていた。
アンリマユの黒い影とも違う、『泥』のようなものが溢れ、クロエラへと迫ろうとしていた。
「ま、拙い……! メルカバ!」
泥が意思を持つように持ち上がり、クロエラへと体当たり――のようなことを仕掛けようとしてくるのを見て、すぐさまバイクを呼び出して跨ると全速力でその場から離れようとする。
「って、ちょっと君!?」
「うぇぇぇぇぇぇん! 一人にしないでぇぇぇぇぇぇぇ!」
ちゃっかりとバイクを掴んでアルストロメリアも黒い泥から逃げ出そうとしていた。
振り落とすことは出来るが、そうしている余裕すらないほどの速さで『泥』がクロエラたちを追いかけてくる。
「うわぁぁっ!?」
これが果たしてモンスターなのか、それともユニットの魔法なのか……。
クロエラにはわからなかったが、とにかく『ろくでもない』ものであることだけは確かだ。
ひたすらにクロエラは『白い洞窟』を走り回って『泥』から逃げ出そうとするのであった……。
――クロエラは知ることはない。
人魚の少女『アルストロメリア』を知る者に対する強烈な『違和感』を。
こんな、怯えて無力な少女では本来はないということを。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ~……ったく、またこういう気持ち悪い系の敵ばっかりか」
濃緑の植物に覆われた世界――『碧の密林』とも言うべき世界を歩む一人の少女が『うんざり』と言った感じで呟く。
彼女の目の前……だけでなく、周囲を取り囲むように浮遊する奇妙な生き物がいた。
知らない人間が見たならば……それは空飛ぶムカデ? とでも言っただろう。『気持ち悪い系』と評していることから、彼女もそう思っているようだ。
知っている人間が見たら、それは『空飛ぶアノマロカリス』と言うだろう。
……ただし、アノマロカリスに似ている姿ではあるがそのものではない。本物であれば空を飛ぶわけはないし、大きさも人間を丸呑みするような巨大さであるわけがない。
どちらにしろ、人によっては十分に『気持ち悪い系』であることには変わりない。
「ブラッディアーツ《
そう呟くと共に、手にした槍の先端に赤黒い『血』が集まり巨大な刃と為す。
「ゼラともはぐれちゃったし……まぁ仕方ない。自分で倒すしかないか」
そう言いつつ血の刃を振るうと、周囲を取り囲むアノマロカリスたちがあっさりと両断され墜落、そのまま動かなくなる。
「ガイア本体の内部か……まぁこの程度の敵しかいないならいいけど」
アノマロカリスたちを一切寄せ付けず、まるで無人の野を行くが如く碧の密林を進むのは鮮血魔法の使い手・フランシーヌ。
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